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Technicsが日本で'15年2月復活。約500万円の「R1」シリーズなど。音にこだわる技術者が集結
(2014/9/29 13:49)
パナソニックは29日、復活させたオーディオブランド「Technics」(テクニクス)の日本市場展開を発表。リファレンスのR1シリーズ、プレミアムのC700シリーズを2015年2月より順次発売する。R1シリーズは2015年2月発売で、価格はステレオパワーアンプ「SE-R1」が158万円、ネットワークオーディオコントロールプレーヤー「SU-R1」が83万8,000円、スピーカー「SB-R1」が134万8,000円(1本)。いずれも受注生産となる。
C700シリーズは、デジタルプリメインアンプ「SU-C700」が15万8,000円、ネットワークオーディオプレーヤー「ST-C700」が13万8,000円、スピーカー「SB-C700」が15万8,000円(ペア)で、いずれも2015年2月発売。CDプレーヤー「SL-C700」は12万8,000円で、2015年3月発売となる。いずれも受注生産。
Technicsは、1965年に密閉型2ウェイ2ユニットスピーカーシステム「Technics 1」を、同ブランドの第1号製品として発売。来年で50年目を迎える。だが、2008年には、パナソニックへの社名変更とブランド統一により、2010年に生産を終了したクォーツシンセサイザー ダイレクトドライブ式プレーヤー「SL-1200MK6」を最後に、Technicsブランドの製品は投入されていなかった。
しかし、ドイツ・ベルリンで9月5日(現地時間)から開催された「IFA 2014」において、Technicsの復活を発表。欧州市場への投入を皮切りに、グローバルに展開することをアナウンスしていた。
ここでは、R1シリーズの詳細と、発表会の模様をレポートする。C700シリーズについては、個別の記事を参照のこと。
R1シリーズのパワーアンプ「SE-R1」
ステレオパワーアンプの「SE-R1」は、定格出力150W×2ch(8Ω)、300W×2ch(4Ω)のフルデジタルアンプ。「ハイレゾリューションのデジタルソースをパワーアンプの出力までノイズや歪みの影響を受けないように伝送するために、フルデジタル構成にした」という。
最大の特徴は、「JENO Digital Engine(Jitter Elimination and Noise-shaping Optimization)」を搭載している事。これは、デジタルアンプの問題点を解析した結果、「ジッタによる時間精度の劣化と、マルチビット信号を1bit PWM信号に変換する際の誤差による歪みが原因だと突き止めた」(パナソニック アプライアンス社 ホームエンターテインメント事業部テクニクス技術開発担当の井谷哲也チーフエンジニア)事から、開発されたもの。
低周波帯域のジッタを抑制するノイズシェーピング方式のクロック再生成回路と、高周波帯域のジッタを抑制する高精度サンプリングレートコンバータを組み合わせた、独自のジッタ削減回路を新たに開発。この回路では、独自のノウハウにより、ノイズシェーピングの速度、次数と再量子化数、PWMの階調数も最適化し、「ハイレゾリューションの信号が有するダイナミックレンジを損なうことなくPWM信号に変換できる」という。これらの技術をまとめたものが「JENO Digital Engine」と呼ばれており、「自然で微細な音のニュアンスを再現できる」という。
こうして正確に生成したPWM信号を、そのまま電力増幅するために、高速で超低ON抵抗のGaN-FET Driverを搭載。従来のMOS-FETより高速な素子であり、前段のノイズシェーパー技術の高速化にも寄与。シングルプッシュプル構成でも十分な大電力アンプを構成できるため、大電流のシグナルパスを最短化し、微小音から大音量までのリニアリティに優れた再生ができるという。
さらに、 周波数位相特性を平坦化するスピーカー負荷適応処理「LAPC(Load Adaptive Phase Calibration)」も搭載する。スピーカーのインピーダンスは一定ではなく、周波数毎に変化するので、パワーアンプは、その特性の影響を受けずに、スピーカーを駆動する必要がある。一方で、従来のデジタルアンプは、出力段のローパスフィルターを介してスピーカーに接続されるため、スピーカーのインピーダンス特性の影響をより強く受けていたという。また、従来のアンプでは、負帰還により振幅特性を改善していたが、位相特性までは改善できなかった。
LAPCはこれらの問題を解決するもので、スピーカーを接続した状態でのアンプの周波数振幅位相特性を測定。それともとに、理想的なインパルス応答にするようなデジタル信号処理を行なう、スピーカー負荷適応アルゴリズムを開発。
具体的には、アンプのLAPCボタンを押すと、テスト信号を再生。接続したスピーカーの振幅や位相をアンプが測定し、それを踏まえて、振幅と位相双方の周波数特性が平坦化するような補正を加えて再生する。
