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ハイエンドケーブルはなぜ高価なのか? “理想の音”へサポートするBrise Audioの挑戦

オーディオ趣味の醍醐味といえば、数あるイヤフォンやスピーカー、アンプから好みのものを購入し、音楽を楽しむこと。さらに、機器同士を接続するケーブルにまでこだわり、“自分の理想とするサウンド”により近づけていくのも、オーディオの楽しみの1つだ。

一方で、「ケーブルを変えただけで音が変わるの?」、「変わるのは知っているけど、どのくらい変わるのかわからない」という人も多い。特に、短いのに何十万円もするような高価なケーブルについては、ぶっちゃけ「ボッタクリじゃないの?」と感じている人もいるだろう。

そこで、数万円のモデルから、数十万円を超えるケーブルまで手掛けるハイエンドケーブルブランド・Brise Audio(ブリスオーディオ)に突撃。“中の人”がどんな人達で、どのようにケーブルを作り、そしてユーザーはどのように楽しんでいるのか?

取材から見えて来たのは、“お金持ちの趣味”というイメージとはちょっと違う、とにかくオーディオを愛する人達の努力と奮闘、そして、高価なケーブルをリーズナブルな価格でグレードアップしていけるビジネスモデルだ。いつも脇役になりがちなケーブルを、今日は主役として見ていこう。

実は日本のメーカーです

AV Watch読者なら、Brise Audioのニュースや、ケーブルの写真を一度は見た事があるだろう。当たり前ではあるのだが、製品写真は非常に綺麗で、高級感ががある。Webサイトも黒を基調としたカッコいいデザインで、「ドイツとかアメリカのメーカーかな?」と思ってしまうが、取材でたどり着いた先は、群馬県・高崎の近く、最寄り駅からタクシーで約10分、田んぼが目立つのどかな風景だ。

出迎えてくれたのは渡辺慶一社長と、取締役でありブランドオーナーでもある岡田直樹氏。さっそく製品カタログをもらったので「製品写真、スゴイ綺麗ですよね」と言ったところ、「これ、撮影しているの僕なんです。ホームページも僕が頑張って作っています」と苦笑いする岡田氏。高級ブランドだからと身構えていたが、良い意味で肩の力が抜けてしまった。

Brise Audioの試聴室
岡田直樹取締役

そんな岡田氏とオーディオの出会いは学生時代。「かつて秋葉原にあったヤマギワのハイエンド・オーディオコーナーで、偶然B&Wのノーチラス801を聴きまして、“こんな世界があるのか!”とビックリしたんです。当然新品を買えるお金はなかったのですが、お金を貯めながらヤフオクを見ていたところ、802が出品されていて、当時は801と802の違いもわからず、同じスピーカーだと思って802を買ったんです。もちろん、アンプを買うお金は無くて、オーディオの知識も無かったので、シャープのミニコンポのアンプで鳴らしていました」と笑う。

当然、ミニコンポのアンプでノーチラスは思うように鳴ってくれない。そこで岡田氏はネットを活用、ヤフーチャットにあった“オーディオ部屋”に入り、中にいたオーディオマニア達に助言を求める。偶然ではあるが、そのチャットルームには後にオーディオ業界で活躍する“濃い”メンバーが集まっており、彼らとの交流により、ディープなオーディオ世界に足を踏み入れる事になる。そして、そのチャットルームにいた1人が、他ならぬ渡辺氏だ。

渡辺慶一社長

渡辺氏とオーディオの出会いも面白い。小学生の頃、吹奏楽部に所属していた渡辺氏は、演奏を録音する録音機をキッカケでオーディオ機器に興味を持つ。親戚の叔父さんがオーディオマニアだった事も手伝い、その家に入り浸るように……。学校では放送機材にトラブルがあると、先生から「お前、詳しいのだからなんとかしてくれ」と修理を頼まれる事もあったそうだ。

その後、MP3の登場をキッカケに、デジタル出力可能なPCIカードを個人輸入して使うなど、パソコンにも興味が出た渡辺氏は、秋葉原のPCショップで働くようになる。当時のパソコン用のオーディオインターフェースボードは、Mac用で100万円もするような高価なものだった。そうしたボードの多くは専用端子を採用しており、1つの端子から何本ものオーディオケーブルが“生えて”いる、タコ足のようなケーブルが使われていた。

「さすがにこのケーブルはどうなんだろう?」と思った渡辺氏は、自分でそのインターフェースケーブルを自作してみる。すると、純正ケーブルと音がまるで違う。この体験をキッカケに、渡辺氏は様々なケーブルを作るようになり、やがて、お店のお客さんからケーブル制作を依頼されるようになる。

