レビュー

これが音の魔力!? 日立アンプ「Lo-D」を6台ジャンク買いした

僕はLo-D(日立)というブランドの「HMA-9500」、「HMA-9500MKII」というアンプを各3台、計6台持っている。どちらのモデルも2chアンプなので通常は1台で十分なのだが、6台も持っているのは「音がサイコー」だからだ。このアンプの音には“魔力”がある。魔法にかかった僕は結果的に6台も持つことになった。

6台の購入先は、すべてネットオークション(ヤフオク!)だ。しかも全て中古のジャンク品。ジャンクのオーディオ機器を自分で修理するのが好きな読者も一部にはいると思うが、僕もそんなヤカラの1人。落札した6台は自身でメンテして、今は全部完動品になっている。

自宅の試聴室に並んだLo-D

僕はオーディオライターであると同時に、オーディオ歴40余年のマニアだ。僕を含めオーディオマニアには変な方が多いが、同じアンプを6台も持っているヤツはそうそういるものではないだろう。今回は6台の購入とメンテの顛末、そして今でもその輝きを衰えないLo-Dアンプの魅力を紹介したいと思う。

なお、メンテをするにあたっては、ネットで情報を集めたり、知り合いの電気店に頼み込んでメーカーから回路図を取り寄せてもらったりと、いろいろな準備を行なっている。僕はオーディオメーカーの修理部門で働いていたことがあり、修理に関して専門の知識を持っている。オーディオ機器を含め家電製品は感電の恐れがあるため、くれぐれもプロの方以外はむやみに分解したりメンテしたりするのは控えてほしい。

長岡氏も愛したLo-D。定番故障の1つが「ヒューズ抵抗の劣化」

初めに「HMA-9500」と「HMA-9500MKII」について簡単に説明しておこう。

HMA-9500はオーディオが盛んだった1977年に、かの日立製作所が発売した製品だ。日立は当時の最先端技術を駆使して、電力増幅用のMOS FETという素子を開発。それをオーディオ用アンプに搭載し、世界初のMOS FETパワーアンプとして発売したのがHMA-9500だった。

発売当時の雑誌広告より

その頃のパワーアンプはFETがちょっとしたブームになっていて、ソニーやヤマハもFETアンプを発売していた。FETは従来のトランジスターよりも高域特性がよく、切れのいいサウンドが特徴だった。そうしたFETアンプを特に好んだオーディオ評論家が長岡鉄男さん。長岡さんはHMA-9500を絶賛し、自身のレファレンスとして愛用。1979年にHMA-9500MKIIが発売された後も、故障するまで10年以上にわたって使用し続けている。

僕の6台の話に戻ろう。

最初に落札したMKIIはあまりいい状態ではなかった。前オーナーによる改造が施されていて、部品の経年劣化もかなり進行している状態だったのだ。

基板に大量のエポキシが流し込んであり、電解コンデンサーなどの部品が固定されていた。これはマニアが行なう改造の定番で、微細な振動を抑え込む効果があるといわれる。また、内部のあちこちにブチルゴムが貼りつけてあった。これも振動対策の一つだ。

一番最初に購入したHMA-9500MKII

ブチルゴムは簡単にはがすことができたが、エポキシは実に厄介だった。硬いエポキシを除去するのに、カッターナイフやニッパー、ついにはヤスリまで動員する羽目になり、おかげで指に血豆ができたほど。これらの改造を取り除くのに、結局2~3日もかかってしまった。

その後、ようやく部品交換に取り掛かった。HMA-9500とMKIIでは定番の故障が二つある。一つはヒューズ抵抗の劣化で、このアンプの持病ともいえる。電源はオンになるものの、ミューティングが解除されず音が出ないという症状になる。ヒューズ抵抗は文字通りヒューズと抵抗が一体になったもので、9500は全部で15個、MKIIは31個も使われている。ヒューズ抵抗は当時の機器にはよく使われていたが、通常は1~2個程度であり、15個と31個は格別に多い。このヒューズ抵抗が経年劣化で断線してしまうのだ。

ヒューズ抵抗

ヒューズ抵抗は回路の保護が目的だ。電気部品は偶発的に壊れることがあり、それが原因で回路に異常電流が流れることがある。そのときヒューズ抵抗が切れて主要な電気部品を保護してくれる。しかし、ヒューズ抵抗自体が経年で劣化して、故障の原因になるとは想定外だったろう。でも、製造当初の想定寿命は10年程度だろうから、40年も経てば断線しても仕方ない。厄介な持病ではあるが、結果的に貴重なMOS FETが守られているわけだ。

ヒューズ抵抗はいまはあまり使われないので、新品の部品を入手することが意外と難しい。僕はあちこち探して、「ぱなくる」という通販ショップで入手したが、いまは既にヒューズ抵抗を取り扱っていないようだ。秋葉原の海神無線や若松通商では現在も扱っているが、ちと値が張るのが難点だ。

ヒューズ抵抗を普通の抵抗に置き換えるという手もある。普通の抵抗はヒューズ抵抗の1/50~1/100の価格で入手も容易だ。普通の抵抗だと回路の保護ができないし、安全面も気になるところだが、もともと骨董品みたいなアンプなので、そこは腹のくくりようだろう。なお、僕は臆病者なので、普通の抵抗を使う気にはならない。ちなみに2番目に落札した正常動作品の9500は、普通の抵抗に置き換えられていた。これは後日、ヒューズ抵抗に交換している。

