レビュー
画面が鳴り、黒が沈む。ソニー4K有機ELテレビ「BRAVIA A1」の斬新さ
2017年5月26日 08:15
5月7日、ソニーがいよいよ有機EL 4Kテレビ「BRAVIA A1」を発表した。ソニーは、2007年に11型の有機ELテレビ「XEL-1」を発売しているが、大画面の4Kテレビとしては初の有機ELだ。65型の「KJ-65A1」と55型「KJ-55A1」を用意し、店頭予想価格は65型が80万円前後、55型が50万円前後。
LG、東芝、パナソニックと、各社が有機ELテレビを発売しているが、いずれも「最高画質のフラッグシップ機」という位置づけ。ソニーBRAVIAがユニークなのは、液晶のZ9Dと有機ELのA1の「2つのフラッグシップ」という位置づけにしているということだ。
液晶の特性を生かし、明所コントラスト性能が特徴のZ9Dと、自発光ディスプレイらしい黒の締まりをアピールするA1という画質傾向が違うことはもちろんだが、A1ではデザインや音といった要素にも「有機ELならでは」の工夫を施して“新しいテレビ”として提案しているのだ。
BRAVIA A1で、特に目を惹くのは“画面が鳴る”「アコースティックサーフェイス」を採用したこと。これによる、自然かつ高音質なサウンドと“佇まい”を新たな個性としてアピールしている。この、アコースティックサーフェイスを中心に、ソニーの新提案「BRAVIA A1」の魅力を探った。
ユニークなデザインと画面が鳴る「アコースティックサーフェイス」
今回試用したのは65型の「KJ-65A1」。幅145cmと大きいが、梱包を解いてみると1枚の板のようになっている。前面はほぼ映像表示画面で、裏側の映像処理系やサブウーファを内蔵したユニット部がスタンドとして機能する。スタンドを引き出して設置すると、画面は5度上方向に傾いた状態になる。
スタンドを含む外形寸法は65型が145.1×33.9×83.2cm(幅×奥行き×高さ)、重量は36.2kg。イーゼルのようなユニークな設置方法かつ、画面が上方向に傾斜しているので、高さのあるテレビ台よりは、低めのテレビボードや床置きが適していそうだ。背面の仕上げの光沢も美しい。ただ、かなりユニークなデザインなので、購入前に、設置スペースや設置イメージ、きっちりとシミュレーションしておきたい。
KJ-65A1を設置して、1mほどの至近距離で見てみると、「1枚の黒い板」という印象。ベゼル幅がほとんどなく、画面下部までほぼ画面なので、一般的な同サイズのテレビよりも大きく感じる。4K/3,840×2,160ドットの有機ELパネルと、HDR対応の高画質プロセッサ「X1 Extreme」を搭載。HDR信号は、Ultra HD Blu-rayなどで採用されている「HDR 10」と、4K放送で採用される「Hybrid Log Gamma(HLG)」に対応。Dolby Visionにも今後のアップデートで対応する予定だ。
そして、BRAVIA A1の特徴のひとつが、テレビの画面そのものを振動させる「アコースティックサーフェイス」。画面を振動板として利用し、4基のアクチュエータと1基のサブウーファによる2.1ch構成を採用。背面のアクチュエータで、画面叩いた振動を音として出力するもので、総合出力は50W。“画面が鳴る”という意味では、これまでもNXTなどの類似技術が存在したが、55型以上の大画面で実現し、なおかつその音質にもこだわっている。
左右や上下スピーカーではなく、「画面自体から音が出る」ため、セリフの聞こえかたは自然で、「映像のリアリティも向上する」という。低音は、背面スタンド部に内蔵したサブウーファから出力。アクチュエータで低域部分まで鳴らすと、振動により映像に悪影響が出るため、中高域がアクチュエータ、低域はサブウーファという構成としている。デジタルアンプのS-Masterやフロントサラウンド技術の「S-Force Surround」も搭載している。
