小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第691回:スマホ連携時代のBDレコーダ、ソニー「BDZ-ET2200」
第691回:スマホ連携時代のBDレコーダ、ソニー「BDZ-ET2200」
リモート視聴が軽快。他ユーザーは何を録画/視聴している?
(2014/12/10 09:20)
年内最後のレコーダーレビュー
10月のDIGA、11月のREGZAサーバーと、月一でこの秋冬のレコーダの新製品をレビューしてきたわけだが、今月はソニー「BDZ-ET2200」を取り上げる。少なくとも年内のレコーダレビューは、これが最後のモデルとなる予定だ。
さて今年のレコーダのポイントは、やはりなんといってもスマホ連携によるリモート視聴が本格化したことだろう。一時期デジタル放送のコピーワンス導入によって、テレビのモバイル視聴文化が瀕死状態となった。2008年の北京オリンピックをきっかけに、ダビング10に緩和されたが、当時は番組を持ち出すには、コピーするしかなかった。
ところが近年のスマートフォンとLTEの普及により、宅外視聴はコピーではなく、ストリーミングを主眼に置くようになった。携帯キャリアも、以前は大量のデータ転送を行なうユーザーに対して速度制限などのペナルティを科していたが、月7GB以上で従量制に移行する料金プランを中心に据えて以降、7GBを超えがちなソリューションも歓迎するようになっているから、現金なものである。
さて毎年この時期に新モデルを投入してくるソニーだが、今年はトリプル/ダブルチューナーのミドルレンジ4モデルが刷新される。今回は新モデル中の最上位機、BDZ-ET2200をお借りした。3チューナ、2TB HDD搭載機だ。すでに11月15日より発売されており、店頭予想価格は9万円前後。通販サイトでは7万円台前半といったところである。
スマホ連携時代を迎えた今、ソニー機はどういう方向性で攻めるのだろうか。早速見てみよう。
よく言えばシンプルだが……
まず外観だが、他社にも多い薄型・幅広のいわゆる1Uラックサイズながら、ボタンなどの突起がないシンプルなデザインだ。金属製シャーシに前面からアクリルのキャップをはめたようなスタイルになっている。昨今奥行きが短めのレコーダが多いが、本機は割と奥行きが長い点は、昨年のモデルから変わっていない。
電源やイジェクトボタンは突起がなく、マークの部分を押して操作する。タッチセンサーではなく、樹脂をユルく凹ませると、内部のボタンが押される感触が伝わってくる。昨年のモデルは、ボディの両角をナナメに切り落としたようなデザインで、その断面をボタンにするというなかなか凝った作りだったが、今年はひたすらにシンプル、というか、これといって特徴のないデザインだ。
電源が入ると、中央部のやや下あたりに白いラインが光る。Blu-rayドライブのベゼルがはめ込み式なのが惜しいが、たたずまいの演出は好印象だ。前面のフタは右端だけが開くスタイルで、USB端子とB-CASカードスロット、転送と取り込みボタンがある。
チューナは地デジ・BS・110度CSの3波チューナ×3で、内蔵HDDは2TB。この下のET1200はHDDが1TBなだけで、スペックはET2200と同じである。
背面に回ってみよう。入力は2系統のアンテナ入力とアナログ入力×1。出力はHDMI×1、光デジタル音声出力×1とシンプルだ。Ethernet端子もあるが、今年のソニー機は全モデルWi-Fi内蔵となっている。
HDD増設用のUSBポートもあるが、ソニーのこの秋冬モデルでは、今年のトレンドともなったSeeQVaultには対応しなかった。パナソニック、東芝共すでにサポート済みなのに比べると、これから次のモデルが出る約1年間、周回遅れとなるのはちょっと厳しいのではないだろうか。
リモコンは昨年モデルと同様、10キーが下部に収納されている、らくらくリモコンが付属する。
若干の新機能追加? 他ユーザーの録画/視聴状況を知る
ではさっそく中身を見ていこう。とはいえ今年のモデルは、基本的なUIは以前からのものと同じで、クロスメディアバーとなっている。そう言えばクロスメディアバー(XMB)ももう何年使っているのだろうと遡って調べてみたら、初出はどうも2003年のPSXのようだ。
当時はゲーム機のエンジンを使って大量の録画番組もスルスル動くと評判だった。その後レコーダとテレビにも搭載されるなど、ソニー製品の顔となっていった。だが、フラットにズラッと並べた物が高速に動くというUIも、これだけ扱うコンテンツが増えてくると、どうにも片付かないという印象が残るようになった。
もう少し分類されたわかりやすいメニューをということで、「らくらくスタート」メニューが登場したのは2009年の「BDZ-EX200」以降の事である。もちろん今回もらくらくスタートメニューは搭載されている。しかしXMBも、もう10年以上だ。もうそろそろ新しいタイプのUIも見たいところである。
今回からの新機能としては、ユーザーランキング機能がある。これは他のユーザーがどんな番組を予約したのか、そして実際に録画した番組がどれぐらい再生されたかの、2つのランキングを見る事ができる。
まず予約ランキングを見てみよう。これは「ビデオ」の「録画予約」機能の中にある。今年のメインフィーチャーの機能にも関わらず、このように階層の奥にしか入れられないのもXMBの弊害と言えるだろう。
ランキングは「すべて」を始め、ニュース、スポーツ、ドラマ、音楽、バラエティ、映画、アニメ/特撮、ドキュメンタリー、劇場/公演、趣味/教育、福祉に分かれており、それぞれのジャンルでの予約ランキングを見る事ができる。予約ランキングのデータは1時間おきにサーバーから取得する。人気番組が現われた時は、順序が変わることもありうる。
