ミニレビュー

待ち望んでた理想型。ソニーのトレーニング音楽プレーヤー「Smart B-Trainer」

「そろそろ腹の肉がやばい」と周囲に言い続けて幾年月。これまでにも何度か「本当にやばい」と危機感を覚え、そのたびにスポーツ向け腕時計を買ったり、屋内用に自転車とサイクルトレーナーを買ったりしていた筆者だが、どれも長続きしなかった。モチベーションが保てなかったり、家庭の事情があったりと、理由はいくつかあるのだが、続かなかったのは、結局その時の物欲を満たしたいだけだったからなのだ。

 それを気付かせてくれたのが、ソニーが3月に発売したイヤフォン型トレーニングデバイス「Smart B-Trainer」。最近は数多くのスポーツ向けイヤフォンが各社から発売されているが、このSmart B-Trainerはそれらと似ているようで、あらゆる点で異なる。当初はメーカーからお借りして試していたのだが、その後思わずお店に購入に走るくらいには手放せなくなってしまった。

ソニー「Smart B-Trainer」

Bluetoothイヤフォン+活動量計のワンストップデバイス

 Smart B-Trainerは、外見はイヤフォンの形をしており、実際に音楽を聞くこともできるが、製品カテゴリーとしてはランニングを中心としたフィットネス・トレーニング向けの活動量計に分類されるアイテムだ。ソニーでもこれをウォークマンではなく、「スマートスポーツギア」という新しい呼び名で完全に分けて紹介していることからも、それが分かる。

Smart B-Trainerの外観
裏側から
パッケージ内容。ソフトケースと充電用ホルダーが含まれる
充電用ホルダーは若干座りが良くない

 頭の後ろに回して装着するインイヤータイプのイヤフォンとなっており、左右の少し大きめの本体部に各種操作ボタンと多数のセンサーを備える。

 耳に密着させることで計測できる心拍センサーの他、GPS、加速度センサー、ジャイロセンサー、電子コンパス、気圧センサー、マイクが詰め込まれ、ランニング時にはスマートフォンなど他のデバイスを携帯することなく、Smart B-Trainer単体でリアルタイムの心拍計測、高低差を含む走行ルートのトラッキング、歩数やストライド幅、ピッチの記録などが行なえる。

本体右側に心拍センサーを内蔵している

 防水性能はIPX5/IPX8に準拠しているため、汗や雨に濡れても問題ないうえに、プールでのスイミングにも対応する。イヤーチップもランニング・通常時用とスイミング用がサイズ違いで4種類ずつ付属している。ただし、心拍センサーはスイミングには対応しないため、音楽を聞きながら泳ぐという単純な音楽プレーヤー機能付きイヤフォンとしての用途に止まるだろう。やはりメインはランニング向け、ということになる。

雨の中で大量に汗を流しても機能には全く問題ない
センサーカバーとイヤーチップ。サイズ違いで用意されているので、自分に合うものをきちんと選びたい
“小顔”の人は付属のバンドを利用して調整しよう

 音声・音楽再生に関係する主要な仕様を列挙すると、Bluetooth 4.0でスマートフォンと連携することによる音声通話、音楽のストリーミング再生(対応コーデックはSBC/AAC)に加え、内蔵の16GBストレージに保存した音楽ファイルの直接再生(対応フォーマットはMP3/WMA/ATRAC/AAC/WAVなど)が可能で、音楽ファイルを保存した順に再生するモードと、シャッフル再生の2通りの再生方法が選べる。

 周波数特性は20Hz~20kHzをカバー。ハイレゾに対応していないのは今どきのソニー製品らしくない、と言えなくもないが、試したところでは48kHz/24bitのWAVファイルなら再生することができた(スペックシート上は44.1kHz/16bitまで)。音楽ファイルの転送にはWindowsアプリケーションの「Media Go」か、Mac OS用の「Content Transfer」を利用し、Media GoであればSmart B-Trainer非対応のファイルであっても転送時に自動で最適なファイル形式に変換して保管してくれる。

