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デノンから13.2chの“モンスターAVアンプ”「AVC-X8500H」。天井6ch、eARCも対応

 デノンは、「イマーシブサウンドを極めた、モンスターAVアンプ」として、世界初の13chモノリスコンストラクションパワーアンプを搭載した、13.2chの「AVC-X8500H」を2月中旬に発売する。価格は48万円。カラーはブラック。

世界初の13chモノリスコンストラクションパワーアンプを搭載した、13.2chAVアンプ「AVC-X8500H」

 2007年に発売された超弩級AVアンプ「AVC-A1HD」から10年、「今後のデノンAVRの軸となる技術、仕様、デザインを持つモデル」として開発されたのがAVC-X8500Hとなる。

 全チャンネル同一クオリティで、それぞれに独立電源供給する事で、実用最大出力260W(定格出力150W×13)を実現。大出力ながら、一つの筐体に13chのパワーアンプを搭載するために、パワーアンプ回路をチャンネル毎に、個別の基板に独立させた「モノリス・コンストラクション・パワーアンプ」構造を採用している。

1つ1つの基板が個別のアンプ基板
内部レイアウト

 これにより、チャンネル間のクロストーク、振動による音質への影響を排除。チャンネルセパレーションを極限まで高め、純度の高いリアルな音場再生を実現したという。

 増幅素子には、Hi-Fiアンプの設計思想を踏襲した大電流タイプのパワートランジスタ「DHCT」(Denon High Current Transistor)を採用。このDHCTをヒートシンク上に格子状にレイアウト、さらにヒートシンク全体をカバーする2mm厚の銅板も追加し、放熱効率を高め、発熱が大きくなる大音量再生時でも安定してスピーカーを駆動できるという。ヒートシンクには共振が少ないアルミ押し出し材を使っている。内部レイアウトは、デノン伝統のシンメトリーレイアウト。

 DHCTには、アイドリング電流補償用のデバイスを内蔵。アイドリングの安定度を向上させている。薄膜技術により、トランジスタの熱抵抗を下げ、放熱性も改善。スピーカーに瞬時に過大な電流を供給した場合でも、安定したパワーアンプの動作点を維持。余裕のあるサウンドを実現している。

 パワーアンプの入力素子には、特性の揃ったデュアルトランジスタ(2ダイス)を採用。作動回路を構成するトランジスタの特性差が最小となり、温度ドリフトの最小化を実現。カレントゲインの差が小さく、DCオフセットを最小化。微小信号や低域までの表現力を高めている。

 電源部には、13chの同時出力でも、クリーンかつ安定した電源供給を行なうために、専用のEIコアトランスを開発。ブロックコンデンサも含めて、カスタム品を使っている。

カスタム品のブロックコンデンサ

 コンデンサは下位モデルの「VR-X7200WA」に使っているものと同じだが、AVC-X8500H専用にチューニングされた大容量22,000uFのカスタムコンデンサーを2個使っている。EIコアトランスはより大型のものを採用。8Ω負荷時の実測出力は、X7200Wが1,206W(9ch)であるのに対し、X8500Hは1,471W(11ch)、1,557W(13ch)となっている。コアトランスの重さはX7200Wが6.1kg、X8500Hは8.2kg。

EIコアトランスはより大型のものを採用し、8.2kgある

 13chパワーアンプの出力トランジスタの足には、それぞれ温度検出回路を搭載。異常温度上昇を検出すると、回路を保護する。従来のヒートシンクでの検出に比べ、即座に検出できるため、電流リミッタが不要になった。これにより、リミッタに制限されない、電流供給能力を実現した。

 ボリューム部分にもこだわっており、JRCと共同で、最新CMOSプロセスによるボリュームに特化したチップを新規開発。セレクタとボリュームを別のチップとする事で、信号経路の最適化を実現。ストレートでロスの無いサウンドを実現したという。さらに、最新CMOSプロセスの半導体デバイスを使うことで、エネルギッシュで安定感のあるサウンドになったとする。

ボリューム回路の図
デジタルボード

 DSPも強化。X7200Wはアナログ・デバイセズのSHARCプロセッサを4チップ使っていたが、X8500Hは、より最新で高速なデュアルコアのチップを2基搭載。処理速度は向上しているという。このDSPが、13.2ch分のデコードやアップミックス、後述する「AL32 Processing Multi Channel」、音場補正などの同時処理を可能にしている。

