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ビクター、新世代D-ILA&レーザーの8K60pプロジェクタ。アニメ映えモードも

DLA-V900R

JVCケンウッドは、最新世代デバイスとブルーレーザー光源により、ネイティブコントラスト性能を高めたD-ILAプロジェクター「Victor DLA-V900R」および「DLA-V800R」を6月下旬より発売する。価格はオープンプライスで、店頭予想価格はV900Rが297万円前後、V800Rが165万円前後。

2021年11月に発売した、世界初の8K60p/4K120p対応レーザープロジェクター「DLA-V90R」(288.2万円)と、「DLA-V80R」(170.5万円)の後継機。約3年ぶりの更新となる新モデルでは、素子・光源・信号処理をアップデート。輝度とコントラストが向上し、フラッグシップV900Rにおいては、業界最高クラスのネイティブコントラスト150,000:1を達成した。

さらに、2K/4K映像をスケーリングする際の画像処理に超解像技術を導入。オリジナル映像の情報を高精度に演算することで、従来モデルよりも鮮鋭な8K映像表示を可能にした。

V900Rの投写映像

上位V900Rと下位V800Rの主な違いは、明るさ、コントラスト比、光学レンズとなっており、基本的な仕様や機能は共通となる。

なお、V900RとV800Rの発売に伴いV90RとV80Rは終売になるが、「DLA-V70R」(130.5万円)、「DLA-V50」(80万円)は引き続き販売継続する。

新デバイス、新レーザー搭載。ネイティブコントラストは業界最高クラス

2024年モデルでは、ビクター独自の4K D-ILAデバイスが第三世代に進化した。0.69型/4,096×2,160ピクセル(アスペクト比17:9)という基本仕様は変わらないが、新技術により、液晶の配向制御性と画素の平坦性を高めることで、先代モデルと比べて約1.5倍のネイティブコントラストを実現。更に、製造プロセスを見直すことで画面内の均一性が向上。映像の品位を高めたという。

既報の通り、JVCケンウッドは今年4月より、反射型液晶デバイス「LCOS」の生産拠点を久里浜工場からJSファンダリの新潟工場に移転しているが、「新モデルの搭載デバイスはしばらく“久里浜産”の第三世代D-ILAが使われ、順次“新潟産”に替わる」とのこと。

新モデルの明るさ向上に寄与しているのが、ブルーレーザーダイオードのリニューアル。

同社では光源技術を「BLU-Escent」と呼称しているが、今回は高輝度・高効率なダイオードパッケージを採用することで、V900Rで3,300ルーメン(V90は3,000ルーメン)、V800で2,700ルーメン(V80は2,500ルーメン)、約20,000時間の長寿命を両立した。

有効電力(W)あたりの明るさも、初代ホームシアター向けレーザーモデル「DLA-Z1」と比べて約1.9倍に伸長しており、電力効率のアップと共に省電力化も果たしている。

これらの新しいデバイスとレーザー光源、そして光漏れを抑える独自の偏光板ワイヤーグリッドを使った光学エンジンの合わせ技により、ネイティブコントラストは、V900Rで150,000:1という業界最高クラスを達成。V800Rにおいても、3年前のフラッグシップV90Rと同じコントラスト値100,000:1となった。

また、機械式絞り(アパーチャー)に比べて遅延が少なく、映像シーンの明るさに応じて出力をダイナミック・高精度に動かす光源制御により、デバイスのネイティブコントラスト性能を最大化。∞:1というダイナミックコントラスト値も実現している。

DLA-V900R

8K映像の生成に超解像を利用。SDRアニメがキレイになるモードも

V900R、V800R共に、画素ずらし技術とネイティブ4Kパネルを組み合わせた、第二世代「8K e-shiftX」を引き続き搭載している。8K e-shiftXは、1画素を上下左右の4方向に0.5画素分、高速にシフトさせることで解像度を疑似的に倍増化する技術。SD/フルHD/4Kなどあらゆる解像度のコンテンツを、最大8,192×4,320ピクセルの8K映像で表示することができる。

新モデルでメスが入ったのは、8K映像を作る信号処理の部分。前モデルまではシンプルなスケーリング処理で8K信号を生成していたものの、オリジナルの情報がフルに再現できず、映像が鈍ってしまう場合があった。

