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Brise Audioクオリティを19800円の“持って帰れる”ケーブルに。Brise Works「MIKAGE」の挑戦
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- Brise Audio
2025年8月22日 10:00
Brise Audioのリケーブルを身近にする“Brise Works”誕生
完全ワイヤレスイヤフォン(TWS)が当たり前のものになった昨今、魅力が再評価されているのが有線イヤフォンだ。TWSからポータブルオーディオに興味を持った人が、有線イヤフォンとDAPを購入し、理想の音を追求する流れもある。
有線イヤフォンの魅力は、バッテリーもアンテナも搭載しない、全てを音質に“全振り”できる事だが、それに加え、リケーブルでバランス駆動に挑戦したり、ケーブル交換による音の変化を楽しむなど、ユーザーがイヤフォンをカスタマイズできる魅力も大きい。
そんなリケーブルの世界で、別格の存在感を発揮しているのがBrise Audioだ。独自の高音質化加工や、ユーザーが愛用する機器や最新機種にも柔軟に対応してくれるオーダーメイド感覚のケーブルブランド。近年はポータブルアンプや究極のポータブルオーディオシステム「FUGAKU」も手掛けるなど、ケーブルの枠を超えて活動しているので、知っている人も多いだろう。「Brise Audioのリケーブル使ってみたいけど、高そうで手が出ない」という人もいるかもしれない。
低価格なものでは「NAOBI-LE」というイヤフォンリケーブルは55,000円からラインアップしているが、最上位の「SHIROGANE 8-wire Ultimate」は550,000円と、気軽に手に取れない価格なのは確かだ。
だが、そんな状況を一変させる注目のケーブルが登場する。Brise Audioが、そのノウハウを投入して初の“量産イヤフォンリケーブル”を作り、Brise Worksという新たなブランドで発売する。第一弾ケーブルの名は「MIKAGE」。4.4mmのバランス接続ケーブルで、イヤフォン側はMMCXコネクタ用「BW-MKG544LMX」と、0.78mm IEM 2pinコネクタ用「BW-MKG544L2P」の2モデルを用意。驚きの価格は、どちらも19,800円だ。
「いや、19,800円でも高い」と感じる人もいるだろう。だが、そもそもBrise Audioがどのようにケーブルを作っているのか、そして、そのノウハウや素材を投入した“量産ケーブル”を完成させるまでの苦労を知ると、印象が変わってくる。
さらに、Brise Worksの「MIKAGE」は、今までよりもお店で試聴しやすくなり、聴いてみて「いいな」と思ったら、購入して“持ち帰る事ができる”のだ。
「そんなの当たり前では」と思われるかもしれないが、オーダーを受けて手作りしているBrise Audioケーブルは、そもそもお店から持って帰れない。つまり、オーダーメイドケーブルで培ったこだわりを、なんとか量産化・低価格化した「とりあえず聴いてみて!」という“名刺代わり”の出血大サービスケーブルが「MIKAGE」なのだ。
そもそもBrise Audioって?
MIKAGEの話の前に、オーダーメイドのBrise Audioブランドでは、どのようにケーブルを作っているのかを見ていこう。群馬県は高崎にある、Brise Audioの工房に潜入した。
Brise Audioは、岡田直樹氏と渡辺慶一氏という、2人のオーディオマニアが出会った事で生まれた。岡田氏は、若い頃にシルバーアクセサリーの通販事業を成功させ、そのお金をオーディオ趣味に投入。様々なケーブルの交換にも没頭したという筋金入りのマニア。
渡辺氏は秋葉原のPCショップで働いていた頃、パソコン用のオーディオインターフェースボードが高価なのに、1つの端子から何本ものオーディオケーブルが生えているタコ足ケーブルばかりなのに疑問を持ち、ケーブルを自作してみると、音が激変。渡辺氏の作るケーブルは話題となり、お店のお客さんから制作を依頼されるように。その後、六本木工学研究所に入社し、ケーブルだけでなく、スピーカー作りにも没頭。岡田氏も、そんな渡辺氏が作るケーブルのファンだった。
そんな2人は、市販のケーブルを買うだけでは飽き足らず、毎晩、自分たちが理想とするオーディオケーブルの自作研究会を開くように。市販で買える部品を試し尽くし、新たな素材も探求。それらによって音がどのように変化するかという膨大なノウハウを蓄積する。その研究成果を世に問うため、2015年に設立したのがBrise Audioだ。