 13.2ch対応を活かし、AVアンプとして世界で初めて、Dolby Atmosの7.1.6chに対応。7.1chシステムに、天井のトップスピーカー6chを組み合わせたものとなる。9.1.4chも構築可能。さらに、Auro-3D 13.1chにも今後のファームアップで対応予定。なお、DTS:Xはレギュレーションとして7.1.4ch、9.1.2chまでの対応となる。さらにフロントワイドchにも対応可能。DTS Virtual:Xもサポート。5.1ch、7.1ch環境でも、イマーシブオーディオの体験が可能。

 この他にも、多彩なパワーアンプアサインが可能。例えば、11.1ch+バイアンプモードとして、フロントスピーカーをバイアンプ駆動したり、11.1ch+2chモードでは、2組のフロントスピーカーを2ch再生とマルチチャンネル再生で使い分ける事ができる。

 さらに、カスタムモードとして各アンプのスピーカーアサインをユーザーが自由に設定可能。10chパワーアンプを使い、5.1chスピーカーを全てバイアンプで駆動する「5.1chフルバイアンプモード」や、フリーアサインとして、どの出力に何を割り当てるかをユーザーが自由に設定できるプリアンプモードも備えている。

 メインゾーンで使っていないパワーアンプを、ゾーン2、ゾーン3のスピーカーに割り当てることもできる。プリアウトは15.2chを装備し、別のパワーアンプと組み合わせることもできる。

旭化成エレクトロニクスの2ch用チップ「AK4490」を8基搭載

 DACには、旭化成エレクトロニクスの2ch用チップ「AK4490」を8基搭載。このDACは、映像回路やネットワーク回路から独立した、専用基板にマウント。周辺回路との相互干渉を防いでいる。さらに、専用基板を使うことでD/A変換回路、信号ライン、電源ラインレイアウトの最適化を実現。音質対策パーツの選定、ポストフィルターの設計などと合わせ、高性能なDACの性能を最大限に引き出せるとする。

 独自の「AL32 Processing Multi Channel」も搭載。ピュアオーディオで培った波形再生技術「AL32 Processing」を、全チャンネルに搭載したもので、PCM信号だけでなく、マルチチャンネルの全チャンネルに対して処理を実施。32bit信号にアップコンバートし、ハイビット化する事で、繊細なディテールも正確に再現し、低域の解像度にも効果があるという。

 音場補正技術の「Audyssey MultiEQ XT32」も搭載。アプリ「Audyssey MultiEQ Editor Apps」を利用すると、タブレットなどから詳細な音の調整も可能。

HDMI 2.1に盛り込まれたeARCもサポート

 8入力、3出力のHDMI端子を装備。全てのHDMI端子が、HDCP 2.2に対応。衛星放送やインターネットを通して配信される4Kコンテンツに対応でき、4K/60p/4:4:4/24bit、4K/60p/4:2:0/30bit、4K/60p/4:2:2/36bitなどの映像をパススルーできる。ただし、フロント入力は4K/30p/4:4:4/24bitまで。SD/HD映像を4Kへアップスケーリング出力もできる。

 BT.2020のパススルーにも対応。HDRはHDR10、Dolby Vision、HLGをサポートする。

 HDMIケーブル1本で、テレビの音声をAVアンプから再生する「ARC」(オーディオリターンチャンネル)は、「eARC」(Enhanced ARC)に進化。ARCはPCM、ドルビーデジタル、ドルビーデジタルプラス、DTS、AACまでの対応だが、eARCではドルビーTrue HD、Dolby Atmos、DTS-HD MasterAudio、DTS:Xまでサポート。ネットを使った動画配信サービスで、テレビが受信したDolby Atmos音声を、HDMIケーブルを介してAVアンプに送信して再生できる。この機能は、今後のファームアップで対応する予定。

 なお、eARCはHDMI規格の最新版のHDMI 2.1に盛り込まれている新機能だが、X8500HはHDMI 2.0のAVアンプながらこれに対応した形となる。ただし、今後のファームアップなどで、「X8500HもHDMI 2.1に対応させていきたいと考えている」という。

eARCに対応した

 3D音声フォーマットは、Dolby Atmos、DTS:X、DTS:Virtual Xにも対応。チャンネルベースのAuro-3Dにも対応する。

ネットワーク再生機能も

 ネットワークプレーヤー機能も搭載。無線LANも備え、IEEE 802.11a/b/g/nに対応。デュアルバンドで2.4GHzに加え、5GHzもサポート。2×2のMIMOにも対応しており、通信性能を高めている。

