レビュー

デノン「X8500H」×「ボヘミアン・ラプソディ」であの日のアリーナにワープ

映画「ボヘミアン・ラプソディ」の日本国内劇場累積動員数はすでに900万人近くになるという('19年3月上旬現在)。何度も観に行ったという方も多いだろうが、いずれにしても世代を越えて多くの老若男女がこの映画の面白さに夢中になっているようだ。

デノン「AVC-X8500H」と米国盤の4K Ultra HD Blu-ray「ボヘミアン・ラプソディ」

昨年暮れ、ぼくの音楽仲間が集まった忘年会でも「ボヘミアン・ラプソディ」の話題で持ち切りだった。お酒が進むにつれ「オレはもう3回観たよ、おまえは?」などとおっさんたちの声がだんだん大きくなっていく。黙って聞いていると、話が徐々に興味深い方向に。

「『ボヘミアン・ラプソディ』は絶対音のいい映画館で観るべきだね。Dolby Atmosっての? あれトンデモナイね。タイムマシーンに乗って85年のウェンブリー・アリーナに行ったみたいな感じ。すんげー迫力!」

ただの音楽好きの友人たちと話をしていて、“映画の音響効果”の話題が出たのは初めてのことかもしれない。それほど「ボヘミアン・ラプソディ」のライヴ・シーンの3次元立体音響効果は多くの観客の心を捉えたということだろう。

「Dolby Atmos、最新のAVアンプを使えば家でも体験できるよ」と言うと、十数年ぶりに会った友人の一人は「ん?」と怪訝な顔に。「UHD Blu-rayが出たらうちで見せてやるよ」と彼と約束をかわし、ぼくは寒空のもと家路についたのだった。「UHD Blu-rayってなんだ?」という彼のキョトンとした顔を思い出しながら。

ボヘミアン・ラプソディ
(C)2018 Twentieth Century Fox Film.

4K/HDR/広色域が堪能できる、超高画質UHD BD

2月中旬、「ボヘミアン・ラプソディ」の米国盤UHD BDが我が家に届いた。日本語字幕付(演奏シーンの歌詞にも日本語字幕が!)で値段も安い。国内盤がいつ発売されるかまだわからないが、ファンとしては待ちきれない。音楽ソフトの輸入販売は是か非かが問われた「頒布権」論争から幾星霜。ネット通販サイトでポチッとすれば世界中どこからでも欲しいモノがいち早く入手可能なわけで、国境を越えて世界の欲望を支配する密林帝国の巨大さに改めて底知れぬ恐ろしさを覚える。

米国盤の4K Ultra HD Blu-ray「ボヘミアン・ラプソディ」

本作は先に発表された第91回アカデミー章で最多の4部門(主演男優賞、編集賞、録音賞、音響編集賞)を受賞するなどハリウッド業界人からの評価も高い。映画館では 1回のみ鑑賞の筆者だが、UHD BDで本作を繰り返し観て感心させられたのはラスト・シーンまでいっさいダレることなくテンポよく物語を紡いだ編集の巧さ(途中監督交代のトラブルがあったとは思えない)、“アイデンティティ・クライシス” に悩むフレディ・マーキュリーという複雑で難しいキャラクターに扮したラミ・マレックの秀逸な演技、そしてクイーンの演奏力のすばらしさとスタジアム・ライヴの迫力をみごとに甦らせた音響スタッフの力量の高さだった。あ、そうか、受賞結果を眺めてみればアカデミー会員もぼくと同じように感じていたのだナ。

(C)2018 Twentieth Century Fox Film.

入手した米国盤の画質・音質のレベルはきわめて高い。撮影用カメラには70mmフィルムに迫る画質が実現できるといわれるARRIの「Alexa65」が使われており(ソースフォーマットは6.5K/3.4K)、我が家の65型有機ELテレビ東芝「65X910」で観ると、そのキレのよい色合いの豊かな映像にうっとりと見とれてしまう。特にフレディと恋に落ちるメアリー役、ルーシー・ボイントンのアップショットの冴えは息をのむほど。4K/HDR/広色域のUHD BDの魅力が堪能できる超高画質ソフトと言っていいだろう。

「AVC-X8500H」×ボヘミアン・ラプソディはとんでもなくすばらしい

さて、この作品のもう一つの大きな魅力が、ぼくの音楽仲間たちを驚かせたDolby Atmosによる 3次元立体音響効果だ。現在ぼくはデノンのAVアンプ「AVC-X8500H」(48万円)を用いてサラウンドサウンドを楽しんでいるが、本機を用いて聴いたUHD BD「ボヘミアン・ラプソディ」はもうホントにとんでもなくすばらしかった。ぼくが観た都内のシネコンのAtmos上映館とほぼ同質の感動が得られたと言っても過言ではない。もちろん映画館のあの圧倒的な「音圧」にはかなわないが、「音質」や「情報量」というファクターならば映画館を越える魅力が味わえるのである。

AVアンプ「AVC-X8500H」

AVC-X8500Hは、昨年春に発売されたデノンのフラッグシップ・モデル。一体型で13チャンネル分のパワーアンプを積んでおり、トップスピーカー3ペア計6本の最大7.2.6構成のシステムを組むことができる。国産一体型AVアンプでトップ6本再生が可能なのは、今のところ本機だけである。

7.2.6というのは、サラウンドバック×2本を含めた7チャンネルにLFE(Low Frequency Effect)を受け持つサブウーファー×2基、それにトップスピーカー×6本の構成という意味だ。

