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マランツ、「10年の節目」となる13.1ch AVプリアンプ「AV8805」

 ディーアンドエムホールディングスは、マランツブランドのハイエンド13.1ch AVプリアンプ「AV8805」を3月中旬に発売する。価格は50万円。

ハイエンド13.1ch AVプリアンプ「AV8805」

 Dolby Atmos、Auro-3D、DTS:Xの全てに対応。Dolby Atmosは7.1.6chや9.1.4chに対応。ハイスルーレートとチャンネルセパレーションの高さを実現する、独自の電流帰還回路「HDAM-SA」を13.2ch分、合計15枚の独立基板で採用した。

HDAM-SAを13.2ch分、独立基板で採用

 一般的なAVアンプではオペアンプを使用するが、「目的に沿った性能を出しやすくするため」に、あえてオペアンプを使わず、フルディスクリートのHDAM-SAを採用。13.2ch分、15の独立した基板を内蔵している。

フルディスクリートのHDAM-SAを13.2ch分、15の独立した基板で内蔵している

 これにより、スルーレートがオペアンプを使った時と比べ、約16倍になり、「プレミアムHi-Fiコンポーネントに匹敵するほどの情報量が豊かで低歪、ハイスピードなサウンドを実現した」という。この特徴は従来モデル「AV8802」と同じだが、AV8805では採用しているパーツをブラッシュアップした。

 さらに、バランス回路向けの反転アンプの部分にもHDAM-SAを採用。高品位なXLR出力を可能にしている。

バランス回路向けの反転アンプの部分にもHDAM-SAを採用

 バランス(XLR)、アンバランス(RCA)のどちらも、15.2chのプリアウト端子を装備。フロントワイドやサラウンドバックを含む最大9chのフロアスピーカーと、センターハイトやトップサラウンドを含む最大8chのハイトスピーカーの中から最大15chをアサインできる。

 最大13.2chの同時出力が可能で、Dolby AtmosやAuro-3Dなど、再生するサウンドモードに合わせて出力する端子を自動で切り替えられる。入出力端子には金メッキ処理を施した。

 DAC回路は、映像回路やネットワーク回路から独立した専用基板にマウント。相互干渉を排除し、「透明感が高く空間表現力と躍動感にあふれるサウンドを実現した」という。DACチップには、旭化成エレクトロニクスの「AK4490」を採用。AVアンプではマルチチャンネル用DACを採用する製品が多いが、あえてHi-Fi向けの2ch DACを、8個搭載。全15ch 同一クオリティのアナログポストフィルター回路も搭載するほか、AV8802から、DAC周辺回路のパターンとパーツを新設計し再チューニング。コンデンサや出力段のオペアンプがグレードアップした。

デジタル用基板

 Dolby Atmosなどのサラウンド音声信号のレンダリングやデコード、13.2ch分の音場補正などを処理するために、アナログデバイセス製の32bitフローティングポイントDSP「SHARC」の最新型デュアルコアプロセッサを2基搭載。従来よりも個数は減ったが、デュアルコア化と動作周波数の向上によって処理能力は12.5%向上。高速かつ正確な信号処理が可能になったという。

 アナログオーディオ回路も全面的に設計を見直し、レイアウトの最適化や信号ラインの最短化を実現。今までは1つのICに統合していた入力セレクター、ボリューム、出力セレクターをそれぞれの機能に特化したカスタムデバイスによって置き換えることで、不要な回路の引き回しを排除。各デバイスの高性能化と合わせ、「より透明感の高いサウンドを実現した」とする。

Dolby Atmos、Auro-3D、DTS:Xの全てに対応

 Dolby Atmos、DTS:Xに対応。13.2chのプロセッシングと出力に対応しているため、Atmosでは7.1.6ch、9.1.4chの再生が可能。DTS:Xではフォーマットの上限である5.1.6ch、7.1.4ch、9.1.2chの再生に対応。ハイトスピーカー信号を含まない従来のチャンネルベースのコンテンツも、Dolby SurroundやNeural:Xで3Dサウンドにアップミックス再生できる。

 発売後の無償ファームウェアアップデートにより、Auro-3Dにも対応する。5.1chシステムにフロントハイトとサラウンドハイトを追加した9.1chシステムを基本として、サラウンドバック、センターハイト、トップサラウンドスピーカーを加えた13.1chシステムまで拡張できる。Auro-Maticアルゴリズムによって、モノラル、ステレオおよびサラウンドコンテンツを自然な3Dサウンドにアップミックスすることも可能。