背面の仕上げにもこだわっており、端子類はカバーで隠されている。HDMI入力は4系統で、HDMI2とHDMI3の2系統が4K/60p 4:4:4対応。コンポジットビデオ入力×1、光デジタル音声出力×1、ヘッドフォン出力×1(サブウーファ兼用)などを備えている。
OSプラットフォームは最新のAndroid TV 7.0で、映像配信サービスやアプリ追加などに対応。リモコンは、音声操作に対応しており、録画番組検索やYouTubeの検索などが可能。ソニー独自の音声解説技術により、音声予約や絞込み検索機能を新搭載し、「今週末のお笑い番組を予約」といった文章で、録画予約が行なえるようになった。ただし、今回は地デジ受信や録画は試せていない。
操作レスポンスもよく、Android TVがプラットフォームとしてこなれてきていることは使ってすぐに実感できる。個人的には、[視聴中メニュー]ボタンから、BD視聴時に映像を見ながら、画質設定などが行なえるため、とても使いやすく感じる。
録画やYouTubeなどのネットサービス、好みの番組ジャンルなどに、ワンボタンでアクセスできる「番組チェック」も強化し、新たに「かんたんメニュー」を追加。番組を見ながら画面下に表示したUIを確認し、番組表の起動やHDMI入力切替が行なえる。スマホの操作に慣れていると、[入力切替]ボタンより、こうしたGUIでの切換のほうが“直感的”とも感じる。特にHDMIの切り替えはこちらのほうが好みだ。
また、地道なアップデートだが、Android TV表示画面にテレビ放送等の小画面表示が行なえるようになっている。
“画面が鳴る”が生むリアリティ。SDRでもHDR感
今回は、Ultra HD Blu-ray(UHD BD)やBDを中心に視聴した。基本的に明かりを消灯した全暗環境で、画質モードは全暗での映画視聴時は、[シネマホーム]、[シネマプロ]を中心とし、明るい環境では[スタンダード]などを選択している。
まずは、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」のBD。BDのメニュー画面が起動しただけで、“音の良さ”が実感できる。20世紀FOXのオープニングムービーの音が本当に画面から出ていることがわかるし、FOXのロゴの発色やコントラストの高さも印象的。「このテレビはちょっと違うぞ」という気持ちになる。
音もそうだが、映像のインパクトも強烈。数日前に、自宅の4K液晶テレビでも観ていた映像とは、コントラスト感、そして精細感がまるで違う。特に、暗部の情報量や陰影、宇宙空間の星の明滅や、暗い船内における計器パネルの輝きや色鮮やかさなどに目を奪われる。メッセージとして使われる、ホログラムの立体感もより現実的に感じられる。2KのBDでSDRなのだが、HDR映像に見えてくる。
終盤のスカリフの戦いのような、日中の明るい戦闘場面でもハイコントラストかつ色鮮やかで、全暗環境で観ると、液晶よりも明るく感じられる。黒が沈むことで、コントラスト感だけでなく、色情報も引き出されているような印象だ。
アコースティックサーフェイスのサウンドは、「画面から音が鳴っている」という体験が、これまでのテレビと違うため、最初は驚き、「これはいい!」となるのだが、数分経つと慣れる。ただ、所々で、画面の人物とセリフがバッチリ一致するシーンがあり、はっとさせられる。
戦闘シーンにおいても、移動感はそれほど強くなく、アコースティックサーフェイスだからという驚きはない。空間移動するときに、ブーンという重低音とともに徐々に音が減衰していく様子などは結構迫力がある。ただ、爆発音やAT-ATの足音の重量感とかは、もう少し欲しいかな、とも感じる。
HDRコンテンツのUHD BDでは、「オデッセイ」のロケット炎の色の深みや輝き感などが印象的。UHD BD「デッドプール」においても、車の金属の質感がなまめかしい。それ以上に印象的なのは、車など粉砕された破片が飛び散る感触が、音として明瞭に表現されること。なんというか“粉々感”が高い音になっているのだ。
ちなみに、画面50cmぐらいまで近づいてアコースティックサーフェイスの音を聞いてみると、画面中央ではなく、少し上の左右が鳴っていることがわかる。ステレオ音源では、きちんとステレオ感も感じられる。
