ミニレビュー
懐かしいと思いきや新しい有線イヤフォン。USB-C接続のAZLA「TRINITY」で平成J-POPを鳴らす
2025年9月11日 08:00
近年、若者の間で「平成レトロ」がブームらしい。確かにオーディオ界隈でも、CDやカセットテープの話題が多くてその空気はにわかに感じるし、“有線イヤフォン”というワードがSNSでトレンド入りしている様子もちょくちょく見かける。
まあ、オーディオファンの世界では「そもそも高音質を追求するなら有線だろ」という話で、今も昔も変わらず人気であるが。しかしここ最近、有線イヤフォンの中でもUSB-C接続に対応するモデルが増えてきたのは、確実に時代の流れ。
改めて2023年発売の「iPhone 15」で、iPhoneの充電仕様がUSB-Cになったのは大きかったなと、Androidユーザーの筆者はありがたい気持ちでいっぱいだ。
で、そんな中、超話題になっている有線イヤフォンといえばAZLAの「TRINITY」。
こちら、2025年7月12日の発売から2日ほどで、初回ロットが完売したというヒット製品。最近ようやく在庫が復活してきたようで、筆者も実機サンプルを使っているのだが、「なるほどコレは企画が優勝すぎる」と思ったので紹介したい。
学生時代、近所のスーパーで適当に買えたイヤフォン並の低価格
さて、TRINITYがまず界隈の度肝を抜いたのはその価格。なんと2,200円。筆者が10代の学生だった1990年代、つまり平成時代に、近所の東急ストアの電子機器売り場でお小遣いで買ったイヤフォンと同じくらいの値段だ。
しかし、安いからというだけであの頃の感覚で手に取ると、平成時代には考えられなかった今どき仕様とのギャップに驚かされる。ポイントは“USB-C接続”と“イヤーピース”。この辺の製品企画がなるほどすぎるのだ。順番に見ていこう。
まずTRINITYは、接続プラグの形状別に2種類がラインナップされている。従来の“3.5mmステレオミニ接続タイプ”と、今どき仕様の“USB-C接続タイプ”だ。現代的な需要に応えるUSB-Cモデルと、まだまだ需要がある従来通りの3.5mm接続の両方から選べるのは嬉しい。
スマホと接続したいユーザーからすると、USB-C接続のイヤフォンを選べば、iPhoneにもAndroidにも使えるのはありがたいし、Switchなどのゲーム機ともUSB-C接続できるのが良い。
当たり前だが、Bluetooth接続トラブルもないしバッテリーを気にせず使えるので、サブ機として1台持っておくと、サクッと音声を聴けて便利だ。
そして2つめのポイント、“イヤーピース(イヤピ)”について。そう、ALZAといえば、近年のポタオデ界では高品位なイヤピを手がけることで知られる。TRINITYには、そんな同社の「SednaEarfit T」というイヤピが4サイズ標準付属する。
こちら、AZLAの人気製品「SednaEarfit」をベースに、プレミアムシリコン素材を採用しながら形状を新しくしたシリーズらしいのだが……そもそもSednaEarfit自体が単品で2,000円くらいするはずで、なぜかイヤピを単体で買うよりも本製品の方が安かったりする。
ネット上では「もはやAZLAのイヤーピースを買ったらイヤフォンも付いてくるくらいの状態なんじゃないの?」との反応も見られるが、完全に同意。別の言い方をするなら、「TRINITYはAZLAイヤピの試し玉として使えるイヤフォン」とも言えるだろう。そう考えると普通にお得である。
筆者は女性ということもあって耳穴が小さい方で、イヤフォンのフィット性はかなり気にしてきた人生だった。特に10代〜20代中盤までは、イヤピを付け替えるなんていう発想もなく、「フィット感のあるイヤフォンに当たることが少ないのでカナル型が苦手」という感覚すらあったほどだ。
その後、仕事でカスタムIEMを作ったら、当たり前だが自分の耳にぴったりすぎて感動し、「もうカスタムしか勝たん」という偏った思考の時期を経て今に至る(現在は丸くなりました)。
で、実際にTRINITYに付属するSednaEarfit Tを試してみると……、ちゃんと耳の形になじんで密着した感覚がありつつ、でも軽やかな装着感。製品に同梱されるのは、S/MS/M/Lの4サイズなのだが、このSとMの中間であるMSってヤツが実にぴったりフィットした。
いやはや、あの頃、近所の東急ストアで買ったイヤフォンにはこんなの付いてなかった。2,200円のイヤフォンを手にしたら良いイヤピにも出会える……これが令和なのか。すごい。
今どきのK-POPとかアイドルソングとかすごく合う