初めは据え置きオーディオ向けのケーブルを作っていたが、知名度の無い新ブランドのケーブルがいきなり売れるわけもない。そこで2人は、良いものであれば新ブランドにも関心を持つ好奇心旺盛なユーザーが多い、ポータブルオーディオ市場に挑戦。そこから、人気ケーブルブランドへと成長していった。
Brise Audioのケーブルはこうやって作られている
Brise Audioにお邪魔すると、まさに渡辺氏がケーブルを手作りしていた。
工房で印象的なのは、無数の小さな収納棚が設置されている事。その中には、様々なシート状の素材や、プラグのパーツなどが大量に入っている。また、大きなリールも設置されており、そこに、Brise Audioが独自に作ったケーブルの線材や被覆などがストックされている。
プラグの種類も大量だ。例えば、プレーヤー側の4.4mm、2.5mm、4極 3.5mm、3極 3.5mmは当然として、イヤフォン側は8種類以上、ヘッドフォン用は20種類以上もあり、例えばAustrian Audioのヘッドフォン「The Composer」接続用など、マニアックなプラグもカバーしている。
組み合わせが何通りになるかを考えただけでクラクラしてくるが、「あの機器とこのヘッドフォンを接続したい」というユーザー個別のニーズに、可能な限り対応するオーダーメイドブランドの矜持を感じる。
これらを組み合わせてケーブルが作られるのだが、素材やプラグ1つ1つの希少性も凄い。
例えば、プラグの根本などに巻き付ける黒いシート状の素材は、炭素を管状にしたカーボンナノチューブ(CNT)を、シート状にしたもの。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)に協力を依頼し、CNTが高い電磁波遮蔽能力を持つ事を確認。その上で、高度な印刷技術を持つ工場に協力を依頼し、CNTを印刷方式でシート状にした。定着させる事や均一に印刷するのが困難で、何度も試行錯誤したそうだ。
素材はこれだけでなく、極薄の金属を何層も重ねたシートなど、シールド材や制振剤などは10数種類用意されている。これらを、作成するケーブルによって使い分けている。
プラグも普通のものではない。形状としては、3.5mmや4.4mm Pentaconnプラグなど、見慣れたものだが、素材が違う。一般的なプラグは金属と樹脂を組み合わせているが、ここにあるプラグは全てOFCや特殊銅合金などを使った特注の、Brise Audioオリジナルのプラグだ。
形状も市販品とは異なり、高音質化素材を巻き付けたケーブルを通しやすいようにサイズに余裕を持たせていたり、組み立てやすい構造になっている。
これらの特注素材やプラグは、原価でも驚くほど高額になってしまうが、Brise Audioのこだわりとしては譲れない部分だという。さらに重要なのは、これらの素材やプラグ、線材を“どのように加工してケーブルにするか”というスキルだ。
渡辺氏の作業を見ていると、CNTシートだけでなく、様々な素材をケーブルに投入していく。作っているケーブルによって、使う素材も異なるようだ。それだけでなく、「どこに、どの素材を、どの順番で重ねていくかも違います」(渡辺氏)。
手際よく作業をしていく渡辺氏だが、加工する際には高度なテクニックも必要で、それも音質にとって重要な要素だという。
作業の途中でイヤフォンを取り付け、正しい加工ができているか、音でもチェックする。まるで伝統工芸品の工房で職人芸を見ているようだ。
こだわりの深さに驚くと同時に、「渡辺氏以外にこの作業はできるのか?」「マニュアル化して他の職人を育成するのは大変なのでは?」という疑問が浮かぶ。
「渡辺が付きっきりで指導しますが、覚えることが多いので、育成には時間がかかりますね」と岡田氏。
「細かくメモをとって、丁寧に作業ができる人であれば大丈夫なのですが、例えば、雑に作業をしてしまって、音が変になってしまった時にも、渡辺が音を聴きながら原因を紐解いていって、“あ、ここが原因だね”と修正する手間がかかってしまいます。素材を巻き付ける時の力のかけ具合1つでも、女性と男性で力の強さが違いますので、伝える難しさはありますね」。
岡田氏は、かつてこの作業を外部の工場に依頼しようと考えた事もあったという。しかし、「色々なところに相談したのですが、こんな細かくて面倒くさい作業は無理ですと、全て断られてしまいました」と苦笑い。
そこで、現在では社内での職人育成に注力。その努力が実り、ハイエンドケーブルの製作を任せられる職人が育ち、生産体制が強化された。納期も従来の約3カ月から、約1カ月程度へと短縮できるようになったという。
