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これが令和にCDを聴く意味だ! デノンSACD「DCD-3000NE」が“別格”。アイマスSACDもヤバイ
- 提供:
- デノン
2025年3月14日 08:00
買っちゃうので自宅試聴は勘弁してください
昨年末のマランツ「MODEL 60n」レビューでは、“自宅試聴 → 購入”のカルマから逃れたい一心で、冒頭から醜態を晒してしまったが、今回のお仕事も恐怖の自宅試聴案件である。となれば、「いやいやいやいや、またですか! 勘弁してくださいよ~!」と一揉めありそうなところだが、その内容がデノンの最新フラッグシップSACDプレーヤー「DCD-3000NE」のレビューだと聞いて、あっさりOKの返事をした。
こんな書き方をすると、「おいおい、お前はメーカーによって態度を変えるのか?」と言われそうなので、先に弁明しておこう。
拙宅のメインシステムは2階の自室にある。オーディオ関連だけざっと紹介すると、スピーカーはATCの「SCM10 Signature Edition」で、それをクレルのプリアンプ「KSL」とマークレビンソンのパワーアンプ「No.29」で鳴らしている。デジタルトランスポートはディスク再生がソニーのSACDプレーヤー「SCD-777ES」、ファイル/サブスク再生がオーレンダーのミュージックサーバー「ACS10」で、どちらもマイテックデジタルのD/Aコンバーター「Manhattan DAC 2」に入力している。つまり、全てのデジタルソースを同じDACで音質比較することが可能で、そこが一番のコダワリでもある。
しかし、オーディオ歴の長い読者であれば、ここで「ん?」と思ったかもしれない。「SACDをManhattan DAC 2でD/Aするってどういうこと?」と。そう、SCD-777ESでSACDを聴くには通常はアナログ出力を使うしかないはずだ。
じつは私の所有するSCD-777ESは、米国在住の頃にオークションで入手したスタジオ流出品で、増設されたSDIF-3端子からDSD信号が出力可能な特殊仕様となっている。これをSDIF-3入力を持つマイテックのDACと組み合わせることで、それまで長い間、SACDに抱いていた「背骨の無いナヨナヨした音」という印象をようやく払拭することできたのだ。
そんな経緯もあって、現用のSACD/CDプレーヤーシステムに絶対の自信を持っていた私は、「SACDプレーヤーのレビューならば、自宅試聴→購入の流れにはならないだろう」と判断したのである。
令和の時代にCDを聴く意味
ただ、この仕事を請けるにあたって懸念点もあった。
それは、私がここ数年CDをほとんど買っていないということだ。昨年のエイプリルフールに、宇多田ヒカル『First Love』のCDプレスのネタで、あれだけ世間を騒がせて(?)おきながら、当の本人はとっくの昔にディスクレス化していたのである。
理由は単純で、ハイビット・ハイサンプリングで制作された音源は、アーティストやエンジニアが「CDにダウンコンバートした音が我々の届けたいもの」と明言していない限り、ハイレゾ音源のままで聴きたいからだ。このスタンスは新譜のSACDやアナログレコードに対しても同じで、その制作過程に興味が持てた場合にのみ購入している。言い換えると、私にとってディスクプレーヤーは、過去のコレクションを再生するためだけの存在になりつつある。そんな人間が、DCD-3000NEのレビューを書いてもいいのだろうか?
