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レグザ躍進の陰にエンジニアあり。8年ぶり快挙”省エネ大賞受賞”を果たしたミニLED「Z870Nシリーズ」の秘密
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- TVS REGZA
2025年3月10日 08:00
レグザ「Z870Nシリーズ」が省エネ大賞を受賞。じつは8年ぶりの“快挙”でした
“業界トップクラスの省エネ性能”を有する4Kテレビとして、昨年12月、TVS REGZAのミニLED液晶レグザ「Z870Nシリーズ」(75V・65V・55V型)が2024年度の「省エネ大賞 製品・ビジネスモデル部門省エネルギーセンター会長賞」に輝いた。
省エネ大賞では、省エネルギーセンター主催・経済産業省後援のもと、年に1度先進的かつ高効率な省エネ型製品を選出、表彰している。もしかしたらこれを聞いて「え。今の家電製品って省エネ当たり前なのでは?」なんて感じる方もいるかもしれない。
確かに、昔に比べればテレビの省エネ性能はダンゼン高くなっているし、明るさセンサーや無操作・無信号電源オフなどの節電機能は各メーカーのテレビに普通に搭載されている。ところが、テレビが省エネ大賞を受賞するのは、2015年度以来、じつに8年ぶりの快挙らしい。
これって一体どうゆうことなのか。もしかして今のテレビって省エネ化が遅れてた? いや、そもそも省エネじゃなかったの?
というわけで、神奈川県・川崎にオフィスを構えるTVS REGZAに突撃。省エネ大賞受賞モデル「Z870Nシリーズ」の企画や設計に携わった開発メンバーに、省エネ性能の秘密から最近のレグザ開発体制、そして今年の隠し玉(?)まで話を聞いた。
随一のバリエーションを誇るレグザ。特に「Z870Nシリーズ」はハイCPモデル
まず先に、現行レグザのラインナップを振り返っておこう。
現在レグザは、明るく鮮やかな映像を得意とする「液晶テレビ」と、リアルな質感と高いコントラスト性能を得意とする「有機ELテレビ」の2方式で、合計10シリーズ32機種の4Kテレビを展開している。下は24V型(HD)から上は110V型(4K)まで、全12サイズを用意。国内ブランドとしては、随一のバリエーションを揃える。
最近は、80V型を超える“超大型テレビ”も積極的に発売。昨年11月には4機種、さらに今年1月にも1機種の超大型を追加で投入した。超ハイエンド向けの最新技術・機能マシマシ110V型モデル「110Z990R」(お値段は550万円!)だけでなく、85V型で約28.6万円という“手の届きやすい超大型”「85E350N」も用意するなど、超大型市場の開拓にも取り組んでいる。
レグザの強みは、何といっても自社開発の高性能エンジンを持っていることだ。最新の「ZRα」エンジンは、独立したディープニューラルネットワーク(DNN)アクセラレーターを搭載したハードウェアAIエンジンで、最大29bit幅の高ビット精度の信号処理と最新の超解像技術を搭載。このエンジンがもたらすAI高画質技術により、テレビ放送からネット動画まで、ユーザーは難しい操作をすることなく常に最適な映像を手軽に楽しむことができる。
汎用LSIで画像処理することが多くなってきているテレビ製品の中で、今でも自社で、画像処理専用のエンジンを開発・搭載するブランドは稀と言えるだろう。
また、録画した番組と動画配信サービスを横断して検索・アクセスできる「ざんまいスマートアクセス」や「番組ガイド」、地デジ番組を最大6チャンネル丸ごと録画する「タイムシフトマシン」、快適なゲームプレイを提供する「ゲーミングメニュー」といった、独自機能もレグザのお家芸。
中でも、リモコンのボタン一つで過去の放送番組・シーンにアクセスできるタイムシフトマシンはその代表格で、筆者も長年タイムシフトマシン搭載レグザとタイムシフトマシンレコーダーをダブルで運用するほど重宝している。最近では、応援するアイドルや俳優、アーティストなどの出演番組を見逃すまいと、“推し活”目的でタイムシフトマシンが再注目。「一度使うと手放せない!」と、若い推し活ユーザーからも高い評価を受けているそうだ。
省エネ大賞を獲得した「Z870Nシリーズ」は、液晶レグザの最高峰「Z970Nシリーズ」の一つ下にある“ハイグレード”にカテゴライズされている。サイズは、75V型、65V型、55V型の3種類。
特徴は、上位Z970Nシリーズと同様、明るい画面と高純度な色表現を実現するミニLEDバックライト×量子ドット技術を搭載していること。加えて、エンジンは地デジやネット動画を高画質に処理する「ZR」で、推し活に欠かせないタイムシフトマシンも内蔵。立体音響技術のDolby Atmosや各種動画配信サービス、ゲーミングメニューなどの機能もフルカバーしている。
また価格面でも、Z970Nシリーズと比べて実売で10万円ほど低く、55型であれば実売20万円台から購入できるのもポイント。
Z870Nは、「Z970Nシリーズは良いけど少し高い……。けれど、最新液晶テレビの性能と、レグザならではの機能は妥協したくない」という、ちょっぴり欲張りな方には好適な、コストパフォーマンスの高いシリーズに仕上がっている。
省エネ法改正で基準が更新。ほとんどのテレビが未達に!?
