レビュー

NECの名機「A-10」令和に大復活!! ワイドで力強いサウンドが帰って来た

NECのプリメインアンプ「A-10」

NECの「A-10」というアンプをご存じだろうか。若い方はNECがオーディオ事業を手掛けていた時代すら知らないだろうが、古参のオーディオファンであれば、A-10の名を、そして名機と称され人気を集めたことを記憶している方も多いだろう。かくいう僕もA-10に心を奪われた一人で、自宅で初めて鳴らしたときの感動は今でも憶えている。

今回はその懐かしのA-10を取り上げるわけだが、結論を先に言えば、僕の経験上、修理難易度は最高クラスだった。

修理中の様子

実はこのA-10。学生時代に購入してから、その後何度も故障を繰り返し、メーカー修理と自力修理に追われた問題児。しかも構造が特殊かつ複雑で、直ってはまた壊れるの繰り返すものだから、とうとうイヤになって修理を放り出してしまったのだ。

しかし日が経つにつれ、思い出がギュッと詰まったA-10をこのまま復活させなくてよいのか、思い悩むようになった。やはり、このままでは死ぬに死に切れぬ。だって僕の青春のアンプなのだから。よし、次こそはA-10をキチンと蘇らせよう!!

昨年の夏に重い腰を上げ、数カ月をかけて悶絶・苦闘の末に、見事音出しまで漕ぎつけた、A-10復活の顛末を紹介したい。

勉強よりも女よりも、A-10を選んだ18歳の市川青年

NECというとパソコンのイメージが強いが、今から40年ほど前は本格的なオーディオコンポを製造販売していた。

NECのオーディオは、当初“DjanGo”(ジャンゴ)というブランドのシステムコンポやラジカセなど普及機をメインに人気があった。とはいっても、オーディオ全盛期の群雄割拠の中、NECはトップブランドとまではいえず、1980年代になってオーディオ事業の規模を縮小し始めた。しかし、1982年のCD登場を契機にオーディオ市場に再参入を果たし、それまでのNECのオーディオのイメージを覆して、重厚長大な製品群を次々と市場に投入したのである。

「A-10」が発売されたのは、1983年秋。あの頃はみんな、イケイケドンドンだった
A-10の取扱説明書
「A-10は、NECが世界に誇るエレクトロニクス技術の粋を結集し、今までの限界をはるかに超える高密度、高忠実度の優れた再生音を徹底的に追求した、デジタルオーディオ世代にふさわしいインテグレーテッドアンプです」と記載されている

A-10が発売されたのは1983年の秋だ。当時僕は18歳で青春の真っただ中だった。本格的なオーディオ機器を揃えたばかりで、花より団子ならぬ花よりオーディオだった。勉強もせず女子にも目もくれず、寝ても覚めてもオーディオのことばかり考えていた。

そんなとき、オーディオ誌やFM誌が「NECのA-10がスゴイ!」と、一斉に騒ぎ始めたのだ。当時の記事では「業界が震撼!」とか、「驚異的なコストパフォーマンス!」とか、「作れば作るほど赤字になる」とかとか、それはもう絶賛の嵐だった。

FMfan「長岡鉄男のダイナミックテスト」より

よし、A-10を買おう。オーディオ小僧は強い決意でバイト代を握りしめ渋谷のオーディオショップに行った。しかし、A-10は売っていなかった。

お店の方に尋ねると「ああ、A-10ですね。今はメーカー在庫もなくて入荷は未定です。そもそも入荷台数少なかったんですよ」と残念な説明。その後、あちこちのお店を探したが、秋葉原やお茶の水でも見つからず、結局諦めて他のアンプを買った。

それから半年ほど経って、A-10のことをしばし忘れかけていたとき、ふらっと立ち寄ったお茶の水の中古オーディオショップで、入荷したばかりのA-10を発見した。まさに千載一遇。まだ値札さえついてなかったが、即座に購入を決めた。

思い焦がれたA-10を自宅で初めて鳴らしたときの感動は今でも忘れない。ワイドでダイナミックで、極めて力強く音が全身にぶつかってくるような迫力があった。若造の僕でもこのアンプがただ者ではないということはすぐに分かった。

しかし、A-10との蜜月は長くは続かなかった。

2年ほどでまずMCヘッドアンプが故障。さらに2年後、プリアンプ部も故障してしまった。その都度メーカーの修理を受けたが、結局パワーアンプ部も調子が悪くなり、結局5年ほどで次のアンプに座を譲った。

