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ソニーPCLが渋谷に8K編集スタジオ。鬼滅やエヴァでも活用「RS+」とは

ソニーPCL「渋谷スタジオ」の8K編集室

ソニーPCLは28日、8K/4Kによるオンライン編集およびMA環境を備えた渋谷スタジオをメディア関係者らに公開。合わせて、高解像映像にアップスケーリングする「RS+」や、AIを活用した高品位i/p変換、人物の顔を自動でマスク切りするなどの最新ソリューションを披露した。

7月5日より営業開始している「渋谷スタジオ」は、8K/4Kによるコンテンツ制作のためのポスプロ設備で、2つの編集室と5.1chのMA室、ナレーションブースを完備する。同社の8K編集室は五反田に続き、2拠点目となる。

渋谷スタジオの最大の特徴が「8Kリアルタイムプレビュー」に対応していること。

8K編集ルーム(EDIT-1)では、Glass Valley製のハード/ソフトウェア「Rio 8K」と、ソニーの85型8K液晶ブラビア「KJ-85Z9G」により、8K映像をリアルタイムに確認しながら編集作業することが可能。同じフロアのMA室とも繋がっており、8K映像をプレビューしながらMAチェックすることができるようにした。また編集からMAまで、一貫した4K/HDR映像のモニタリング環境を備えるのもポイント。

8K編集ルーム(EDIT-1)。写真左にあるのが、ソニーの85型8K液晶ブラビア「KJ-85Z9G」。サラウンドは5.1chで、スピーカーはGenelec製
コンソール部分。写真右のマスモニは、ソニーの4K液晶「BVM-HX310」

さらに五反田にあるクリエイションセンター内のポスプロ設備とネットワーク連携することで、Flameなどを含む制作環境の拡張が可能。独自のリモートシステムを備えており、クリエイションセンター、高円寺スタジオ同様に、編集中の映像・音声の低遅延・高品質リアルタイムプレビューに対応し、遠隔地など場所を選ばないプレビューが行なえるなど、つながる・つなげるをテーマにした“スマートスタジオ”を目指したという。

同社技術部門 アドバンスドプロダクション2部 担当部長の神野学氏は「NHKのある渋谷界隈では、4K/8K番組制作が盛り上がっている。数年前から、我々は8Kコンテンツなどの制作をコンスタントに手掛けてきており、技術者含め、制作のノウハウやスキルを積み上げてきた。4K/8K放送は多くの方に見てもらえる重要なソリューション。やや後発ではあるが、渋谷にスタジオを新設することで、我々が長年培ってきた高精細・高画質・高品質なものづくりを、放送にも展開していきたい」と意気込みを話す。

DaVinci Resolveなどをシステムに組み込んだ4K編集ルーム(EDIT-2)。奥に見えるクライアントモニターは、ソニーの65型4K液晶ブラビア「KJ-65X9500H」。Genelec製スピーカーを5.1chサラウンドで配置する
2ch/5.1ch対応のMAルーム。ステレオ用の埋め込みスピーカーはPMC「IB2S-A II」で、5.1ch用スピーカーはKS Digital「C8」。
ステレオ、マルチのミックスに応じて、スピーカースタンドの昇降が可能になっている

鬼滅やエヴァ、FFの高画質化に使われているRS+

新スタジオの公開に合わせ、同社が4K/8K高画質ソリューションとして提供する「RS+」などの映像サービスデモも行なわれた。

「RS+」とは、同社オリジナルの超解像技術を使用したコンテンツ“アップグレード”ソリューションで、素材の特性やコンテンツの演出意図、使用するデバイス等に合わせ、パラメータをチューニングすることで高解像・高精細映像を実現。SDからHDへの変換はもちろん、2Kや4Kを8Kに変換したり、60コマ、120コマ素材もサポートする。

RS+により、テクスチャの再現性を改善したり、トレース線などのエッジをスッキリさせたり、ジャギーを軽減するなどの効果が得られるとしており、今年大ヒットを記録した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のドルビーシネマ版、UHD BD「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.333」(8月25日発売)、UHD BD「FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN COMPLETE 4K HDR REMASTER BOX」(9月15日発売)などに同技術が採用されている。