Mac OSではContent Transferで音楽ファイルを簡単に転送できる。ただし変換機能はないので、対応ファイルを選んで転送する必要がある

注目はパーソナルトレーナーを実現する多彩なトレーニングメニュー

iOS版の「Smart B-Trainer for Running」アプリ

 以上、特徴を簡単にまとめると、高機能な活動量計として利用でき、ヘッドセットや音楽プレーヤーとしても使えるウェアラブルデバイスということになる。他のスポーツ向けイヤフォンの多くはヘッドセットかイヤフォンとしての機能しかなく、活動量計の役割を兼ねるものは少ない。そんな中でSmart B-Trainerは比較的ユニークなアイテムと言えるだろう。

 ただ、注目したいのはハードウェア面より、ソフトウェアとコンテンツだ。Smart B-Trainer専用のiOS/Android用アプリ「Smart B-Trainer for Running」(Android版/iOS版)が用意されており、このアプリからさまざまなトレーニングメニューを選んでSmart B-Trainerとともにランニングを実践できるようになっている。

 用意されているトレーニングメニューには、7月現在、「ベーシックトレーニングメニュー」として、自由にランニングしてデータを記録する“フリー”、あらかじめ決めた目標に向けてトレーニングする“時間・距離・消費カロリー”、ダイエット向けの“効率的に脂肪燃焼”などがある。

 また、「プレミアムトレーニングメニュー」もあり、プロランニングコーチ金哲彦氏監修による、ランニングにまつわる多彩なトレーニングプランを実践できるメニューと、トレーニング管理サービス「MY ASICS」と連携したメニューが利用できる。これらのトレーニングメニューをスマートフォン側で選んだ後、Smart B-Trainerにデータ転送することで、メニューの内容や目的に沿った時間・ペースで、適切にトレーニングできるのが最大の特徴だ。

「ベーシックトレーニングメニュー」と「プレミアムトレーニングメニュー」がある
金哲彦氏監修のトレーニングメニュー

 例えば金哲彦氏のトレーニングプランには、“経験ゼロ→30分走れるようになりたい”といったランニング初級者向けのメニューや、“制限時間以内にフルマラソンを完走したい”といった中・上級者向けのものなど、8種類が用意されている。これらの中から自分の目的に合ったものを選ぶと、ステップアップしながらそれぞれのメニューにおける目的・目標の達成を目指せるプランを提示してくれる。

 “制限時間以内にフルマラソンを完走したい”というメニューでは、最初は30分のジョギングに始まり、次の2日間は休み、60分のウォーキングと40分のジョギングをこなした後は、また2日間の休息、というように、体に無理をさせず、約3カ月間に渡ってしっかり体力を付けていけるプランが組まれている。最終的には一定のペースで42.195kmを完走できるレベルまで段階的に引き上げられるという寸法だ。

“制限時間以内にフルマラソンを完走したい”というメニューの序盤のトレーニングプラン

 トレーニングの各回ごとにあらかじめデータ転送を行うが、このデータにはトレーニングの目標設定に関するものだけでなく、前後のウォーミングアップとクールダウン、ランニング中の金氏によるアドバイスといった音声コンテンツも含まれている。つまり、データ転送してSmart B-Trainerのスタートボタンを押せば、トレーナーのかけ声による準備体操の後、時折アドバイスなどを受けながら走ることができ、決められた時間を走った後は再び体操してクールダウンするという、トレーニングの一連の流れを耳で聞きながら進めていける。

 そして、最後は本体に記録されたデータをスマートフォンにBluetoothで転送し、アプリ上で走行ルートをプロットした地図を見ながら、走行ペース、心拍数の推移、ストライドやピッチの変動をグラフ表示して、ランニングを細かく分析できるのだ。

トレーニング終了後、Bluetooth経由でスマートフォンに記録を転送。見通しの良い場所でのGPSの精度は高いが、建物に囲まれた場所ではやや甘くなる
ペース、高度、心拍数などをグラフ表示でき、地図上にもグラフィカルに反映する
再生される曲は負荷(心拍数)などに合わせて自動で変更される

 さらに、ベーシックトレーニングかプレミアムトレーニングかに関わらず、あらかじめ転送しておいた音楽や、最初から用意されている35種類のサウンドを流しながらランニングするようになっている。メニューによっては一定範囲の(心拍の)負荷を保ちながらトレーニングするものもあるが、その場合は自動でペースに合った音楽が選ばれる仕組みだ。