その後、電子機器やオーディオ機器を販売している六本木工学研究所に入社。パソコンを使ってスピーカーの性能測定をするようになり、そこでもオーディオインターフェースと自作ケーブルが活躍。スピーカーユニットの開発にも携わり、スピーカーも何百台と組み上げたという。「スピーカーの内部配線を変えると、製品バランスが崩れるくらい音が激変する経験もしました。“生半可なものを使うと良くないな”と、スピーカーメーカーさんが、コストを抑えながらも、音の良い内部配線を特注する理由がよくわかりました」。

一方で岡田氏は、大学時代からインターネットの可能性に着目。自らシルバーアクセサリーの通販事業をスタートさせ、見事に軌道に乗せる。資金に余裕も出たので、オーディオ趣味も加速。高級スピーカーのAvalonをローンで購入したり、ケーブル交換による音のグレードアップにもハマり、KIMBER SELECTやNORDOST、エソテリックの電源ケーブル、STEALTH Audio Cables、NBSの「BLACK LABEL」など、「総額1,000万円はケーブルに使いました」という。

そんな岡田氏なので、親交のあった渡辺氏が作っていたケーブルを聴かないわけがない。使ってみたところ、「とにかくSNの良さ、抜けの良さ、情報量の多さにノックアウトされました」という。渡辺氏のケーブルの虜になった岡田氏は、当時使っていたハイエンドメーカー製ケーブルの全てを、渡辺氏のケーブルに置き換えたそうだ。

Avalon Acousticsのスピーカー

渡辺氏のケーブルは、岡田氏が理想の音に近かった。しかし、「もっと、こうして欲しいという部分もありました」(岡田氏)。そこで、2人は共同でケーブルの改善に着手。「いろいろなメーカーの部品を買ってきまして、このコネクタはどうだろう、この素材はどんな音になるのだろう、ここをもうちょっとこうしたら……と、毎晩のように研究会みたいな事をしていました」(渡辺氏)。

熱中すると、とことん突き詰める2人「市販で買える部品はだいたい全部買ってしまい、これ以上集めるには“仕入れ”みたいな量を買わないといけない状態まで揃えていましたね(笑)」(渡辺氏)。

その結果、どんな素材を、どの部分に、どのように使うと、音がどう変化するのか、という膨大なノウハウが蓄積された。すると当然、“自分達が理想とするケーブル”の音を、世に問うてみたくなる。

オーディオ輸入商社の立ち上げを手伝った経験から、オーディオ業界に最適化した物流を学んだ岡田氏は、「自分のケーブルメーカーを立ち上げる」という夢に挑む事を決意。渡辺氏に「一緒にやってほしい」と声をかける。岡田氏の夢の実現に、渡辺氏は欠かせない。逆に、渡辺氏が来てくれなければメーカーを立ち上げられない。岡田氏は、渡辺氏に「来てくれるなら社屋をすぐ用意する!」と勧誘。渡辺氏は「今思い出しても、スゴイ誘われ方をしたものです」と笑う。

かくして群馬の地に、Brise Audioが誕生した。

ポータブルオーディオ市場参入をキッカケに知名度UP

2015年に設立されたBrise Audio。だが、いきなりケーブルがガンガン売れるほど世の中は甘くはない。どんなに音に自信があっても、お店に並び、お客さんに聴いてもらわなければ売れるわけがない。だが、実績が無い新興ブランドの製品は、お店に置いてもらうだけでもハードルが高い。

当初はホームオーディオ用のケーブルで事業をスタートしたが、思うように音を聴いてもらえない日々が続く。そこで注目したのが、良いものであれば新しいブランドでも積極的に関心を持ってくれる好奇心旺盛なお客さんが多く、お店も新興ブランドの製品を積極的に置いてくれ、展示会やイベントも頻繁に開催されていたポータブルオーディオ市場だった。

Brise Audioの試聴室。ホームオーディオ用ケーブルも手掛けているため、ハイエンド機器が並ぶ
もちろん使われているのはBrise Audioのケーブルだ

結論から言えば、ポータブルオーディオへの参入は、Brise Audioにとって大正解だった。イヤフォンのリケーブルを体験した人ならわかると思うが、耳に挿入するだけで、どこでも比較試聴ができ、細かな音までダイレクトに耳に届くポータブルオーディオは“ケーブルによる音の違い”を体験しやすい。