入力端子は、RCAアンバランス、XLRバランスを各1系統備えているほか、後述するネットワークオーディオコントロールプレーヤー「SU-R1」と接続するための、独自のデジタルインターフェイス「Technics Digital Link」端子も1系統用意。
外形寸法は480×564×239mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約54kg。
ネットワークオーディオコントロールプレーヤー「SU-R1」
DLNAのネットワーク再生機能や、PCとUSB接続してのUSB DAC機能などを備えたプレーヤーであり、プリアンプとしての機能も備えたモデル。このようなコンポ構成になった理由を井谷氏は、「ハイレゾリューションの音源を妥協なく再生するためのアンプ構成を追求した結果、微小信号を扱うネットワークオーディオプレーヤーとプリアンプを同一筐体にしてシグナルパスの最短化を図り、高周波・大電流を扱うパワーアンプは別筐体とすることで、微小信号へのノイズ混入を最小限に抑えるという結論に至った」と説明している。
一方で、デジタルの音量調整ではビット落ちなどの振幅精度の劣化、伝送ではジッタ成分の混入という音質劣化が発生する。それを防ぐために、パワーアンプ「SE-R1」とTechnics Digital Linkという独自のインターフェイスで接続する。
プリアンプのSU-R1にボリュームノブは備えているが、音量調整は行なわず、音声信号とともに音量調整情報をパワーアンプのSE-R1に伝送。パワーアンプのジッタ削減回路で伝送におけるジッタの影響を削減した後、PWM変換の直前で音量調整を行なっている。
このTechnics Digital Linkは、端子とケーブルはEthernetであり、通常のLANケーブルが利用可能だが、高速な伝送ができ、ノイズ対策を行なっているカテゴリ7のケーブル使用が推奨されている。
音量調整情報と共に伝送されるデータは、384kHz/32bitまでサポート。L/Rで独立した伝送を行なう事で、チャンネル間の影響も排除している。
プレーヤーとしては、DLNAプレーヤー機能を備え、NASなどに保存したハイレゾ楽曲が再生可能。USB DAC機能も備え、USBメモリに保存した音楽ファイルの再生もサポートする。DSD 5.6MHz、PCMは384kHz/32bitまで対応。USB-A、USB-B入力に加え、同軸デジタル×3、光デジタル×1、AES/EBUデジタル×1のデジタル入力も装備。同軸/光とAES/EBUは192kHz/24bitまでの対応となる。さらに、アナログライン入力×2も用意する。
出力はTechnics Digital Link、AES/EBU、同軸、光デジタルを各1系統装備。ヘッドフォン出力も1系統用意する。。
PCと接続した場合、外部からのノイズを防ぐために、アイソレーションを実施。さらに、ジッタ対策としてジッターリムーバーを採用。
LAN入力に対してはコモンモードフィルタを活用。デジタルインターフェースに対してはパルストランスを採用し、外部からのノイズ混入を遮断した。
USB入力には、低誘電損失、高耐圧、温度安定性などの特性に優れた高品質ルビーマイカを使ったコンデンサや、磁気歪みに強い非磁性カーボンフィルム抵抗によるパワーコンディショナなどを搭載している。
電源部には、ローノイズでレギュレーション特性に優れたRコアトランスを、アナログ・デジタルそれぞれ専用に搭載。デジタルノイズのアナログ回路への混入を防いでいる。大電流型ショットキー・バリア・ダイオード、部品メーカーとの共同開発による電解コンデンサによる整流回路なども搭載している。
外形寸法は480×391×118mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約17kg。
スピーカー「SB-R1」
3ウェイのフロア型スピーカー。点音源を追求しているのが特徴で、同軸2ウェイユニットに、仮想同軸配置のウーファを組み合わせ、広帯域にわたってピークディップのない滑らかな指向特性を実現したという。ユニットサイズは、ウーファが16cm径のコーン×4、ミッドレンジ/ツイータの同軸ユニットは、16cm径の平面型ユニットと、2.5cm径のドーム型ツイータで構成されている。
同軸ユニットのミッドレンジ振動板には、軽量高剛性のカーボンクロススキン材とアルミハニカムコア材によるサンドイッチ構造を採用。ツィータとのクロスオーバー周波数を超えるピストンモーション帯域を確保しながら、コーン型振動板で起こる前室効果による周波数特性の乱れを排除した。
磁気回路には、大型マグネット、銅キャップ、銅ショートリング、高占積率エッジワイズ巻線によるショートボイスコイルを採用。駆動力の強化と低歪化を追求。フレームには、アームを共振分散型支持構造とした強靱なダイキャストフレームを採用し、わずかな不要共振音まで排除したとする。
