トピック

「オーディオはやっぱりセパレートがカッコいい」ARCAM A5 + CD5でCD好きの願いが叶った

本格的なオーディオシステムに憧れはあるけれど、ハイエンド機にはおいそれと手が出せない。そんな方は少なくないのではないだろうか。かくいう筆者もその一人だ。

良い音を楽しむだけなら、Bluetoothスピーカーや一体型オーディオも選択肢としてアリなのだが、オーディオを趣味として考えると、やはり“セパレート”にこだわりたい。好きなプレーヤー、アンプ、スピーカーを選び、組み合わせるのは楽しいし、音質も本格的。それに、セパレートは「オーディオやってる」感じがしてカッコいい。

とはいえ、超高級で巨大なコンポには手が出ない。欲を言えば、プレーヤーとアンプを買っても20万円くらいで、サイズは大きすぎず、インテリアに馴染むものがいい。手持ちのCDが聴けて、なおかつ“本格的な音質”なのが必須条件。挙げてみるとワガママばかりで恐縮だ。

そんな欲張りに応える機器はないかと思っていたら、かなり有望そうな組み合わせが見つかった。英ARCAM(アーカム)のプリメインアンプ「A5」とCDプレーヤー「CD5」だ。実際の使い心地や音質はどうか? ワガママついでにこのコンポを借りて、自宅で試用してみた。

いま注目すべきARCAMというブランド

ARCAMは、イギリス生まれのブランド。1976年にケンブリッジの名門ケンブリッジ大学の学生だったジョン・ドーソン氏らが創業し、プリメインアンプ「A60」というモデルが、シンプルで美しいデザインと高い音質で人気となった。英国で初めて完全自社開発のCDプレーヤー「Delta 70」を発売するなど、デジタル関連の技術力も高い。

ジョン・ドーソン氏

国内では、JBLやAKG、Mark Levinsonなど歴史ある人気ブランドを持つハーマンインターナショナルが取り扱っている。

2021年に日本再上陸を果たしたばかりのARCAMだが、JBLなどに比べて、知名度はまだ低いと言わざるを得ない。だが、知名度と実力は必ずしも比例するものではなく、「Music First(音楽最優先主義)」をモットーとしたARCAMの製品群はいずれも高い評価を受けている。筆者も以前、ARCAMの別のモデルに触れたことがあるが、なぜまだ名前が広がってないのか不思議なくらいの完成度の高さだった。

また、日本と同じく島国であるイギリスは、部屋の広さに限りがあることからオーディオにもコンパクトさが求められる。隣の部屋からの“壁ドン”が怖いのも日本と一緒で、小さな音量でも良質なサウンドが楽しめることも重要視される。

ARCAM製品はこうした前提のなか、シンプルかつスタイリッシュなデザインを実現しつつ、その中身は先述のMusic Firstを貫いた音質設計がなされている。さらにありがたいことに、コスパが良いことも特徴と言える。これらの長所を揃えたARCAMは、日本のオーディオファンこそ注目しておくべきだろう。

代表的なアンプとその内部。「A60」から、経路の最短化、シングルボードレイアウトといった特徴が、最新モデルまで受け継がれている

薄型ボディにノウハウを詰め込んだセパレートコンポ

それでは今回の主役となる2モデルの概要をチェックしていこう。

プリメインアンプ「A5」(110,000円)は、ブランドの最初の1台として開発されたアンプ「A60」から続く設計思想を踏襲しつつ、現代的な仕様に進化させたモデルだ。

プリメインアンプ「A5」

まずデザインを見てみると、外形寸法は431×344×83mm(幅×奥行き×高さ/突起部含む)で、いわゆるフルサイズの大きさだが、薄型なのがポイント。外形寸法が同じCD5と重ねて設置することで、実質フルサイズ機1台分のスペースにまとめられる。おかげで、一般的な棚などにも置くことができる。

A5(写真下)とCD5(写真上)を重ねた様子。デザインに統一性があるので見た目にもまとまっている

筐体パネルには制振性の高いアルミを採用。インプットセレクターとボリュームノブの周囲、そしてサイドを走るイエローのラインがセンスを感じさせ、高級感がありつつも重厚すぎないルックスとなっている。ちなみに天板のダクトを覗き込むと、そこにもイエローが確認できる。

アクセントとなるイエローラインがスタイリッシュ
余談だが段ボールまでスタイリッシュ

こうした薄型の据え置き機にはD級アンプが採用されることが多いが、A5の場合は出力50W/ch(8Ω 20Hz~20kHz)のAB級アンプを搭載している。強力な電源部を構成する大型トロイダルトランスは高さを抑えた特製のもので、このほか経路の最短化やシングルボードレイアウトなど、音質を犠牲にすることなく薄型筐体を実現するための工夫が見て取れる。

