藤本健のDigital Audio Laboratory
第887回
マイク4入力やUSBオーディオ搭載のZOOMレコーダ「PodTrak P4」が便利
2021年3月15日 10:43
日本の電子楽器メーカー「ZOOM」(ズーム)が昨年発売した、ポッドキャスト用マルチトラックレコーダ「PodTrak P4」(実売2.5万円前後)。
日本ではポッドキャスト自体が、あまり流行っていないこともあり、あまりピンとこなかったというのが正直なところだが、先日試してみたところ、YouTube Liveやニコニコ生放送、Facebook Live、ツイキャスなどといった各種ネット配信用のオーディオ機材としても非常に便利に使えるものであることが分かった。
あまり見かけない形状であり、何のための機材なのだろうと不思議にも思ったのだが、さまざまな機能を備えた独特な機材だったので、紹介してみよう。
ポッドキャスト配信向けだが、マルチに使えるPodTrak P4
「日本でもポッドキャストが流行ってきている」なんて言う人もいるし、実際それにハマっている人も少なくないとは思うが、国内でメジャーなメディアではないように思う。
一言でいえば、ネット上のラジオのような存在で、MP3を用いて配信する音声メディアであり、実は15年以上の歴史を持つものだ。クルマ通勤などが多いアメリカなどでは広く利用されているようだが、国内でポッドキャストを聴いている人、配信している人はまだまだ少なそう。
そのポッドキャストでの配信にターゲットを当てたのがズームのPodTrak P4だ。もともと海外での売り上げが多いズームは、海外をメインにした製品設計、マーケティングを行なっていることが多いが、このPodTrak P4も、まさに海外での利用を想定した製品であり、ネーミングもそうなっている。
キャッチコピー的にも「最大4人分のポッドキャスト収録が行なえるマルチトラックレコーダー」となっているため、自分にはあまり関係ないと思ってしまう人が多いように感じるが、ネット配信している人にとっては、かなり便利に使える機材だった。
いろいろな機能が装備されているから、全体像が捉えにくいが、まずは4つのマイクに接続できるマイクプリアンプであり、ミキサーとなっている。そして、そのマイクから入ってきた音をSDカードに録音できる機材でもある。
4つのマイクを備えるので4人がしゃべる内容をそれぞれ録音できるし、4つのヘッドフォン端子があるので、4人がモニタリングすることも可能。4つとも同じミックスの音にはなるが、それぞれのノブで、好きな音量に微調整できるようになっている。
接続できるマイクは、ダイナミックマイクでもコンデンサマイクでもOKなのだが、端子はXLR。“コンボジャック”ではなく、あえてマイク入力のみと割り切っているのが、ポッドキャスト用たるところか。コンボジャックでライン入力もできれば……と考えてしまうのは、筆者がポッドキャスト素人である証明なのかもしれない。
本体上部には入力ゲインを調整するノブがあり、その下には、ダイナミックマイクを接続するか、コンデンサマイクを接続するかの切替スイッチが用意されている。コンデンサマイクを選ぶと+48Vのファンタム電源が供給される。切替スイッチの下にはミュートボタンがある。
スマホを使って離れた場所からリモート収録
3chと4chの切替スイッチが、少し違っている事にお気づきだろうか。
3chの長方形アイコンはスマートフォンの意味で、本体右のBTA-2と書かれた端子の右側(4極ミニプラグ)とスマホとケーブル接続することで、スマホからの音を入力できるとともに、PodTrak P4の音をスマホに送ることができるようになっている。
このスマホ接続は何のためにあるのかというと、スマホを使って遠隔地からでも会話に参加させて、ポッドキャストを行なおう(リモート収録)という趣旨のもの。マイクから入力する代わりにスマホを経由して、離れた場所にいるゲストなどの声を入れ、ほかの参加者の声もスマホ経由で届けるという仕組みだ。
もちろん、YouTube Liveやツイキャスなどでも同様の使い方が可能。スマホからの音が入れられるということは、スマホで再生させた音楽をマイクとミックスさせることができるわけで、いろいろな使い方ができそう。
4chの切替スイッチには、USBアイコンがあり、PCからの音を入れることができるようになっている。本体左にあるUSB-C端子でWindowsやMacと接続すると、PodTrak P4がUSBオーディオインターフェイスとして認識するようになっており、PCで再生した音をミックスすることができる。
