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上位モデルも凌駕!? マランツ「MODEL 60n」の音がヤバイんですけど。
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- マランツ
2024年12月16日 08:00
それは1本の電話から始まった。
マランツT氏:「MODEL 60n」(2chアンプ/242,000円)を自宅試聴してもらえませんか?
私(の心の声):いやいやいやいや、無理無理無理無理! そりゃあ、一人のオーディオマニアとしてマランツの新製品はメッチャ気になるし、原稿のお仕事を頂けるのはとっても有り難いですよ。だけど、お願いだから、自宅試聴だけは勘弁してください! 自慢じゃないけど、私の自宅試聴後の購入率は、大谷翔平の長打率を上回る脅威の7割超えなんですよ!
今年は11月にクルマの車検があるし、年明けにはタイヤも交換しなくちゃいけない。もうホントにお金が無いんです! それに私は前回、「STEREO 70s」(143,000円)に惚れ込んでいると書いたじゃないですか!
私(の心の声):しかも、MODEL 60nって、「MODEL 40n」(385,000円)の弟機なんでしょ?
私はMODEL 40nも自宅試聴した上で、愛機HARBETH「HL-Compact」との相性も考慮してSTEREO 70sを選んだ人間ですよ。MODEL 60nも結果は同じだって。後生ですから、今の平穏な暮らしを壊さないでください!」
……という、必死の叫びもむなしく、MODEL 60nのデモ機は我が家にやってきた。この仕事で食べていくのは大変なのです。
だが、私もヤラレっぱなしではない。自宅試聴の条件として、強力な助っ人を呼んでもらったのだ。それがDALIのフロア型スピーカー「RUBIKORE 6」(528,000円/1本)である。
強力な助っ人DALI「RUBIKORE 6」を召喚。筋書きは仕上がった
DALIといえば「“音”ではなく“音楽”を楽しむためのスピーカー」を標榜し、多くのファンを獲得してきたメーカーだ。ただ、私がどちらかというと“音”も楽しみたいモニター志向な人間だったこともあって、その実力は認めながらも、これまで自分にはあまり縁の無い存在だと思っていた。
ところが、この秋にD&M試聴室で「RUBIKORE 2」「RUBIKORE 6」「RUBIKORE 8」を聴いてビックリ。
2年前に登場した超弩級フラッグシップ機「KORE」の要素技術を受け継いだというこの新シリーズは、旧「RUBICON」シリーズと比較して、持ち前の音楽性はそのままに、聴感上のダイナミックレンジが飛躍的に拡大。
なかでも、RUBIKORE 2とRUBIKORE 6は、各ユニット間の繋がりが極めてシームレスで音色もニュートラル。従来のDALIでは考えられなかったモニタースピーカーとしての資質も備えていることに大いに感心した。
これは時代は違えど、英国BBCモニターの流れを汲むHL-Compact(1987年発売)とも共通していて、改めて自分の好きな音を認識すると同時に、現代機ならではのワイドレンジでトランスペアレントなオーディオ性能も備えたRUBIKORE 6を自宅リビングで鳴らしてみたいという欲求に駆られたのだった。
とはいえ、「RUBIKORE 6」はペアで100万円超えの高級スピーカーだ。流石にSTEREO 70sでは荷が重い気がするが、MODEL 60nならイケるのではないか? だって、MODEL 40nはでっかいスピーカーでも余裕で鳴らしちゃうんだから。
はい、ここで勘のいい読者ならお気づきだろう。私が以下のような筋書きを考えていることを――
HL-CompactをSTEREO 70sとMODEL 60nで鳴らしてみる。
↓
価格差なりの違いはあるが、アンプを買い替えるほどではない。
↓
RUBIKORE 6をMODEL 60nとSTEREO 70sで鳴らしてみる。
↓
想像以上に駆動力の差はあるが、RUBIKORE 6を買う金などあるわけがない。
↓
MODEL 60nは大変優秀なアンプだったが、ひとまず我が家は現状維持。
↓
めでたし、めでたし。
――我ながら完璧な流れだ。
ところが、その目論見は初っ端から崩壊することになる。
筋書き崩壊。MODEL 40nよりMODEL 60nの方が実力は上なんじゃね??
まずは、アンプをSTEREO 70sからMODEL 60nに変更。その際、普段は併用している2.1ch再生用のサブウーファーLINN「AV 5150」は接続せずに(設定メニュー内でもオフにして)、HL-Compactだけを鳴らしてみた。ソースはたまたまその時にやっていたBS 4Kの大相撲中継(HDMI ARC入力)だが、以前MODEL 40nを自宅試聴した際にも使ったので丁度いい。
!?
