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“ハイエンドDAPはかくあるべし”Astell&Kern「SP3000M」を聴く。AKM究極DAC搭載機が小型化

A&ultima SP3000M

取材やプライベートも含め、様々なDAPを使ってきたが「これはちょっと別格だな」と感じる製品はそうそう無い。その数少ない1つが、2022年に登場したAstell&Kernの最上位DAP「A&ultima SP3000」だ。

659,980円という価格にも驚いたが、そのサウンドクオリティは“DAPの新時代”を実感させるもので、「これさえあれば、何処でも最高の音が楽しめる」という絶大の信頼感がある……のだが、ぶっちゃけ、ちょっとしんどい面もある。それは“大きくて重い”事だ。

豪華なパーツを詰め込んだり、筐体の素材にこだわると、どうしても大きく、重くなる。それは音質とトレードオフの関係でもあるので、仕方がないのだが、スマホも大型化した昨今、「持ち出すには気合がいる」というのが正直なところだ。

そんなところに、超気になるDAPが登場した。A&ultima SP3000のサウンドパフォーマンスを維持したまま、小型・軽量化したという「A&ultima SP3000M」だ。小さく、軽くなるだけでなく、価格も396,000円と、グッと抑えられている。「え、このサイズでSP3000の音が楽しめるなら、SP3000Mが最強じゃね!?」と気になりすぎる。さっそくSP3000Mを借りてみた。

左からA&ultima SP3000、A&ultima SP3000M

小さくてもSP3000と同じ「HEXAオーディオ回路構造」採用

SP3000Mの前に、既存SP3000の特徴をおさらいしよう。そうすることで、“SP3000Mの凄さ”が見えてくるからだ。

左からA&ultima SP3000、A&ultima SP3000M

SP3000の大きな特徴は、DACチップとして、旭化成エレクトロニクスの最上位DAC「AK4499EX」を4基搭載していること。さらに、AK4499EXとセットで、デジタル信号処理用チップ「AK4191EQ」も2基搭載している。

このDACチップは、今までのDACと構造が大きく異なり、その構造がSP3000の音の良さにも直結している。

ご存じの通り、一般的なDACチップは、入力された音楽のデジタルデータをデジタルフィルターに通し、⊿Σモジュレーターを経由し、D/A変換してアナログ音声として出力するのが役割だ。

DACチップ内部の工程を表した図。デジタル信号とアナログ信号が共存している状態があるのがわかる

注目はその“工程”だ。上図を見てわかるように、DACチップの中で“デジタル信号とアナログ信号が共存している状態がある”。旭化成エレクトロニクスによれば、この状態があると、シリコンウエハーを通して、アナログ信号に影響があり、音の劣化に繋がるという。

では、DACチップの中で、デジタルとアナログが相互に影響を与えないように工夫する必要があるが、一部を壁で囲うような工夫をしても、なかなか良い結果は得られない。

その解決策が、DACの「AK4499EX」とデジタル信号処理用チップ「AK4191EQ」の組み合わせだ。前述の工程から、その前半にあたる「入力されたデジタル信号にデジタルフィルターと⊿Σモジュレーターを通す」という部分をAK4191EQが担当。その後にあるAK4499EXは、マルチビットデータのインターフェイスとDAコンバーターだけが内蔵するという構成になっている。

DAC「AK4499EX」とデジタル信号処理用チップ「AK4191EQ」の組み合わせ。デジタルとアナログをチップレベルで分離しているのがわかる

つまり、1つのDACチップの中でデジタルとアナログを分離するのではなく、2つのチップを用意してチップのレベルで分離し、“デジタル信号処理”と“デジタル音声のアナログ変換だけ”という役割分担をしたわけだ。

そして注目なのは、小型のSP3000Mも、これと同じAK4499EX×4基、AK4191EQ×2基のHEXAオーディオ回路を搭載している。これは音に期待できる。

さらに、ノイズや電磁波がこうしたオーディオブロックに影響を与えないように、高純度銀を塗布したシールド缶でガードする工夫も、SP3000とSP3000Mで共通している。