A5の内部イメージ

入力はRCAアナログ×3、MM対応Phono×1、同軸デジタル×2、光デジタル×1を搭載。DACチップはESS Sabre「ES9018K2M」だ。加えてaptX AdaptiveコーデックをサポートするBluetooth機能も備えており、スマートフォンなどからSpotifyなどの音源を飛ばしたり、ワイヤレスイヤフォン/ヘッドフォンなどにワイヤレスで出力することもできる。フロントには3.5mmヘッドフォン端子を搭載し、有線モデルの接続も可能だ。

A5の背面部。アナログ/デジタルの両入力を備えるほか、Bluetooth送受信にも対応する

なお、昨今はHDMI搭載アンプが話題だが、本機ではデジタルノイズの影響対策に費やすコストを考慮し、あえて搭載を見送ったそうだ。使い方によるが、筆者としてはHDMI対応はマストではないと思うので、むしろそれによって価格が抑えられたことを歓迎したい。

もう一方の「CD5」(110,000円)は、“CD再生に特化”したCDプレーヤーだ。

CDプレーヤー「CD5」

ここでの特化とは、SACDやネットワークオーディオへは対応せず、CD再生に機能を絞った専用機、という意味を指す。CDの再生音質にリソースを注ぎ込むことによって、限られたコストのなかでもCD再生専用ドライブといった高品位パーツの採用、Music Firstな回路設計が実現できているということだ。そこには、前述のイギリス初のCDプレーヤーとしてARCAMが開発した「Delta 70」以来のノウハウが投入されている。

CD5の内部イメージ

DAC部には、A5と同様にES9018K2Mを搭載するとともに、DAC用としてリニアな三段制御の電源を採用。信号経路上には厳選したオペアンプを配置しており、こちらの電源もリニアに電圧制御されている。なお、“CD再生に特化”と書いたが、CD-RやUSBメモリーに保存したWAV/FLAC/MP3/AAC/WMA(96kHz/24bitまで)のデジタルデータを再生することもできる。

回転体であるCDドライブを支えるため、振動対策はCDプレーヤーにとって重要な課題となる。CD5では厚みあるフルフラットなシャーシや専用設計のインシュレーター、そして筐体パネルにアルミを採用することで制振性を高めた。さらに非鉄素材のアルミは筐体内外の電磁放射に反応しないため、ノイズフロアを低減することにも繋がっている。

デザインの意匠はA5と共通していて、イエローラインがアクセントになっている。操作系統はシンプルで、フロントパネルのボタンか、付属のリモコンから行なう。再生時間などはディスプレイから確認可能で、この表示は明るさ調整で消すこともできる。

付属リモコン。A5とCD5でデザインは共通だ

出力は背面にアナログRCA、同軸デジタル、光デジタルを各1系統ずつ搭載。A5との組み合わせにおいては、アナログ変換後の信号経路を最短化できる関係からデジタル接続が推奨されているが、もちろん手持ちのケーブルにあわせて接続方法をチョイスして問題ない。

CD5の背面部。各出力を備えるほか、USBメモリーやHDDなどを接続できるUSB-A端子を備える

CDを「聴きたかった音」で聴けた。まずはJBLと組み合わせてみる

それでは、ここからサウンドをチェックしていきたい。まずはトータルで価格を抑えた“買える“システムとして、JBL「STAGE 240B」(40,700円/ペア)を組み合わせてみた。

アンプのA5は110,000円、CDプレーヤーのCD5も110,000円なので、スピーカーも含めた合計金額は260,700円だ。

JBLのブックシェルフスピーカー「STAGE 240B」と組み合わせて試聴した

A5とCD5はともに安っぽさをまったく感じさせないルックスだが、セッティングで持ち上げた際のズシリとした重さからも、それが感じられる。AD5が8kg、CD5が6kgなので男女問わず普通に運べるだろうが、軽々とはいかない。この重量感にも、「オーディオやってるな」という喜びが得られる。

そしてCDをトレーに乗せ、再生が始まると、その喜びが爆発した。低域から高域までバランスの取れた、クリアなサウンド。その鮮明で生き生きとした鳴り方に、冗談抜きで、数秒で感動した。「ちゃんと再生すれば、CDにはこれほどの情報が入っているんだな」と驚かされる。

ステージはそこそこのサイズ感に収まるが、音の分離が良いので縮こまったような印象を受けない。また、音の入口から出口まで手綱を離さない駆動力も見事。瞬時に鳴り、余韻の消え際まで滑らかに繋がっている。涼やかというよりは元気の良いサウンド傾向はスピーカーの持ち味だろう。

秦基博「鱗」はイントロのピアノに始まり、ギターやベース、ストリングスなど色々な楽器が使用されているが、それらが明瞭に描き分けられる。そして「鋼と硝子で出来た声」と評される歌声のハスキーさと繊細な高音の響きをしっかり表現。確かな再現性のなせる技と言っていい。