欲しい時に、お店から持って帰れるケーブルを作りたい
Brise Audioの生産体制は強化できた。しかし、オーダーを受けてから作るブランドである以上、解決できない問題もある。
「イベントに出展した時や、お店さんから伺ったお客様の声として、“欲しいと思った時に、お店で購入してすぐに持って帰れない”という不満の声をいただく事が多かったのです」(岡田氏)。
オーダーを受けて、1本1本手作りするBrise Audioのこだわり。それが支持されて人気ブランドに成長したが、このスタイルでは、“手軽にお店で買えるケーブル”は作れない。それを実現するためには、事前に特定の種類のケーブルをある程度の数量産して、お店に在庫として置いてもらう必要があるからだ。
量産ケーブルを作り、もっと気軽にBrise Audioのケーブルを使ってもらいたい。しかし、Brise Audioの体制で量産の作り置きはできない。工場に依頼すれば、量産ケーブルはできるが、Brise Audioのクオリティは実現できない……。
この問題が解決できず、「クオリティを落としてまで量産ケーブルをやりたいかというと、そうではない……という状況が続いていました」(岡田氏)という。
転機となったのは、くみたてLabや東京音響でイヤフォン作りをしていた、アコースティックエンジニアの佐々木瞭氏が入社した事だ。佐々木氏は、Brise Audioのこだわりを反映させつつ、量産に適したパーツを設計するスキルや、クオリティを維持できるように工場に発注するノウハウを持っていた。さらに、MIKAGEの量産に応えてくれる工場も見つかった事で、Brise Works「MIKAGE」実現への道が開いた。
「Brise WorksのMIKAGEで使っている線材は、Brise Audioで使っているものと同等のクオリティです。導体の素材や、太さ、配置などの構造も、我々が今まで蓄積してきた知見を活かして指定し、工場で作っていただいています。被覆も最近のSHIROGANEやAKAGANEで使っているものと同様で、色違いにしたものです」(佐々木氏)。
プラグは、MIKAGE用に3D CADで新たに設計したものだという。「樹脂と金属を組み合わせたプラグなのですが、設計の段階で、高音質化加工のためのCNTシートを入れられるスペースを設けています。このプラグの設計データを工場に送って、工場で作っていただき、CNTの挿入などもしてもらっています。量産品ではありますが、我々が納得できるクオリティのものを実現するため、試行錯誤を繰り返して完成させたプラグです」(佐々木氏)。
もちろん、高音質化のための加工は、Brise Audioのケーブルやプラグよりは少なくなっている。しかし、音質にとって特に重要な加工を厳選してMIKAGEに投入している。「成形だけでなく、結線の仕方にもBrise Audioで培ってきた知見を活かしています」(渡辺氏)。
佐々木氏は、使い勝手や耐久性にもこだわった。「L字の入力プラグをDAPに接続した時に、プラグから伸びるケーブルの位置が、できるだけDAPの筐体から離れないように意識して設計しました。筐体から離れると、ケーブルが上下に動いて力がかかる場面が多くなり、断線にもつながりやすかったり、隙間にケーブルが挟まったりすることもあります。逆に、DAPから近過ぎると、DAPをケースに入れた時にプラグが挿入できなくなります。ケースの厚さを考慮し、できるだけDAPと近くなるように工夫しました」。
MIKAGE手にとってもらいやすいケーブルにするためには、コストを抑える必要もある。コスト低減に大きく効果があったのは、プラグのラインナップをMMCXと2ピンの2つに絞り、入力プラグも4.4mmのバランスのみとした事。
Brise Audioのオーダーメイドであれば、様々なプラグの組み合わせに対応でき、マニアなユーザーの“駆け込み寺”になるが、いつも大量に注文が来るわけでもないプラグをオリジナルで作り、在庫を維持する事は、コスト増につながる。
そこでMIKAGEでは、ニーズの多いMMCXと2ピンと、4.4mm入力に絞った。「3.5mm入力のケーブルも、今のところ予定はしていません。一方で、MMCXのプラグは、ゼンハイザーのイヤフォンにも対応したものを採用しています」(岡田氏)という。
