ミニレビュー
AK初、ディスクリートR-2R DAC搭載「A&futura SE300」先行試聴してきた
2023年5月27日 14:44
アユートは27日、Astell&Kern初となる完全ディスクリート「R-2R DAC」を搭載したDAP「A&futura SE300」、AKと独Vision Earsとのコラボイヤフォン「AURA」の先行試聴会を秋葉原で開催。注目のサウンドを短時間だが試聴できたので、ファーストインプレッションをお届けする。
ディスクリートR-2R DAC搭載「A&futura SE300」
詳細はニュース記事の通りだが、概要を振り返ろう。SE300は、A&futuraシリーズにふさわしく、新たな技術を多く盛り込んだ挑戦的なDAPで、発売予想時期は6月、直販予想価格は319,980円前後となっている。
最大の特徴は、一般的に使用されているDelta-Sigma DACではなく、R-2R DACを搭載している事。誤差0.01%、48組(23×R、25×2R)、計96個もの超精密抵抗器を1つ1つ厳選して検査・選別・配置して作り上げており、「真のHi-Fi 24bitデコードを実現する完全ディスクリート構成の24bit R-2R DACの技術を確立させた」という自信作だ。
そのサウンドを増幅するアンプ部にもこだわっており、歪みの少ない自然なサウンドを生み出すというA級アンプと、ダイナミックなサウンドを高効率で再生するAB級アンプを両方搭載。ユーザーが切り替えできる「Class-A/AB Dualアンプモード」を初めて搭載。
さらに、信号処理部分には、初の自社開発となるFPGA(Field Programmable Gate Array)を搭載。市販の半導体チップセットを使わず、自社開発FPGAを使い、最適化した設計により処理したデジタル信号をR-2R DACに中継する。
自社開発の利点として、ハードとプログラムに合わせて緻密に設計された理想的なOS(オーバーサンプリング)/NOS(ノンオーバーサンプリング)モードを実現しており、OSモードでは、部分的なデジタル処理により原信号の帯域を拡大し、細部まで鮮明でクリアなサウンドを実現。NOSモードにすると、デジタル処理を一切行なわないピュアな原音再生し、「R-2R DAC自身がデコードした真の無加工の音を楽しめる」とのことだ。
A&futura SE300を聴いてみる
試聴会場に、普段使っているフォステクスの平面駆動型振動板搭載ヘッドフォン「RPKIT50」を持ち込み、2.5mmバランス接続で試聴した。なお、SE300は3.5mmアンバランス(光出力兼用)と、2.5mm/4.4mmバランス出力を搭載。フラッグシップラインで採用された新世代アンプ技術も搭載し、電流処理能力を高めた事で、ノーマルゲイン/ハイゲインの2段階ゲインコントロールも可能。鳴らしにくいRPKIT50でも充分な音量が得られた。
前述の通り、ユーザーが音をカスタマイズできる項目として、アンプのクラスA、クラスAB切り替えと、OS(オーバーサンプリング)/NOS(ノンオーバーサンプリング)が存在する。最初はクラスAアンプ + NOSモードで、SE300の“素の音”を聴いてみた。
「米津玄師/Lemon」の再生がスタートし、音が出た瞬間にわかるのは、圧倒的な情報量の多さと、鮮度の良さだ。楽器やボーカルの細かな音が聴こえる解像度の高さだけでなく、1つ1つの音が生々しく、雑味が一切無い。“素の音”を通り越して“むき出しの音”という印象で、「こんなに聴こえちゃっていいのかな」と戸惑うくらいだ。
「Adele/Send My Love」冒頭のパーカッションやギターの低域も、今まで聴いたことがないほどクリアで、余分な膨らみがまったく感じられない。シャープかつソリッドで、切り込むようなサウンド。平面駆動のヘッドフォンで聴いているというのもあるが、音像の輪郭や、高域の鋭さなどが、破綻するのではないかとヒヤヒヤするほど、切れ味鋭く描写される。このキレキレなサウンドは癖になる気持ちよさだ。