 DTS Virtual:Xもサポート。ハイトスピーカーやサラウンドスピーカーを設置していないステレオ、5.1ch、7.1chなどの環境でも、高さ方向を含むあらゆる方向からのサウンドに包み込まれるイマーシブオーディオを仮想的に再現する。

HDMI 2.1にも対応予定

 HDMI端子は入力8系統(フロント1系統を含む)、出力3系統を装備。テレビとプロジェクタの同時接続や、マルチゾーン出力に対応する。

 HDMI端子は、HDCP 2.2にも対応。Monitor 1のHDMI出力端子はARCをサポート。ファームウェア・アップデートによるeARC(Enhanced ARC)への対応も予定している。さらに、今後HDMI 2.1への対応も予定。有償の基板交換による対応が予定されている。

 HDMI入力は、4K/60pのパススルーに対応。4K/60p/4:4:4/24bitや、4K/60p/4:2:0/30bit、4K/60p/4:2:2/36bitなどのフォーマットもサポート。色情報の密度と階調性のなめらかさを両立した映像表現を可能にした。従来のHD映像の2倍以上の広色域表現を可能にする「BT.2020」のパススルーにも対応する。

 入力されたHDMI、コンポーネント、コンポジットの映像を、1080pや4K(3,840×2,160ドット)へアップスケーリングしてHDMI出力することも可能。

ネットワーク再生機能も

 ワイヤレス・オーディオシステム「HEOS」の技術を投入したネットワークオーディオ機能も搭載。セットアップ、操作は無料でダウンロードできるスマホ/タブレット向けの「HEOSアプリ」で行なう。

 ストリーミングサービスやインターネットラジオの受信、LAN内のNASなどに保存した音楽ファイル、USBメモリからの再生、Bluetooth機器との連携なども操作が可能。また、同一のネットワークに接続した他のHEOSデバイスに、AV8805で再生中の音楽を配信することもできる。

 ストリーミングサービスは、Amazon Music、AWA、Spotify、SoundCloudなどに対応。インターネットラジオは、MP3、WMA、AACフォーマットで配信されている放送に対応。インターネットラジオ局の検索にはTuneInを利用する。

 ネットワークプレーヤー機能としては、PCMは192kHz/24bitまで、DSDは5.6MHzまでの再生に対応。DSD、WAV、FLAC、Apple Losslessファイルのギャップレス再生にも対応。AirPlayやBluetoothにも対応しており、iOSデバイスやスマートフォンからも再生できる。

 無線LANはIEEE 802.11a/b/g/n接続に対応。2.4GHz帯と5GHz帯の両方が利用でき、MIMOにも対応しているため、高速かつ安定した通信が可能という。

 スマートフォン/タブレット向けの、本体操作・設定用リモコンアプリ「Marantz 2016 AVR Remote」も用意する。

 付属の専用マイクを使ったオートセットアップ機能「Audyssey MultEQ XT32」も搭載。最大8ポイントでの測定結果をもとに、スピーカーの距離、レベル、サブウーファのクロスオーバー周波数を最適な状態に自動設定する。

 接続したスピーカーとリスニングルームの音響特性を測定し、時間軸と周波数特性の両方を補正することで、ルームアコースティックを最適化する事も可能。2台のサブウーファを個別に測定、および補正する「Sub EQ HT」も搭載する。

 ドルビーイネーブルドスピーカーについては、Audyssey MultEQによる自動補正に加え、天井までの高さを設定することでさらに補正の精度を高めることができる。

 「Audyssey MultEQ Editor」アプリ(税込2,400円)も用意。AVアンプ単体では設定できない詳細な調整項目が用意され、部屋に起因する音響的な問題に対してさらに精密なカスタマイズが可能。

フロントパネル

電源部にもこだわり

 電源部には、OFC巻線やアルミケースを採用し、マランツのプレミアムHi-Fiコンポーネントと同等グレードのトロイダルトランスを採用。「エネルギー感やサウンドの開放感の向上に大きく貢献した」という。

 二次巻線はDAC、アナログオーディオ回路、HDAM-SAプリアンプ回路など、回路ごとに分け、相互干渉を排除。シールドにより外来ノイズを遮断し、トランスから周辺回路への輻射も抑制した。

 5mm厚のアルミプレートと1mm厚のスチールプレートを組み合わせたハイブリッド・トランスベースを採用。シャーシからのアイソレーションを強化し、振動および磁気による音質への影響を抑えている。

 アナログオーディオ回路用電源回路には、AV8805のためにエルナーと新開発したカスタムブロックコンデンサを搭載。マルチチャンネルプリアンプにとって最適という10,000μF/35V×4の容量と、ハイスピードな電源供給能力のバランスを備えているという。