若いユーザーが多く、良いものであれば新興メーカーでも認めてくれる気風や、参入したのがポータブルオーディオ市場が拡大する時期であった事も功を奏した。

また、高価なケーブルも、ポータブルであればリーズナブルに体験できるのも大きかった。例えば、ホームオーディオ用に開発した1ペア100万円のラインケーブルは、使用素材が非常に高価であるため、長さに比例して値段が大きく変わる。つまり、1mのペアでは100万円だが、10cmであれば5万円で販売できる。10cmのラインケーブルは、DAPとポータブルアンプを接続する“ポタアン用ケーブル”として最適な長さだ。

5万円のケーブルも十分高価だが、100万円と比べれば現実的な価格だ。かくしてこのポタアン用ミニ-ミニケーブルは音の良さで評判となり、大ヒット。「そこで得られたお金を、全部新製品開発にまわして……というのを2、3年繰り返して、おかげさまで今のBrise Audioがあるという感じですね」(岡田氏)。

ポータブルオーディオの“端子の多さ問題”も、Brise Audioと相性が良かった。ホームオーディオケーブルの端子は、RCAか、XLRか、スピーカーケーブルかという程度だが、ポータブルは4.4mmだ、2.5mmだ、MMCXだ、2ピンだ、メーカー独自端子だと、無数にある。ユーザーにとって悩みの種だが、ケーブルメーカーにとっても無数の組み合わせを作らねばならず、たまったものではない。

だが、Brise Audioはもともと“お客さんからのオーダー”でケーブルを作っていた渡辺氏が手掛けるブランド。そのケーブルを愛用していた岡田氏が、「かつての自分がそうだったように、オーディオファンの要望や悩みを解決する、ハイエンドケーブルのコンシェルジュサービスを事業化したい」という想いで設立された。多用なニーズに応えるのは、むしろウェルカムというブランドだ。

ラインナップとして、多様な端子バリエーションを用意するだけでなく、Brise Audioは“コンシェルジュ”的なオーダーも受け付けている。「例えば、このプレーヤーと、このアンプを持っていて、好みはこんな音で、予算はこのくらいで作って欲しい……といったオーダーに応えるのも、我々が得意とするところです」(岡田氏)。

そんなBrise Audioの、音作りのポリシーは明確。“ソースの情報量を、余すこと無く出すこと”だ。「ホームオーディオ用もポータブル用も、ポリシーは同じです。ポータブル用ケーブルでも、“スピーカーから出ているような音”を目指しています。まず、全ての情報を出す。そのあとで何かの調整をする事はあります。例えば高域特化型モデルにしたり、ゼンハイザーのIE 900向けなど、特定のイヤフォンにマッチした音にしたりもしますが、そうした場合でも、最初の情報量が多くないと、後で何をしてもダメなのです」(渡辺氏)。

「こうしたサウンドポリシーを貫いているのは、『自分が欲しいと思ったものを、皆にも聴いてもらいたい』という気持ちからです。“売れるから作る”のではなく“作りたいものを作る”。不安もありました。でも、その姿勢を貫いた結果、“意外と賛同していただける方は多いんだな”と実感しています」(岡田氏)。

試聴室でBrise Audioのケーブルを聴いてみると、ヘッドフォン+ヘッドフォンアンプのサウンドが、フロア型スピーカー+アンプの“音の出方”とまるで同じである事に驚く。広大な空間が広がり、ストレートに音が届いてくる。“ポータブルオーディオを聴いている”という感覚が無くなるサウンドだ

ハイエンドケーブルはなぜ高価なのか?

前述の通り、数万円のポータブルオーディオ用ケーブルから、上は1mでペア100万円を超えるケーブルまでラインナップしているBrise Audio。「同じケーブルなのになぜそんな値段が違うのか?」、「そもそも、なぜケーブルが100万円もするのか?」という疑問もある。

2人に理由を聞いてみると、「その疑問はもっともだと思います」と頷く。その上で、1枚の黒いシートを見せてくれた。

Brise Audioの強みは「どんな素材を、どの部分に、どのように使うと、音がどのように変化するのか」という膨大なノウハウにある。具体的には、シールド材や制振剤として、10数種類の素材を用意。その他にも、多数のカスタマイズプラグ、オリジナルプラグを用意。線材とこれらの素材、プラグを組み合わせてケーブルを作っていく。この黒いシートもその素材の1つだ。

黒いシートの正体は、炭素を管状にしたカーボンナノチューブ(CNT)という物質を、印刷方式でシート状にしたもの。CNTは電磁波遮蔽能力が高いというニュースを目にした岡田氏が、ケーブル作りの素材として使いたいと、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)に協力を依頼した。

