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増加する「Netflixと組んでのアニメ化」、クリエイター側から見た“魅力”とは
2020年10月27日 18:38
Netflixは27日、2020年後半~2021年配信作品の最新情報を発表する「Netflix アニメフェスティバル 2020」を開催。「スプリガン」や「テルマエ・ロマエ ノヴァエ」や「天空侵犯」、OVA「岸辺露伴は動かない」、「極主夫道」といった多くの新作情報を発表した。クリエイター側がNetflixと組んで多くのアニメを手掛ける流れが活発化しているが、表現の場やビジネス面においてクリエイター側にどのような魅力があるのか、発表会において取材した。
発表会に参加したのは、「スプリガン」などを手掛けるデイヴィッドプロダクションのプロデューサー・田中修一郎さん、「テルマエ・ロマエ」作者・ヤマザキマリさん。そして元Production I.G所属で、脚本家・プロデューサーとしても活躍していた、Netflixの櫻井大樹チーフアニメプロデューサーだ。
改めてのアニメ化として、「テルマエ・ロマエ ノヴァエ」をNetflixと共に作り上げていく事になった、作者・ヤマザキマリさん。Netflixとタッグを組んだ感想として、「縛りや忖度が無く、例えばスポンサーのことを考えるといったこともなく、普通だったらここまでやらないよね、というところまでできる。その開放感、“民主主義的な喜び”みたいなものはありますね。“規制されていないこと”が表現にとっては第一条件。それを許してくれる配信(プラットフォーム)が存在するというのは、嬉しい事ですね」と語る。
2021年の配信開始に向け、「スプリガン」を作っているデイヴィッドプロダクションの田中修一郎プロデューサーは、Netflixと初のタッグを組んだ感想として、「“ロングテール”だなと最初に感じました。(作品を作れば)例えば、5年後、10年後、30年後もNetflixで配信されている……という事になる。そこまで含めた仕上げ方、例えば映像がHDRだったり、通常テレビでは音声は2chですが、映画作品でもあまりそこまで作らないようなDolby Atmos音声で作ったりと、“将来的にずっと見続けられるフィルムとして定着させる”という強い意志を、Netflixさんから強く感じました」という。
Netflixは日本だけでなく全世界にも配信しているプラットフォームだが、それについてヤマザキさんは、「(例えばテルマエ・ロマエの場合)古代ローマだから、ぜんぜん今とは関係ない世界だろうと思われるかもしれないですが、私達と共通するところがある。そういう事は、いろんなところにあるんです。現代を生きる、地域も違う私達に共通するところがある。それと同じように、アニメが世界のいろんな人達に配信され、それがアニメという共通のツールになり、言語になっていけると感じます」と語る。
一方でヤマザキさんは、「圧倒的な影響力を持つわけで、今までであれば、私のマンガも翻訳されない限り世界の人達には伝えられなかった。でも、(Netflix配信のアニメであれば)多くの人達に届けられる。これによって、作品との向き合い方も今までと変わってくる。『これでいいんだ』という妥協がなくなる。世界のいろんなことを踏まえ、知ったうえで、どんな風に見せると伝わりやすいのかなど、自分の研究意識も高める必要があり、妥協が許されなくなる。それだけ真剣にものが作られていくキッカケになると思う」と、クリエイターにとって新たな刺激になるとした。
逆に田中プロデューサーは、「『Netflixのアニメが1億世帯で見られています』と言われても、(規模が大きすぎて)まるで見えないところに向かって玉を投げなきゃいけないような、どうしたらいいのかという悩みは、日々現場で模索されていると感じます。ですので、我々はNetflixさんと組むのが今回が初めてですので、まず、日本という目線を意識して、作っていくという作り方もあるのかなと思っています」と語った。
Netflixオリジナルアニメの予算規模は?