それから年月は流れ、A-10のことは完全に忘れていたのだが、ふとしたことで実家の物置に仕舞ったことを思い出した。

実家に向かい、朽ちかけていたA-10を救い出したのは2013年。その時は自身でメンテして一旦は音が出るようになったものの、2~3年前に再度使ってみたら1時間くらいで音が出なくなってしまった。その後は修理を諦め、機材ラックに仕舞ったのだが、視界にA-10が入る度、気になって仕方がなかったのだ。

2013年に自力修理するも、再び故障。以来、機材ラックに仕舞ったままだった

欲張りな構成と発熱大の電源回路。A-10は“普通じゃない”

A-10というアンプは普通のアンプではない。プリメインアンプなのだが単体のプリアンプとメインアンプをひとまとめにしたような構成になっていて、プリアンプ部はディスクリート構成のMCヘッドアンプとフォノイコライザーを搭載している。そして、メインアンプはリザーブ電源と称する特殊な電源部となっている。

さらに、シャントレギュレーターという消費電力の大きい電源回路も搭載している。本格的セパレートアンプをプリメインの筐体に無理やり詰め込んで、さらに消費電力の大きい電源回路を入れたが故、発熱が激しい。そのため部品の劣化が早く進むため、すぐに壊れてしまうのである。特にコンデンサーやトランジスタの経年劣化は普通のアンプよりも明らかに早い。

A-10の内部。重量は20kg
MCヘッドアンプ基板。プリメインアンプとしては異例な贅沢さ
MCヘッドアンプ基板の全景
電源基板。リザーブ電源はこの基板がキモだ
電源基板の全景

修理に当たっては、回路図などの情報が少ないことも課題である。このA-10はメーカー修理を2回受けていて、9年前には回路図はなかったが自力修理にトライした。

アンプの修理は回路図がなくても現物確認だけで直せることも少なくないのだが、A-10は回路が特殊でさらに部品劣化がかなり進行しているため、回路図なしではきちんと直すのは困難だということも分かった。

なんとかしてA-10の回路図を入手できないか。そこでダメもとでSNSで呼びかけてみたら、回路図を持っているという方からすぐに連絡があり、コピーを提供していただけることになった。長年探していたA-10の回路図がこんなにあっさりと手に入るとは思ってもみなかった。

回路図さえ手に入れば勝ったも同然、と高をくくったのだが、A-10の特殊な回路は想定以上に特殊であり、僕の広く浅い電気の知識では、その内容は簡単には理解できない。とはいうものの、回路図があるとないとでは大違いだ。現物と突き合わせながら慎重に修理を進めた。

今回の修理はできる限りオリジナルに近づけることを目標にした。

2013年に初めて自力修理したときは、オリジナルよりも大容量のトランジスタやハイグレードのコンデンサーを使ったのだがちょっと無理をした感もあった。また終段のトランジスタが断線していたため互換品に換装したのだが、これもどうにかしてオリジナルに戻したい。

今回の修理の方針をノートに書き出す
2013年に自力修理した際に残しておいた部品

以前交換した部品は全て整理して取っておいた。こんな日が来ることを予感していたのかもしれない。終段のトランジスタは、手持ちのNEC「A-700」から移植することにした。A-700はA-10の数年後に発売された弟分でこれもいいアンプだ。なお、A-700も後日きちんとメンテした。

弟分のA-700(写真上)から終段のトランジスタを移植する
背面。A-700(写真上)、A-10
A-700から取り外した終段トランジスタ

真の故障原因が分かるまでに四苦八苦。SNSの皆さま、感謝感激

現状のA-10は電源投入から数分すると音が出なくなる。どうやらパワーアンプ部に問題があるようだ。

修理は故障個所の診断から始める。回路図を見ながらまず電源・電圧の確認をしたところ、数系統ある電源のうちパワーアンプのドライバー段の電圧が正常ではないことがすぐに分かった。音が出ているうちは正常なのでここが原因に間違いない。これほど最短で原因が判明したのは回路図のおかげだ。

原因が分かればもう直ったも同然。怪しい部品に目星をつけてテスターや容量計、半導体チェッカーで点検していく。すると、いくつかの不良部品がすぐに見つかった。それは発熱の激しいシャントレギュレーターのトランジスタとその周辺の部品だった。

まずは現状を確認するも、返事がない。パワーアンプのドライバ段の電源が死んでいるようだ
トランジスタを取り付ける前にチェック
前回(2013年)に行なわなかった、電源基板をメンテ
リアをばらしてから、プリアンプとパワーアンプを分離する
前回メンテ済みの出力リレー
いよいよ終段トランジスタの交換。現在は互換品がついている
10年前の修理のメモ書きが残っている
ドライバ段の基板。ここのどこかが壊れているはず
ドナーのA-700から外したトランジスタを取り付ける

