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FiiOアクティブスピーカ、次世代4K放送コーデック。ヘッドフォンと連動して揺れる“床”

オーディオ・ビジュアル関連の展示会「OTOTEN2023」が、有楽町にある東京国際フォーラムにて開幕した。会期は、6月24日(10時~19時)と25日(10時~17時)の2日間。入場は事前登録制のため、Webサイトより希望日の来場事前登録が必要。オーディオ協会主催のセミナーは、コルグのLive Extremeを使いハイレゾ・ライブ配信(無料)されている。

本稿では、地下一階のロビーギャラリー展示をレポートする。

エミライ:FiiO初のアクティブスピーカー「SP3」。新音響パネルも

エミライのブースでは、23日より発売開始されたFiiOブランド初のアクティブスピーカー「SP3」(約49,500円)や、本邦初公開となるFerrum AudioのDAコンバーター「WANDLA」などの新製品が展示されていた。

アクティブスピーカー「SP3」とオーディオストリーマー「R7」

SP3は、2ウェイのブックシェルフスピーカーで、リアにバスレフポートを搭載。外形寸法約163×120×132mmとコンパクトな筐体に、3.5インチのカーボンファイバー製ミッドウーファーと、KSV銅クラッドアルミ線ボイスコイルを採用した25mmのシルクドームツイーターを備えている。

内蔵パワーアンプは、ウーファー用に30W、ツイーター用に10Wを搭載。低域の再現性を高めるための、FiiOが開発したS字型ポートチューブを採用。コンパクトながら、迫力のある重低音を再生できる。

FiiO初の開放型ヘッドフォン「FT3」

有線ヘッドフォン「FT3」(約44,500円)も展示。広大な音場表現が可能という、60mm径の大型ダイナミックドライバーを搭載したFiiO初の開放型。会場では、前述のSP3とFT3、そして卓上型のオーディオストリーマー「R7」とを組み合わせた、コンパクトかつ高音質なデスクトップ視聴が楽しめた。

Ferrum Audioの「WANDLA」(約46.2万円)は、同社フラッグシップDACとプリアンプ機能を併せ持った新製品。

DACチップはESS製「ES9038PRO」で、電流バッファーを設けた新開発のI/V変換回路により、極めて低歪みなD/A変換を実現。さらに、最短のシグナルパスを実現する自社設計の「SERCE」モジュールを新開発しており、「The Converterと銘打つに相応しいマスターピースモデル」と謳う。

Ferrum Audio「WANDLA」

ブースでは、WANDLAとパワー安定化のための「HYPSOS」を組み合わせ、Sonus Faberのフロア型スピーカー「OLYMPICA NOVA III」(170.5万円/ペア)をベンチマークのステレオパワーアンプ「AHB2」×2台で鳴らすデモを披露していた。

注目は、FiiOのデスクトップシステム、Ferrum Audio等のコンパクト・ハイエンドシステムの周囲に使用している音響パネル。

これは、年内の導入を予定している「Artnovion(アートノビオン)」の音響パネル。Artnovionは、音響パネル製品の設計や製造ほか、プロオーディオ、住宅、建築用途の断熱ソリューションなども展開する、ポルトガル拠点の企業。音響・建築のプロフェッショナルとして、高い技術と知見を持っているのに加え、製品群のデザイン性の高さもポイントとのこと。

合板を格子状にした音響パネル。約13万円

会場には、自立スタンドを使った3種類の音響パネルを展示。自立スタンドと60cm×60cmの正方形の3枚のパネルが1セットになっており、パネルの素材によって、吸音や拡散の特性、価格が異なる。正式なリリースは近日予定とのことだが、ファブリック生地のパネルは1セットで約10万円、合板を格子状にしたパネルは約13万円、ウェーブ状にしたパネルは約20万円を想定しているという。

ファブリック生地のパネル。約10万円
ウェーブ状の音響パネル。こちらは約20万円

ミューシグナル:10台のスピーカーにハイレゾ音源を無線配信

宮城県仙台市で音響機器の開発や販売を手掛けるミューシグナルのブースでは、無線音楽配信技術「ミュートラックス」を使い、ブース内に設置した10台のスピーカーにハイレゾ音源を無線配信するデモを披露していた。