こうした努力で実現した19,800円という価格も、採算という面ではギリギリだ。「イヤフォン用のリケーブルとして19,800円が安いかというと、そうでもないのかもしれませんが、このクオリティのものとしては、かなり価格は抑えられていると思っています。もしMIKAGEをBrise Audioブランドで作っていたら、5万円近くはしてしまうと思います。MIKAGEは試聴用ケーブルを沢山用意して、お店に在庫も置いていただいて、欲しい時にすぐ買える状況を作りたいと思っています。とにかく皆さんに聴いていただきたい、手にとっていただきたい。言わば“名刺代わり”のケーブルと割り切って考えています」(岡田氏)。
今回のMMCX、2ピンケーブルはBrise Worksの第1弾。今後もケーブルをリリースしていく予定で、「ミニミニケーブルなども開発したい」と岡田氏は語る。「Brise Worksのケーブルで、我々の音を体験していただいて、将来的に、さらにステップアップしたいとか、より専用設計のケーブルや、先進的なケーブルが欲しいと思った時に、Brise Audioのケーブルに興味を持っていただけると嬉しいですね」。
Brise Works「MIKAGE」
では、Brise Works「MIKAGE」に交換すると、音はどう変わるのか。名刺代わりのケーブルとして、イヤフォン付属ケーブルから初めてのリケーブルを想定し、10万円以下の人気イヤフォンを幾つかピックアップして、試してみた。
まずはqdcの「SUPERIOR」。イヤフォン側の端子は2ピン。イヤフォン付属ケーブルは3.5mm 3極アンバランスだが、別売で「SUPERIOR Cable 4.4mm」というバランスケーブルが販売されており、筆者は普段このSUPERIOR Cable 4.4mmを使っている。このSUPERIOR Cable 4.4mmを、2ピンのMIKAGEに交換してみた。
NHKドラマ「17才の帝国」の主題歌「声よ」坂東祐大 feat.塩塚モエカ(羊文学)で聴き比べる。
SUPERIORは、10mm径のフルレンジダイナミック型を使っており、ダイナミック型らしい、パワフルで肉厚な中低域が楽しめるイヤフォンだ。バランスとしては低域寄りだが、高域のクリアさもある程度確保されており、音楽を元気よく、楽しく聴かせてくれる。一方で、曲によっては、低域の締まりがもう少し欲しいとか、中高域のクリアさをアップさせたいと感じる時もある。
だが、MIKAGEに交換に交換すると、そんな不満が一気に解消される。
まず驚くのは、低域がどうとか、高域がどうとかいうレベルではなく、音が広がる空間が一気に拡大する。そのおかげで、狭い空間に音が押し込まれていた感覚も無くなる。
パワフルな低音は健在どころか、MIKAGEに交換するとより深く沈み込むようになる。純正ケーブルでは、ベースの低音と自分の距離が近く、低音ばかりが目立っていたのだが、MIKAGEでは広い空間に低音がズーンと広がるため、圧迫感が薄れ、結果的に低域の過剰感が無くなり、全体のバランスが良くなる。パワフルな低音に隠れていた、ピアノの響きが空間の奥まで広がっていく様子など、細かな音にも気がつくようになる。
中高域もよりクリアになり、歌声も聴き取りやすい。「なんでケーブルを変えただけで、こんなに変わるんだ?」と驚くほかない。
最近気に入ってる、finalの「S3000」も聴いてみた。このイヤフォンはBA(バランスドアーマチュア)シングルのシンプルな構成だが、BAドライバーを接着剤で固定せず、ネジ止めやOring、パッキンを使い、高精度に組み立てているのが特徴だ。イヤフォン側端子は2ピン。なお、S3000の付属ケーブルは3.5mmアンバランスなので、MIKAGEに交換すると、アンバランス→バランスの違いも含まれる。
S3000が気に入っているのは、BAならではの高解像度でメリハリのあるサウンドと、シングルBAらしいナチュラルさが同居しているところだ。全体としてはモニターライクなサウンドで、低域の沈み込みはそこまで深くないものの、中低域の押し出しは強いため、薄味ではなく、グッと胸に迫る美味しいサウンドでもある。
これをMIKAGEに変えると、再生した瞬間に「あれ?ボリューム上げたっけ?」と、思わずDAPを確認してしまう。それほど、1つ1つの音が出てくる勢いが増し、力強さやクリアさが数段レベルアップする。
凄いのは、押し出しの鋭い音になったにも関わらず、音像の背後に広がる空間も拡大する事。ピアノの響きは奥まで広がり、冒頭のベースが地面を突き破ったように、より深く沈む。シングルBAの弱点であるレンジ感の狭さが解消され、音場の上下がグッと拡大したように聴こえる。
バランス接続になったことで、音場の立体感が増した事もあると思うが、それだけでは説明できない激変ぶり。付属ケーブルでの満足度を100とすると、MIKAGEは170くらいになる印象。29,800円のS3000に、19,800円のケーブルを組み合わせるのは勇気がいるかもしれないが、それでもS3000ユーザーは絶対MIKAGEに変えてみて欲しい。もっとS3000が好きになるはずだ。