アニメ作品に積極的に投資を行なっているNetflix。櫻井氏は、各作品に対する予算規模の考え方として、「(アニメ制作会社に対して)“僕らNetflixが目指している映像のクオリティと(完成までの)期間に対して、必要なお金はすべて負担します”とお伝えしています。制作会社さんとお話させていただくと、よく『いつまでに仕上げればいいですか?』と聞かれるのですが、『逆にそちらが決めてください』とお願いしています」。
「無理に、ブラックに働かずに作品が完成できる期限はいつまでになりますかとお聞きして、ではその期限は守ってくださいと、お願いしています。(完成までに)かかる費用の見積もりもください、それはお支払いしますというカタチです」。
実際に「スプリガン」を手掛けている田中プロデューサーは、「(スプリガンの)予算規模は、14年間、いままで我々のスタジオで作ってきた作品の中では、最も大きな予算をつけていただいているのは間違いありません」と言う。
一方で田中プロデューサーは、「大きな予算と共に、要求値も高く、一緒に関わってくれているクリエイターへの(要求)ハードルも上がってきます。いわゆる『予算が大きくて利益が出やすい』というシンプルな話ではありません。ただ、チャレンジはできる。いつもよりたくさん利益が出るかというと、そうではないなという実感はしています。しかし、チャレンジの過程において、社内のシステムを変革できる可能性があります。幸いNetflixさんとは、次の作品、次の次の作品と、(今後についても)お話できているので、社内にストックできる技術、インフラみたいなものを“作品と共に作っていける”メリットはあると思います」とのこと。
さらに田中プロデューサーは、「Netflixさんと一緒に作っていて、一番ありがたいと思っているのは、BtoBとBtoCの話が同時にできる事です。(今までのTVアニメでは)アニメスタジオから見た場合、ビジネスの話と、視聴者(お客さん)の話では、話す相手が違っていて、渾然一体とディスカッションできない事がありました。Netflixさんの場合は、世界の人と直接つながっていて、かつ作品の話とビジネスの話が同時にできる そこにも(今までのシステムを)ブレイクスルーできる可能性があるなと感じています」と魅力を語る。
櫻井氏は、「Netflixにはしがらみがありませんので、誰の許可をとったり、顔色をうかがったりする必要がありません。僕と監督と脚本と3人で話していて、『それ面白いですね!』で決まっていくようなイメージです(笑)。(今までのアニメに多い)製作委員会方式では、脚本の確認に十数人参加して……といった事もあり、あるところはオモチャを売りたいとか、そういった全員の意向をかなえるために、針の穴を通すような事をしなくていい。『意思決定が素早く、ストレスが無い』というのは、クリエイターさん達からも言ってもらえます」と、振り返る。
ただ、櫻井氏自身はクリエイター側に様々な意見を提案しているとのこと。「結構直してもらっているなというところもあるんですが(笑)、クリエイターさん達も“自由にやりたい”と言いつつも、『あの意見で俺の作品が良くなった、もっと言ってよ』と言われることもあります。自由を認めつつ、野放しに作ってもらうわけではなく、“一緒に作っている”感じですね。アニメの製作委員会やプロデューサーとの関係よりも、個人的には“漫画家と編集”のような関係に近いのかなと思っています」と、分析した。
アニメ制作会社と包括提携を結ぶ理由
既報の通りNetflixは10月、オリジナルアニメのラインナップ拡充に向けて、新たに大手アニメ制作会社であるサイエンスSARU、MAPPA、ANIMA&COMPANY、Studio Mir(スタジオミール)の4社と、新規作品制作における包括的業務提携を締結。それ以前の2018年には、プロダクションI.Gとボンズ、2019年にはアニマ、サブリメイション、デイヴィッドプロダクションと包括的業務提携を締結している。
こうした“包括提携”をすすめる背景について櫻井氏は、「私は以前プロダクションI.Gで16年間、前半は脚本、後半はプロデューサーをやっていましたので、制作会社にとってどういう苦労があるのかは、わかっているつもりです。当時一番困ったのは、いま(依頼を)受けている作品と、次に受けている作品の予算規模が違う時です。例えば、予算規模が大きい作品を作ってから、小さい作品に取り掛かる場合、(チームの人員をその規模に合わせて)解雇しなければならない。そして、小さい作品から、大きい予算の作品をやる時は、ただでさえ(業界に)人材が少ないのに、ワッとかき集めなければならない。この繰り返しで、そこにタイムラグがあり、予算スケジュール的にも無駄があるというのが、骨身にしみて感じていました」と振り返る。
それを踏まえて、「だいたい同じ予算規模で、今後も作品(の依頼)が入り続けるというのがあらかじめわかっていれば、人材の確保も設備投資もしやすくなります。そうすれば、コストのムダも無くなる、魅力に感じていただけるだろうと、わかっていましたので、Netflixとして包括的な提携をして、数年間にわたって複数作品を作っていきましょう、という提案をさせていただいています」。
「当たり前の話なのですが、良い作品を作るためには、良い現場を確保しなければならない。Netflixとしてアニメの本数を増やしていくためにも、包括提携を拡大して、我々にとってのニーズを満たしつつ、相手にとっても魅力ある提案はなんなのかを考えて提案させていただいています」(櫻井氏)。
Netflixオリジナルアニメ化の企画は、どのように決まるのか
Netflixオリジナルアニメとして発表される作品は、「スプリガン」のような懐かしいものから、新しい作品、人気ゲームを原作としたもの、完全オリジナルの作品など、バラエティに富んでいるのが特徴だ。様々な企画の中から、“Netflixでアニメ化する”と決める際の、共通するポイントや指標のようなものはあるのだろうか?
櫻井氏は、「Netflixの社内に分析チームがあり、このIPをアニメ化したら、このくらいの反響が見込めるといったガイドラインを出してもらえるようになっています。ただ、Netflixが面白いのは“ガイドラインだから無視してもいい”という権限が、クリエイティブ側に与えられています。つまり、『面白いと思えば、ガイドラインの数字は無視して作っていい』というわけです(笑)」。
「例えば“スプリガン”の場合、担当ディレクターの小原さんが『どうしてもやりたいんだ』と言ったので、制作が決まりました(笑)。逆に、『これはなかなか売れっている作品だから、アニメ化するのはどうか?』と聞いても、手が挙がらない事もあります。プロデューサーも、スタジオのクリエイターさん達も『やりたいね』と、全員ノッているのであれば、(ガイドラインの数字は悪くても)賭けてみようと、なりますね」。