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“音の門番”が変わると製品も変わる!? 新世代デノンサウンド「2500NE」をマニアックに聴く

 ピュアオーディオに詳しい人にはお馴染みだと思うが、「本格的なオーディオ趣味をはじめたい、まずはアンプから買おう」という際に、購入候補としてよく登場する“登竜門”的なプリメインアンプがある。デノンの「PMA-2000」シリーズだ。

左からCDプレーヤーの「DCD-2500NE」、USB DAC内蔵プリメイン「PMA-2500NE」、ネットワークプレーヤー兼USB DAC兼ヘッドフォンアンプの「DNP-2500NE」

 1996年に初代機が登場、それ以降も「PMA-2000II」、「PMA-2000III」「PMA-2000IIIR」、「PMA-2000IV」、「PMA-2000AE」、「PMA-2000SE」と進化を重ね、2012年に発売された「PMA-2000RE」(18万円)が現在もラインナップされている。デノンの中級アンプの定番モデルというだけでなく、オーディオ界における“2chプリメインアンプの代表格”と言っても過言ではないかもしれない。

1990年発売の「DCD-1650」、1996年発売の「PMA-2000」。DCD-1650も、PMA-2000シリーズと同様に長く世代を重ねるモデルとなっている
2012年発売の9世代目「DCD-1650RE」、7世代目の「PMA-2000RE」

 定番として支持されてきた背景には、音のクオリティと価格のバランスが良く、コストパフォーマンスに優れている事、多くの人が好ましいと感じる音作りになっていた事などがあるだろう。

PMA-2000シリーズの現行モデル「PMA-2000RE」

 一方で、ハイレゾに代表される“ファイルオーディオ”にソースがシフトし、オーディオコンポにもPCやネットワークとの親和性が求められる時代になった。これに合わせて、2000シリーズも大きな変化を遂げた。シンプルなプリメインだったPMA-2000の兄貴分として、USB DACを搭載した「PMA-2500NE」(23万円)が登場。2500NEシリーズとしてネットワークプレーヤー兼USB DAC兼ヘッドフォンアンプの「DNP-2500NE」(20万円)、CDプレーヤーの「DCD-2500NE」(18万円)というシリーズラインナップも登場。新たな“2500NE”シリーズが誕生した。いずれも2月中旬発売予定だ。

 これだけならば“定番モデルが高機能化して値段もアップし、シリーズ名が変わった”というだけの話だ。だが2500NEシリーズにはもう1つ、非常に大きな変化点がある。製品そのものではなく、その音を監督し、仕上げていく、デノン独自の“サウンドマネージャー”が、これまでの米田晋氏から山内慎一氏に交代。山内氏がゼロから監修した初めてのシリーズなのだ。2500NEシリーズは単なる新製品ではなく、“次世代のデノンの音”を体現する初の製品になるというわけだ。

デノンの試聴室でお話を伺った

サウンドマネージャーとは何か

サウンドマネージャーの山内慎一氏

 いきなり、“サウンドマネージャーが変わった”と書き始めたが、そもそもサウンドマネージャーとは何なのだろうか? 山内氏は端的に「デノンの音のダイレクション、つまり方向性を決めるのが役割です」と言う。

山内氏(以下敬称略):抽象的に“こんな音”と決めるだけでなく、実際にデノンが発売する製品が、その方向性に合っているかチェックしたり、チューニングしたり……そんな仕事をしています。

 出来上がった製品に対して注文をつけるというのではなく、開発の初期段階、回路図レベルから参加しています。そうしないと、後の段階で変更しようとしても難しくなる事がありますので。仕様面のチェックもしますし、部品レベルでの助言などもします。新しい部品の音や特性を把握しておき、それが開発中の製品に使えそうかどうかを判断し、提案する。最終的な音質がより良くなるよう、常に開発陣にアドバイスをしたり、ディスカッションして導いていくイメージです。

 100%全ての製品に関与しているわけではありませんが、通常のコンポに留まらず、ミニコンポも含めて、ほぼ私が音のチェックをしています。

 つまり、山内氏が首を縦に振らなければデノンの製品として世にでる事はできない。デノンの音のクオリティを守る“門番”のようなものだろう。

新サウンドマネージャーの音楽の好みは超マニアック!?

