レビュー

Amazon Music HDが待望の「排他モード」対応! 音質改善したのか聴いてみた

音楽ストリーミングサービス「Amazon music HD」のWindowsアプリ版がアップデートされ、新たにオーディオデバイスの切替え機能と、「排他モード」に対応した。正確な対応開始日時は不明だが、執筆した3月10日時点ではWindowsアプリで対応済みで、モバイル版は非対応となっている。

Amazon Musicアプリ

Amazon music HDは、国内では初めてハイレゾのストリーミングに対応したサービスとして非常に注目されている。楽曲カタログは充実しているし、アプリのUIや操作性も高く評価されている。反面、PCオーディオで音質の要である「排他モード」には非対応であった。Windowsの場合、サウンドの設定から「既定の形式」を再生したいソースに合わせて変更することで、ある程度の音質は確保できたが、音質の向上は微々たるものなので、Amazonの推奨する192kHz/24bitの固定レートに設定し利用していたリスナーも多いかもしれない。

既定の形式の設定

そんな背景があったものだから、ついに排他モード対応となって、オーディオファン界隈ではちょっとした騒ぎになった。筆者もTwitter経由で情報を取得し、その後すぐさま検証に入ったのでレポートしたい。

排他モードのメリットとは?

まずはWindowsなどのオーディオにおける排他モードについて、簡単に解説しよう。PCで再生されるサウンドは、基本的にOSのオーディオエンジンを経由する。例えばエラーや通知などで鳴るシステム音や、iTunesの音楽、YouTubeなどブラウザ上の音声などを同時に再生することが可能になっている。通称カーネルミキサーと呼ばれるところで音声をミックスしているが、そこを通過するだけで音質が劣化してしまうのがPCオーディオユーザーにとって難点だった。

そこで排他モードの出番。このモードは、アプリから再生したいUSB DACなどのオーディオデバイスを占有して排他的に利用させる機能。有効にすることで、オーディオエンジンを通さず、より劣化の少ない音を楽しめるというわけだ。つまり、音が良くなる訳ではなく、本来のクオリティを取り戻すというのが適切だろう。

まずは、Windows PCとAmazon Musicアプリを使って、排他モードの使い方を細かく見ていこう。下準備として、USB DACなどをPCに繋ぎ、コントロールパネルのオーディオデバイスの管理から再生タブを選び、当該デバイスのプロパティを開く。詳細タブを見ると排他モードという項目がある。「アプリケーションによりこのデバイスを排他的に制御できるようにする」と「排他モードのアプリケーションを優先する」にチェックを入れておこう。

Amazon Musicアプリの7.11をインストールして、音源を再生すると、右下に新しいアイコンが現れる。このスピーカーのようなアイコンをクリックすると、オーディオデバイスの選択画面と、排他モードのチェックが出来るようになっている。デフォルトのデバイスは、オーディオデバイスの管理で既定のデバイスになっていたUSB DACなどが表示されているだろう。排他モードONでは、アプリからの音量調節が無効になるので、USB DACに音量調整があればそれを活用、無ければ右下のタスクバーアイコンから音量を調整しよう。

利用可能な端末
排他モード設定

利用にあたり、まずは排他モードOFF(従来の動作)を確認しよう。既定の形式は、192kHz/24bit(または32bit)など、選択できる最上位を選んだ。試しにHD音源を再生してみた。画像で示した通り、音質は44.1kHz/16bit、現在は44.1kHz/16bitなので、USB DACにも44.1kHz/16bitが出力されていると思いきや、実は既定の形式と同じフォーマットで出力されていた。これは多くの人が既に確認しているかもしれない。

既定の形式を最大値に設定した
左のUSB DAC表示を見ると、既定の形式と同じ192kHzで出力されているようだ

次に、排他モードをONにして、もう一度同じ曲を頭から再生する。音質は確かに変わったように感じられたが、USB DACの表示は192kHzのまま変わらなかった。試しに音楽を再生しながらYouTubeを見てみると、USB DACではなくPCのスピーカーからYouTubeの音が出た。つまり、アプリは排他的にUSB DACを利用している。この点は正しい動作だ。しかし、ハイレゾリスナーとしては当然期待したい「サンプリングレートのソースに合わせた自動切り替え」までは対応していないということになる。これはまったくの予想外だった。

なお、今回テストした複数のオーディオデバイスでは、再生中に排他モードを選択しただけでアプリが落ちてしまったり、排他モードを選ぶと雑音だらけになりデバイスドライバーのコントロールパネルからレイテンシーを低い値に設定しないとまともに再生できないトラブルもあった。同一PC・同一デバイスを使った他の再生手段では同じトラブルは起きていないので、Amazon music HD特有の事象と思われる。

音質はどう変わるのかチェック

続いて、排他モードを使うことで、音質にどのような変化が起きたのかレポートしていきたい。オーディオファンとして気になるのは、ソース本来のレートとビットでUSB DACに出力した場合の音質変化だろう。排他モードをONにしても既定の形式が優先されて出力されてしまうため、ソースに合わせて逐一変更することにした。

既定の形式をソースに合わせて設定

ビットパーフェクトで出力するためには、以下の点が満たされていなければならない。

・既定の形式を再生したい音源のサンプリングレートと量子化ビット数に合わせる
・Amazon music HDアプリ上で、ラウドネスノーマライゼーションをOFFにする
・Amazon music HDアプリ上で、排他モードをONにする