さっそくそれらを互換品に交換。しめしめ、これで修理完了! と思いきや…、あれ? ダメだ。状態は全く変化なし。

これはどうしたことかと再度部品を点検したら、一度交換したトランジスタが断線してした。これはつまり、トランジスタが壊れてしまう原因が他にあるということだ。さすがA-10、そう簡単には直らない。

部品交換が一通り終わって通電テスト。しかし、最初の状態と変わっていない……
マイナス側の電圧は問題ないようだ
提供してもらった回路図を見ながら故障箇所を探る
壊れていた部品
やった! 直った!
……と思ったら、やっぱりダメ。電圧がNG

悩みながらも部品をとっかえひっかえしてみるもなかなか直らず数日が経過したが、なんとか原因と思しき部品が判明し音が鳴るようになった。よかった、これで何とかなりそうだ。

仮組みして試聴していたときのこと。それは真夏の熱帯夜の深夜12時近く。プツンというノイズとともに音が鳴りやんだ。あ、またダメか。そう思ってA-10を見たところ突然メラメラと炎が立ち昇ったのである。慌てて電源を切ったら炎はすぐに消えたが、そこには無残に炭化したトランジスタが残っていた。

燃えた……
燃えた部品

炭化したトランジスタは、そもそもスペックの限界に近い電流が流れていると思われた。そこで大容量の互換品に交換したのだが、どうやら選択を間違ったようだ。電流容量はワンランク上だったが、「コレクタ損失」というスペックがオリジナルよりもワンランク下だったのだ。

実はこのことを気づいたのは、またもやSNSがきっかけで知り合った方からの指摘だった。A-10の修理で格闘している様子をSNSに投稿したところ電気回路に詳しい方が教えてくれたのである。いやあ、本当にありがたいことである。

アドバイスにそって適切な互換部品を選び直し、改めて部品交換をおこなったところ長時間の通電でも燃えることはなく発熱も少なくなった。しかし、まだドライバー段の電源がいまひとつ安定しない。真の原因は一体どこなのだろうか。またもや行き詰まってしまった…。

大型のトランジスタに交換。ピン配列が違うので足をクロスさせた
しかし、まだ直らない……真の故障原因はどこなのか??

回路図を提供していただいた方はA-10のオーナーでもあり、しかも3台もお持ちだという。そのうち2台は正常動作品で1台は修理不能のジャンクとのこと。そのジャンクを借りれば故障個所の切り分けができるはずだ。早速SNSで連絡し借用のお願いをしたところ快く貸していただけることになった。暗闇に一筋の光明が差した。

借用したジャンクのA-10を利用して故障個所の切り分けをおこなったところ、ようやく真の故障原因が見つかった。それは小さなフィルムコンデンサーだった。早い時期に基板から外してチェッカーで検査していたのだが、正常値を示したのでそのまま戻してしまったのだ。なかなか難しいものである。

SNSで知り合った方からジャンクを借用
借用したA-10の内部
故障個所の切り分けを行なう
ついに原因解明。フィルムコンデンサー
コンデンサーやトランジスタを予防交換して、試験運転
元の状態に戻していく
フロントパネルを装着。端正な表情が戻った
修理完了!

19歳のオーディオ青年に戻った。僕はタイムマシンに乗った

ようやく直ったA-10をシアタールームに運んでメインスピーカーを鳴らしてみた。実家の物置で瀕死の状態だったが、100個以上に及ぶ最新部品の投入の甲斐もあって、当初からとても瑞々しい音で鳴りだした。

分厚い低音と張りのあるボーカル、鮮鋭に切れ込んでくる高音。正攻法でハイスピードなサウンドに圧倒される。特に低音は出力60W、重量20kgのアンプではない。現に100W、30kgのアンプと比較しても馬力は明らかに上回っている。当然のことながら新品当時の音とは異なると思うのだが、やはりA-10は普通のアンプではないようだ。初代のA-10のみに搭載されたリザーブ電源の威力なのだろうか。

発熱が激しいのは昔のまま。扇風機で冷ます(笑)

A-10の修理は僕の経験では最高の難修理だった。時間も手間も交換部品の数もすべての面でこれまでになく大変だった。そして、SNSでつながった方々には本当に感謝である。皆さんのヘルプがなかったら恐らく直せなかっただろう。

その後、時間をかけてじっくりとA-10を聴きこんだ。次第に初めてA-10を聴いたときの記憶が甦ってきた。ワイドでダイナミックで極めて力強く音が全身にぶつかってくるような迫力…。そのとき僕は19歳のオーディオ青年に戻った。実家の6畳部屋で、ようやく手に入れたA-10をニヤニヤしながら聴いている。僕はタイムマシンに乗ったのだ。

【注意】

分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。この記事を読んで行なった行為(分解など)によって、生じた損害はAV Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません。AV Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

市川二朗