そこで今回は回路設計を見直し、超解像専用スケーラーと超解像適用処理を導入。

前段では斜め画素ずれ画像を生成するスケーラーで画像解析した後、オリジナル画像との演算から最終的な超解像スケーリング処理を実施。そして後段の適用処理では、ディテールを残した自然な波形処理を行ないつつ、色や肌の色に応じた超解像の効果をコントロール。最後に画像のエッジリンギングの低減処理を施して、8K信号を生成する処理工程に変更した。これにより「今まで以上に、より本物らしい8K映像がお楽しみいただけるようになった」という。

「Deep Black Tone Control」と呼ぶ信号処理も、今回の変更点。これはHDRのトーンカーブにおいて、最暗部を“意図的”に沈めることで見た目のコントラスト感をアップさせるもの。

担当者曰く「開発の過程で様々なHDR10コンテンツの明るさを解析してきたが、その多くのコンテンツで、最暗部にはほぼ情報がないということが分かった。これまで我々はトーンカーブに忠実な表示を行なってきたが、わずかに暗部が浮いて見える場面もあった。テストディスク以外は最暗部に情報がないのであれば、あえて暗部を沈ませることで、より深みのある黒を手軽に楽しんでもらうのも良いのではないか、と考え採用した機能」だという。

アニメ向けの画質モード「Vivid」も新設された。これは“SDRコンテンツ”を色彩豊かに再現する新モード。従来のNaturalモードは、色温度6500、色域sRGBを忠実に再現していたそうだが、他社のSDR投写映像……特にアニメなどを比べると「物足りない」「地味」という意見が多かったとのこと。

そこでVividモードでは、人間の記憶色に近い感覚で画作りし、華やかかつインパクトのある映像へとチューニング。SDR素材が大半の“アニメ”が映える画作りにした。具体的には、RGB色域拡張や濃淡を際立たせるカラーマッピング、記憶色の肌色、明暗差を付けたガンマ設定にしているという。

Vividモードが追加された

この他の変更点としては、ネイティブコントラスト・ピーク輝度性能に応じたレーザーダイナミック制御の見直しや、4K Ultra HD Blu-rayなどに含まれるメタデータ情報の中から「マスタリングモニターのピーク輝度」を取得できるようにした。

ネイティブコントラスト・ピーク輝度性能に応じ、レーザーダイナミック制御を見直した

後者は「Frame Adapt HDR」の精度向上を狙ったもの。Frame Adapt HDRメニューから選べる[HDRレベル・Auto]は、従来、Max CLL(コンテンツの最大輝度)を参照してHDRレベルを決めていた。しかし、コンテンツによってはMax CLLの値が異常に高かったり、そもそもメタデータに値がないものなどがあったりして、オートが最適でない場合もあったという。

そこで、マスタリングモニターのピーク輝度を参照できるようにし、それを閾値としてクリップポイントを設定。“マスタリングモニターの輝度を超えて編集する可能性は極めて低い”という判断のもと、最適なピーク輝度レベルの設定が可能になったという。

V90Rの詳細情報画面。Max CLLとMax FALLのみ表示されている
V900Rの詳細情報画面。新たにMax DML(Max Display Mastering Luminance)が加わった

前モデルから継承した機能

プロジェクターでHDR映像を高画質に投影するための独自技術「Frame Adapt HDR(第二世代)」や「Theater Optimizer」を前モデルに引き続き搭載。

Frame Adapt HDR(第二世代)では、トーンマッピングのアルゴリズムを根本的に見直し、トーンカーブ事態の最適化により高輝度部の白飛びを抑えたHDR映像を実現。さらに、独自のトーンカーブ選択アルゴリズムを深化させることで、「より明るく、色鮮やかで、ダイナミックレンジの広いHDR映像の再現」を目指した。

さらに、ユーザーの使用環境によって異なるスクリーンサイズ・スクリーンゲイン情報の入力と、内部的に計測可能な明るさに紐付く情報をインテリジェントに演算し、それぞれの設置環境に合った最適なトーンマップ処理を自動で行なうTheater Optimizerも組み合わせることで、HDR映像の再現性を最大化。18bitレベルのガンマ処理により、明部の階調段差や暗部の黒潰れを抑え、高精度で滑らかなグラデーションの描写を可能とした。