番組を選ぶとそのまま予約画面に行き、何人が予約したのかがわかる。この機能は今回の新モデルから搭載されたので、予約したという情報も新モデルからしか取れない。したがってまだデータ数は少ないのだが、今後ユーザーが増えるにつれて、ランキングも賑やかになっていくだろう。
ただ、この手の機能はすでにSCEの「nasne」や東芝のレコーダでは早々に搭載しており、特に珍しい機能ではない。過去の例でもわかるように、そのレコーダの支持層に予約番組が偏る傾向があり、一般的な人気ランキングとは必ずしも一致しないものだ。
もっとも、そのレコーダを買った人も他のユーザー同様に偏っているので、結果的にランキングが鋭く機能するというわけである。東芝機ユーザーはアニメ層に偏っているイメージがあるが、ソニーではどのように偏るのだろうか。それはそれで今後の成長が楽しみである。
もう一つ、視聴ランキングも見てみよう。これは「ビデオ」欄に出てくる録画済みの番組タイトルのところに数として表示される。当然録画したばかりの番組は、まだ再生された数が少なく、録画されて数時間後から翌日ぐらいまでが、視聴数が伸びるようだ。
番組の再生にも旬があり、1週間を超える番組は再生数が頭打ちになるものだ。いつまでも番組を貯めておけば少しずつは再生が増えるところを見られるかもしれないが、放送されてから最長半年で再生数のカウントは停止するそうである。
さらにこの番組再生順で並び替えすることもできる。これによれば、先週末からの番組では現在「めちゃ2イケてるッ!」が再生数123でトップ、次いで「地獄先生ぬ~べ~」の48となっている。まだデータが少ないのでただの印象だが、今のところソニー機ユーザーは、バラエティ好きの傾向が見られるようだ。
改善されたリモート視聴レスポンス
もう一点強化されたポイントとして、宅外からのリモート視聴がある。ソニーのレコーダは、今年3月のアップデートで「デジタル放送受信機におけるリモート視聴要件 Ver1.0」に対応し、いち早くリモート視聴が可能になった。
ただ従来のモデルでは、レコーダ内のトランスコーダが録画で2つ以上使われていた場合、モバイルによるストリーミング視聴ができないという弱点があった。なぜならば、モバイル機器に向けて映像を送信する際に、録画用のトランスコーダを使ってリアルタイム変換しないといけなかったからである。
今年のモデルでは、リモート視聴時にいちいちリアルタイムでトランスコードしなくてもいいように、録画時にモバイル用の動画も同時生成するように変更された。内容的には持ち出しコピー用のファイルと兼用である。これにより、トランスコーダが空いてなくてもストリーミングできるようになった。
もちろんストリーミングでは見ない番組も、全部モバイル用動画が作成されるため、HDDの利用効率は悪くなるが、リモート視聴でのイライラが減るなら多少のことには目をつぶろうという人も多いだろう。同時録画は設定でOFFにもできるので、リモート視聴する予定がない人は切っておくこともできる。
では実際にリアルタイムでトランスコードするのと、事前に用意されたリモート視聴を再生するのとでは、レスポンスにどれぐらい違いがでるのか試してみよう。リモート視聴に使用するのは、同社のアプリ「TV SideView」である。条件をほぼ同じにするために、NHK総合で放送されている政見放送を同時録画ありと同時録画なしで録画し、再生までにかかる時間と、動画のシークバーを先に進めた際に再生が再開されるまでの時間を計測した。
- | 再生開始 | ジャンプ |
リアルタイムトランスコード | 18秒 | 10~13秒 |
同時録画ファイル | 8秒 | 3.5~4秒 |
あきらかにモバイル用に同時録画したファイルにアクセスした方が、レスポンスは向上する。これまでは十数秒待たされたあげく「再生できません」と言われてなんだよと思ったものだが、ネット回線さえちゃんと繋がっていれば確実に再生できる。また見たいところまで送った際にも、再生再開までの時間が半減するのは、大いにイライラが解消される。
またリモート視聴の安定度も、アプリ側のバッファサイズを大きく取ることで向上したという。具体的に安定していない状態との比較はできないが、30秒から1分程度バッファをとっているようだ。
総論
今回でパナソニック、東芝、ソニーの最新モデルを眺めたことになるわけだが、各社とも力点の違いがよくわかる。パナソニックはどこかへのこだわりというよりも全方位的なバランスの良さが魅力で、誰が使っても満足できる作りだ。一方、東芝は全録機のよりよい使い方を模索する中で、全録と予約型のハイブリッドモデルを展開してきた。
そんな中でソニーだが、競合他社がイノベーティブな取り組みを進める中、今年の新作は停滞が感じられる。昨年のモデルをアップデートによりリモート視聴に対応させたのは見事だったが、どうも今回のモデルはそれのバージョンアップ版的な印象を拭えない。
また全録モデルを投入していないのも大手メーカーではソニーだけとなった(シャープが今年発売したBD-T3600/T2600は3チャンネル自動録画が可能)。さらに、最もアグレッシブにアップグレードしているレコーダはSCEのnasneというのも、状況を良くしているのか悪くしているのか、よくわからない。
年明けに新機軸のレコーダ登場もない話ではないと思うが、1年かけた新製品でほとんどハードウェアレベルでイノベーティブな成果が出せておらず、普通なら事業としては撤退するのではないかと勘ぐられてもおかしくない。次のモデルは、ぜひ世の中をあっと言わせるイノベーションを期待したいところである。
ソニー BDZ-ET2200 |
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