RS+はもともと、アニメコンテンツの高画質化を目的に開発をスタートした技術だったとのことだが、近年では小室哲哉のBD「Digitalian is eating breakfast Special Edition」や、TM NETWORKのBD「TMN DECADE 1984-1994 2020 HD REMASTER」、「All the Clips 1984-1999 Refinement」など、実写素材のSD→HD化にも使われているとのこと。

「FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN」を使ったデモ。本作のRS+処理に関しては、シーン毎に最適なパラメータを適用し、4K/HDR化を実施。CGのディテールがより見えるようになったほか、HDRにより雲の表現がリアルに再現できているという

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RS+の追加機能として開発を進めている技術「AI i→p変換」、および「AI SHAPE FITTING」(仮称)も展示。

AI i→p変換はその名の通り、AIを活用してインターレース素材(59.94i/60i)を高品位なプログレッシブ映像へと変換する技術のこと。一般的なi/p変換(主にマージ処理)では被写体やカメラが動くと映像がガタガタと揺れてしまうが、AIを使ったi/p変換では、がたつきのない滑らかなプログレッシブ映像を生成できるという。

同社説明員は「現在20万ファイルまでAI学習させている。精度の更なる向上を目指し、今後も多くのファイルを学習させ、クオリティをアップさせる」と話す。

映像内の人物の顔を自動で検出することで、肌補正時の合成用マスク切りを簡素化するAI SHAPE FITTINGは、現在開発中の参考出典技術。

CMでは1フレーム毎に手作業でマスク切りして肌補正を行なうそうだが、このAI自動検出を使うことで作業者のマスク切りが短縮でき、ドラマや映画などの制作でもCM品質の肌補正をスムーズに行なうことができるとのこと。

人物を特定するアルゴリズムは、画面内に複数の人物がいる場合でも検出可能。たとえ顔が傾いても(横顔など)、およそ1/3の面積があれば検出できるという。

解析中の画面
AI SHAPE FITTING適用前
AI SHAPE FITTING適用後。頬などがツルツルになっている
渋谷スタジオ・システム構成

Edit-1 8K

Main System
・Hardware/Software : Rio 8K (Glass Valley)
・Color Control Panel : Neo Panel
・Plug-in : Sapphire / Neat Video

Sub System
・Applications : Adobe Creative Cloud (Adobe)、DaVinci Resolve (Blackmagic Design)
・Audio:5.1ch Surround System (Genelec)

Monitoring System
・Master Monitor : BVM-HX310 (Sony)
・Client Monitor : KJ-85Z9G (Sony)

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Edit-2 4K

Main System
・Software : DaVinci Resolve (Blackmagic Design)、Media Composer (Avid Technology)、Premiere (Adobe)
・Color Control Panel : DaVinci Resolve Advanced Panel
・Plug-in : Sapphire / Neat Video

Monitoring System
・Master Monitor:BVM-HX310 (Sony)
・Client Monitor:KJ-65X9500H (Sony)
・Audio:5.1ch Surround System (Genelec)

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MA <Stereo/5.1ch+Na Booth>

Main System
・Console:AWS 948 (Solid State Logic) [Analog 48ch / 24 Fader]
・DAW:Pro Tools Ultimate (Avid Technology)、Nuendo (Steinberg Media Technologies)
・DAW Controller:UF8 (Solid State Logic)
・Plug-in:Diamond Native Bundle+SG (Waves)、iZotope Everything Bundle/RX8 (iZotope)、AES3 Spot V3 AAX (Tac System)、Anymix Pro (IOSONO)、Altiverb 7 XL/Speakerphone (Audio Ease)

Monitoring System
・Speaker:IB2S-AⅡ (PMC) [stereo] / C8 (KS Digital) [5.1ch]

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Others
・Harding FPA 4K/HDR(Cambridge Research Systems)
・AJ-ZS0580 (Panasonic)