実際に電波を遮断する実験を経て、採用を決定。シート状にするために、高い印刷技術を持つ工場にも協力を依頼。しかし、試作したシートは、CNTの定着が悪く、すぐ剥がれてしまったり、CNTを均一に印刷するのも困難。何度も試作を繰り返し、試行錯誤しながら完成させた。

結果として、理想的なCNTシートは完成したが、コストは嵩み、なんとこのシート1枚で約20万円になってしまったという。このシートを使って製品も作られたが、あまりに高価なため、現在は音質性能をさらに上げつつ、量産性に優れたものを開発。だが、それでも最小ロットで200万円する材料だという。

CNTシートは、プラグの根本などに使われる
実際にCNTシートを巻きつけているところ

苦労はコストだけではない。同じように電磁波の遮蔽に使っている別の素材は、一見すると白い紙だが、実際は極薄の金属を重ねた7層構造。特許技術が使われたもので、なんと、作れる技術者は既に亡くなっているという。市場在庫のみという希少素材だが、Brise Audioのケーブルには欠かせないものであるため、八方手を尽くしてなんとか量を確保。この素材も1m2あたり4万円ほどするそうだ。

電磁波の遮蔽に使っている別の素材。紙に見えるが、実は金属だ

プラグも素材にこだわると高価になる。例えば、お馴染み日本ディックス製の4.4mm Pentaconnプラグも、既存のプラグに満足できず、Brise Audioは全てOFCを使った、オリジナル仕様のプラグを特注している。このプラグだけで、開発費・部品調達費含めて1,000万円近くの投資だ。最終的にプラグ1つで“数千円は当たり前”という世界だ。

膨大な種類のカスタムプラグ、オリジナルプラグがある

また、“プラグと素材を集めれば誰でもケーブルが作れる”わけではない。効果のある素材だからと大量に使うと、音はまったく違うものになってしまう。適切な部分に、適切な量で使わなければ、狙ったサウンドにならない。まさに職人技だが、加工が増えると当然、作業時間も長くなる。

「例えば、同じ線材を使っているのに7万円するモデルと、20万円のモデルがあります。イベントでも、お客様に全部話しているのですが、線材が同じでも、巻きつける素材や使うプラグで音がまったく変わります。皆さん“3倍も値段が違うの?”と驚かれるのですが、試聴した後は“やっぱりぜんぜん違うね”と、上のモデルを選ばれる方がほとんどです。素材のコストが違うだけでなく、加工も大幅に増えるので実際に作る時間も3倍以上かかります」(渡辺氏)。

「オリジナル端子も沢山作りました。プラグだけでも3グレードほど、例えば2ピン端子でも、ピンをロジウムメッキ仕上げにしたり、樹脂の部分に違うものを使ったりと、4~5種類作りました。オリジナル端子はコストがかかります。ただ、良いものであれば、それが高価であっても採用すると決めています。変なところで妥協して、お客様にガッカリされてもつまらないですからね。確かに、弊社のケーブルは高額ではありますが、それ以上に開発費用と原価を十分かけて妥協のないものを送り出すことを心がけています」(岡田氏)。

ケーブルを2本買ったと同じように新製品を楽しめる!?

“ケーブルで音が変化する”といっても、実際に自分の耳で体験しないと良し悪しはわからない。高価なケーブルならなおさらだ。しかし、現実的には、馴染みのオーディオショップでもない限り、気軽に製品を借りるのは難しい。

オーディオマニア出身のBrise Audioは、そんなユーザーの気持ちを踏まえ、ラインナップする全ケーブルの貸し出し試聴を受け付けている。とはいえ、「借りたら買わなきゃいけないのでは?」と思ってしまうが、岡田氏は「いえ、買わなくてもいいのでとにかく聴いて! という気持ちです」と笑う。実際にコロナ禍でオーディオイベントが少ない事もあり、「多くの貸し出し依頼があり、常に全てのケーブルがお客様のところに貸し出されているような状態が続いています」とのこと。

気に入って購入する場合も、高価なものであれば“長く使いたい”と考えるのがユーザー心。それを踏まえてBrise Audioでは、“ケーブルを使い捨てにしない”事も徹底し、各ケーブルに1年間からの保証期間を設けている。

特にポータブルオーディオ用ケーブルは、外で使うため、汗が浸透してボロボロになったり、断線したりと、トラブルはつきもの。しかし、「よほどだめになっていない限り、キッチリ修理します」と渡辺氏は胸を張る。保証サービスは、製品の進化にも直結する。故障がなぜ起きたのかを知れば、次の製品で改良できるからだ。その好サイクルにより、「最近は修理依頼も凄く少なくなりました」(岡田氏)とのこと。