しかも私には、2年前に某オーディオ誌に寄稿した「DCD-1700NE」のレビューで、新製品紹介のページにも関わらず、「令和の時代にCDを聴く意味とは?」みたいな話を延々と書いてしまった前科があった。決してネガティブな意味で書いたわけではないのだが、私の拙い文章力と限られた誌幅では、その真意を上手く伝えられなかったように思う。
だから、改めてここで言いたい。
新生デノンが掲げる「Vivid & Spacious」とは、「10年後、20年後のステレオ再生の姿である」と。
DCD-3000NEの気になる内部
今回は純正の組み合わせも体験すべく、PMA-3000NEもお借りしているが、まずはDCD-3000NEだけを拙宅のメインシステムに接続して、プレーヤー単体の実力を検証してみよう。
CDプレーヤーやアナログプレーヤーといった回転系の機器はセッティングに敏感なので、リジットな造りのヤマハGTラックの最上段に設置した。ちなみに、これはGTラックあるあるなのだが、中段の棚板の上はあまり音がよろしくないので、ここにメインの機器を置くのは避けたいところだ。
次に電源ケーブル。素の状態を探るため、電線病の筆者にしては珍しく、付属品のまま試聴を進めるが、電源を入れる前に必ずチェックしたいのが極性だ。付属ケーブルはお馴染みVolex製だが、コンセント側の2Pプラグに極性を表す目印が無いため、機器側のプラグに印されたL(Live)とN(Neutral)を頼りに、テスターや検電ドライバーを使って確認する必要がある。L側が高い電圧になるのが正解だ。
背面端子はアンバランスのアナログ出力(RCA)と同軸デジタル出力、光デジタル出力のみで、デジタル入力系が一切無い。これはデノンNEシリーズのSACD/CDプレーヤーの共通仕様となっている。
こだわりのマルチビット方式D/Aコンバーター回路には、伝家の宝刀であるアナログ波形再現技術「AL32 Processing」の最強版「ULTRA AL32 Processing」が奢られている。FPGAと、ESS社の384kHz/32bit対応DACチップ「ES9018K2M」(1chあたり2個、合計4個使用)を組み合わせることで、32bitへのビット拡張と、下位モデルの倍にあたる1.536MHzへのアップサンプリングを行うフラッグシップ機ならではの贅沢仕様だ。
どうせならば、それらを活かしたUSB-DAC機能やHEOSによるネットワーク再生、アナログバランス出力にも対応して欲しかったという声も聞こえてきそうだが、多機能であることは設計に様々な制約が発生することを意味する。メーカーとしてはディスク再生に特化することで、最高音質を狙ったのだろう。なお、USB-DAC機能については、PMA-3000NE側で対応している。
余談かも知れないが、3000シリーズのベースとなった創立110周年記念モデルの「DCD-A110」と「PMA-A110」では、同じ「ULTRA AL32 Processing」でも、FPGAと組み合わせるDACチップにTI社の「PCM1795」が使われていて、このあたりのキャラクターの違いもデノンマニアならば気になるところだ。
強烈なインパクトがあるDCD-3000NEのサウンド
それでは、DCD-3000NEとプリアンプのクレルKSLをRCAケーブルでアンバランス接続して、お待ちかねの音出しチェックといこう。比較対象は先ほど紹介した自慢のSACD/CDプレーヤーシステム「SCD-777ES+Manhattan DAC 2」(以下、リファレンスシステムと呼ぶ)で、XLRによるバランス接続だ。
リファレンス曲は、昨年末の紅白歌合戦にも出場したK-POPグループ「ILLIT」の『Magnetic』だ。この曲が収録されたデビューミニアルバム『SUPER REAL ME』は、米国ビルボードのグローバルチャートでもトップレベルのスタジオワークによって、最高に可愛くてカッコイイのサウンドに仕上がっている。普段はQobuzやTIDALで聴いているが、本稿の執筆にあたりCDも購入した。配信されているデータも44.1kHz/16bitなので比較検証にはもってこいの音源だ。
まずはリファレンスシステムから。Manhattan DAC 2はピラミッドバランスな音作りのDACだが、オーレンダーACS10によるQobuz再生よりも、SCD-777ESによるCD再生の方がさらにもう一段、音の重心が低い。音像は然るべきところに適正なサイズで定位し、音場は左右だけでなく奥行き方向にも自然と広がっていく。ここ数年、大枚を叩いてサブスク再生の音質向上に心血を注いできた身としては、電源ケーブルとインシュレーター以外、これといった対策をしていない四半世紀以上前のCDプレーヤーに、いとも簡単にこんな音を出されてしまうと少々複雑な気分になるが、この安定感こそがディスク再生最大の強みだろう。
では、DCD-3000NEはどうか?
