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“平面磁界型の価格破壊者”FIIO、約2万円「JT7」など注目ヘッドフォン4機種を聴いた
- 提供:
- エミライ
2026年3月6日 08:00
音楽をひとりでゆっくり、じっくり楽しめるヘッドフォン。市場には星の数ほど製品が存在するが、最近特に注目を集めているのが「平面磁界型ドライバー」を採用したモデル。以前は高価格帯のモデルに投入されていたドライバーだが、徐々に低価格化も進み、手の届きやすい価格帯にも、平面磁界型ヘッドフォンが登場し始めたのだ。
一昔前は高嶺の花だった平面磁界型ヘッドフォンを、フラッグシップモデルでは実売約125,400円、エントリーモデルでは実売約19,800円という破格で展開しているのが、コストパフォーマンスの高いヘッドフォンアンプやDAP(デジタルオーディオプレーヤー)などを数多く送り出してきたFIIO。
2023年発売の「FT3」を皮切りに、FIIOはヘッドフォンの本格展開を加速させている。ヘッドフォンメーカーとしては新鋭だが、DAPやアンプでお馴染みの“高音質・高コスパ”のDNAをヘッドフォンでも継承。
例えば、FT3は60mm径の大型ドライバーにN52グレードのネオジム磁石、アルミニウム合金ハウジングなど、高価なパーツを投入しながら4万円台で登場。2024年登場のエントリー「JT1」では、アルミ箔複合ポリマーの50mm径ドライバーとN52マグネットを使いながら、実売約1.3万円という衝撃的な価格を実現。ヘッドフォンの中身に詳しいユーザーから、“FIIOはヘッドフォンでもコスパがヤバい”と注目されている。
そんなFIIOは、2023年に同社初の平面磁界型ヘッドフォン「FT5」を約79,200円で投入すると、2025年7月にフラッグシップモデル「FT7」、12月にエントリーモデル「JT7」を相次いで投入してきた。
「安いってことは、音もそれなりなんでしょ?」と思われるかもしれないが、そこはFIIOらしく抜かりはない。今回は「FT7」と「JT7」を中心に、“ハイコスパ”なFIIOヘッドフォンをまとめて聴いてみた。
そもそも平面磁界型ドライバーって?
製品を紹介する前に、まずは平面磁界型ドライバーについて簡単に紹介しよう。より詳しく知りたい人は、過去にAV Watchで掲載した「ドライバーのキホン」連載もチェックしてみて欲しい。
平面磁界型ドライバーは、髪の毛よりも薄く、そして全体が平面な振動板に、コイルを模様のようにプリント。それを磁気回路でサンドイッチして振動させることで音を生み出す、というのが基本的な仕組み。
これに対し、ヘッドフォンで一般的なダイナミック型ドライバーは、円形の振動板があり、その裏側中心部分にボイスコイルと磁気回路がある。この磁力の反発によりボイスコイルが振幅。それに連動する形で振動板が動いて音を出している。
ダイナミック型では、振動板の中心から全体に力が伝わっていくため、素材の影響によって、振動板の一部分だけ挙動が変わる「分割振動」が起きることがある。分割振動が起きると、音に歪みが出てしまうため、各メーカーは分割振動を抑制するために、さまざまな素材・技術を駆使している。
一方で、平面磁界型は振動板全体に均一に力が働くという構造上、この分割振動が発生しにくく、音が歪みにくい。また振動板自体が薄いため、音の立ち上がり・減衰が速く、歯切れのよい(=トランジェントの高い)音を楽しめるのも特徴だ。
ただ、振動板をマグネットでサンドイッチするという構造上、あまり振幅を大きくしすぎると、マグネットに振動板がぶつかってしまうため、振幅を大きくしにくい。
そのため能率が低く“鳴らしにくい”ものが多かったり、音圧を確保するために、振動板自体が大きくなる=ヘッドフォン自体が大きくなるという側面も持ち合わせている。髪の毛より薄い振動板を製造するコスト、ダイナミック型よりも必要なマグネット数が増えることによる原料コスト増加など、価格面でどうしても高価担ってしまう点もデメリットと言えるだろう。
厚さ1μm振動板にカーボンボディ「FT7」
FIIOは、そんな平面磁界型ヘッドフォン市場に2023年に「FT5」を投入して初参入。そして「他社では真似できない、究極を追求した製品を作る」という考えから生み出されたのが、フラッグシップモデルの「FT7」だ。
最大の特長はFT5で採用していた6μmよりもさらに薄い、厚さ1μmの振動板を新たに開発・搭載したこと。人の髪の毛の太さが約100μmなので、その1/100の薄さの振動板を作り上げた。
超極薄にすることで軽量化も実現。振動板の応答性も高まるため、超高域の緻密な音まで忠実に再現し、高いダイナミックレンジを実現している。ドライバーサイズは106mm。
筐体には、カーボンファイバーや軽量マグネシウム・アルミニウム合金を盛り込むなど、高級素材を惜しむことなく投入。イヤーパッドはラムスキンとファブリックと、素材の異なるものを2種類用意。リネン素材を使ったヘッドフォンケースも付属する。
付属ケーブルもFT7のサウンド特性に合わせた6N OCC(99.99998%)を超える高純度単結晶銅を使用した新ケーブルを特別に開発して同梱している。端子は4.4mmバランスで、製品には6.35mm標準プラグ、XLR 4pinバランスプラグに変換可能なアダプターも同梱されている。
これだけのスペック・アクセサリを持ちながら、価格は、他社の平面磁界型フラッグシップモデルと比べると格段にリーズナブルな125,400円前後を実現している。
超軽量で折りたためる平面磁界型「JT7」