川崎オフィスで話を聞いたのは、TVS REGZA株式会社 商品戦略本部 商品企画部 シニアプロダクトプロデューサーの槇本修二氏、そしてR&Dセンターでビジュアルコア技術ラボ 主査の杉山徹氏、同じくR&DセンターでRD企画管理担当を務める森下直樹氏の3名だ。
単刀直入に「なぜレグザZ870Nシリーズがテレビで9年ぶりに省エネ大賞を受賞できたのか?」と尋ねると、「2021年頃から取り組んできた省エネ技術の蓄積と、新しいミニLED液晶パネルモジュールの採用が大きいです」と槇本氏は明かす。
「省エネ性能の追及は、新しいモデル毎に行なっていますから、これまでのレグザが省エネではなかったわけではありません。ただZ870Nシリーズに関しては、契機のひとつに2021年の省エネ法改正がありました。改正によってテレビのトップランナー基準が2026年度基準に更新され、ほとんどのテレビが省エネ達成率“未達”になってしまったのです。そこで我々は『2024年モデルで2026年度基準をクリアする』という目標を掲げ、技術開発に取り組むことにしたのです」(槇本氏)。
少し細かい話になるが、テレビの省エネ性能は、経済産業省 資源エネルギー庁が所管する省エネ法で基準が定められている。目標となる省エネ基準(トップランナー基準)は、最も省エネ性能が優れる製品(トップランナー)の性能に加えて、将来的な技術開発に伴う性能アップも勘案し決定される。2021年5月の法改正では、テレビのトップランナー基準がアップデートされたことに加え、テレビの年間消費電力量の測定条件や算出方法も厳格化されたことで、ほとんどのテレビが省エネ達成率100%以下になった。
森下氏は「法改正で定められた新しいトップランナー基準は、非常にハードルが高いものでした。事実、2023年4月から2024年7月末時点で『省エネ型製品情報サイト』に登録されたテレビ423製品のうち、省エネ達成率100%を超えたものは139製品で、わずか3割強の製品のみが達成できている状況です。その中で、Z870Nシリーズは75型で省エネ基準達成率115%、65型で105%、55型で101%を記録しました。これは、液晶テレビ・4K・倍速という条件下において、75・65型はトップ、55型もトップクラスの達成率です。シリーズ全サイズでトップクラスの省エネ性能を実現できたことは、大きな成果でした」と語る。
キモは「ミニLED」とレグザエンジンによる「エリアコントロール」
では、具体的にはどのように高い省エネ性能を実現したのだろう。杉山氏は「高密度に配置されたミニLEDバックライトと、レグザエンジンZRによるエリアコントロール技術の合わせ技」と解説する。
ミニLEDはその名の通り、数ミリサイズのLEDチップよりもさらに1/10程度小さい、まさにミニサイズのLEDチップを指す。最近のハイエンド液晶テレビにはこのミニLEDチップが数千から数万個敷き詰められていて、それらが発光することで液晶で煌めきある映像を生み出す源泉となっている。Z870NシリーズにもこのミニLEDがバックライトとして搭載されていて、青色の光を効率よく緑・赤色に波長変換する量子ドットシートとの組み合わせによって、高輝度かつ色鮮やかな映像表示が可能になった。
「特に省エネのキモになっているのが、緻密で高精度なエリアコントロールです。エリアコントロールは映像に応じて、領域ごとにLEDの点灯レベルを制御する技術です。この技術のメリットは、明部は明るく、暗部は暗く点灯させることで明暗部の表現が向上し、高コントラストな映像を再現するという高画質化だけでなく、必要な部分だけを点灯させるという電力削減にも寄与します」。
「それにLEDサイズが小さくなったこともポイントです。1個マイクロメートルサイズのミニLEDによって、一段と小さい面積で点灯レベルを制御することができるようになりました。LEDが小さく数も多ければ、ハローと呼ばれる光漏れも抑えて画質向上を実現できますし、バックライト電力の抑制ができる。しかもミニLEDを数多く用いることで、1個の通常LEDよりも低い電力で同等の輝度が生み出せます。小粒なLEDを低電流で使うから効率がいい。結果、バックライト電力の大幅な削減に繋がるわけです。ですから、実はローエンドよりもミニLEDを用いているテレビの方が省エネには寄与しやすいということでもあるのです」(杉山氏)。
レグザでは、2014年発売の4Kレグザ「65Z9X」と最新の4Kレグザ「65Z870N」の年間電気代を比較した場合、Z9Xは7,192円、Z870Nは4,650円と、約2,500円程度の料金差が発生すると試算する(31円/kWh時)。
恥ずかしながら筆者はエリアコントロール=画質向上のための技術としてしか注目しておらず、ここまで電力削減にも貢献しているとは思わなかった。画質も良くなって省エネにも効くとなれば、もはや液晶でミニLEDを選ばない手はないだろう。
とはいえ1つ気になったのが、電力削減による明るさ不足はないのか? ということ。やはりミニLED×量子ドット液晶テレビの強みは、リビングに設置しても映える、力強い明るさとビビットな色彩描写。省エネ性能を優先するがあまり画が暗くなる……なんてことはないのだろうか?