音が出た瞬間、思わず「うっは!」と変な声が出てしまった。とにかく、音像と音場の構成がまるで別物なのだ。もちろんナヨナヨ感も皆無である。
ボーカルの音像は左右のスピーカーを結ぶラインから2歩も3歩も前に出てきて、音場は数多のオブジェクトがリスナーを中心に360度ぐるりと取り囲む。これはCDによるステレオ再生というよりも、Apple Musicで配信されている『Magnetic』の空間オーディオミックスを、イマーシブ環境で聴いている感覚に近い。
私は昨年秋にもデノン試聴室で本機の音を聴いているので、既に耐性は出来ているはずなのだが、この斬新なステレオイメージの展開は、何度聴いても強烈なインパクトがある。ましてや、初めてVivid & Spacious体験をする人はさぞかし驚かれるだろう。この音を聴いたら、誰だって「令和の時代にCDを聴く意味」を問いたくなるはずだ。
先述した2年前のDCD-1700NEのレビューでは、その音を「従来のオーディオの定石にとらわれないサウンド」と評したが、この印象はDCD-3000NEでも全く変わらない。それどころか、よりビビッドに、よりスペーシャスに正常進化していて、先ほどまで至極真っ当と思えていたリファンレスシステムの音が、随分と古臭い音に感じられて泣きそうになった。
正常進化の理由は「ULTRA AL32 Processing」だけではない。挙げればキリがないが、主だったところでは、DCD-A110では2層だったオーディオ基板を4層にすることでグラウンドを強化。デノンオリジナルのカスタムコンデンサーの占有率を大幅増。デノン独自のドライブメカ「Advanced S.V.H. Mechanism」のトップパネルを1.5mm厚のアルミニウム合金「A6061」に変更。ドライブの化粧プレートは排除。脚部(フット)にもA6061を採用、などなどだ。他にもビスの材質や長さからケーブルの捻り方に至るまで、サウンドマスターの山内氏による徹底したサウンドチューニングが施されている。
DCD-3000NEとPMA-3000NEの組み合わせで心洗われる
とはいえ、本当にそれらの調整だけで、あのような音になるのだろうか?ぶっちゃけ、プレーヤー単体で聴いた際には、「何か特殊なデジタル信号処理でも加えているんじゃないの?」と疑いの耳を向けたことも事実である。
しかし、そんな私の邪推はPMA-3000NEと組み合わせることで一瞬で吹き飛ばされた。
嗚呼、部屋の窓を全開にしたまま、音のシャワーを浴びているようだ……。疑念に満ちた心が洗われていく……。
PMA-3000NEの設計思想は「究極のシンプル」だ。少ない半導体素子で大電流が取り出せるデノン独自のパワーアンプ回路「UHC-MOS Single Push-Pull Circuit」を磨き続けることで、純然たるアナログアンプとしてVivid & Spaciousの世界をさらに拡張してくれるのである。これはもう山内マジックと言うほかない。
なお、不要な回路をバイパスもしくはオフにする、DCD-3000NEの「ピュアダイレクト」や、PMA-3000NEの「ソースダイレクト」「アナログモード」は、ドラスティックな変化があるので、Vivid & Spaciousの恩恵を100%享受するためには必ず有効にして欲しい。
シャワーだのマジックだのと、こんな表現ばかりしていると、壮大な提灯記事だと捉えられかねないので、気になった点もしっかり書いておこう。
それがデザインだ。伝統を受け継ぐフロントフェイスにはファンが多いことも理解しているが、私にはこのデザインがデンオン時代のどっしりとした低音を連想させてしまい、見た目と実際の出音のイメージが合わない。せめてA110のグラファイトシルバーのようなカラーバリエーションが用意されると嬉しいのだが、いかがだろうか?
それから、これは気になったというよりリクエストなのだが、やっぱりDCD-3000NEのネットワークプレーヤー版は必要だと思う。「DNP-3000NE」、そのうち出ますよね?
話題のSACD盤「THE IDOL@MASTER」も聴いてみる
最後になるが、私にはDCD-3000NEでどうしても聴きたいSACDがあった。それが、1月にステレオサウンド社から発売された「THE IDOL@MASTER」の『765PRO ALLSTARS+ GRE@TEST BEST!』シリーズの『-THE IDOLM@STER HISTORY-』と『-SWEET&SMILE!-』である。
THE IDOL@MASTER誕生20周年を記念して制作されたこのSACDは、AV Watchでもニュース記事に取り上げられ、かなりバズったようだ。そりゃそうだろう、日本のオーディオ文化を牽引してきた“あの”ステサンがアイマスである。
企画したのは、私もよく知る若手編集部員の松本壮史氏だ。彼はオーディオに関する知識も凄いが、アニメやゲームに対する愛情もハンパない。そんな松本氏が、オーディオ文化の裾野を拡げたいと長年密かに温めていたアイデアが、今回のSACD化だったらしい。本稿の取材時はまだ発売前であったが、彼にサンプル盤の貸し出しを依頼したところ、秒で快諾してくれた。ちなみに、3月12日にはベストアルバム残りの2枚『-COOL&BITTER!-』と『-LOVE&PEACE!-』も発売されたばかりだ。
正直な話、私はアイマスのことはほとんど知らない。にも関わらず、このSACDを聴いてみたいと思ったのは、言うまでもなく、その制作過程に興味を持ったからだ。詳しくはニュースを読んでいただきたいが、簡単に説明すると、ステレオサウンド側のリクエストにより、当時のオリジナルマスター(マスタリングを施す前のマスター)が持っている広いダイナミックレンジや周波数帯域を最大限に発揮させた、新しい96kHz/24bitのPCMマスターが作られ、CDレイヤーには、そこからイコライジングなどは一切施さずに44.1kHz/16bitへ変換したものを収録。
一方のSACDレイヤーには、上記の96kHz/24bitのPCMマスターを、スチューダー「A820」の先行ヘッドを使って1/2インチのアナログテープにテープスピード76cm/sで録音したものを、3センチ後ろの再生ヘッドで同時にプレイバックしながら、マージング製のA/DコンバーターでDSD化したものが収録されている。
今では珍しくなった「ハーフインチ落とし」と呼ばれるこの手法も、ボーカル帯域がふくよかになり、艶も出るといった過去の経験から、ステレオサウンド側がリクエストしたものだそうだが、SNSでは「そんなことをしたら劣化するだろう」とか「96kHz/24bitのデータを販売してほしい」などというコメントも散見された。マスタリングの世界に詳しくない人ならば、そういう印象を持つのも仕方がないのかもしれないが、もしそれが理由で購入を躊躇っているのだとしたら、安心してほしい。プロデューサーさん感涙の仕上がりとなっているからだ。
2013年に発売されたBlu-spec CD2とも比較してみたが、2013年盤がステージ用のバッチリメイクならば、ステレオサウンド盤はスッピン風のナチュラルメイクといった感じで、まるで普段着姿の彼女たちが、楽屋で自分のためだけに歌ってくれているような至福の時間が訪れる。
特に、松本氏が「ハーフインチ落としが想像以上に上手くいった」と語るSACDレイヤーは、フワッと包みこまれるような多幸感と、彼女たちが生身の人間としてこの世に存在しているかのような現実感が同居し、ゲームやアニメの世界との境界線が消えてしまうような錯覚を何度も味わった。
おかげで全ての曲を聴き終わる頃には“推し”まで出来ていた私。これこそが、DCD-3000NEが到達したステレオ再生の未来である。
3月25日に「やよい軒」高槻店にヒゲ面のオッサンがいたら、それは新人プロデューサーの私です。