では、肝心の音はどうか? すでにさまざまなところで話題になっているが、イヤピのおまけのイヤフォンだと思って油断しているとびっくりする。“ガンダム歌手”でおなじみの森口博子さんも絶賛だ。
スペックを見ると、内部には8mm口径のダイナミックドライバーを搭載。感度は104dB SPL/mW(@1kHz)で、インピーダンスは16Ω(@1kHz)、周波数範囲は10Hz~40kHzとなる。そのほか、細かいスペックは以下の詳細レビューを参照されたい。
なんというか、安っぽい不自然なギラつきがなくちゃんと音楽を楽しめる。音質傾向は低域寄りに聴こえるが、あえて言うなら“印象の良いドンシャリ”というか、中域もちゃんと聴きやすくてクリア感もある。
締まりのある低音が印象に残るのと、高音がキラキラしているが刺さりすぎず、今どきのポップスをノリ良く聴ける感じ。鋭いビートをタイトにキメてくる楽曲との相性が良さそう。
さすがにイヤフォン単体で見たときに「解像感が〜」とか「高域の伸びが〜」みたいなことを語る感じではないが、2,200円でAZLAのイヤピが付いてきて、3.5mmかUSB-Cを選べる上でこの音質だったらかなりアリでしょ……! っていう話だ。
韓国の6人組ボーイズグループ・TWSの「Countdown!」を聴いてみると、メロディアスな主旋律が印象的な“爽やかK-POP”と表現できそうな世界観の中で、キレと清涼感のあるビートが、時折ほんのり沈み込むのが良い。
上述の通り中域がちゃんと聴きやすく、男性ボーカルの声も迫力を持って楽しめた。音質の傾向的に、K-POP全般が合う気がする。
SNSでバズっている女性アイドルグループ・CANDY TUNEの「倍倍FIGHT!」は、出だしから一気にBPM早めのユーロビートがズンズン来るので、本機のようにタイトな低域でリズムが印象に残るイヤフォンはよく合う。
落ちサビの途中でビートが入ってくるところ(立花琴未さんの湯切りパート)や、ラストでいきなりマーチに変化する熱い裏切りなど、引き締まった強い低音がグイグイとそのリズム的演出をリード。楽曲の持つポジティブな空気感が耳の中に充満する。
平成J-POPがエモい
続いて、“あの頃の安い有線イヤフォンとは違うぜ”というのをダメ押しで実感するべく、リアルに平成時代に聴いていた懐メロも再生してみる。
試聴曲に抜擢したのは、中谷美紀の「MIND CIRCUS」(1996年)。当時の歌番組「HEY!HEY!HEY!」に、プロデューサーの坂本龍一と共に出演して歌っているのを聴いて「コレは」と思い、すぐ8cmシングルCDを買いに行った思い出の一曲だ。
楽曲としては、シティポップの流れを汲みつつ、'90年代のちょいシニカルな距離感が混ざった教授サウンドって感じで、かなりポップな作りの中でさまざまな音が散りばめられている。
若い自分には、チュクチューンなギターやキーボードが刻むメロウな空気感が印象的だったが、今にして思えば、当時の安価なイヤフォンでは繊細な音は潰れてしまっていた。
これをTRINITYで聴いてみると、サビの主旋律に絡む高域シンセ音がキラッキラで、硬質感があって良い。強めのベース音が終始グッと締まって鳴っているあたりも、世界観と合っている。ボーカルも聴こえやすく、高域のキラキラの中で中谷美紀の無感情な声が映えていて、無機質なのだがすごくエモい。
学生時代のノリで買いやすい2,200円という価格ながら、あの頃とは全然違う音がして、ひとことで表現すると“懐かしさと新鮮さが同時に味わえる”感覚。なるほど、平成レトロブームの面白さってコレか……と、TRINITYに教えられた気分だ。
アンダー1万円良質イヤフォンへのステップアップに
最後に。TRINITYに対して「なるほど企画が優勝」と思うポイントはもう一つある。
それは、スマホやゲーム機とUSB-C接続するためのカジュアル用途で手に入れたユーザーが、「もう少し予算を足せば、音質グレードアップの道がある」と、イヤフォンの選択肢の広がりに気づくきっかけになり得ること。ここから、まずはアンダー1万円でクオリティの高いイヤフォンへのステップアップにつながるのではないか。
特に、上述の通りAZLAのイヤピが同梱されていることで、大前提として装着時の快適性が担保されているのが大きい。なんせ、昔の筆者のように、「耳にフィットづらくてカナル型全般が苦手」みたいなことになると、そこで終わってしまう。
まずそこがクリアされるだけで、「もっと音質グレードアップを」と趣味に進展する可能性は高くなると思うのだ。カジュアルなノリで有線イヤフォンを選ぶとき、AZLAのTRINITYとイヤピに出会える令和の10代が羨ましい。