真のデュアルDAC構造を実現

DACだけでなく、オーディオ回路全体にも特徴がある。

ご存知の通り、最近のDAPには、アンバランス出力とバランス出力がある。一般的なDAPでは、このアンバランス出力とバランス出力に、同一のDACチップを使っている。つまり、DACからの信号を、アンバランス出力側とバランス出力側に分割してアンプ部へと伝送しているわけだ。

この構成では当然だが、オーディオスイッチが必須となる。しかし、スイッチを使用すると、DACから送られてきた信号を受信できる範囲に限界があり、それがオーディオ性能向上の足かせになっていたという。

しかし、SP3000とSP3000Mでは、デジタルデータコンバーターのAK4191EQを2基、DACのAK4499EXを4基搭載している事を活用し、アンバランス出力とバランス出力が、それぞれ独立した“HEXAオーディオ回路構造”として設計されている。

つまり、「アンバランス用にAK4191EQを1基、DACのAK4499EXを2基」使い、それとは別に、「バランス用にAK4191EQを1基、DACのAK4499EXを2基」使っているわけだ。これをAstell&Kernでは「真のデュアルDAC構造を実現した、デュアルオーディオ回路」と呼んでいる。これにより、SP3000とSP3000Mはどちらも、AKプレーヤーでは過去最高のSN比となる130dBを実現している。

驚くべきは、ここまでの特徴がSP3000とSP3000Mでまったく同じという事だ。さらに言えば、搭載しているCPUも、Qualcommの「Snapdragon 6125 オクタコアCPU」で同じ。対応データが最大PCM 768KHz/32bit、DSD 512まで対応している事や、ヘッドフォンでスピーカーのような音像を実現するクロスフィード機能を備えている事、Bluetoothレシーバー機能の「BT Sink」を備えている事、音楽ストリーミングサービスアプリなどをインストールできる「Open APP Service」など、機能面ではほぼ同じだ。

SP3000とSP3000Mの違いは何か

ではSP3000とSP3000Mの違いをまとめたのが下図だ。ぶっちゃけ、機能面の違いはあまり無い。

DAPで重要な出力まわりを見ても、アウトプットレベルはアンバランス3.3Vrms、 バランス6.3Vrms(無負荷)で共通しており、SP3000MはコンパクトながらハイパワーなDAPだとわかる。

大きなポイントとしては、出力端子がSP3000が3.5mm 3極アンバランス、4.4mm 5極バランス出力(5極GND結線)に加え、2.5mm 4極バランス出力も備えているところ。SP3000Mは2.5mm 4極バランス出力が省かれている。これは小型化やコスト削減のためもあるだろう。

出力端子の比較。SP3000Mは2.5mm 4極バランス出力が省かれている

また、どちらもデジタルオーディオリマスター(DAR)機能を搭載しているが、ここにも少し違いがある。再生する音源のサンプリングレートをリアルタイムに変換したり、アップサンプリングする機能なのだが、SP3000は、この機能用としてAKMのサンプルレートコンバーター「AK4137EQ」を搭載。ハードウェア的にリアルタイム・アップサンプリングができ、最大PCM 384KHz/DSD 256への変換再生ができる。PCMをDSDに変換して再生する事も可能だ。

一方、SP3000MもDAR機能を搭載しているが、これを専用チップではなくソフトウェア制御で行なっている。ただ、最大PCM 384KHz/DSD 256への変換再生ができるのは同じだ。192KHz以下のPCMをDSD変換再生する時の動作が異なり、SP3000MはDSD64に変換して再生するが、SP3000は96KHz以下のPCMを、DSD 128に変換して再生する。

DAR機能を使わない人もいると思うので、ぶっちゃけ機能差としては「大差ない」と言っていいだろう。

機能に現れない違いとして大きいのは、筐体の素材だ。SP3000Mは316Lというアルミニウムを使っているが、SP3000は「Stainless Steel 904L」を使っている。

SP3000Mの筐体は316Lというアルミニウムを採用

この904Lは、耐久性と耐食性が良いため、高級時計によく使われている素材。一般的なステンレスよりも硬いのが特徴だが、そのため加工が難しく、手間と時間がかかる高価な素材だ。SP3000では、この904Lにイオン・プレーティング・ハードニング(IPH)と、アンチ・ファウリング・コーティング(AF Coating)という2種類のコーティングを施し、劣化を防いでいる。ここは、SP3000とSP3000Mの価格差に影響していると思われる。