鬼束ちひろ「月光」では、ギターの弦を指が滑る音が艷やかで、リアリティを高めている。ピアノの強弱もアンプの制動力が活きていて、ラスサビへの盛り上がり、アウトロの静けさの差がより印象的になる。ロック系の楽曲ではビートを刻むドラムの反応の良さが心地よく、歪んだギターのカッティングに切れ味がある。ブックシェルフながらタイトかつ迫力ある低音が楽しめるのもポイントだ。

ちなみにCD5が搭載する機能として、アナログ出力のデジタルフィルターを「SLOW(デフォルト)」「PHASE」「FAST」から選択できる。その差はそれほど大きくないが、試してみたところ個人的にはSLOW>FAST>PHASEの順に良かった。

モニターオーディオ「Bronze 50-6G」と組み合わせ、“英国製”で揃えてみる

エントリークラスのスピーカーでも十分に本格サウンドを楽しめることがわかったが、今度はイギリスつながりでモニターオーディオ「Bronze 50-6G」(80,300円/ペア)にランクアップしてみよう。合計金額は300,300円と、それでも約30万円だ。

モニターオーディオはARCAMのデザインと親和性が高く、並べるとモダンな印象を受ける

先程までよりもスケールが広がり、そして情報量がアップしたことがわかる。また表現としては、伸びやかで艶のある高域、強弱のダイナミクスに特徴が感じられる。トータルの金額は上がっているが、その分だけまとまりの良い、オーディオライクなサウンドになった。

池田綾子「ヒカリノイト」は、透明感ある歌声がシルクのような質感を伴って空間に広がっていく。「そうそう、こういった音で聴きたかったんだよ」と聴き惚れてしまう。抑揚の解像度も上がり、より細かなディテールまで捉えられる。そのおかげで、楽曲の世界観に深く没入できる。

上品とも言えるサウンドだけに、激しめの楽曲との相性はどうか、と思ったが無用な心配だった。低域は厚みあるといったものではないが、過度な主張をせずしっかりと楽曲を下支えしてくれるので、爽快感のあるロックが楽しめる。インストゥルメンタルもお手の物だ。音数の多少を問わない再現性に、つい次々とCDを入れ替えてしまう。

手持ちのCDを良い音で聴けるのが嬉しくて、つい再生時間も長くなる。これもCDに収録された音源をストレートにピックアップし、その信号をマスキングすることなくハイパワーに送り出す、ARCAMコンビの実力があってこそであることは言うまでもない。

スピーカーごとの特色をストレートに引き出してくれるので、もっと他のスピーカーとも組み合わせてみたくなる。ブックシェルフを余裕を持って鳴らしているので、トールボーイスピーカーも難なくドライブできそうだ。将来的な発展性という面でも、A5とCD5のコンポは信頼できるし、こうした発展していく楽しさも、セパレートのオーディオならではだ。

最後に、A5に搭載しているBluetooth送信機能を使い、AKGのノイキャンヘッドフォン「N9 HYBRID」も接続してみた。

Bluetooth機能を活用し、AKG「N9 HYBRID」を接続

高域はクリアで、中域は見晴らしが良く、低域はタイトだが重みがある。全体としてクセのないスッキリとしたフラットサウンドだが、モニターライクではなく穏やかな傾向のため長時間聴いていられる。スピーカーリスニングのような空間的な広がり感はないが、ディテールを聴き込めるのはヘッドフォンリスニングの優位性だ。ノイキャンを効かせれば没入感も高まるし、より音楽に向き合う時間が楽しめる。

せっかくのコンポなのでスピーカーを鳴らしたいところだが、家庭事情がそれを許さない時間帯もあるだろう。本格派の2chアンプとしては珍しい機能だが、夜でも音楽にどっぷり浸れるので、むしろ他の機種にも搭載してもらいたいくらいだ。

本格オーディオのハードルがグンと下がった

筆者も普段は音楽配信サービスをガンガン使っているのだが、CDでしか聴けない好きな曲も多い。どうせCDを聴くなら良い音で聴きたいし、それならオーディオにこだわって、セパレートを選びたい。どんなモデルがいいかの条件は冒頭に挙げたとおりだが、ARCAMのA5とCD5はその要望にしっかり応えてくれた。

普通の机やサイドボードに置ける本格オーディオ、素晴らしい。「セパレートはサイズ的にちょっと」という“買えない理由”が粉砕された。価格的にも、趣味のオーディオ入門として頑張れる範囲ではないだろうか。もちろん、サウンドは間違いなく本格派だ。

本格オーディオを始めるのに、迷う理由を限りなく減らしてくれたARCAM。デザインもスタイリッシュなので、これなら家族も説得しやすいはず。筆者の「CDを良い音で聴きたい」という願いは、ARCAMが叶えてくれた。このコンポをオススメするのに、これ以上の理由はない。

小岩井 博

カフェ店員、オーディオビジュアル・ガジェット関連媒体の編集・記者を経てライターとして活動。音楽とコーヒーと猫を傍らに、執筆に勤しんでいます。