2つあるUSB-C端子のうち、片方は電力供給用。PodTrak P4は裏面に、駆動用の単三電池ボックス(2本)があるが、電池がない場合でもUSB-C経由の電源でも動作するようになっている。
このように、PodTrak P4はPCから見ると、2in/2outのオーディオインターフェイスなのだ。もっとも、それほど高性能なオーディオインターフェイスというわけではなく、44.1kHz/16bitという仕様にはなるが、デジタル接続だから外部からノイズが乗るようなこともなく、クリアな音でPCサウンドを取り込むことができる。
オーディオを再生しても、ゲームサウンドなどを本機に送ってもOK。3ch/4chの入力も、ゲインノブで直感的に音量バランスの調整ができる。「それって、ループバックということ?」と思った方もいるかもしれないが、それは違って、単純にPCのオーディオ出力先をPodTrak P4にしているだけなので、よりシンプルで分かりやすいのだ。
ちなみに、マイク入力の場合は当然モノラルで、PANがなく、センター定位でミックスされることになるが、3chのスマホ入力、4chのUSB入力はいずれもステレオとなっており、BGM入力用としても便利に使うことができる。
入力においてもう一つ重要なのは、マイク入力の設定として「Lo Cut」「Limiter」の2つのパラメータが4つのマイク端子それぞれに独立して搭載されていることだ。
特にLimiterをオンにすると、マイク近くでしゃべっても音割れしないし、遠くにいるときはゲインを上げてくれるので、常にちょうどいい音量に整えることができる。またLo Cutを使うことで、ファンやモーターなどのノイズをカットすることもできる。
以上のように、入力された音を入力ゲインノブでバランスを調整したのち、録音ボタンを押すことで、SDカードに録音することが可能。SDカード自体は本体右側にスロットがあり、ここにレコーディングしていくわけだ。
フォーマットは、44.1kHz/16bitのステレオ音声。つまり、マルチトラック録音ではなく、ミックスされた結果をステレオで録音していくので、あとでバランスを変更することはできない。聴いた音をそのまま記録していくので、非常にシンプルで、戸惑うことなく使えるだろう。
ポン出し機能「Sound Pad」
PodTrak P4ならではの機能として、Sound Padがある。液晶ディスプレイの横にある、4つの赤く光るボタンがそれで、いわゆるポン出し機能。ここにファンファーレや歓声、拍手などといった音をセットしておくことで、番組の演出に活用できる。
あらかじめ11種類の効果音がPodTrak P4に入っており、これらを設定しておいてもいいが、SDカードにWAVファイルを入れておけば、それを指定することもできる。
長さに制限はないので、10秒の効果音でもいいし、5分の楽曲でもいい。なんなら60分のできあがった番組を仕込んでもOKというわけだ。複数のボタンを同時に押すことはできず、鳴らすのは1つのみだが、モード設定があり、1回押せば最後までOne Shot、押すたびに再生・一時停止を交互に繰り返すPouse、ボタンを押している間ループ再生をするHoldなどがあり、4つを個別に指定できる。
このSound Pad全体の音量は4つのボタンの下にあるノブで調整できるようになっており、レコーディング時には、このSound Padの音も合わせて録音される。
シンプル操作でトラブルの少ない配信ができそう
ここまでの話だと、“ミキサー機能を持ったSD録音装置”ということになってしまうが、前述した通り、USB-CでPC接続することでオーディオインターフェイスとして使え、PodTrak P4でミックスした音をPCに取り込んだり、それを配信するなどの用途にも使える。
いまは配信用にOBSを使う方が多いと思うが、OBSの音声入力としてPodTrak P4を選ぶだけ。バランス調整はPodTrak P4上でノブ操作でき、ヘッドフォン端子からモニタリングできるので扱いやすい。
試しにOBSの出力をYouTube Liveに設定して放送してみたが、いたって簡単。最近はループバック機能を持つオーディオインターフェイスも少なくないが、PodTrak P4なら一般的なループバックとは異なり、単純に音を外のデバイスに出力する形で、その音量もノブで調整できるので、とてもシンプルで分かりやすい。
どう使うかはユーザーそれぞれだとは思うが、YouTube Liveやニコニコ生放送、ツイキャスなどといった配信の音声部分をPodTrak P4に任せる手法は、本番でトラブルの少ない安心した使い方になると感じた。