なお、保証期間中に、例えばケーブルを友人に譲った場合でも、レシートをBrise Audioが確認できれば、譲り受けた人が保証を継続できるそうだ。

さらに、ハイエンドの「Ultimate」グレードは2年の保証があり、全ケーブルをシリアル番号で個体管理。それを記載したIDカードも付属する。使用する素材に変更があり、バージョンが変わったとしても、そのケーブルがどのバージョンで、何の素材を使って作られているのか、シリアル番号を見ればわかるわけだ。

音質のみを追求した最高音質モデルのイヤフォン向け交換用ケーブル「YATONO 8wire-Ultimate」
製品IDカード

また、Ultimateは「良いものがあれば進化していく」グレードと位置づけられているため、2年に一度、無料で新製品にアップグレードできる。つまり、新製品が登場して、手持ちのケーブルが旧モデルになっても、その古いケーブルを新製品に無料でリフレッシュしてくれるわけだ。1本のケーブル代金で、2本分の音の違いが楽しめるというのは面白いシステムだ。このリフレッシュプランは、“ユーザーが購入したケーブルの価値が、できるだけ下がらないようにする工夫”だ。

前述のように“コンシェルジュサービス”として、特注にも対応しているため、例えば「アンバランス接続のケーブルを使っていたが、バランス接続のアンプを買ったので、端子だけ付け替えて欲しい」といったオーダーも可能。これも、気に入ったケーブルを、永く愛用してもらおうという狙いだ。

これらの取り組みは、中古市場にケーブルが流れる事を防ぎ、結果的に、ユーザーが持つケーブルの“価値”を維持する事に繋がる。そのため、例えば直販サイトで現行品のセールはせず、さらに、リフレッシュプランとして旧製品を特別価格で交換、もしくは下取りするといった施策も実験的に行なっている。

「最初に購入する時は高価だが、それを下取りに出して差額で新しいケーブルを買っていく」という“買い方”や、自分が理想とするサウンドや、端子の組み合わせを“特注する”といった行為は、岡田氏が、1人のオーディオマニアとして実践してきたものだ。その便利さ、楽しさを、多くの人に体験して欲しいという想いが、Brise Audioのサービスに活かされている。

アンプからイヤフォンまで!? 広がるBrise Audioの世界

ここまでは“ケーブルメーカーとしてのBrise Audio”だが、話はここで終わりではない。Brise Audioはなんと、ポータブルアンプ「TSURANAGI」(実売297,000円)を開発。ケーブルメーカーから、オーディオ機器メーカーへと、発展しようとしている。

ポータブルアンプ「TSURANAGI」

ポタアン開発のキッカケは、「バランス出力を持ったDAPや、ヘッドフォン・イヤフォンのバランス駆動の広がりを受けまして、それに対応したケーブルを作る上でも、しっかりとしたバランス駆動のポータブルアンプが欲しかったのですが、あまり市場に無かったので、自分達で作りました(笑)」(渡辺氏)。

アンプ作りでも徹底してこだわり、高音質電子ボリュームICの「MUSES72320」を搭載したり、6層基板を採用したり、低ノイズな差動ラインレシーバによる高い入力インピーダンスや、高いコモンモードノイズ除去性能をもたせるなど「ガチに作りました」(岡田氏)という。その結果、海外も含めて予想以上の受注があり、第2ロットまでが完売。その後、12月17日から日本での店頭予約を開始、2022年2月初旬から第3ロットを出荷する予定だという。

TSURANAGIの出荷前テストをするため、新規で基板を製作するなど品質チェックも徹底している
Astell&KernのSP1000とTSURANAGIを接続しているところ。よく見ると、2.5mmと3.5mm出力を両方使っている。これはAK側をライン出力モードに設定し、2.5mmと3.5mm出力を両方使ってバランス出力をし、Brise Audioの変換ケーブルで4.4mmのバランスにまとめ、TSURANAGIに入力している

イベントでは、自社のケーブルの実力を存分に体験してもらうために、自作した据え置きヘッドフォンアンプも用意。ポータブルだけでなく、据え置きのオーディオ機器開発にも夢は膨らむ。

イベントなどでケーブルの試聴デモに使われるBrise Audio製のヘッドフォンアンプ

さらに、他社でイヤフォンを手掛けていたエンジニアがBrise Audioに入社。岡田氏は「まだ構想段階」としつつも、「アンプからイヤフォンまで、我々の理想を追求したら、どれくらい良い音になるのか、というのは挑戦したいと思っています」と語る。

毎晩“オーディオ研究会”でパーツやケーブルと格闘していた2人の夢が、今花開こうとしている。