あまりの出音の違いに、しばし茫然自失。NHKアナウンサーの声は「今までマスク越しに喋っていたんですか?」というくらい明瞭になり、力士がぶつかり合う音は、バチーンという破裂音から、ズドーンとくる衝撃音に豹変した。
MODEL 40nの特徴だった、今どき珍しいくらいのピラミッドバランスは鳴りを潜め、代わりに、ボトムエンドまでソリッドに切れ込む重低音が、土俵上の真剣勝負をより一層スリリングに伝えてくれる。
おいおい、これのどこがMODEL 40nの弟機なんだ?
続いて、32年ぶりのオリジナルキャストでの復活に大歓喜したテレビアニメ「らんま1/2」のエンディングテーマ、りりあ。の『あんたなんて。』を再生してみる。
冒頭からボーカルの生々しさが段違いだ。歌詞に込められたヒロイン天道あかねの赤裸々な感情がダイレクトに胸に突き刺さる。サビから始まる民族楽器を使った中華風アレンジも、決してテンポの速い楽曲ではないのに、明らかにスピード感が増した。
ダメだ、これ以上聴いたらSTEREO 70sに戻れなくなる。
っていうか、MODEL 40nよりMODEL 60nの方が実力は上なんじゃね??
まさかの大ポカ! MODEL 60nのアンプベースはMODEL 50じゃん
慌てて、メーカーのホームページを開くと、定格出力はMODEL 40nが70W + 70W(8Ω)、MODEL 60nが60W + 60W(8Ω)で、どちらもAB級。外寸はMODEL 40nの方が1mmずつ長く、重量はMODEL 40nが16.7kg、MODEL 60nが13kgとなっていて、パッと見で数字が違うのはこれくらい。重量や外寸の違いはトロイダルトランスの大きさや、シャーシの厚みの違いが理由と推測されるが、正直これだけではよく分からなかった。
そこで、AV Watchの発売当時のニュース記事を確認してみると、どうやら私は大きな勘違いをしていたらしい。MODEL 60nのアンプ部分のベースとなっているのは、MODEL 40nではなく、「MODEL 50」(231,000円)だったのだ……!
ラインナップが豊富すぎて、私の頭の中からすっぽり抜け落ちていたが、マランツのナンバリングのルールからすれば、MODEL 50はMODEL 60nの上位機という位置付けになる。
外寸はピッタリ同じで、重量は14kg。重さで機器のグレードを判断するなんて古臭い人間だと思われるかもしれないが、デジタル回路を積んでいないのにMODEL 60nより重いのは、良質なアナログパーツがふんだんに使われている証拠だろう。
あいにくMODEL 50は未聴であり、詳細な資料も持っていないので、これまたAV Watchのニュース記事を参照させてもらったが(山崎編集長、ありがとう)、MODEL 40nとMODEL 50の両者はプリ部にHDAM-SA2、パワー部にHDAM-SA3を採用したフルディスクリートの電流帰還型パラレルプッシュプル構成に対し、MODEL 60nのみシングルプッシュプル構成であるようだ。
さらに細かく見ていくと、MODEL 40nのみ、68Aの瞬時電流供給能力を有していたり(MODEL 50は66A)、銅板の上にトランジスタを直接マウントしていたりと、随所でワンランク上の贅沢な造りになっていることが分かる。
それゆえ、昨今の原材料費高騰の影響をモロに食らってしまったのだろう。7月の価格改定で10万円近い値上がりとなり、STEREO 70sとの価格差が開き過ぎてしまった。
その穴を埋めるために投入されたのが、MODEL 50をベースに、MODEL 40nのデジタル回路およびネットワーク機能を追加したMODEL 60nだったわけだ。そう考えると、MODEL 40nの初出より4万円も安く、MODEL 50から1万円アップしただけの242,000円という値付けは、かなり戦略的である。
MODEL 40nを凌駕した理由は「サウンドマスター」の経験値!?
とはいえ、私の「MODEL 40nよりMODEL 60nの方が実力は上」という主観評価の根拠になるものは、スペック上からは何も見つからなかった。
ならば、マランツT氏に電話である。
私:あの~、MODEL 60nの音がヤバイんですけど。
マランツT氏:ありがとうございます(笑)
私:自分はMODEL 40nを凌駕していると思うんですよ。
マランツT氏:あ~、そのように感じられる方もいらっしゃるでしょうね。
私:何が理由ですか?
マランツT氏:それはひとえに、サウンドマスター尾形の経験値ですね。
私:経験値??
マランツT氏:同時期に、フラッグシップ2chアンプ「MODEL 10」(242万円)をやりましたから。
私:あ~、そういうことか!