 そんなサウンドマネージャーに新たに就任した山内氏。どんな人物なのかと話を伺ってみると、穏やかな風貌からは想像できない、意外な一面が顔をのぞかせる。

山内:元々オーディオに惹かれたのは、アナログレコードのターンテーブルを見た事がキッカケです。静かにターンテーブルが周り、レコードを精密にトレースしていく、メカニカルな美しさに興味を覚えまして、「こういうものに関わるような仕事ができればいいな」と漠然と考えていました。

 当時のレコードショップにはターンテーブルが置いてありまして、店内でデモ再生をしていたのです。私が子供の頃はカセットテープ全盛でしたが、そちらにはあまり惹かれませんでしたね。

 子供の頃から音楽好きだったという山内氏。ジャズやクラシックはもちろんのこと、新しい音楽を探求する好奇心も旺盛だったという。

山内:未だに引きずっているのですが(笑)、誰も聴かないような、かなりマイナーな音楽に惹かれる困った子供でした。

 学生時代からジャンルを問わず聴いていて、ジャズ喫茶でアルバイトをしたり、お店でLPレコードなどをかけるようなバイトもしていた事があります。しかし、そこからより辺境へと旅立ちまして(笑)、パンク、ポストパンク系、ニューウェーブ以降の音楽が大好きでした。そこからインディー系、現代音楽、ダブ、レゲェなども好きです。プライマル・スクリームやクラッシュ、スペシャルAKAなども好きでした。

 例えば、マイルス・デイヴィスは好きですが、マイルスと言うとジャズの時代が好きという人が多いと思います。私は後半の、ファンクの頃のマイルスの音楽に心動かされます。未だに聴ける素晴らしい曲ばかりです。

山内氏が試聴曲として用意した音楽の一部

 以前、「なぜこういった曲を聴くのか?」と聞かれた事があります(笑)。その時は即答できなかったのですが、よくよく考えると、私は“音響”を大切にしているのだと思います。ビヨークが以前、“(音の)テクスチャー”という言葉を使っていましたが、それと似たような感覚です。メロディはもちろん大切なのですが、音楽を起承転結でとらえるよりは、“一瞬の音の出現”と言いますか、サウンドスケープ、1つ1つの音が持つパワーやディテールに惹かれるのだと思います。

 オーディオメーカーに取材に行ったり、試聴イベントなどに参加すると、当然ながらジャズやクラシックの定番ソフトが再生される。山内氏の試聴室にもそういった“オーディオマニアお馴染みのソフト”はもちろん揃っているが、それにも増して、コーネリアスなど、あまりメーカーの試聴室では見かけないソフトが大量に並んでいる。ラインナップを見ているだけでも、山内氏が只者ではない、こだわりの人だというのが良く分かる。

山内:デノンに入社してからは、一時期業務機器なども担当しましたが、その後はハイファイ製品の主にプレーヤーを手がけていました。1993年の「DP-S1」、「DA-S1」などですね。その頃から音質に絡むところをやらせてもらいました。設計出身ですが、メカではなく、電気系の担当です。

 ですから、当時のサウンドマネージャーの方々とも、ずっと一緒に仕事をしてきて、とてもリスペクトしています。ただ、歴代のサウンドマネージャーから強固に「こんな音にしろ」と言われた事はなく、どちらかというと自由に作らせてもらえました。そこで自分が良いと思う音を追求していくわけですが、同時に、“デノンの音”も追求していく……という挑戦を続けてきました。ですから、そういった面では誰にも負けないという自負があります。

 デノンというメーカーは長い歴史がありますので、“デノンの音”というハッキリしたイメージを持っている人が社内にも沢山いて、“音への想い”がとりわけ強いメーカーだと感じています。ですから、開発者とサウンドマネージャーの間で意見が異なる、という事はもちろんあります。それはもう年中やりあっていました(笑)。

 しかし、エンジニアにとって、そうした“自分のこだわり”や“音への想い”はとても大切な部分でもあります。自分が今、サウンドマネージャーという立場に立つと、若いエンジニアには、そういった追求心や気概を持つ人も増えて欲しいと思うようになりました。

山内氏がゼロから手がけた2500NEシリーズ

 そんな山内氏が、開発のスタートから関わり、完成させた初の製品郡が前述したUSB DAC内蔵プリメイン「PMA-2500NE」、ネットワークプレーヤー兼USB DAC兼ヘッドフォンアンプ「DNP-2500NE」、CDプレーヤー「DCD-2500NE」の2500NEシリーズだ。詳細はニュースでお届けした通りだが、各部のこだわりポイントをざっと紹介しよう。