12月に投入された「JT7」は、318gという軽さで、折りたたみ式デザインを採用した開放型ヘッドフォン。最大の特長は実売約19,800円という驚異的な価格。平面磁界型ヘッドフォンとして破格なだけでなく、他社のダイナミック型ヘッドフォンと比べても遜色ない価格に抑えられているのだ。
もちろん、価格を抑えていても、しっかり性能を追求してくるのがFIIO。このJT7では、振動板の開発からボイスコイル、磁気回路の制御まで、FIIOが一貫して独自設計を行なった95×86mmの平面磁界型ドライバーを搭載。振動板は3μmという薄さで、7Hz~40kHzの広帯域再生に対応している。
この極薄振動板を、高性能な双方向ネオジム鉄ホウ素磁石によってサンドイッチして駆動。92dB/mWという高感度を実現しており、出力の小さなポータブル機器でも、平面磁界型のサウンドを楽しめる。
ケーブルは着脱式で、製品には3.5mmアンバランスと4.4mmバランスの端子が異なるケーブルが2本付属。3.5mm to 6.35mm変換アダプターも同梱されているため、幅広い機器と組み合わせられる。
装着性にも配慮。本体重量が約318gと軽量なことに加え、人間工学に基づいた多軸ヘッドバンド構造で、頭の形にしっかりとフィット。肌に触れるイヤーパッドは通気性の高いメッシュ素材で、長時間でも蒸れを抑えてくれる。イヤーパッドとヘッドバンドクッションは取り外し可能で、メンテナンス性も確保している。
価格が1桁違う2モデルだが、どれだけ音に違いがあるのか、さっそく聴き比べてみよう。
2機種を聴き比べ
再生環境としては、FIIOのUSB DAC内蔵ヘッドフォンアンプの最上位モデル「K19」を用意。Macbook AirとUSB-C接続し、Apple Musicを音源に楽曲を聴き比べた。ヘッドフォンはどちらも、付属ケーブルを使って4.4mmバランスで接続。K19のゲインは「Ultra High」に固定、サウンドフィルターはOFFにしている。
まずはエントリークラスのJT7から。装着してみると、その軽さに驚かされる。筆者も仕事柄、軽量な開放型ヘッドフォンをいくつか使ったことがあるが、JT7はそれらを上回る圧倒的な軽さを感じる。
それでいて、人間工学に基づいているというヘッドバンドが頭の形にしっかりフィットしつつ、適度な側圧でホールドされるため、「軽すぎて簡単に外れちゃいそう」という不安感は一切ない。試しに座ったまま頭を左右に激しく振っても、ヘッドフォンが外れてしまうことは一切なかった。
付属ケーブルはナイロン編みではないものの、フラットケーブルで絡みにくく取り回しやすい。
Apple Musicで「Mrs. GREEN APPLE/lulu.」(96kHz/24bit ALAC)を聴いてみる。大森元貴のボーカルが艷やかで、細かな息づかい、ブレスも丁寧に描写され、臨場感がある。
この楽曲のサビでは、大森が持ち味のひとつであるファルセットを巧みに使いこなすが、そこの高域にピーキーさは一切なく、歌声がスッと伸びていく。サビ部分ではコーラスも重なってくるが、音場が広く、大森が歌う主旋律を邪魔せず、それでいてしっかりとコーラスが描かれるので、音が重なる奥行き感がしっかりと感じられ、曲の世界観に引き込まれる。
続いて「米津玄師/IRIS OUT」(48kHz/24bit ALAC)で低音の描写力をチェック。平面磁界型はダイナミック型と比べて低音を出しにくい傾向があるが、JT7は身体の芯に響くような低音ではないものの、ベースの唸りやズンッと響くドラムの迫力はしっかりと描いてくれる。その上がボワボワと響くことはなく、スッと沈むタイトさがあるので、ボーカルを邪魔を邪魔せず、楽曲が持つ迫力を存分に堪能できた。
女性ボーカルとして「HANA/ROSE」(48kHz/24bit ALAC)も聴いてみると、冒頭でピアノが伸びやかに流れたあと、低音がドンッと迫力たっぷりに描かれるので、イントロの“旨み”をたっぷりと堪能できる。肝心のボーカルも、耳に刺さるようなピーキーさはまったくない。サビで一番の高音域ではわずかに線の細さを感じるが、それでもボーカルの持ち味の違いをたっぷり味わえた。
ここからはフラッグシップのFT7にチェンジ。こちらはケーブルを除いた重さは約427gと軽量で、ヘッドバンドのホールド感、側圧の強さも程よく、しっかりと頭にフィットしてくれる。ただ、JT7のほうが100g以上軽いため、JT7の直後だと、“ヘッドフォンを頭に載せている”感覚は大きい。
こちらもApple Musicで「Mrs. GREEN APPLE/lulu.」を聴くと、まずは解像感の高さに驚かされる。JT7でも十分クリアなサウンドだったのだが、FT7を聴くと、保護シートのような薄膜が1枚剥がれたような鮮明さを味わえる。
サウンドステージもJT7より広がり、大森の歌声がスーッと気持ちよく伸びていく。サビのファルセット、コーラスも音が団子にならず、しっかりと階層を持って描かれる。コーラス部分もJT7よりも鮮明で意識せずとも聴き取りやすい。
「米津玄師/IRIS OUT」では、唸るようなベース、ドラムのサウンドがヘッドフォンが飛び出してくる。特にベースはより太い芯がある、重みを持ったサウンドで襲いかかってくる。
そして、特に圧巻だったのは「HANA/ROSE」。イントロのピアノもさらに解像感がアップしてキラキラと輝きつつ、そこにズシンと重量感のある低音が響く。もちろん、しっかりとしたタイトさがあるのでボーカルを邪魔することはない。
サビ部分では、JT7ではわずかに感じた高域の線の細さもなく、伸びのある歌声が響く。サウンドステージが広く、奥行き感もしっかりあるので、歌声が重なる部分では、メインボーカル、コーラス、メロディの音の積層感がしっかり描かれ、思わず笑顔がこぼれてしまった。
エントリー3モデルの違いは?
