レビュー

やっぱり「AKIRA」は凄かった、4Kリマスター版のIMAX試写で打ちのめされる

4月24日に4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-rayで発売される「AKIRA 4Kリマスターセット」。その発売に先駆け、4月3日から「AKIRA 4Kリマスター」がIMAXで上映される。それに先駆け、TOHOシネマズ日比谷にて試写会が開催。1988年の公開から30年以上が経過しているが、4Kリマスターで生まれ変わった衝撃の映像とサウンドを体験した。

「AKIRA 4Kリマスター」IMAX上映ポスター
(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

なお、上映劇場は、東京ではグランドシネマサンシャイン、109シネマズ木場など、名古屋では109シネマズ名古屋、大阪は109シネマズ大阪エキスポシティ、九州ではユナイテッド・シネマキャナルシティ13、北海道はユナイテッド・シネマ札幌など。詳細は東宝のサイトを参照のこと。

TOHOシネマズ日比谷のSCREEN 4で鑑賞した

AKIRAとは

ヤングマガジン(講談社)にて1982年12月より連載が開始された「AKIRA」は、独創的な世界観と緻密なビジュアルが国内外で話題となり、書籍・キャラクターグッズなども含め、世界的なセールスに成功。

マンガ史に残る傑作と言える作品だが、それを原作者・大友克洋氏自らが監督を務め、製作期間3年、総制作費10億円という、当時のアニメーションでは考えられないほどの時間と労力、そして最高のスタッフと技法を駆使して生まれたのが、1988年公開の劇場アニメ「AKIRA」だ。

(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

謎の満ちた存在「アキラ」を中心に、政治と宗教が入り組み、そこに若者たちのエネルギーが炸裂。物語のスケールは宇宙規模へと限度無く広がっていく。都市まるごとクラスの破壊と再生が描かれる作品だが、スケールの大きな描写だけでなく、荒廃したネオ東京の緻密に描きこまれたディテールと情報量、その舞台をバイクで疾走するスピーディーなアクションシーン。そして心拍数を強制的に上昇させるような民族音楽をベースとした芸能山城組の独特のサウンド。強烈なパワーとイマジネーションのカタマリのような作品だ。

4月24日に4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-rayで発売される「AKIRA 4Kリマスターセット」
(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

画面の情報量に圧倒される

「あのAKIRAを、IMAXの大スクリーンで体験できる」というだけで心拍数が上昇、上映がスタートするともう画面に釘付けだ。

4Kリマスターにあたっては、35mmマスターポジフィルムから4Kスキャン & 4Kリマスターを施したとのことだが、冒頭の1988年7月、新型爆弾で壊滅する関東の遠景から、2019年のネオ東京まで、街並みのディテールが非常に細かく描き込まれているのがよくわかる。

家やビルのカタチが微細というだけでなく、壁の色ムラ、ビルの窓ガラス1つ1つと、そのガラスの奥にある机や棚のシルエットなど、「こんなところまで描かれていたのか」と驚く。

(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

既発売のBlu-ray版も、BD版のために新たにHDテレシネを行なったニューマスターを使用したもので、その元になっているのは上映用フィルムの複製を行なうためのマスターポジだったが、4Kリマスター版はさらに画面の情報量がアップした印象だ。

金田達のたまり場となっているバー“春木屋”の、入り口の階段に捨ててある空き缶など、小さなゴミまでキッチリ解像されている。物語の展開も重要だが、クッキリ見えるので、店内に掲げられた「本日のつまみ」のメニューにまで、つい目が行ってしまう。

軍の研究機関から連れ出された実験体のタカシが、能力を使ってビルを破壊するシーンでは、吹き飛ぶ看板の破片のディテールの細かさ、崩れ落ちるビールのオブジェクトの“粉々っぷり”が凄い。割れた窓ガラスの破片が降り注ぐシーンでも、1つ1つの破片が微細に描写され、逃げ惑う人々の服のディテールも細かい。

この作品には“逃げ惑う群衆”や“押し寄せる群衆”が頻繁に出てくるが、1人1人が、どんな反応をしているのかも、クッキリ見える。

軍の施設に収容された鉄雄を、キヨコ、マサル、タカシのナンバーズが、巨大化させたぬいぐるみで襲うシーン。この巨大ぬいぐるみは、小さなぬいぐるみやオモチャを組み合わせたものなのだが、薄暗い場面でも、どんなぬいぐるみが、どの部分に組み込まれているのかがよく見える。

「AKIRA 4Kリマスターセット」(4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Disc 2枚組)」2020年4月24日発売告知ティザー映像

強烈さが格段にパワーアップしたサウンド

映像も凄いが、もっと凄いのは音だ。AKIRAのサウンドはもともと強烈だが、今回の4Kリマスターでは、音声面も音楽監督・山城祥二指揮のもと、半年もの時間をかけて細部にまでこだわりぬいた5.1ch音源のリミックスが実施され、その強烈さが格段にパワーアップしている。

例えば、金田達が夜の街をバイクで疾走するシーン。音場がより広くなり、音楽が空間の奥の奥まで広がり、消えていく様子までしっかり聴き取れる。そのため、映像で描かれているビルや家の“その後ろの空間”まで、街が広がっているんだというのが、映像では見えないが、音で感じられる。2Dのアニメだが、音によって立体感が増し、世界観がより重厚に感じられる。

(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

効果音もより鮮烈になっており、暴走族「クラウン」のリーダーであるジョーカーが、襲ってきた敵を頭突きで返り討ちにして、道路に叩き落とし、敵の腕を自分のバイクで轢くシーンでは、腕が砕ける「ゴキャッ!!」という音が強烈。何度も観ている作品なので、慣れているはずが、思わず顔をしかめてしまう。

前述の巨大ぬいぐるみシーンは、「ペロン、パロン」というような不思議な声のサウンドで幕を開けるが、その声の1つ1つが、広大な空間の、前や後ろ、斜め上など、予想できない場所に立体的に配置される。声の残響の広がりもより深いため、可愛いぬいぐるみが登場するシーンにも関わらず“異様な”あのシーンが、より恐ろしくなっている。

地下に封印されたアキラに、目覚めの兆候がないか、敷島大佐がチェックに訪れるシーンでも、無数のパイプやケーブルが接続された封印設備の細部まで見え、そこにIMAXシアターならではの強烈な低音が「ズドーン」と響く。敷島大佐が語る、人類が自ら開けて、慌てて塞いだ“恐怖の穴”の存在感が、より深く伝わってくる。

(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

やっぱりAKIRAは凄かった

もともと強烈な作品だが、 4Kリマスター版を、しかもIMAXで視聴すると、AKIRAという映画を“観る”というよりも“貫かれる”感覚に近く、上映終了後、なかなか椅子から立ち上がれなかった。

“公開から30年以上経っても色褪せない”というのもありきたりな表現だが、色褪せないどころか、昨日完成した新作を叩きつけられたような感覚すらある。

「セリフを言えるほど何度も観たよ」という人も、 4Kリマスター版を、しかもIMAXで体験すると、初めて観た時のような衝撃を感じられるだろう。また、「実はAKIRAってちゃんと観たことがない」という人にも、初体験の機会として最適かもしれない。帰り道は「やっぱりAKIRAは凄かった」以外に言葉が見つからない試写会だった。

山崎健太郎