2500NEシリーズ

 大きなポイントは、昨年10月から発売されている上位「SX11」シリーズの技術を投入している部分だ。例えば、プリメインとネットワークプレーヤーのUSB DAC部分は、USB DAC内蔵SACDプレーヤー「DCD-SX11」(36万円)向けに開発したプラットフォームを使っている。

 対応データはPCMが384kHz/32bit、DSDは11.2MHzまで。DSDの伝送方式は、ASIO 2.0ドライバによるネイティブ再生と、DoP伝送での再生に対応。アシンクロナス伝送もサポート。DNP-2500NE、およびPMA-2500NEは、DACチップに「PCM1795」を使っている。

USB DAC搭載プリメイン「PMA-2500NE」

 PCから供給されるデータに混入するノイズを完全にカットするデジタルアイソレータも搭載。ICチップ上に組み込まれたトランス・コイルを介して磁気によりデータ転送を行なうもので、入力側と出力側を電気的に絶縁。DACとデジタルオーディオ回路の信号ラインを絶縁する事で、DAC以降のアナログオーディオ回路に与える高周波ノイズの影響をカットしている。PC側電源からのノイズの回り込みを防ぐために、デジタル回路専用電源トランスも搭載している。

 プリメインのPMA-2500NEでは、純粋なプリメインだったPMA-2000REと比べ、USB DACが追加された影響が気になるところだが、山内氏は「影響はほぼ無い」と言う。

山内:デジタルブロックとアナログアンプは別シャーシとまでは言いませんが、完全に分離しています。アンプの下部に、厚い鉄板を介してデジタルブロックを固定し、ノイズや振動の影響を遮断しています。

アンプの下部に、厚い鉄板を介してデジタルブロックを固定している。写真の黒い部分の上に、アナログアンプ部が乗っかるわけだ
アナログアンプ部が上に乗った状態

デジタルブロックの一部。中央の左側に5個、黒いチップが並んでいる。これがデジタルアイソレータだ

 また、より純度の高い増幅を行なうために、デジタルブロックの電源を落としてしまう「アナログモード」も搭載しました。一般的には、デジタルの回路部分の電源を落とす機能を意味すると思いますが、PMA-2500NEはデジタルブロック向けにトランスを個別に搭載しており、トランスの一次側、つまりACが入ってくるところから電源を切ってしまいます。文字通りデジタル部分が“ただの置物”になるわけでです。

 アナログアンプ部分も大幅に見直しました。従来シリーズは長年ブラッシュアップを繰り返してきましたので、過去の設計から引き継いでいる部分も多い。PMA-2500NEはそこも見直し、信号経路も引き直しました。「シンプル&ストレート」の設計思想を徹底しており、短いところでは半分くらいの長さになるなど、“太く短く”をテーマにしています。

「シンプル&ストレート」の設計思想を徹底している

アンプの内部

 採用しているMOSは、PMA-2000REと同じUltra High Current MOS(UHC-MOS)ですが、そのポテンシャルをより発揮できるようになっています。

CDプレーヤーの「DCD-2500NE」

 CDプレーヤーの「DCD-2500NE」にも、SX11の技術が投入されている。

山内:SACDプレーヤー「DCD-SX11」(36万円)で使っているのとほぼ同等のドライブメカを2500NEに投入しました。SX11の時に、ドライブメカを新規開発したと申し上げましたが、年々作るのが困難になってきている制御系のチップを我々が開発したことで、より高精度な制御が可能になりました。

「DCD-2500NE」の構成パーツ。中央がディスクドライブメカ。DCD-SX11と同等の「Advanced S.V.H. Mechanism」を使っている

 クロックも低位相雑音タイプを使っています。CD再生時は44.1kHz系列を利用しますが、音楽ファイルを書き込んだCD-R/DVD-Rも再生できますので、ファイル再生用に48kHz系列と、独立した2基のクロックを搭載しています。

 USB DACを搭載していないので、メカブロックに独立した専用の電源を投入できます。ディスクプレーヤーの動作だけに従事できるような構造ですので、音質も良くなります。