全てに合点がいった。
これまでも私は、尾形サウンドのファンであることを公言してきたが、尾形氏のアプローチはアナログアンプとデジタルアンプで異なると考えている。
具体的にいうと、アナログアンプでは、クラスによる物量投入の差を意識させないように、聴き心地(例:STEREO 70s)や聴き応え(例:MODEL 40n)といった要素が加味されているが、対するデジタルアンプには、そもそも“音作り”という概念が存在せず、「ストレート・ワイヤー・ウィズ・ゲイン(Straight Wire with Gain)」を地で行くような、極めてストイックな開発姿勢が感じられる。それを具現化したのが、16chパワーアンプ「AMP 10」(110万円)やHi-Fiコンポ「MODEL M1」(154,000円)であり、その究極系が「MODEL 10」なのだ。
もちろんこの話は、私がそう思っているというだけで、実際のアンプ作りはそんなに単純ではないし、ご本人からは全否定されるかもしれない。
ここで重要なのは、アナログアンプであるはずのMODEL 60nのサウンドが明らかに後者寄りであり、私がMODEL 40nを凌駕したと感じた理由もそこにあるということだ。
MODEL 60nで鳴らすRUBIKOREは情報量満載。最低域も驚くほど伸びる
ここからはお待ちかね、スピーカーをRUBIKORE 6にチェンジする。
MODEL 60nとの接続方法は、もちろん「たすき掛け」だ。ちなみに、今回はDALI製のスピーカーケーブル(8万円相当で国内未発売)も一緒にお借りした。このケーブル、音質の良さもさることながら、バナナプラグの構造が凝っていてベリーグッド。それがなんと、2025年1月6日までにRUBIKOREシリーズを購入すると、もれなくプレゼントされちゃうらしい。これは急がねば!
MODEL 60nで鳴らすRUBIKORE 6は情報量が満載。HL-Compactとは較べものにならない音数の多さと、一音一音のクリアネスに圧倒されてしまう。最低域も驚くほどディープに伸びているが、これはサブウーファーが押し出す“圧”のような重低音とは全くの別物であり、このステレオイメージの底が抜けるような感覚を自宅リビングで味わうのは初めてだ。
先ほどの『あんたなんて。』のサビ前(YouTubeでは0:37)で、あかねが乱馬にバケツの水をかける瞬間のバスドラが、ズンズンズンという空気の震えとして伝わってきて鳥肌が立った。クセになって同じ箇所を何度もリピート再生してしまうほど快感だ。少なくともRUBIKORE 6ならば、ステレオ再生時にサブウーファーは不要であり、サラウンド再生のLFE用に特化させるのが正解だろう。
一応、ものは試しと、STEREO 70sでもRUBIKORE 6を鳴らしてみた。事前に「荷が重いだろう」と予想していた組み合わせである。
やはり、MODEL 60nのような“場の空気“までコントロールする支配力は後退する。一方で、緊張感から解放されたのか、RUBIKORE 6の表情が軽やかになって、リズミカルで弾むような鳴り方に変化した。危惧した駆動力も問題なさそうだ。
やはりこのアンプ、スピーカーを歌わせることに関しては天賦の才がある。HL-CompactでMODEL 60nに完敗した時は、私のレビューを読んでSTEREO 70sを購入した人に土下座して謝罪せねばと思っていたのだが、この音を聴いてホッと胸を撫で下ろした次第だ。
結論。MODEL 60nだけでなく、RUBIKORE 6まで欲しくなってしまった
その後はアンプをMODEL 60nに戻し、デモ機の返却日ギリギリまで、様々なソースでMODEL 60n + RUBIKORE 6サウンドを堪能した。
その途中、尾形氏が是非試してほしいと話していた、「ネットワーク機能」をオフにした場合の音質を確認するために、96kHz/24bit収録のライブBDをプレーヤー → テレビ → HDMI ARC経由で再生した時、自分の中で何かが吹っ切れた。
この場合、テレビ側の制約で音声が48kHz/16bitにダウンコンバートされてしまうため、フォーマット原理主義の私は、それを理由に通常のHDMI入力を持たないMODEL 40nの導入を見送った過去がある。
だけどお前、この鮮烈な音を聴いても、同じ理由でMODEL 60nを選択肢から外すのかい? STEREO 70sのHDMI入力を使って96kHz/24bitで再生した方がいい音だと言い切れるのかい?
答えはノーだ。
理屈じゃないんだよ。
ちなみに、「ネットワーク機能」のオフ、効果アリでした。S/Nが明らかに向上するので、よりストイックに音質を追求したい方は積極的に活用することをオススメします。
というわけで、今回の結論はこうだ。
HL-CompactをSTEREO 70sとMODEL 60nで鳴らしてみた。
↓
予想に反してMODEL 60nが圧勝してしまった。
↓
RUBIKORE 6をMODEL 60nとSTEREO 70sで鳴らしてみた。
↓
予想に反してSTEREO 70sが健闘してしまった。
↓
MODEL 60nだけでなく、RUBIKORE 6まで欲しくなってしまった。
↓
一体どうすりゃいいのよ? (←イマココ)