なお、デッドプールでは、終盤の戦いの後に一瞬画面が真っ暗になるシーンがある。一応部屋は全暗にしているが、隣室や機器の光漏れのため、画面よりも周囲のほうが明るいという状況になる。そのため、急に真っ黒な板が目の前に現れたように感じられる。有機ELなので、画面が“本当に真っ暗”ということが実感でき、感動的だ。
アコースティックサーフェイスと相性がいいと感じたのは、UHD BDの「シン・ゴジラ」。暗闇に包まれる東京、ゴジラが放つ紫の光の眩さなどHDRならではの魅力もあるのが、音声がほぼモノラルのシン・ゴジラのサウンドが、映画館っぽい印象なのだ。
巨大不明動物上陸被害情報を伝えるニュースに、無線交信が重なるシーンの音の聞こえ方が明瞭かつ重層的。セリフも聞きやすく、画面中央から聞こえてくるテーマソングもテンションがあがる。サウンド構成がシンプルなだけに、力強く、また少しレトロっぽく、いい感じだ。
明るい画像という意味で4K/60p収録の「宮古島」を見てみたが、夕日に照らされる波頭がなど明暗が混じるシーンがとても良い。日中の明るい砂浜もハイコントラストで、明るい室内で見ても十分な明るさ。有機ELでよく指摘される輝度への不満は全く感じられなかった。また、普段この作品でほとんど意識していないBGMが、とても心地よく感じたのも印象的だ。
音楽タイトルということで、おそらく唯一の音楽UHD BD「モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』」も観てみた。冒頭のオーケストラの演奏が、音量を絞っていても臨場感が高く感じられ、テレビのスピーカーともシアターシステムとも一味違う印象。そして歌声が本当に中央から出ているように感じられるのはやはり強烈なインパクトだ。また、本作は4K/50p(SDR)収録のためか、映画とは違った動きの艶めかしさがあり、照明の陰影やセットの質感などが“見えすぎ”て、奇妙なリアリティがある。
USBメモリやNAS内楽曲のネットワーク経由にも対応。アプリ「ミュージック」から音楽再生できる。このアプリもシンプルで、リモコン操作でも使いやすい。キース・ジャレットの「ケルンコンサート」(96kHz/24bit FLAC)における、ピアノの強弱と静寂表現などは、アコースティックサーフェイスにかなりマッチしている印象だ。
Fourplay「101 East bound」(96kHz/24bit FLAC)は、もう一息ベースとバスドラの量感が欲しいところ。やや、音像が強調されるきらいもあるので、気になる場合は[ClearAudio+]をオフするなど、設定での調整も可能だ。なお、編集部で試した限りでは、96KHz/24bitのファイル再生が行なえたが、BRAVIA A1はハイレゾロゴを取得していない。
2017年夏、最新有機ELテレビの魅力
有機ELによる画質の進歩は目覚ましい。ソニーをはじめ、各社の有機ELテレビを何度も見ているが、改めて見慣れたコンテンツをじっくり見てみると、その進化と魅力を痛感する。端的に言うと、「できれば映画は有機ELで観たい」。
ソニー初の4K有機ELテレビ「BRAVIA A1」は、画質・音質における正常進化はもちろんだが、アコースティックサーフェイスなど「新たなテレビ」にチャレンジした意欲作だ。使う前は、「画面が鳴るのは面白いけど、そこまで魅力的かな?」と若干懐疑的だったが、使ってみると、確かに“新しさ”が感じられる。最初の「おぉ!」という驚きだけでなく、いろいろな作品を観ると、じわじわと違いが分かってくる。とても魅力的な製品だ。
ただ、4KもHDRもそうだが、魅力が「使ってみないとわからない」のは悩ましいところ。デザイン、有機EL、画面が鳴る、Android TV等々、なにか興味を惹くものがあれば、ぜひBRAVIA A1に触れてほしい。
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