ネットワークプレーヤー兼USB DAC兼ヘッドフォンアンプの「DNP-2500NE」

 「DNP-2500NE」は、この価格帯でデノン初となる単体ネットワークプレーヤー。でありながら、USB DACやヘッドフォンアンプ機能も備えている。

山内:USB DAC部分はPMA-2500NEと同等と考えていただいて構いません。プレーヤーとしてはCDドライブが無い分、スペースに余裕があり、それが音にも効いてきます。

 最大の注目ポイントは、ヘッドフォンアンプ部にCSRが開発したデジタルアンプソリューション「DDFA」(Direct Digital Feedback Amplifier)を採用している事。あのデジタルプリメインアンプ「PMA-50」や「DRA-100」で使われているものだ。

ヘッドフォンアンプにDDFAを使っている

山内:DDFAをヘッドフォンアンプに使うというのは、最初から決まっていたわけではありません。ただ、ヘッドフォンアンプもこだわろうという方針は決まっていました。当初はバランス駆動対応にするなど、様々な議論をしていましたが、その中で、“デノンらしくDDFAを使ったヘッドフォンアンプを提案をしてみよう”という話になりました。DNP-2500NEはデジタルのソースを扱うプレーヤーですので、フルデジタルプロセッシングのヘッドフォンアンプと相性が良いというのもありました。

DDFAを使ったヘッドフォンアンプ部

 しかし、「搭載しよう」と言って、ポンっと入れられるものでもありません(笑)。開発陣が様々な検討をして、パワーの問題、SNの問題などをクリアした上で搭載できました。これまでPMA-50やDRA-100で培ったノウハウを活かせたのも大きいですね。アナログのヘッドフォンアンプ回路と異なり、フルデジタルは部品点数が少ないので、チューニング時もどこのパーツを変えると音がどう変わるか、パラメータを変えるとどうなるかというノウハウが無いと難しいポイントです。ICの開発メーカーも知らないかもしれないノウハウも、幾つかつかんでおります。

 ヘッドフォンアンプとして使うにあたり、電源電圧などもヘッドフォンドライブ用にカスタマイズしています。高品位なヘッドフォンと組み合わせていただくと、音のクオリティを確実に実感していただけると思います。

ヘッドフォンアンプのみで、9系統の安定化電源を使っている
音質に影響のあるDCオフセットをキャンセル、カップリングコンデンサが無いため、可聴域下限までフラットに伸びた周波数特性を実現
ダンピングファクターの切り替えにより、音質の傾向を調整できるマニアックな機能も

 これら2500NEシリーズには、デノン製品の特徴と言える「Advanced AL32 Processing Plus」も搭載されている。独自のデータ補完アルゴリズムを用いて、データをハイビット(32bit)/ハイサンプリング化して処理するもので、CDの16bit信号は32bitに、44.1kHzのサンプリング周波数は16倍にオーバーサンプリングして処理。ハイレゾデータも、192kHzの信号は4倍に、384kHzは2倍にオーバーサンプリング。データの補間は独自のアルゴリズムにより、補間ポイント前後に存在する多数の点から、あるべき点を推測、より原音に近い理想的な補間をするという。

音を聴いてみる

 山内氏の試聴室で、2500NEシリーズの音を聴かせてもらおう。ソースは山内氏がいつもチェックに使用しているという楽曲をお願いした。いずれもマニアックだが、音の良さに驚かされる楽曲ばかり。新鮮な驚きに満ちた試聴になった。

 まずは「DCD-2500NE」でCDを再生。'80年代半ばのイギリス、プリファブ・スプラウトの「スティーヴ・マックイーン」というアルバムから、「Bonny」を再生。プロデューサーはあのトーマス・ドルビーだ。

 音が出た瞬間に驚くのは、空間の広がりに一切の制約が無い事。オーディオ機器には程度の差はあれ、価格帯が上がるにつれて、空間描写の“枠”が広がっていく一面があるが、2500NEシリーズの場合はハイエンドモデルのように一切の制約を感じず、枠が存在しない。ブワッと眼前に空間が広すぎて、目の前どころか、自分の体全体が包み込まれるような感覚だ。

 そこにギターやボーカルが立体的、かつ生々しく定位する。音は驚くほどクリアで、見通しが良く、ギターの弦が揺れる様子がクッキリ見える。一音、一音の歯切れが良く、ハイスピードだ。

 個人的に、従来のPMA-2000シリーズに対しては、「低域の重厚さ」や「高密度な中低域」という印象がある。そのイメージと2500NEシリーズを比べると、あまりの音の違いに驚く。鈍重だったり、モワモワする部分はまったく無く、情報量が多く、トランジェントの良い、極めて現代的なサウンドだ。

 続いて、アイスランドのポストロックバンド、シガー・ロスの「Saeglopur」。ビヨークやレディオヘッドにも似た、冷たさを感じるほどキリッとした広大な空間に、綺羅びやかな金属音やコーラスが浮遊するように定位する。音像の分離の良さ、定位の明瞭さに驚くと共に、奥行き方向の立体的な描写力もスゴイ。前にある音像と、背後の音像との距離感が精密に描かれて、くっつかない。ビヨークの「Virus」を再生しても、同様に立体的な音場が出現。同時に、彼女の生々しいヴォーカルがグッと胸に迫ってくる。

 次に、DNP-2500NEとPCを接続。USB DAC機能を使い、ハイレゾファイルを再生する。曲はコーネリアスの「Beep It」。2006年にリリースされた5作目のアルバムだが、もともと96kHz/24bitでレコーディングされており、今ではハイレゾ版(96kHz/24bit)を購入できる。

 この楽曲では、繰り返されるビートの描写に圧倒される。中低域の張り出しが強いのだが、音の出方が非常にパワフルで、同時に低域の沈み込みも深く、凄みと安定感のある低音だ。ブワッと張り出した中低域が消えるスピードも素早く、キレが良い。もたついたり、不必要に膨らんだりしない。ソースの情報量の多さをプレーヤーがキッチリ再生できている証拠だが、それだけではない。スピーカーユニットをドライブするアンプにも確かな駆動力が無ければこの低域のキレは出せない。PMA-2000シリーズで受け継がれてきたアンプの“地力”を感じる部分だ。

 山内氏がチョイスした曲を聴いていると、位相やトランジェントの良し悪しがわかる音楽が多いと感じる。「そう考えて曲を選んでいるわけではありませんが、確かにそうかもしれません」と笑う山内氏。「自分としては音楽のパッションと言いますか、一瞬のキラメキのようなものを出したいと考えています。オーディオを聴いているという事を忘れて、音楽に浸れるような鳴り方を目指しています」という。

 気になるのは、こうした電子音楽を試聴曲に使って製品をチューニングした場合、ジャズやクラシックなどをシッカリと再生できる機器になるのかという点だ。

 実際に、ケルンで録音された「五嶋みどり/バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全曲」から、「ソナタ第3番ハ長調 BWV.1005」を再生すると、アンビエント系の楽曲を聴いていた時と変わらない、制約の無い広大な音場と、そこに明瞭に定位する音像、ヴァイオリンの弦の細かな描写や、その響きが空間に消える際のかすかな描写まで生々しく再生できている。

山内:基本的にはクラシックも電子音楽も同じです。空間描写がキッチリと出来ていなければ、上手く再生できません。電子音楽は作り手が意図した場所に音を置いていくような作り方になりますが、違いとしてはそうした部分だけですね。

 このヴァイオリンを聴きながら、PMA-2500NEのデジタル回路をトランスの一次からOFFにする「アナログモード」のON/OFFを聴き比べた。アナログモードにすると、SN比が向上、広大な空間の静粛さがアップし、音の輪郭がより深くなる。響きの深さや消えていく様子の細かな描写もアップするので、アナログ入力を利用する際は「アナログモード」を活用したい。

ヘッドフォンアンプの試聴も

 続いて、DDFAを使ったDNP-2500NEのヘッドフォンアンプも試聴。DDFAのクリアなサウンドはPMA-50やDRA-100で体験済みだが、その印象から期待するサウンドが実現できている。ワイドレンジで情報量が多く、目の覚めるようなクリアさだ。同時にヘッドフォンの駆動力も高く、2500NEシリーズのハイスピードなサウンドの印象がヘッドフォンでも同じように楽しめる。ヘッドフォンアンプとしても見逃せない音で、ネットワークプレーヤーのオマケ扱いしていい音ではない。例えばスピーカーやアンプが無い環境で、DNP-2500NEを近くに置いてヘッドフォンだけで音楽を楽しむという使い方も“大いにアリ”だ。