確かに触り比べてみると、SP3000の方が剛性があり、仕上げも美しく「こりゃ高級だわ」と納得する。ただ、SP3000Mの筐体が柔らかいわけでも、チープなわけでもないので、比較しなければ、SP3000M自体は十分高級感はある。

DAPにおいて“小さくて軽い”は正義

実物を持ち比べてみると、SP3000Mの方がだいぶ小さいと感じる。数字で比較すると、SP3000が139.4×82.4×18.3mm(縦×横×厚さ)、SP3000Mは119.6×69.1×18.8mm(同)と、厚さはあまり変わらないものの、縦と横は大幅に小さくなっている。ディスプレイサイズで比較すると、SP3000が5.46インチ、SP3000Mは4.1インチだ。

片手で持ってみると、SP3000は男性でも「やや持て余す大きさ」なのだが、SP3000Mは手のひらにちょうどよく収まるサイズ。操作時は、片手で持ったまま親指でタッチする人が多いと思うが、SP3000では画面の端に指が届きづらいタイミングがあるが、SP3000Mはそうした問題が無い。

さらに違うのが重さで、SP3000は約493gだが、SP3000Mは約237gと半分以下だ。持ち上げてみるとその違いはすぐわかり、SP3000はズシリと響き“文鎮みたいなカタマリを持ち上げてる”感がある。対して、SP3000Mはコンパクトなのも手伝って、ヒョイと持ち上げられる。

外出時、SP3000を持ち上げると「これを持って行くのは疲れそうだなぁ」と躊躇する事があるが、SP3000Mであれば、何も考えずにポケットやバッグに放り込める。この“気軽さ”はSP3000Mの利点だろう。

SP3000Mの音をチェック

ではSP3000Mの音を聴いてみよう。組み合わせたイヤフォンは、Empire Earsの「TRITON Launch Edition」。WEAPON 9+ダイナミックドライバーに、KnowlesとSonionの協力によって精密に設計された特注の「EMP75」BAドライバー、さらにSonion製のデュアル高質量骨伝導ドライバーを統合したゴージャスなイヤフォンだ。

このイヤフォンは、標準で4.4mmバランスケーブルのMonarchが付属するので、試聴も4.4mmバランス接続で行なっている。TRITON Launch Editionの感度は99dB@1KHz, 1mW、インピーダンスは2.8Ω@1KHz。SP3000Mのボリューム値は最大で150だが、その半分までもいかない、だいたい60あたりで十分な音量が得られた。

Empire Earsの「TRITON Launch Edition」

ハイレゾの「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を聴いてみる。この曲は、ピアノからスタートし、そこにベースやボーカルといった音が増えていく。まず静かな空間から、スッとピアノの音が立ち上がる様子で、SN比の良さがわかる。静かな空間がちゃんと静かなのだ。

そのため、ピアノやボーカルの響きが、空間の奥まで広がっていくのがわかる。それだけでなく、「均等に広がるというよりも、左奥方向により遠くまで広がっているなぁ」という細かな様子も聴き取れる。これにより、音場も広大に感じられ、カナル型イヤフォンとDAPで音楽を聴いているというより、開放型ヘッドフォンを使っているような気分になる。

そして何より鮮烈なのが、アコースティックベースの低音だ。「迫力がある」というレベルを超えて、まるで頭の上からお尻まで、鉄の棒をズドンと打ち込まれたような、重さのある低音が体の芯に響く。これは組み合わせたTRITON Launch Editionの高質量骨伝導ドライバーの効果によるものだろう。

骨伝導ドライバーは、駆動力の低いDAPやアンプで駆動すると音というか振動がボワッとしたものに感じられる傾向があるが、SP3000Mの駆動力があると、音は重いのに、タイトでソリッドさも兼ね備えたものになり、ひたすら気持ちが良い。「ズゴーン」と地鳴りのように低音が落ち込みながら、弦が細かく震える「ブルン、ゴリン」という鋭い音も同時に聴き取れるのだ。