13チャンネル仕様のパワーアンプは、チャンネルごとに基板を独立させたモノリス・コンストラクション。ここまで規模が大きくなると発熱によるトラブルが心配になるが、13チャンネル分の大電流型パワー素子DHCT(Denon High Current Transistor)をヒートシンク脇の基板上に格子状に配置、2mm厚の銅板を追加して放熱効率を確保したという。たしかに映画を2本続けて観た後にトップパネルを触ってもアチチとはならない。

チャンネルごとに基板を独立させたモノリス・コンストラクション
手前に見えるのが大電流型パワー素子「DHCT」。ヒートシンク脇の基板上に格子状に配置している
筐体に格納した状態

本機に採用されたDAC素子は旭化成エレクトロニクスの「AK4990」で、この高級2chチップを8基(合計16ch)採用し、その基板を映像回路やネットワーク回路から独立させることで干渉によるノイズの発生を抑えている。13.2チャンネルのデコードやアップミックス、デノン独自のアナログ波形再現技術「AL32 Processing Multi Channel」 や音場補正など負荷の大きなデジタル信号処理を司るのは、 2基の32ビットデュアルコア・タイプのDSP だ。

ぼくの部屋のスピーカー構成は、センターレスの6.1.6 。L/Rスピーカーは38cmウーファーと4インチ・コンプレッションドライバーを搭載したホーン型のJBL「K2S9900」で、このスピーカーに見合うセンタースピーカーが見当たらないということ、サウンド(孔開き)スクリーンではない我が家の場合、センタースピーカーをスクリーン下方に置かなければならないが、それだと声が下から聞こえてくる違和感が強く、スクリーン上の映像と音像位置に不一致が生じてしまう。主にこの二つの理由で我が家ではファントムセンター再生としている。

L/RスピーカーはJBL「K2S9900」

以前はトップスピーカー2ペア4本(LINNの平たい形状の2ウェイ機UNIK)を使ってAtmos再生を行なっていたが、3ペア6本のトップスピーカー再生が可能なAVC-X8500Hの導入に合わせて、ずいぶん前にドルビープロロジック2Z用に、JBL K2S9900の後方に配置したMKサウンドの「SS150」を活用することを思いつき、実践してみた。

スクリーン向かって左、奥にあるのがMKサウンドの「SS150」、手前がLINNの「UNIK」
左が「SS150」、右が「UNIK」
背後はこうなっている

リンとMKサウンド、異なるメーカーのスピーカーの組合せでは音色の齟齬が生じるのではと懸念したが、実際にやってみるとほとんどそれを意識させることはなく、トップ4本再生よりも音場の3次元的な広がりが断然スムーズになり、トップ6本再生の魅力を実感させられた次第。

先述した大電流型パワー素子DHCTを用いた本機のスピーカー駆動力の高さはすこぶる高く、いわゆるAVアンプの常識を覆す実力を有していると言っていい。メインスピーカーのJBL K2S9900の38cmウーファーをここまでしっかりとグリップして鳴らすAVアンプをぼくは他に知らない。

当時のウェンブリー・アリーナにワープしたような臨場感

1985年、ロンドンのウェンブリー・アリーナで行われた「ライヴ・エイド」。そのクイーンのステージを再現した本作のラスト・シークエンスのAtmos効果は絶大で、まさにタイムマシーンに乗せられて当時のウェンブリー・アリーナにワープしたかのような錯覚を抱くほど。大観衆の地鳴りのような歓声、その臨場感はタダゴトではない。

(C)2018 Twentieth Century Fox Film.
(C)2018 Twentieth Century Fox Film.
当時のウェンブリー・アリーナにワープしたような臨場感だ

このシークエンスをトップ4本で再生してみると、その臨場感がかなり後退することがわかる。やはりドルビーラボが言うように、トップスピーカーは多ければ多いほどよいということなのだろう。ホームシアターで天井に何本もスピーカーを取り付けるというのは非現実的だが、前後の壁などを利用するハイト配置でオーバーヘッドスピーカーを運用するのもアリだと思う。

それからフレディの艶のある歌声やディストーションを効かせたブライアンのギターの厚みのある響きが、大音量でもにじんだり歪んだりすることなく余裕を持って再生されるところもAVC-X8500Hの魅力。一方、音量を下げていっても音があまりさびしくならないのも実力の高さを物語る点だろう。

その資質は静かな室内シーンでもおおいに発揮される。たとえばフレディがメアリーに婚約指輪を渡す場面。ここではオペラのアリアが小さく流れ、睦み合う二人の呼吸が濃密な空気感を醸成していくのだが、その感情の機微をAVC-X8500Hは見事に表現するのである。こういう静かな場面こそノイズ対策を徹底したAVアンプの凄みが現れるのだと思うし、映画館では味わえないホームシアターならではの愉しみ、「情報量」だと思う。

本作を再生するうえでのポイントは、LFEのレベル設定。自動音場補正で設定したサブウーファーのボリューム位置のまま、先述した「ライヴ・エイド」のステージ・シーン等を再生すると、その低音の音圧の高さにアタフタしてしまうこと必至。本格的な防音施工をしていない部屋では手動でサブウーファー・レベルを下げるようにしましょう。

さてさて、今度の週末は忘年会で久しぶりに会った昔の音楽仲間をうちに呼んで、「ボヘミアン・ラプソディ」で驚かせてやるかナ……。

(協力:デノン)

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。