 それにしても、山内氏の試聴曲はマニアックではあるが、どれも非常に高音質で、音に勢いがあるので「この曲欲しい!」と思わせるものばかりだ。「Katsuhiro Chiba/ “Kicoel”」というアルバムの「i run slowly」という曲に惚れ惚れしてしまい、取材当日にさっそく購入してしまった。個人的には「山内氏がオススメする楽曲を聴く会」なんてイベントもやってほしいくらいだ。

 同時に、2500NEシリーズにおける音の変化にも驚かされる。開発の段階から、意識的に音をガラッと変えようと考えていたのかと聞くと、山内氏は首を横に振る。

山内:人から言われて“変わったんだな”と思う事はありますが、自分ではあまり意識していません。先ほど申し上げた通り、私は自分の音の追求と同時に、デノンの音の追求も長年やってきました。その姿勢は同じで、2500NEシリーズだから奇抜な事をしたというわけではありません。

 仰るとおり、一般的な“デノンの音”というイメージがあるのは承知しています。言葉にすると“低域の量感”や“座りの良さ”でしょうか。しかし、私はそうした細かな部分ではなく、音がよりダイレクトに響く事が、“デノンサウンド”の根底にあるものだと解釈しています。低域の量感を出そうと無理に膨らませたりするのではなく、ソースが持っているパッションをそのまま出す事、よく“自発的再生”という言葉を使うのですが、“音楽がオーディオにコントロールされていない状態で出てくる事”を重視しています。

 また、“ビビッド”という表現もよく使いますが、似た部分があり、付帯音の無さからくる鮮明さや、反応性の良さも意味します。音楽が持つエネルギーをダイレクトに、リスナーに届ける……そこにデノンの本質があります。

「音が悪くなった」なんて絶対に言わせない

 オーディオ機器で使われるような、高音質&高品位なパーツ類は、のきなみ生産量が減ったり、生産終了になったりと、“オーディオ機器を作るための部品”をとりまく環境は年々厳しくなっている。それゆえ、マイナーチェンジモデルを作るにしても、従来の価格を維持する事が難しく、高価になってしまうというパターンが多い。伝統のプリメイン、PMA-2000シリーズでもそれは同じだ。

山内:恐らく、現在のPMA-2000REをマイナーチェンジしたとしても、価格は上がってしまったでしょう。であるならば、製品ラインナップの位置づけを1ランク上げて、ファイルオーディオが当たり前になっている現代のリスニングスタイルにマッチするUSB DACなどの機能を搭載する事で、より使いやすく、音質も従来モデルを超えるものにしようと開発したのが2500NEシリーズです。

 USB DACを搭載したプリメイン、高音質なヘッドフォンアンプでもあるネットワークプレーヤー、そしてシンプルな仕様ですが“CD by DENON”の魂を継承するディスクプレーヤー。この構成は、“今後10年のデノン製ハイファイコンポのカタチ”を見据えて開発したものです。

 もちろん、伝統のシリーズを大きく変化させる事に対しては、不安の声もありました。例えば、プリメインのPMA-2000にUSB DACを入れた事などもそうです。しかし、そうした声には音で応えるしかありません。「アナログアンプにDACを入れたから音が悪くなった」なんて絶対に言わせない、そんな気概を持って開発しました。

 山内氏の言葉通り、製品に込められたメッセージは、ガラリと変わったサウンドそのもので、大いに表現されている。2500NEシリーズのサウンドは、従来のデノンのイメージを大きく変えるものだ。「デノンのコンポはこういう音」という確固たるイメージを持っているオーディオマニアこそ、一度聴いて欲しい。恐らく音が出た瞬間にビックリするだろう。

 だが、曲を聴き続けていくと、ハイスピードでクリアな新しいデノンサウンドを下支えしている、ドッシリとした低域の安定感、ズバッと切り込むように出て、スッと消える中低域の張り出しの強さなどに、かつてのデノンらしい情熱的で懐の深いサウンドを感じ取る事もできる。懐かしくも新しい、まさに“次世代デノンサウンド”であり、個人的にもより好きな音になったと感じる。初心者もマニアもとりあえず一聴してほしい。体験しないともったいない衝撃がある。

 (協力:デノン)

山崎健太郎