ブース内に設置した10台のスピーカーに対して、ハイレゾ音源を無線配信
10台のスピーカーに伝送するための親機(白い筐体はUSB充電器)
親機。最大20chまでのマルチトラックが再生できるプレーヤー機能を内蔵。背面にあるマイクロUSBカードスロット、もしくはUSB端子からWAVなどのマルチトラック音声を入力すれば再生可能という

ミュートラックスは、1台の音源から複数台のスピーカーに対してワイヤレス(Wi-Fi 5GHz)で音楽を配信する技術。従来必要だった音源とスピーカーをつなぐオーディオケーブルを使わないため、店内やイベント会場でのオーディオシステム構築で、自由かつ安全なレイアウトが可能になる。

また、音楽データを全てデジタルデータとして処理する事で、各スピーカーの音量や音質、遅延などを自在に制御可能。各スピーカーから同じ音を再生したり、全てのスピーカーから別々の音を出すことも選べる。

子機
子機にはスピーカーを駆動するアンプも内蔵。15W×2、もしくは30W×1が選べる

ミュートラックスの技術は、昨年クラウドファンディングを通じて製品化。予定よりも遅れてしまったそうだが、支援者には近く、トランスミッター(親機)とレシーバー(子機)のセットが届けられるそうだ。

支援者分の出荷完了後、トランスミッターとレシーバーの一般販売も準備中。まずは専門店のOTAI AUDIOから、夏頃の販売開始を検討する。価格は「クラウドファンディングよりも、だいぶ高めになる」とのことだった。

オーディオブレインズ:beyerdynamicと体感型サブウーファを展示

OTOTEN初出展となるオーディオブレインズのブースでは、今年3月より国内総代理店として取り扱うことになったドイツ「beyerdynamic」のヘッドフォンやマイクなどを多数展示している。

オーディオブレインズは、コンサートや大型イベントの音響システムなどをグローバルに手掛けるMSI JAPANの関連会社で、20ブランドを超えるプロ用の音響機器や法人向けの会議システムなどの輸入販売を手掛ける。聞けば、同社では以前からbeyerdynamicのプロ用マイクを販売するなど、関係が深いこともあり、beyerdynamic全製品の代理店業務を行なうことを決めたという。

「オーディオブレインズの名称にはなじみがないかもしれないが、従来のbeyerdynamicユーザー含め、日本のお客様に安心して購入していただけるよう、製品の供給とカスタマーサービスを継続して参ります」と話す。

会場には、振動トランスデューサー「MOVER」の体感コーナーも用意。

MOVERはイタリアのパワーアンプ専門メーカー「Powersoft」が開発したもので、音声信号から100Hz以下の低域を取り出し、それを物理的な振動に置き換えるシステム。床の裏には赤く四角いMOVERが設置されていて、椅子に座ってbeyerdynamicのヘッドフォンを装着すると、目の前の映像に合わせて床がビリビリと動き、まるでサブウーファーと同じような体感を楽しむことができた。

イスの下にある床に振動トランスデューサー「MOVER」が取り付けてある
中央の赤いボックスが振動トランスデューサー

低域の騒音問題を解決するためのツールとして、イベント会場の床や映画館のシート、アミューズメント施設の乗り物などに装着する事を提案していた。

フラウンホーファー:次世代地上波テレビの音声コーデックなど紹介

国内イベントでは「InterBEE」への出展がメインだった独フラウンホーファー研究機構も、OTOTENに初出展。ブースではフラウンホーファーが開発した、最新コーデック「xHE-AAC」「MPEG-H Audio」「LC3 plus」が紹介されていた。

xHE-AACは、従来の音声用コーデックAACと通話用HACを一元化したもの。低レートでも一定クオリティの品質が確保でき、映画や音楽、オーディオブック、ポッドキャストなど幅広い用途に活用できるのが特徴。すでにNetflixやFacebook、Instagramで使われており、現在HACコーデックを使っている「radiko」もxHE-AACへの切り替えを予定しているという。

MEPG-H 3D Audioは、現在総務省が仕様の策定を進めている次世代地上波テレビの音声コーデック候補にもなっている放送・ストリーミング向けのコーデック。このコーデックにより、オブジェクトオーディオの放送や配信が実現するほか、実況のアナウンサーの声だけをボリューム調整したり、他の言語を楽しむなどのパーソナライズドが受け手側で楽しめるようになるという。