ヒューズ抵抗と出力リレーを交換したMKII「音はサイコー」

もう一つの定番の故障は、出力リレーの接触不良だ。

症状はミューティングは解除されるが、音が出なかったり途切れたりする。これは9500に限らず、アンプの故障ではよくある症状。9500とMKIIに使われているリレーは、TAKAMISAWA製のDC48V。 TAKAMISAWA製はとうの昔に生産完了しているが、同規格・同寸法のパナソニック製(端子形状は異なる)を秋葉原の千石電商で発見。端子形状の違いは、アンプの基板をちょっと加工すれば取り付けることが可能だ。現在価格も325円と安く、個人的には9500とMKIIの代替えリレーの決定版と思う。

9500とMKIIに使われている出力リレー、TAKAMISAWA製のDC48V
同規格・同寸法のパナソニック製のリレー(写真右)に交換する

というわけで、最初の1台は改造を取り除き、ヒューズ抵抗と出力リレーを交換したところ、見事に正常動作するようになった。

しかし、最終的な目標は瀕死のジャンクを蘇生させて、往年のサウンドを取り戻すこと。いまとなっては新品の音を聴くことは叶わないが、できる限りのことはやってみようと考えた。

具体的には、電解コンデンサーを同規格のオーディオ用にし、小信号トランジスターは秋葉原で新品を探しまくって交換。半固定抵抗も高級品に、また古びたソリッド抵抗を金属皮膜抵抗に交換した。さらに電源の整流ダイオードはショットキーバリアダイオードに、電源コードは2SQのキャブタイヤに、そして電源プラグはオーディオ用の高級品に交換した。

改造後のMKII(1台目)の内部。コンデンサから電源コード、プラグまで大幅に改造した

メンテが済んだMKIIの音はサイコーだ。切れ込みはこれまで聴いたどのアンプよりも鮮烈で、しかも粒子が非常に細かい。金粉をまき散らしながら、鋭い刃で切り裂くような力のある高域だ。低音はハードで瞬発力もあり、比重の大きい重金属の固まりがぶっ飛んでくるような底力を感じさせた。中域の生々しさも比類ないものだった。いや、こりゃホントにすごいアンプだと、今さらながらぶったまげた。

9500も欲しい。素のMKIIもメンテしたい。

憧れだったHMA-9500MKIIを入手し、そのサウンドに酔いしれていたが、新たな欲望がふつふつと湧いてきた。MKIIとは違う9500オリジナルの音が聞きたい。MKIIも改造品ではないまっさらな個体をメンテしてみたい。

そして最初の落札から1カ月後に9500を、そしてそのまた1カ月後に2台目のMKIIを落札した。最初の9500はメンテ済みの正常動作品だったが、2台目のMKIIは故障品。しかし幸いにも修理や改造の痕跡がなく、完全な初出状態だった。

最初に購入した9500

MKIIの電源を入れると、案の定オンにはなるがミューティングが解除されない。内部を確認したところ、やはりヒューズ抵抗が断線していた。1台目のMKIIは徹底的にいじりまくったので、今回はヒューズ抵抗とリレー、それと小型の電解コンデンサーと電源コードの交換のみにとどめた。

2台目のMKIIの音は1台目とはちょっと違っていた。

比べるとわずかにソフトで歪みが少なく透明感がある。メンテの内容が違うので、当たり前かもしれないが、それだけでもないような気がする。さらに電源を入れっぱなしにして2~3日経ったら、切れが良くなりスピード感が増してきた。この個体はもともとあまり使われてなかった様子だったので、今さらながらエージングが進んだのかもしれない。こういうところがオーディオの面白さなのだ。

2台目に購入したMKII

暴走する欲望。ついにLo-Dは6台に……

欲望のほとばしりはまだ続いた。次は、ひと月の間に2台の9500を落札したのだ。

1台はまっさらで非常に状態のいい個体で、もう1台は外観ボロボロの酷いジャンクだった。これは1円開始で出品されているのを発見し即座に入札。結局6台中最も安い価格で落札した。確か3万円台だったと思う。

非常に状態のよかった2台目の9500

2台の9500は同時並行でメンテを行なった。ノウハウが蓄積されたこともあり、どちらも上々の仕上がりだった。手持ちのMKIIと比較したところ、9500の音はMKIIとはかなり違うことが分かった。

9500のほうが高域が華やかで艶っぽく、ボーカルは生々しいがやや粗削り。低音はMKIIよりも9500のほうが量感があるが、超低音のレンジはMKIIに一日の長がある。どちらもMOS FETの特徴がよく出ているが、ハイファイ観点ではMKIIがよく、9500には音の躍動感を演出する味がある。自分でメンテしたことで親心もあるだろうが、どちらもいままで聴いたどのアンプよりもいい音に聴こえた。

最も外観の痛みが激しかった3台目の9500

5台のLo-Dを落札した後、いったん正気を取り戻したわけだが、しばらくして「9500が3台でMKIIが2台なのはバランスが悪い!」と考えるようになった。そこで後日MKIIをもう1台落札。足かけ4年と長患いではあったが、6台のLo-Dを並べてひとり悦に入るヘンタイが完成した。

3台目のMKII

オーディオを始めたころ、MKIIの新品がまだ販売されていた。しかし、高校生のバイト代では高嶺の花か雲の上の存在だった。あれから30年、「大きなお子様」のひとりになった僕は、子供のころ買えなかったオモチャを大人買いしたわけだ。

ジャンクを自力メンテで直した満足感も格別だ。さすがに6台を常時鳴らすことはできないので、ときどき引っ張り出して電源を入れてみたり、メインシステムのアンプとしてローテーションしたりして鳴らしている。無駄だと思うこともあるし、バカな散財を反省することもあるが、決して悔いてはいない。この6台とそのメンテナンスが僕の生きザマを表しているからだ。

そして、今夜もヤフオク! を眺める僕なのであった。

市川二朗