アナログオーディオ回路用電源回路

 サウンドマネージャーがリスニングテストを繰り返し行ない、聴感上の品位を追求。「イマーシブオーディオやハイレゾ音源が持つ圧倒的な情報量を余すことなく引き出す」という。

 DSPやネットワーク、USBなどのデジタル回路への電源供給には専用のローノイズSMPSを使用し、アナログ回路との相互干渉を排除。デジタル電源回路の動作周波数を通常の約3倍に高速化してスイッチングノイズを再生音に影響の及ばない可聴帯域外へシフトしている。

 DAC回路を専用基板よって独立させ、シールドにより回路間のノイズの飛び込みを抑制。電源ラインに流入するノイズはデカップリングコンデンサーを用いて除去する。コンデンサーの種類や定数はサウンドマネージャーによる試聴を繰り返して選定。導電性ポリマーコンデンサや薄膜高分子積層コンデンサなどの高性能パーツも活用している。

 シャーシには銅メッキを施し、基板やシャーシを固定するビスやワッシャーの種類を使用する箇所に応じて変更している。筐体の剛性を高め、共振を抑制するために、3ピーストップカバーを採用。メインシャーシにボトムプレートを加えたダブルレイヤードシャーシにより、不要振動による音質、画質への影響も防止した。

上から見たところ
内部構造

 HDMI以外の端子は、映像入力がコンポーネント×3、コンポジット×5。音声入力が、バランス(XLR)×1、アンバランス(RCA)×8、Phono(MM)×1、7.1ch入力×1、光デジタル×2、同軸デジタル×2。

 映像出力端子は、コンポーネント×1、コンポジット×2(Zone2×1を含む)。音声出力端子は15.2chバランスプリアウト×1、15.2chアンバランスプリアウト×1、ゾーンプリアウト×2、ヘッドフォン×1。LAN端子や、USB、RS-232C、DCトリガー出力、フラッシャー入力、マランツリモートバスなども備えている。

 消費電力は90W。待機電力は0.2W(通常スタンバイ)、0.5W(CECスタンバイ)。外形寸法は440×410×185mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は13.7 kg。

背面

「10年を経た、AVプリの1つの節目のようなモデル」

 マーケティンググループの 髙山健一氏は、2008年の「AV8003」、2013年の「AV8801」、2015年の「AV8802」と、これまでのAVプリアンプを振り返り、「ピュアなHi-Fiクオリティを、マルチチャンネルでも実現するため、パーツもHi-Fiグレードのものを多数投入。10年前から比べると、様々なパートを成長させてきた。そしてAV8802では、フルディスクリートプリアンプも実現。それから約2年をかけ、(AV8805では)中身を徹底的にブラッシュアップ。1,600個以上のパーツが変わっている。10年を経た、AVプリの1つの節目のようなモデルと位置付けている」と、AV8805を紹介。

 尾形好宣サウンドマネージャーは、「Hi-Fiのノウハウ、パーツを随所に使っている。アナログオーディオ回路用電源回路のブロックコンデンサも、普通は2個しか無いが、大容量のものを4個搭載している。メーカーに試作してもらった幾つかの中から、ベストなものをチョイスした。音の方向としては、SN感の追求や、いかに静けさを出せるかという表現力の部分に注力した。聴いていて“空間の広さ、今までよりも広い空間にいるな”と感じてもらえると思う」と説明した。

尾形好宣サウンドマネージャー

音を聴いてみた

 前モデル「AV8802」も、音場が広大で、ワイドレンジな再生を特徴としていたが、AV8805に切り替えると、広大と思っていた音場がさらに拡大。部屋の壁が存在しないような感覚だ。

上が前モデル「AV8802」、下がAV8805

 1つ1つの音もよりクリアで描写が細かくなる。「ブレードランナー」の雨音や、ビル内の反響など、静かなシーンでも音の進化は確かに感じる。

 トランジェントや、低域の分解能・締まりも良くなっている。そのため、走り去る車のエンジン音や、銃撃音が迫力を通り越して「恐ろしい」とすら感じる。

 また、Atmosのデモディスクに収録されている「Amaze」の、最後に出てくる「ズドーン」という低音の描写がスゴイ。低域の分解能が悪い機器で再生すると、団子のように音がくっついて「ボワーン」と、緩んだゴム紐のような音になりがちなのだが、AV8805では地鳴りのように沈む低域の中でも、複数の音が重なっている様子がよくわかり、「ズズーン」と不必要な膨らみもなく、タイトでソリッドだ。