 想定より負荷が高ければテンポの遅い曲が、負荷が低すぎればテンポの早い曲が流れ、効率的にトレーニングを行える。ここにはウォークマンシリーズにも搭載されている“12音解析”技術が用いられており、自分で転送した楽曲もきちんとテンポごとに分類されて、負荷に合わせて適切な曲が再生される。もちろん、一定時間や一定距離を走るごとに、消費カロリーやペース、時間や距離を音声で教えてくれるようにもなっている。

単体で走りに行けるメリットを実感

心拍検出のテスト機能を実行中

 というわけで長々と機能について説明してきたが、実際の使用感としてはどうだったか。

 まず両耳間のケーブル部の長さが短めで、やや固い素材になっているため、装着には少しコツがいる。慣れれば数秒で簡単に装着できるが、最初のうちは心拍センサーを合わせる位置も含め、手探りしながらフィットする場所を見つけることになるだろう。トレーニング用のデバイスとしては、心拍センサーが正確に働くかどうかが特に重要。サウンドの聞こえ具合も確認しつつ、付属のイヤーチップやセンサーカバーのサイズ変更を一通り試し、アプリ上で心拍検出の確認機能を使って確実にフィットさせる感覚をつかんでおきたい。

 正しく装着できれば、ちょっとやそっとの体の動きではびくともしないくらいしっかり固定される。ランニング中に勝手にずれて心拍が検出できなくなったりすることもまずない。ただし、流れ出る汗をぬぐう際に本体に触れてしまうと、ずれて心拍の検出が中断してしまうことがあるので、タオルを上から軽く押さえるようにした方が良さそうだ。

 トレーニング中の途中経過を音声で教えてくれる機能もうれしいが、アドバイスが含まれたプレミアムトレーニングメニューは、まさしく「パーソナルトレーナー」がそばについてくれているようで、素直に楽しみながら走れる。スマートフォンアプリや腕時計型のウェアラブルデバイスでも似たようなコーチング機能があったりするけれど、Smart B-Trainer単体で音楽再生もコーチングも全て実現できているのがやはり大きい。まじめにトレーニングに取り組みたい時は、スマートフォンのようなかさばるデバイスはどうしても邪魔になるからだ。身に付けるものは少なければ少ないほどいい。

 音楽プレーヤーとしては、ディスプレイを備えておらず、本体でコントロールできるのも再生・停止・スキップ・ボリューム調整のみなので、単体で使う場合にはある程度の割り切りが必要だ。スマートフォン連携での音楽再生の使い勝手も良いけれど、GPSオフ時で動作時間は最大約6時間となっており、スタミナ面で物足りなさがある。

 音質はどちらかというと低・中音域に寄せているようで、しっかりメリハリがありつつ耳当たりの良いサウンド。驚くほどの解像感を再現するハイレゾ的なサウンドではさすがにないが、屋外で使ったりスポーツ中に使うことが前提の製品としては十分満足できるクオリティだろう。

キモとなるトレーニングメニュー、今後の拡充にも期待

 販売価格がおよそ28,000円で、他のスポーツ向けイヤフォンと比較すると割高に感じてしまいそうだ。が、「Bluetoothイヤフォン+ミュージックプレーヤー+ヘッドセット+コーチング機能付き活動量計」という機能を考えれば、お買い得としか言いようがないし、個人的には今のところ理想型に近いトレーニング用ウェアラブルデバイスだと思う。

 というか、Smart B-Trainerの場合はハードウェアとしての魅力よりも、個人個人に合ったトレーニングメニューを実践できるという“コンテンツ”が最大のキモであり、これを今後いかに充実していくかが重要な課題ではないかと感じている。そう考えた時、むしろこの製品価格でコンテンツの拡充を続けられるのか、という不安を勝手に抱いてしまう。有償になってもいいので楽しめるトレーニングメニューを増やしていってほしい気もするが、いずれにしてもどれだけ多くのユーザーにこの製品が受け入れられるかにかかっているだろう。

「MY ASICS」のトレーニングメニュー。こういった他社コンテンツとの連携も広がっていくと面白そうだ

 とりあえずは、今進めている“制限時間以内にフルマラソンを完走したい”というトレーニングメニューを最後まで続けられるかどうかが筆者の目標。Smart B-Trainerやアプリが末永くバージョンアップして楽しませてくれる製品になってくれることを願いたい。

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Smart B-Trainer

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。