ちなみに、骨伝導ドライバーが無いイヤフォンでも低音の強烈さは味わえる。qdcのカスタムIEM「Hybrid Folk-C」(BA×1、ダイナミック×1、平面振動板×1)でも聴いたが、ベースの低音は「ズシン」と深く沈み、背骨に響くような重さを兼ね備えている。

qdcのカスタムIEM「Hybrid Folk-C」

こうした“圧倒的な音場の広さ”“SN比の良さ”、“圧倒される低域の深さと高解像度”という特徴は、SP3000の特徴そのものであり、これが「今までと違い次世代DAP」という印象を生み出すものだ。確かに、SP3000Mは、その特徴をこのサイズで備えている。DACだけでこの音が実現できているわけではないのはもちろんだが、やはり、AK4499EXとAK4191EQの組み合わせを搭載しているDAP共通の凄さと言えるだろう。

SP3000Mで聴く「米津玄師/KICK BACK」も最高だ。前の曲では、アコースティックベースの低音に“凄み”を感じたが、KICK BACKではエレキベースのうねる低音と、キレ味鋭いドラムの低音が襲いかかってきて、身の危険を感じて思わずボリュームをちょっと下げてしまう。聴いているだけで心拍数が上がる。

これだけ低音がパワフルに押し寄せてくるのに、他の音が負けていないのも驚異的だ。エレキギターの鮮烈なフレーズや、重なるコーラス、悲鳴ようにも聞こえるSEなど、散りばめられた細かな音も全部、超高解像度で聴き取れる。

ありったけの情報量を耳から詰め込まれている感覚だが、音場が広大なので、狭苦しい印象はない。広大な空間に広がる音を、全て意のままに聴き取れる全能感とでも言うのだろうか。音を聴く能力自体が向上したような、ハイエンドシステム独特の気持ち良さがある。

細かな音が聴き取りやすいので「こんな音が入っていたんだ、こんな描写があったんだ」と驚いているあいだに音楽が終わる。こんなに再生時間を短く感じるDAPはなかなかないだろう。

SP3000MとSP3000の音は同じ……ではなかった

SP3000Mをしばらく聴いていると、「このサイズでこの低音の迫力と高解像度が楽しめるなら、SP3000はいらないのでは?」と思ってしまう。

それではと、SP3000に差し替えて、同じボリュームで「KICK BACK」を再生したが、「んんー!」と思わず頭を抱えてしまう。「SP3000とSP3000Mはまったく同じ音でした」だったら、話はここで終わりなのだが、聴き比べると、違うのだ。

SP3000も聴いてみる

「違う」とは言ったが、「かなり近い」のは間違いない。圧倒的に広大な音場、恐ろしいほどの低域の深さ、そして解像度の高さといった特徴は共通している。この要素の中でも、“高解像度”“情報量”という面では、“ほぼ同等”と言って良いと思う。

だが違うのは、低域の深さと音場の広さだ。SP3000の方が、SP3000Mよりも明らかに、低域がさらに深く沈み、広がる音の空間もより広いのだ。

ピュアオーディオで例えるなら、SP3000は「高級トールボーイをハイエンドアンプでガンガン鳴らしたような音」であるのに対して、SP3000は「床の補強や防音処理をバッチリやった広いオーディオルームで、巨大なフロア型スピーカーをガンガン鳴らした」ような音だ。

低音がより低重心になる事で、音楽全体がよりドッシリとした安定感に包まれている。空間の広さも、クラシックのオーケストラなどで聴き比べると、その違いが顕著にわかる。SP3000の方が、ホールがより広く感じられるのだ。

筐体の素材の違い、重量の違い、そしておそらく電源の違いなども効いているのだろう。ピュアオーディオで、電源を強化したり、スタンドをよりガッチリしたものに変えた時のような音の進化が、SP3000MとSP3000の間に感じられる。

音楽配信でも高音質、デスクトップオーディオでも活躍する

音楽ストリーミングサービスアプリなどをインストールできる「Open APP Service」を使うと、Amazon MusicやQobuzなど、音楽配信サービスも楽しめる。お気に入りの楽曲をダウンロードしておけば、外出先でWi-Fiが無い環境でも再生可能だ。