投写映像

サポートするHDR規格は、HDR10、HLG、HDR10+の3種類。制作者の意図を忠実に再現するモード「Filmmaker Mode」も搭載している。

搭載するHDMI入力2系統で、最大48GbpsのHDMI 2.1規格に対応。HDMIケーブル1本で8K出力できるNVIDIA製グラフィックボードや最新AVアンプと接続すれば、8K映像をそのまま投写できる。

対応する8K信号は、7,680×4,320:60/50/48/30/25/24pで、30pまでは非圧縮(A)・圧縮(B)の両方をサポート。48p以上はB対応で、クロマが4:2:0であればAにも対応する。

4K120p信号にも対応。処理をバイパスする低遅延モードを組み合わせることで、ハイフレームレートのゲームコンテンツを滑らかかつ低遅延に描写。最新ゲームの綺麗なグラフィックを、プロジェクターならではの大画面で楽しむことができる。

対応する4K信号は、3,840×2,160:120/100/60/50/30/25/24p、および4,096×2,160:120/100/60/50/30/25/24pで、どちらもAB両対応する。

V90Rは、16群18枚オールガラス・オールアルミ鏡筒レンズを搭載。上下100%・左右43%のシフト範囲を確保する100mmの大口径に加え、シフト時の色収差やにじみを抑制するEDレンズも5枚使用することで、画面の隅々まで鮮鋭な描写を実現した。V80R/V70Rは、15群17枚のオールガラスレンズで口径は65mm。シフト幅は上下80%・左右34%。

別売のトランスミッター、アクティブメガネを用意すれば、3D映像も楽しめる。

筐体デザインは前モデルを踏襲し、後面吸気・前面排気構造を採用。外形寸法/重量は、V900Rが500×518×234mm(幅×奥行き×高さ)/25.5kg、V800Rが500×515×234mm(同)/23.5kg。

背面

映像を見てみた

120インチのスクリーンで、最上位V900Rを視聴した。

まずはUHD BD『マリアンヌ』から、対空砲火によりドイツ軍の飛行機が撃墜されるチャプターを再生。暗がりで描写が難しいシーンだが、ブラッド・ピットを始めとした人々の表情や人肌、着ている衣服の質感、色の違い、住宅の外壁など、細部の情報まで難なくと描き分けた。シネスコの帯と夜空が混濁せず、暗部の階調も豊富。赤や橙に輝く曳光弾も色抜けがなく、炎に包まれながら地表に墜ちてくる機体のHDR描写は熱さを感じるほどにリアルだ。手頃で高性能な家庭用プロジェクターも増えつつあるが、実際の描写性能は、やはりビクタープロジェクターが抜きん出ている。

基本性能を確認したところで、V900RとV90Rを横並びで投写し、UHD BD『エルヴィス』で新しい映像処理の効果を見てみた。

もともとビビットな画作りの『エルヴィス』ではあるものの、それでも新モデルの超解像処理は効果が一目瞭然。ダイヤを散りばめたゴージャズなオープニングロゴをV900Rで投写すると、まるでダイヤが突き刺さってしまうのではないかと思うほどにエッジが細く鋭利に見える。ライブシーンにおいても、観客や演奏者らの姿がクッキリと鮮明で、V90Rが2段・3段階くらい甘く見えてしまうほど、超解像の効果は強烈だ。

エンハンスのデフォルトは、中間の[レベル5]となっており、エンハンスを弱めることも、もっと強めることも可能。ただし、「V90Rの回路とは別物であるため、V900Rでエンハンスを弱めてもV90Rの画にはならない」という。

Enhanceは[レベル0~10]で調整できる。デフォルトは[レベル5]

情報のない暗部を意図的に沈める「Deep Black Tone Control」は、『インターステラー』で確認。機能をONにすると、宇宙空間の暗部がギュッと締まると同時に、画面の中の星々が明るくなって画に一段と奥行き感が出てくる。下記の写真では差は小さく見えるが、実際の効果は大きいので試してみるといいだろう。

Deep Black Tone Control オフ
Deep Black Tone Control オン

もう1つ、効果が大きかったのが、アニメ向けの画質モード「Vivid」。『すずめの戸締まり』で他社モデルと比べると、従来のNaturalではやや元気のない画に見えたが、Vividでは明るく発色の良い鮮明な画に変貌。“新海モード”と言っても差し支えないくらい、作品の雰囲気にピッタリの映像で楽しむことができた。

「Natural」の場合
「Vivid」の場合
他社モデルとの比較。左が以前の「Natural」
「Vivid」に変更した場合