上記のように、コスパの面で大注目なのがJT7だが、FIIOのエントリー価格帯のヘッドフォンにはダイナミック型のモデルも幾つかある。それらとJT7がどのように違うのかも気になるところ。
そこで今回はFIIOのダイナミック型ヘッドフォンとして、密閉型の「JT1」と開放型「JT3」(ともに実売13,200円)も借りて、JT7と聴き比べてみた。再生環境は変わらずK19+MacbookAir+Apple Music。
ただし、JT1にはバランスケーブルが付属していないので、今回は全モデルと3.5mmアンバランス端子に6.35mm変換アダプターを組み合わせて、K19と接続している。
JT1は、高温熱可塑性プラスチック(PEK)とポリウレタン(PU)、アルミ箔複合ポリマーを組み合わせた50mm径振動板を搭載した密閉型ヘッドフォン。再生周波数帯域は15Hz~40kHz、インピーダンスは32Ω。イヤーパッドはレザー調。
JT3は、そのJT1の基本設計を踏襲しつつ、開放型設計を盛り込んだモデル。50mm径ドライバーを搭載し、再生周波数帯域は10Hz~40kHz、インピーダンスは80Ω。イヤーパッドは肌触りの良いベルベット地のものが使われている。
JT1は、今回の3機種のなかで唯一の密閉型だが、装着感は軽めで、JT3、JT7とも遜色ない。「Mrs. GREEN APPLE/lulu.」では、JT7よりもパワフルな低音が味わえ、ベースがグワンと唸る様子、ズシンと頭の中心に響く重さのあるドラムを楽しめる。ボーカルのヌケ感は他2機種には及ばないが、しっかりとした解像感がる。
JT3は、ヘッドフォン自体の軽さもさることながら、ベルベットを使ったイヤーパッドの装着感が抜群。肌当たりが極めてよく、ムレ感も少ないので、長時間でも快適に使えそうな印象だ。
こちらも「Mrs. GREEN APPLE/lulu.」を聴いてみると、JT1よりもボーカルがグッと前に出てきて、奥行き感が出てくる。また開放型になったことでベースの唸りはJT1よりは控えめになったが、平面磁界型のJT7よりは十分パワフルだった。
サビ部分は、大森のファルセットが伸び良く表現されるものの、コーラスは少し線の細さや、ややトゲ感が感じられた。
平面磁界型の魅力を気軽に体感できる「JT7」、高コスパで格の違いを味わえる「FT7」
今回聴き比べたヘッドフォンのうち、FT7は価格帯が大きく異なるので、これら4機種で迷う人はいないと思うが、予算が許すのであればぜひ手にして欲しい1台だ。平面磁界型ならではの伸びやかでキレのあるサウンドを、約12万円という価格で楽しめるのは、競合製品にはない大きな魅力だ。
気になるのはJT1/3/7の“エントリー3兄弟”たち。平面磁界+開放型のJT7は3機種のなかでもつとも音場が広く、ボーカルも解像感があって浮かび上がるようなサウンドを、ダイナミック+開放型のJT3は、JT7よりはややコンパクトな音場で、低音も含めてより小気味よいサウンドを、そしてダイナミック+密閉型のJT1は、ダイナミック型らしいパワフルな低音を楽しめる。
JT1もJT3も、約13,200円で手に入るダイナミック型ヘッドフォンとしての完成度はかなり高いが、スピード感や解像感の高さでは、やはりJT7の平面磁界型に利点がある。平面磁界型が気になる人や、ダイナミック型ヘッドフォンを既に持っている人も、JT7を聴いて、新しい世界を体験して欲しい。


