MMCXイヤフォンも試してみよう。MIKAGEのMMCXケーブルは、ゼンハイザーにも対応しているので「IE 600」の付属4.4mmケーブルと聴き比べてみた。
IE 600付属ケーブルでは、全体の音のバランスは良好なのだが、音場はそこまで広くない。低域もタイト寄りで、どちらかと言えば中高域の解像度の高さが持ち味のイヤフォンだ。
これをMIKAGEに変えると、笑ってしまうほど音が変わる。まず、鮮度感、ダイレクト感アップし、低域はより肉厚になり、レンジも下にグンと伸びる。パワフルな音になるので、またボリュームが上がったように錯覚する。
また、声の音色に注目すると、付属ケーブルではちょっと響きが硬質だったのだが、MIKAGEに変えると、色付けが少なく、ナチュラルな響きになる。生々しさがアップするので、MIKAGEの音の方が好印象だ。
Maestraudioの「MAPro1000」は、実売で1万円を切るお店もあるイヤフォンなのだが、価格を超えたサウンドを聴かせるハイコスパ機だ。もはやMIKAGEの方が高価になってしまうが、MMCXプラグなのでMIKAGEに交換してみると、これも効果が凄い。
音場が一気に拡大し、ボーカルの音像に立体感が増し、音像の輪郭自体もハッキリする。広大な空間に音楽がゆったりと広がり、そこに身をまかせる気持ちよさを味わいつつ、高解像度で細かな音も聴き取れる。こんな音を出せる実力を秘めていたのかと、あらためてMAPro1000を見直した。
最後に、10万円以下ではなくなるのだが、qdc「WHITE TIGER」(198,000円)でも聴いてみた。このイヤフォンは、3in1マルチプラグを採用し、3.5mm/4.4mm/2.5mmが切り替えできるので、リケーブルの必要性を感じる人は少ないかもしれない。だが、MIKAGEに交換すると、冒頭のピアノの響きから、ボーカルまで、音のダイレクト感が増し、より鮮烈な音になる。
低音も締まり、トランジェントが良くなったように聴こえる。沈み込みも深く、ベースの「ズン、ズン」という低音が重く、まるで誰かに胸をドン、ドンと叩かれているようなパワフルさがある。MIKAGEの実力の高さと共に、接点が増えるマルチプラグでなくなった効果も含まれているだろう。
Brise AudioとBrise Works。2ブランド体制が切り開く未来
筆者はBrise Audioのケーブルに対して「イヤフォンやヘッドフォンであっても、据え置きのピュアオーディオのような音になるケーブル」という印象を持っている。音場の拡大や、レンジの拡大、特に低域が深くなるためで、目を閉じると、大きなフロア型スピーカーを聴いているような感覚になるためだ。
Brise WorksのMIKAGEを色々なイヤフォンで聴いてみたが、明らかにBrise Audioのケーブルの特徴が、MIKAGEからも感じられる。価格を抑えた量産モデルであっても、“名刺代わり”というのが頷ける見事な完成度だ。
また、どのイヤフォンで使った時でも「マイナスの変化が感じられない」というのも特徴だ。例えば、「低域は深くなったけど、解像度が落ちてモコモコした音になった」とか、「解像感は上がったけど、キツイ音になった」みたいなことがない。イヤフォン純正の音の傾向から逸脱せず、正常進化させたようなクオリティアップが期待できる。
渡辺氏も「開発時に、幅広いイヤフォンで試聴しましたが、量産ケーブルとして、どのようなイヤフォンと接続しても大丈夫なように、あえてピーキーな作りにはしていません」と頷く。
Brise WorksのMIKAGEは、手に取りやすく、そして使いやすいケーブルと言える。そして、それは同時に、Brise Audioとの差別化にもなっている。
「Brise Audioは、お客様が使われるヘッドフォン/イヤフォンに合わせて、線材、プラグ、高音質化加工、音作りも含め、オーダーメイドのケーブルを実現したいと思って立ち上げたブランドです。Brise Worksを立ち上げた事で、Brise Audioは今後、より専門性を高めて音質を追求していくブランドにしていこうと思っています」(岡田氏)。
気軽に手に取れるBrise Works、ユーザーごとに最適かつ究極のケーブルを実現できるBrise Audio。2ブランド体制になる事で、幅広いユーザーにリーチしつつ、Brise Audioは新たなケーブル開発や、ポータブルアンプ、FUGAKUなどの製品開発を加速させる。飛躍のための、重要な挑戦になりそうだ。