今回、出力されるサンプリングレートを確認する際に、USB DACはiFi Audioの「Pro iDSD」を使用した。各種フィルター機能はOFF(ビットパーフェクトモード)でRCA端子からアナログ出力し、AVアンプで2ch再生(Pure Directモード)している。

まず、HD品質の音源から聴いた。東山奈央の「歩いていこう! 」は、排他モードを無効にすると平面でのっぺりとした音場感で味気ない。POPSのような音数の多い曲では混濁感が激しかった。排他をONにしてもう一度最初から再生すると、まるで別物のように音が変わった。楽器の音が立体的になり、音場にも奥行きが出てきた。各楽器の音がクッキリと聴こえる。

44.1kHz/16bit音源の再生時

続いて、ハイレゾの48kHz/24bitの音源。ChamJamの「Clover wish」は、排他モードOFFの音は率直に言ってつまらない。分離も悪いし、音場は平面的だ。排他モードをONにすると、不満な要素が改善され、ボーカルのコーラスはユニゾン感がよく分かる。いわゆるボーカルの口元表現もリアルに感じられた。音に芯が入った印象だ。

48kHz/24bitの再生

96kHz/24bitでは、排他モードOFFでもいちおうハイレゾっぽくはなる。そもそもの情報量の違いが現れているのだろう。でも明らかに鮮度が落ちている。楽器音がしなびた野菜のような劣化した音だ。排他モードをONにすると、リッチな音楽体験が味わえた。

96kHz/24bitの再生

192kHz/24bitになると排他モードOFFでも一瞬これでいいんじゃないかと思えてしまうが、よく聴くと音像に雑味が感じられる。解像度が悪いとも言えるが、何よりクリーンじゃないのだ。音場もゴチャゴチャしている。排他モードONにすると、楽器音にまとわり付く雑味が消えて、臨場感が各段に向上して分離も改善。特にシンバルなどの高域や、ベースやバスドラの低域などは顕著に鮮度を増し、リアルに鳴ってくれた。

192kHz/24bitの再生

結果として、排他モードは非常に有用であることが分かった。排他モードがアプリ起動の度に無効になることや、ビットパーフェクト再生には既定の形式を逐一変更しなければならないのは面倒だが、今後の改善に期待したい。とりあえず、既定の形式は選択できる最上位のフォーマットで固定しておくのが現実的だろう。

今後は、モバイル向けアプリも対応が待たれる。できれば、サンプリングレートの自動切り替えには対応した上でリリースされると個人的にはありがたい。

“テスト中”で提供方法が限定的に

今回のアップデートについては、3月初旬にAmazon music HDで排他モードを利用できるとの情報を得て、筆者は手元のPCを確かめた。しかし、該当の設定画面は出てこなかった。アプリを入手した総合配信ページでは非対応の7.10.0.2175しかダウンロードできない。また、マイクロソフトストアでも非対応版しかインストールできなかった。

知人に聞いたりして、いろいろ調べたところ、AmazonのPCソフトカテゴリーから対応版の7.11.0.2182が無料でダウンロードできることが分かった。

アプリの総合配信ページにあったものは排他モード非対応
AmazonのPCソフトカテゴリーからダウンロードすると排他モード対応だった

それぞれでダウンロードしたアプリのデジタル署名を見ると、日付が3週間ほどずれていた。この日付がそのまま公開日とは断定できないものの、7.11はやはり最近になって配信開始されたもののようだ。また、製品バージョンもプロパティの詳細タブから確認できた。

左がアプリの総合配信ページ、右がAmazonのPCソフトからダウンロードしたもの。署名の日付が違う
製品バージョンがそれぞれ異なる

Amazonによれば、Windows版は自動アップデートで7.11が配信されているとのこと。筆者の環境では自動でアップデートが行なわれなかったが、記事執筆までの間に自動配信がスタートしたようだ。今回のような限定的な配信方法を取った理由について同社からは「テスト中につき一部のお客様にしかご利用いただけません。展開の際には発表させていただきます」との回答を得たので、今後の正式な発表を待ちたい。

最後に、同じく高音質なストリーミング配信であるmora qualitasとの音質比較も行なってみた。Amazon music HDの排他モードは、mora qualitasでいうところのWASAPI排他と同等であると思われるため、mora qualitasでもWASAPIを選んで比較した。

Amazon Music
mora qualitas

比較した音源は、筆者が参加する音楽ユニットBeagle KickのBRAND NEW KEYSから「Grit」。筆者が音源の納品と手続きを行なっており、オリジナルの配信フォーマットが96kHz/24bitの楽曲「Grit」は、同一のWAV音源を納品しており、Amazon music HDもmora qualitasも同じ音源を再生しているはずだ(FLAC圧縮率の違いは脇に置く)。

今回の機器と音源で試した結果としては、mora qualitasに軍配が上がった。mora qualitasの方が鮮度に優れ、解像度もやや上がる。音の密度感も高い。しっかりと地に足が着いた音という印象だ。全帯域が瑞々しく、生楽器らしい質感を聴かせてくれた。ASIOにするとさらに全体的なステータスが向上し、もはやローカルのファイルを専用のプレーヤーソフトで再生しているのと同じくらいのクオリティであった。

mora qualitasのWASAPI排他再生
mora qualitasのASIOドライバー利用時

今回Amazon music HDに実装された排他モードを試してみて、気になった点はあるものの、同サービスのユーザーに待ち望まれていた機能だけに、その効果が確かに感じられたのはよかった。今後は対応端末の拡大や機能のブラッシュアップにも期待したい。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト