ミニレビュー

スマートサングラス「Ray-Ban Meta」をラスベガスで試す

Ray-Ban Meta。写真はWayfarer/Matte Jeans Transparent / Polarized Dusty Blueで、販売価格は税抜329ドル

2023年9月、Metaはアメリカなどの市場向けに、スマートサングラス「Ray-Ban Meta」を発売した。

これは、サングラスのRay-Banブランドを展開するルックスオティカとMetaが共同開発したもので、カメラとマイク、スピーカーが組み込まれたスマートサングラスだ。両社の協業製品としてはこれが第二世代になるが、かなり完成度が高くなっている。

日本では発売されていないのだが、筆者も実機を入手したので、試してみたいと思う。

国内で販売されていないものなので、総務省の技術基準適合証明(いわゆる技適)は取得していない製品だ。

国内では利用できないので、本記事におけるテストはすべてアメリカ・ラスベガスに、CES取材へ訪れた時に行なっている。撮影サンプルもすべてラスベガスで撮ったものだ。

「カメラ」「マイク」「スピーカー」をサングラスに内蔵

「スマートグラス」に類する製品は、世の中に多数ある。情報を表示するものから音楽を流すものまで様々だが、冒頭で紹介したように、Ray-Ban Metaは「カメラ」「マイク」「スピーカー」を内蔵したサングラスという位置付けだ。ディスプレイなどの情報を表する機能は搭載しておらず、基本的にはスマートフォンと連動して動く。

ぶっちゃけていってしまえば、Bluetoothでスマホとつながるサングラスであり、マイク・スピーカーが使えるという意味ではヘッドフォンなどとそこまで差があるわけではない。

だが、全体構成と組み合わせ方が非常に上手い製品だ。

デザインは複数あるが、今回購入したのは、Wayfarer/Matte Jeans Transparent/Polarized Dusty Blueというバリエーションのもので税抜329ドル。一番安価なモデルで299ドルとなっている。アメリカ市場の場合、街中にあるRay-Banの販売店などでかなり簡単に入手できる。

最廉価モデルは299ドルからだが、好みのデザインを選んで329ドルに

サングラスとしてはRay-Banのちゃんとしたもので、デザインも見え方もしっかりしている。

ケースがそのまま充電器になっていて、サングラスを入れておけば充電ができる。充電端子はサングラスの眉間に当たる部分になる。

ケースが充電器になっていて、サングラスを入れておくと充電される。完全ワイヤレス型ヘッドホンと同じような仕組み

ただ、デザイン的には欧米人向けで、「顔が平たい族」には鼻まわりが余る。日本で売られていないのは、「カメラ内蔵」という部分だけでなく、この辺のデザイン変更が必須であるからかとも思う。

筆者がかけてみた。若干鼻の高さが足りないが、けっこういい感じ(だと本人は思っている)

Bluetoothでスマホと連動するということは、当然スマホ側にアプリも必要になる、ということ。セットアップにも日常的な利用にも、「Meta View」という専用アプリが必須だ。

セットアップや利用には専用の「Meta View」アプリが必要。ただし日本のストアでは配布されていない。今回はアメリカストア用アカウントで利用中

ただし、サングラス自体が日本で売られていない関係もあり、アプリも日本のAppStore・Google Playでは公開されていない。今回はアメリカアカウントを使ってアメリカのGoogle Playにアクセスし、アプリを入手して使っている。

スマホよりさらにカジュアルなカメラに

すでに述べたように、Ray-Ban Metaはカメラを内蔵したスマートサングラスだ。自分が見ている風景をそのまま切り取り、記録するのが特徴とも言える。

撮影は右にあるボタンで行なう。標準設定だと、1度押せば静止画が、長押しすれば設定してある長さの動画が撮影される。Ray-Ban Meta内にストレージがあるので、撮影データはまずそこに蓄積される。

シャッターは右側にあり、1ボタン。1回押すか長押しかでモードを切り替える

カメラはグラスの端、左側に搭載されている。右側にも同じような印があるが、ステレオカメラが搭載されているわけではない。

片方は「撮影中」であることを示すLEDライトだ。そこそこ明るく光る。静止画の時には1度、動画の時には撮影中ずっと光り続ける。同時に撮影時にはシャッター音も聞こえる。

この種の機器が出ると「盗撮が」という話題が出やすい。Ray-Ban Metaの場合、LEDの表示でその懸念に対応しているわけだ。

シャッター側の「丸」はLED。撮影ボタンを押すと光り、撮影していることを知らせる

もちろん、LEDがあるからといって「撮影していることがどんな人にもわかる」とまでは言えない。だが、この辺が1つの落としどころではないかとは思う。あとは、LEDの色を白から赤に変えるくらいがせいぜいだろう。

画像はスマホ側に適宜転送されるようになっていて、最終的にはスマホ側から使う。逆に言えば、撮影した瞬間にスマホからシェアできるわけではない。転送にかかる時間は環境によって異なるが、撮影量が多かったり、動画は多かったりすれば何分かはかかる。外している時や充電している時に転送する……くらいの間隔でいるのがいいだろう。

写真は撮影後、逐次スマホ側へと転送される
スマホに転送されてしまえばあとはご自由に

インスタグラムと連携し、見た目の動画をそのまま流してライブストリーミングもできるようになっている。「見た目のシェア」という意味では興味深い。

今回はCES会場などから何度かライブを試みたが、回線事情の問題なのか、なかなか安定しなかった。そのため、ライブストリーミングについての実用性には若干疑問がある。安定していれば面白いのだろうが。

というわけで、いくつか撮影した写真と動画をご覧いただきたい。画質は、暗い室内をのぞけばそこそこ、というところ。だいぶ広角で歪みもあるが、「見た印象を残す」という意味ならこれでいいのだろう。

屋外での風景。意外ときれい
参考までに、同じ風景をiPhoneのカメラで撮影
カジノの中の風景。けっこう雰囲気が出ている
歩きながらの撮影。いかにも歩行中的な揺れと視界、周囲の音が面白い
球形シアター「Sphere」で撮影。自分の視界を共有する感じがお分かりいただけるだろうか

やはりいいのは、とにかく撮影が楽だということ。とにかくシャッターを切っておけばいい。これはスマホのカメラ以上に気楽な行為である。取材中などに「ちょっとメモ」という感じで使いやすい。

ただ、シャッターを押して撮影に入ってから、実際に撮影するまでにはほんの少しラグがある。その間に大きく動くとブレた写真になりやすい。特に暗いところではその傾向が強い。

とはいえ、ラフに撮影した写真でも、割とブレなどは小さくなっている。これは、Ray-Ban Metaが単にカメラを載せているわけではなく、内部のプロセッサーとモーションセンサーを連動させ、映像を安定させているからでもある。この辺は表からは見えづらいが、「気軽に撮影できる」という要素を実現するための工夫でもある。

また、動画撮影の音質も良い。ぜひ、前出の動画サンプルを、ヘッドフォンをつけた上で音を出してご覧いただきたい。

1対1で相手の声を収録するなら、ちゃんとマイクを向けたほうがいい。だが、自分の声と一緒に周囲のイメージを残すなら、Ray-Ban Metaはかなりいい。5つのマイクを内蔵していて、周囲の音響を立体的に捉える。だからまさに「その場感」を残すのに向いている。

画像認識でマルチモーダルAIの「窓口」に

本来このカメラは、単に写真を残すだけのものではない。Metaが提供するAIである「Meta AI」と連動し、画像の内容を使ったマルチモーダルな処理を行なうのが狙いだ。

Meta AIは現状、GoogleアシスタントやSiri、Alexaに似た音声アシスタントになっている。日本語には対応していないものの、音声で質問すると、明日の天気や交通経路など、色々なことに答えてくれる。Meta AIが日本語に対応していないという点も、この製品が日本で売られていない理由の1つではあろう。

Meta AIは、現在アメリカでは「画像認識」を組み込んだテストも行なわれている。Meta AIに対して「見て答えて」と質問すると、Ray-Ban Metaで見ているものや風景について、生成AIであるMeta AIが分析して回答してくれるという。

ただ残念ながら、当方のアカウントにはMeta AIの画像認識機能に関する項目が表示されておらず、まだテストできないようだ。そのため、実際の使い勝手を試すことはできていない。

スマホのカメラを使ったマルチモーダル機能はすでにあり、その延長線上だと考えれば、こうした要素は必須であり必然の流れである。

Bluetoothオーディオとしての品質は極めて良好

すでに述べたように、Ray-Ban Metaは、本質的には「スマホとBluetoothで接続される機器」だ。最近はメガネの形状を生かし、スマホとオーディオ連携する機器は増えてきた。

AndroidでのBluetooth接続設定。オーディオコーデックはAACに対応しており、通話などにも利用可能

日本でも手に入るものとしては、「Huawei Eyewear」があるし、アメリカだとAmazonが「Echo Frames」を商品化している。

それらの機器はどれも、「スマホでの音楽再生」「通話・会議用のマイクとして機能」「音声アシスタントと連動」という要素を備えている。ヘッドフォンの延長と考えれば不思議な話ではない。

ただ、Ray-Ban Metaを使って感心したのは、音質が非常に良いことだ。この種の製品はどれも、意外にも音がいい。正確に言えば「音の広がりがいいのでとても聞きやすい」のだ。手元に機器がないので直接比較は難しいが、筆者の印象論で言えば、Ray-Ban Metaは競合よりもさらに音がいい。広がりや定位感が市場に自然だ。ヘッドフォンに比べて開放感があり、屋内で音楽視聴や会議に使うにはとてもいい。

もちろん、ヘッドフォンと違って「音が完全に漏れない」という性質のものではない。だが、自分の耳に聞こえている音量よりは遥かに小さい音で鳴っているので、電車内で隣の人と密着している……という状況でなければそこまで問題にはならないだろう。

なお、オーディオデバイスとして使うだけならMetaのアプリは不要であり、Bluetoothでペアリングするだけで済む。ただ、せっかくのカメラが使えなくなるので、やはり専用アプリが使える環境が望ましくはある。

「機械が人のアシスタントになる時代」のヒントをくれる製品

ここまで見てきてお分かりのように、デザインや使い勝手の面で、Ray-Ban Metaは想像以上によくできている。諸々の条件をクリアーし、日本での発売も期待したくなる。

仮にそれが叶わなかったとしても、AIが人間のアシスタントになるなら「どの場所に」「どんな機能を備えて搭載されるべきか」を考えるヒントにはなる。

スマホ連動メガネは以前からあったが、Bluetooth規格やスマホ自体の進化、そして生成AIや音声アシスタントの活用で、ようやく「こう使えば実際に役立つ」という方向性が見えてきたようにも感じている。

この記事について

本記事はメールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』(夜間飛行)」「小寺・西田のコラムビュッフェ」(note)から転載し、加筆したものです。購読は以下より

小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」

小寺・西田のコラムビュッフェ

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41