実際にSP3000MでAmazon MusicとQobuzで音楽配信を楽しんでみたが、イヤフォンでより細かな情報が聴き取れるので、ハイレゾらしい細かなニュアンスがわかりやすく、また「Qobuzの方が音がシャッキリしてるかな?」みたいな聴き比べも楽しい。

音楽ストリーミングサービスアプリなどをインストールできる「Open APP Service」

関心するのは、SP3000Mでのアプリの操作感が、SP3000とほとんど変わらない事だ。同じSnapdragon 6125 オクタコアCPUを搭載しているので当たり前ではあるが、プレイリストから音楽をタップして、再生するといった基本的な操作でももたつきは感じられず、ストレスは無い。大量の音が登録されているプレイリストを高速スクロールすると、流石に引っかかりは感じるが、DAPとしては総じて快適な方だ。

Qobuz
Amazon Music

SP3000とSP3000Mは、USB DAC機能も備えているので、アクティブスピーカーと組み合わせてデスクトップオーディオでも使ってみた。

パソコンとUSB-Cで接続が、常時充電しているとバッテリーへの負荷が気になる人もいるだろう。SP3000とSP3000Mはそこも考慮されており、「データ転送だけで充電はしない」という機能もあるので、常用する時は活用するといいだろう。

USB接続中に“充電しない”事もできる

アクティブスピーカーで聴くと、SP3000とSP3000Mが備えている「音場の広さ」や「低域の情報量の豊かさ」といった利点が、さらに発揮される。特に音場の広さは、スピーカーで聴くと、奥行きの深さなどがよりリアルに感じられるようになり、その手前に定位する音像にも立体感が出てくる。

SP3000/SP3000Mが凄いのは、音のスケール感が“ポータブル機器”の範囲に収まらず、単体コンポのUSB DACとして音が良い事だ。アクティブスピーカーの場合、スピーカー側にもUSB DACを搭載している機器は多いと思うが、それを使わず、SP3000/SP3000Mのアナログ出力を使う事で、音の大幅なクオリティ向上が期待できる。

ポータブルDAPには、どうしても「外出する時に使うもの」というイメージがあるが、「家にいる時も使うUSB DAC」でもある事を考えると、活用する時間が増えるので、価格に対する感じ方も変わってくるだろう。

ハイエンドDAPはかくあるべし

SP3000とSP3000M、どちらを選べばいいか?というのは難問だ。

確かに、純粋に“音の凄さ”だけを比較するなら「SP3000」の方が凄い。だが、65万円を超えるSP3000に対し、SP3000Mは40万円を切っており、差額は25万円もある。そう考えると、SP3000Mが「この価格でSP3000に肉薄する音」を実現している事に称賛を贈りたい。しかも、筐体はSP3000Mの方が小さくて軽く、ポータブルプレーヤーに重要な可搬性に優れている。理性的に選ぶのであれば、SP3000Mで間違いはない。

しかし、趣味の醍醐味として、全ての制約を取り払い“ポータブルで究極の音”を目指した結果として、SP3000が存在する事にも、また意味がある。SP3000Mで味わえる世界の、もう一歩先を見せてくれるのがSP3000だけというのもまた、事実だ。

イヤフォン/ヘッドフォンを含めたトータルで考えるのであれば、SP3000Mを選び、浮いた差額をイヤフォンのグレードアップに使うというのも手だろう。逆に、この価格帯のDAPを選ぶ人であれば、「いずれSP3000が欲しくなるから、頑張って一気にSP3000を選んでしまう」というのもアリなのが悩ましいところ。

普段SP3000を使っている身としては、SP3000Mのコンパクトさ、軽量さは非常に魅力的だ。ポケットに入れても、ズッシリとした重を感じるSP3000に対し、SP3000Mはワイシャツの胸ポケットにもスッと入れられる気軽さがある。この“気軽さ”は、ポータブルオーディオにおいては、ある意味で“高音質である事”よりも重要かもしれない。持ち歩く機会が増えれば、良い音で音楽を楽しむ時間自体が増えるからだ。

そう考えると、音質をとことん追求しながら、常用しやすいサイズと重さを実現したSP3000Mこそ、“ハイエンドDAPのあるべき姿”かもしれない。

山崎健太郎