 LAN内のNASなどに蓄積した音楽を再生可能。再生対応ファイルは、DSDが5.6MHzまで、WAV/FLAC/Apple Losslessは192kHz/24bitまでサポートする。MP3/AAC/WMAの再生も可能。USBメモリに保存したファイルの再生にも対応する。AirPlay、インターネットラジオ受信も可能。

 Bluetooth受信機能も用意。スマートフォンと手軽に連携してワイヤレス再生できる。ラジオチューナは搭載していない。

 iOS/Android/Fire対応のリモコンアプリ「Denon 2016 AVR Remote」も配信。スマホやタブレットからAVアンプを操作でき、PCやNASなどに保存した音楽ファイルの検索、再生キューの作成・保存、ネットラジオの選局なども可能。

 HDMI以外の入力として、コンポジット×4、コンポーネント×2、アナログ音声×7、アナログ7.1ch×1、光デジタル×2、同軸デジタル×2、Phono×1を装備。出力端子は、コンポジット×2、コンポーネント×1、15.2chプリアウト×1、ゾーンプリアウト×2、ヘッドフォン出力×1を装備。LAN端子、Denon Link HD、USB、RS-232C、DCトリガー端子なども備えている。

 筐体にはトリプル・レイヤード・シャーシを採用。ボトムシャーシは1.2mmの鋼板でだが、トランスの部分には同じ厚さのトランスプレートを投入。さらに、シャーシの下部にも1.2mmのボトムプレートを装備。合計3.6mm厚となる、3層構造筐体となり、剛性を高めた。インシュレーターには、共振を防止するリブを設けた、高密度フットを使っている。

 サイドパネルは2mm厚で、最厚部は4mmのアルミパネル。トップパネルは1mm厚のスチールパネルを使っている。フロントのトラップドアには、8mm厚のアルミ無垢材を使用した。

合計3.6mm厚の3層構造筐体

 スピーカーターミナルは、ケーブルを繋ぎやすくするために、端子を横一列に配置。ケーブルの差込口を真上とすることで、ケーブルの緩みや、抜けによるショートなどを防止している。

 消費電力は900W。アンテナを寝かせた場合の外形寸法いは、434×482×195mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は23.3kg。

音を聴いてみる

 サウンド マネージャーの山内慎一氏はX8500Hのサウンドについて、「頂点に立つモデルとして、それに見合ったような音作りになっている。シャープさとディテール・厚みの絶妙なバランス。繊細さと力強さが同居したサウンドを実感していただけると思う」とコメント。

サウンド マネージャーの山内慎一氏

 実際に試聴してみると、ギタリスト、ドミニク・ミラーの「Iguazu」(2ch)では、静寂で広大な音場に、浮かび上がるギターのサウンドが、音圧豊かに押し寄せてくる迫力の中に、弦が細かく1本1本震えている様子がビジュアルとして見えそうなほど分解能が高く、細部がわかる。とはいえ、音のエッジを無理に強調させているわけではなく、トランジェントが素早く、1つ1つの音の分離が良いためで、不自然さはなく、極めてナチュラルだ。

 ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のBlu-rayで、5.1ch化された「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を聴いても、パワフルな出力をぞんぶんに活かした、圧倒的な音圧が心地よく、なおかつ、様々な楽器のサウンドがきっちりと聴き分けられる。

 オブジェクトオーディオのサウンドを、「ブレードランナー ファイナル・カット」や「ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション」で聴くと、音に包み込まれるのはもはや当然として、上からの包囲感がスゴイ。天井のトップスピーカーは、雨の音や残響音、飛行機やヘリの音など、上にも空間が広がっている事を実感させるための“追加要素”という印象を持っていたが、AVC-X8500Hの強力なパワーでドライブすると、(トップスピーカーをラージ設定する事で)音圧や低音も上から感じられるようになる。部屋中が、豊かな音圧で満たされるサラウンドの一体感は強烈で、“モンスターAVアンプ”と呼ぶにふさわしい体験だった。