ツイータは、ミッドレンジ振動板に対して精密に位置調整して搭載。振動板には、剛性が非常に高く、軽量なカーボングラファイト振動板を採用。磁気回路は2個のネオジウムマグネットでプレートを挟み込んだ構造で、軽量の振動板を強力にドライブできるという。磁気ギャップに注入された磁性流体で、ボイスコイルの温度上昇を抑制。100kHzまでの超高域再生と、広い指向特性を実現したとする。
ウーファは、ロールエッジで発生する低域の2次高調波歪をキャンセルするプッシュプルエッジ(SST/Symmetrical Surround Technology)、高リニアリティのダブルダンパー、アラミド繊維と竹繊維を混抄したパルプコーンの表層にカーボンクロスをラミネートした高剛性振動板を採用。磁気回路には、ダブルマグネットと銅リングを配している。
筐体には、厚み50mmのバッフル板を採用。側板は8枚積層のMDFでラウンドフォルムを形成し、不要な振動を抑えながら、回折反射も低減。中央部に設けた中仕切り板により容積を上下2分割し、上下方向で発生する低次の定在波を排除している。
各ユニットの使用帯域や容積の特性に合わせて、吸音材の素材と配置を最適化することで、キャビネット内部の不要な定在波を抑えた。リアバスレフで、スピーカーユニットやポートは定在波による影響を最も受けにくい位置に配置。スピーカーフレーム外周を覆うリングは高内部損失材料を採用し、スピーカーユニット振動板以外からの不要音を排除ししている。
表面はピアノブラックの光沢仕上げで、塗装を繰り返し、サンディング、ポリシング工程を経て、職人により磨き上げられている。全体の再生周波数特性は20Hz~100kHz(-16dB)、28Hz~90kHz(-10dB)、インピーダンスは4Ω。外形寸法は408×522×1,260mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約76kg。
「音にこだわりのある開発者が自主的に集まったのがキッカケ」
パナソニック アプライアンス社 オーディオ成長戦略担当の小川理子理事は、Technics復活のキッカケとして、「デジタルネットワーク時代になり、自分が演奏した音楽を世界中の人に楽しんでもらう事も可能になったが、音質よりも利便性、手軽さが選択される時代になった。一方で、ネットインフラの充実により、ハイレゾ高音質音源が手軽に入手できるよういなり、高品位な音にもう一度スポットライトが当たっている。我々がかつてTechnicsで目指していたものを、もう一度世に問う、絶好の機会だと考えた」と説明。
さらに小川理事は、1965年に密閉型2ウェイ2ユニットスピーカーシステム「Technics 1」から始まるTechnicsの歴史を紹介。アナログプレーヤーの「SL-1200MK6」を最後に、Technicsブランドの製品が途絶えていたが、「BDプレーヤーで市場をリードしており、ハイレゾオーディオを質再生する技術を培って来た。また、DPSの技術により、デジタルリ.マスターなどの高音質再生機能も開発、BDプレーヤーは世界中で高い評価を受けている。社内にはこのように、高音質再生の技術が蓄積されていた」という。
そして、「いつからともなく、井谷(前述の井谷哲也チーフエンジニア)を中心に、音にこだわりのある設計メンバーが自主的に集まり、今こそ普遍的で、感動的なTechnicsのサウンドを復活させようと相談し、その後、正式なプロジェクトとなった」と経緯を説明。さらに、「音にこだわりのある開発者達の専任体制で作っており、物理特性の強化だけでなく、サウンドコミッティによる音質評価も重視。限界も妥協も無い製品作りを行なっていく」と、自信を見せた。
さらに、「Rediscover Music/Technics」というメッセージも紹介。自身が5歳の時にチャイコフスキーの白鳥の湖に感動した体験を紹介しながら「さまざまな音楽の感動、発見を繰り返して人は成長していくもの。あまりにも多くの情報に寸断され、音楽の感動をどこかに置き忘れていませんか? 我々は人生には感動体験が重要だと思っている。人生のかけがえのない出会いを、Technicsを通じてお届けしたい。それがブランドメッセージに込めた思い」と説明。
ビジネスとしての展望について、パナソニック アプライアンス社 上席副社長 ホームエンターテインメント・ビューティー・リビング事業担当兼ホームエンターテインメント事業部長の楠見雄規役員は、「オーディオ全体における、高級オーディオ市場はさほど大きなものではない。スケーラブルな市場。今回、我々はTechnicsというブランドを通じて改めて音や音楽の感動というものに取り組んでいるが、パナソニックとしても、住空間やモビリティ空間において、五感の中の、耳を通じて得られる感動にも取り組んでおり、そういったものを味わっていただける製品やサービスを展開する必要がある。その際に、パナソニックブランドで展開するよりも、Technicsの方が、より我々の想いご理解いただけるのではと考えた。短期的な事業規模や高級オーディオというセグメントのみを考えて復活するというわけではない」と語った。