R-2R DACを搭載したDAPは他社にも存在するが、「音作りのうまさ」よりも「情報量の多さ」や「解像度の高さ」「色付けの少なさ」で勝負をしてくる製品が多く、A&futura SE300も傾向としてはそれらと似ている。
逆に言うと、既存のAK DAPの気品の感じられるサウンドと、SE300は明らかに音の方向性が違う。良い意味で荒削りで、挑戦的なサウンド。以前、ESS Technologyの8ch DAC「ES9038PRO」をDAPに搭載した「A&futura SE100」というモデルがあったが、あのサウンドが好きな人は、A&futura SE300も気に入るだろう。
A&futura SE300が面白いのは、このむき出しサウンドが、設定で変化する事だ。まず、アンプをクラスAから、クラスABに切り替えると、だいぶ印象が変わる。クラスAの時は「透明度、音場の広さ、低音の深さ命」というサウンドだったが、クラスABにするとちょっと中低域がエネルギッシュで、良い意味でワチャワチャとした、少し雑味のある音になる。音が悪くなるという意味ではなく、張り詰めた緊張感が減り、親しみやすい音になる印象。
さらに、クラスABアンプのまま、NOSモードからOSモードに切り替えると、ソリッドでシャープな高域に、少し穏やかさ、優しさ、滑らかさが出て、より聴きやすい音になる。「ハイレゾの情報量を全部聴くぞ!」という時はクラスA、かつNOSで楽しむと良いが、「ロックを楽しく聴きたい」とか「女性ボーカルにうっとりしたい」みたいな時は、クラスABやOSモードを活用すると良さそうだ。
なお、持参したハイエンドDAP「A&ultima SP3000」とも聴き比べたが、ピュアオーディオライクな質感、雄大さなどではやはりSP3000の方が格上だ。しかし、情報量、スピード感、色付けの無さといった部分では、SE300が肉薄しており、部分的には越えているとも感じる。
技術的に挑戦的かつ、使いこなしで好みの音も追求できる完成度の高さも備えているのがSE300という印象だ。
Astell&Kern×Vision Earsコラボイヤフォン「AURA」
Astell&KernとドイツのハイエンドIEMブランド・Vision Earsとのコラボイヤフォンが「AURA」。全世界650台の限定生産で、発売日は決定次第アナウンスされるが7月頃になる予定。直販予想価格は699,980円前後というハイエンドなイヤフォンだ。
特徴は、2基の8mm径アルミニウム・マグネシウム合金ダイナミックドライバーを向かい合わせに配置した独自のアイソバリック構成を採用している事。
これに加え、8基のBAドライバー、BAスーパーツイーターを搭載し、特殊回路による5ウェイクロスオーバーでまとめた、ハイブリッドの11ドライバー構成となる。
フェイスプレートとシェルは、軽量かつ強固で耐食性にも優れるスイス製6061-T6アルミニウム。ケーブルは、AURA用に特別に設計されたEffect Audio製カスタムメイドケーブルを採用する。
A&futura SE300やA&ultima SP3000で聴いてみたが、このイヤフォンも凄い。一番驚くのは低域の迫力と解像感の両立。8mm径とは思えないほど深く沈む低域が出るのだが、その解像感、スピード感が凄まじい。ちゃんと音が“重い”のに、ズバズバと切り込むようなスピード感があり、重厚感とトランジェントの良さが両立されている。スケール感も大きいため、イヤフォンを聴いているのに、まるでハイエンドヘッドフォンを聴いているように錯覚する音だ。
「米津玄師/KICK BACK」のベースが、こんなに気持ちよく聴けるイヤフォンは初めてだ。この圧倒的な低域のスピード感やタイトさに、負けない中高域を実現しているのも凄い。下から上まで、音にまとまりもある。クロスオーバー回路やチューニングの上手さを実感できる。高価ではあるが、それにふさわしい圧倒的なサウンドが体感できるイヤフォンだ。