「まさにそこがノウハウと言いますか、我々の技術陣が最適な画作りのパラメーターを徹底的に作り込んだ部分でもあります。省エネ基準を達成したとしても、画に元気が無くなってしまっては元も子もありません。明るさ感や鮮やか感を損なわずに、如何に省エネ性能を高めるか。エンジニアが張り付いて、様々なシーンを試しながら最適なパラメーターを探りました」。
「Z870Nシリーズは、4KミニLED、量子ドット、タイムシフトマシン、いわゆるレグザにとっての売れ筋の技術・機能を盛り込んだ代表モデルであり、どこまで省エネ性能を追求できるか? という新たな試みにもいち早くチャレンジしました。今回のチャレンジで得た知見は、大型モデルの更なる省電力化はもちろん、ハイエンドからエントリーモデルまで幅広く応用できると考えています」(槇本氏)。
「レグザもハイセンスも中身は一緒」は大きな誤解です!
レグザが東芝グループを離れ、ハイセンスグループの傘下に加わったのは2018年。当時は、多くのAVファンがレグザブランドの行く末を案じたが、蓋を開ければレグザは2022年から3年連続で国内テレビシェア1位を保持するまでに躍進。前述した豊富なラインナップしかり、海外メーカーばりの超大型モデル展開しかり、いま最も勢いのあるテレビブランドに変貌したように映る。ただ槇本氏曰く「今の体制になっても、東芝時代からのエンジニアが、技術に真面目に取り組むスタイルは変わっていない」という。
杉山氏も「エリアコントロールのノウハウや省エネ技術も、長年の技術の蓄積があってのものです。近年注目のAI技術も、我々は先んじて映像処理に活用しました。ZRαではディープニューラルネットワークがシーンを高精度に判別して、シーンに応じた高画質化を行なっています。シーンの学習も自前のエンジニアが粛々と作業を続けていますし、ネット動画のバンディングノイズ除去にしても、一つの画を担当が何度も繰り返し見て最適化を行なう。放送番組や各映像モードのチューニングも画質のエンジニアが繰り返し繰り返し追い込んでいく。ちょっと時代に合っているかわからないですけれど、この愚直な探求がほかと大きく違うところなのかな」と話す。
ネット上では度々「レグザもハイセンスも中身は一緒」といったコメントが散見される。そもそも2社は同じグループだし、非常によく似たメニューが並ぶのを見れば、そう思ってしまう方もいるだろう。ただそれは「大きな誤解です!」と槇本氏は訴える。
「最もコストのかかるプラットフォームと呼んでいる大型の金型部分であったり、メニューのUI構造などは共通化しています。ただそれ以外は、企画も、設計も、開発もそれぞれ別々のチームが完全にセパレートで動いています。もちろん、エンジンアルゴリズムもパネル仕様も違いますし、機能もチューニングも違う。同じ仕様のものを使ってしまったら、商品特徴が無くなってしまいますからね」。
「やはりレグザの強みって、高画質、高音質視聴の追及はもちろん、タイムシフトマシンであったり、ネット動画と録画番組をいかに探して観るか? みたいな日本独特のスタイルを理解したうえで、さらに便利な機能、これまでにないアイデアを提案して、議論して、それを最終的に具現化してくれるエンジニアの存在ではないかと思うのです。またそうやって開発されたタイムシフトマシンやざんまいスマートアクセスの便利さを、録画文化に慣れ親しんだ方だけでなく、ネット動画をよく見る方にこそ使って頂きたいです。レグザの無い生活はありえなくなると思いますよ(笑)」(槇本氏)。
ゲーミングモニターに生成AI搭載レグザ。そして隠し玉がやって来る
レグザは昨年11月、テレビ製品だけではない「映像デバイスのトータルソリューションメーカー」を掲げ、ゲーミングモニター市場に参入した。テレビで培った高画質アルゴリズムや画作りなど、レグザで培った高画質のノウハウを応用することで、ゲーミングモニター業界においても業界をリードするポジションを目指そうとしている。
そして世界最大規模のテクノロジー見本市「CES 2025」では、生成AI技術をレグザに搭載することで、ユーザーの好奇心や価値観、嗜好や属性を把握し、レグザを使っている時の感情や体調などもリアルタイムに深く理解する“レグザインテリジェンス”構想を発表した。生成AIのテレビ搭載は業界初。すでにレグザはコンテンツを表示するだけのテレビから、ユーザーと対話できる知能を持つテレビを創造し始めた。マニアックなエンジニア陣は、一体どのような製品に仕上げてくるのだろうか。
ちなみに取材終わり、筆者は改装中のショールームで“隠し玉”を目にしてしまった。「ここにレグザのロゴが入ってますけど?」と尋ねると、槇本氏は「準備中です。期待してて下さい」とにやり。今年もレグザがAV業界の話題をさらうことは間違いないだろう。