同コーデックは、韓国の4K放送で既に運用が始まっており、ブラジルでも採用が検討されているとのこと。なお、現在策定中の次世代地上波テレビの映像コーデックはVVCで、音声コーデックはMPEG-H 3D Audioのほかに、ドルビーが提案するAC4も候補に挙がっているとのことだ。

LC3とLC3 plusの遅延比較

LC3 plusは、Bluetoothの新しい音声規格「LEオーディオ」で標準採用されているLC3コーデックの進化版。最大96kHz/24bitのハイレゾ対応(LC3は48kHz/16bit)、低遅延性、そして困難な環境でも途切れない高ロバスト性が特徴という。

特に遅延性能は、LC3の半分を実現。LC3の場合、エンドtoエンド(プレーヤーで音源を再生してイヤフォンで音が出るまで)は28msとなるが、LC3 plusでは10msを達成。「人が映像と音のズレを認識できないレベルが10ms前後と言われており、LC3 plusではそれが実現できている」とアピールしていた。

なお、LC3 plusは、日本オーディオ協会が“ハイレゾオーディオとして十分な音質を満たす”ものとして認定する「ハイレゾオーディオワイヤレスロゴ」を獲得しているという。

そのほかの展示内容

Stream Unlimited Engineering

OTOTEN初出店となるStream Unlimitedは、オーディオメーカーなどにソフトウェアやハードウェアモジュール等を提供するオーストリアのサプライヤー。会場には、ネットワークオーディオ機器やサウンドバーなどへの組み込みを想定した、様々なモジュールが展示されていた。

フィリップスのオーディオ機器を手掛けていた技術者・開発者らが独立して誕生した企業だそうで、既に日本で発売されているエントリーからハイエンドのオーディオ機器にまで、広く採用実績があるとのこと。

ストリーミングに対応するハイエンドアクティブスピーカー向けのモジュールも展示されており、「近くこのモジュールを採用した製品が登場する見込み」という。

モジュールを組み込んだデモ機

ソニー

ソニーは会場6階「G610」がメインブースだが、地下1階のロビーギャラリーにおいても、新製品のマイクロフォンとヘッドフォンが体感できるブースを設けている。

ホームスタジオ用「C-80」

マイクは、昨年10月に発売したホームスタジオ用「C-80」(約6万円)とプロ用「C-800G」(101.2万円)を展示。それぞれのマイクロフォンの音を比べることができる。

プロ用「C-800G」

担当者によれば「C-80は『立ち上がりが早くてパッキリと精細な‟ソニーマイク”の特徴を受け継いでいる』と、非常に好調。アマチュアはもちろん、プロの方が自宅で使うホームスタジオユースとしても広く採用されている」とアピールする。

KORG

KORGブースでは、同社が開発したインターネット動画配信システム「Live Extreme」を展示。先日対応を発表したばかりのドルビーアトモス配信を、5.1.4chのスピーカー・セットで再現していた。

Live Extremeは、ロスレス/ハイレゾオーディオ(最大PCM384kHz/24bit,DSD 5.6MHz)のサラウンド配信(最大7.1ch)のほか、空間オーディオフォーマットであるAuro-3D(最大7.1.4ch,96kHz)、HPL(最大7.1.4ch,192/24bit)、ドルビーアトモス(最大9.1.6ch,48kHz)の配信が可能。

OTOTENのホームページで視聴できるセミナーライブ配信にも、同社の技術が使われている。

WOWOW

WOWOWブースでは、「ωプレイヤー」のデモがヘッドフォンで体感できるほか、隣のメインブースでは30分毎にイマーシブ音源が試聴できるイベントが開催されている。

イベントの様子

ωプレイヤーは、高音質な動画配信サービスを再生するためのアプリ。MacまたはiPhoneで利用可能で、WOWOWのハイレゾ・3Dオーディオ(Auro-3D/HPL+MQA)コンテンツをオンデマンドか生配信で視聴できる。

WOWOWでは、ωプレイヤーをプレミアムサービスへの根幹技術として位置付けており、利用者が手軽に高音質かつ高臨場なコンテンツを視聴できるサービスの提供を目指し、開発を進めている、とのことだった。

カーオーディオの体験コーナーも