レビュー
費用は1,500円ちょっと! オンキヨー名スピーカー復活のススメ
2021年8月27日 08:00
前回、日立Lo-Dのアンプ「HMA-9500」を6台ジャンク買い&レストアした記事を書いたところ、たいへんありがたいことに、想定以上の多くの皆様に読んでいただけたらしい。
実はあの記事では触れなかったのだが、Lo-D以上の数を所有している(正確には「していた」)ものがある。それはオンキヨーのスピーカーだ。これまで僕は、4ペア・計8台のオンキヨースピーカーをジャンク買いしていて、メンテ後に人に譲った1ペアを除き、3ペアがまだ手元に残っており、いろいろと楽しませてもらっている。
なぜオンキヨーなのか?
中古のスピーカーで人気があるのは、JBLやタンノイ(TANNOY)、三菱のダイヤトーン(DAIATONE)、ヤマハあたりで、オンキヨーはイマイチ人気がない。これはある意味で偏見であって、製品の質を反映したものでは決してないのだが、やはりブランドイメージが影響力しているのかもしれない。往年のオンキヨースピーカーに憧れた僕にとっては、実に不思議なことだ。
人気はいまひとつだが、オンキヨーのスピーカーはいずれもクオリティが高い。ジャンクマニアにとっては、1990年代の2ウェイブックシェルフタイプが最もねらい目だ。特に1991年発売の「D-202」とコレに続く一連のシリーズ、それから1994年発売の「D-102A」と同じく一連のシリーズは、驚くほど廉価で入手が可能で、しかも全く手抜きのない逸品。さらに、ほとんどの個体がエッジ交換だけで復活するので、メンテのベースとして好適なのだ。
前述のように、僕はこれまで4ペアのオンキヨースピーカーをジャンクで入手している。それはD-102Aが2ペアと、D-102ACMとD-202Aがそれぞれ1ペアである。2ペアのD-102Aは既にメンテ済みで、そのうち1ペアはバスレフダクトを延長したり、ネットワークを刷新したり、独自の改造を行なって音が良くなった(と思っている)。残りのD-102ACMとD-202Aは気が向いたらやろうと思って寝かせていたのだが、最近、ふと思い立ってD-202Aをメンテしてみた。
というわけで今回は、Lo-Dに続くジャンク買い&レストア記事の第2弾として、市川流オンキヨー「D-202A」のメンテ術を紹介する。スピーカー本体以外に必要な材料は、交換用のエッジとわずかな道具だけで費用は1,500円+αとハードルは低いはず。前回のLo-Dよりも手順などを詳しく説明しているので、腕に憶えのある方は是非自身でもチャレンジしてみてほしい。
安くて音良し! だけど不人気なオンキヨーをジャンク買い
ジャンクはオークションで買うのが手っ取り早いのだが、僕が買ったオンキヨーのスピーカーは、4ペア中3ペアを中古オーディオショップの「ハイファイ堂」で購入している。
ジャンクはいわば故障品なので、中古オーディオショップで扱っていることはまれだ。例外的に扱っているショップの代表格がハイファイ堂であり、ジャンクが大好物の僕はハイファイ堂の大ファンである。これまで数え切れないほどお世話になっていて、つい先日も100円ジャンクのCDプレーヤーを購入したばかりだ。
ちなみに今回もメンテするD-202Aは、税・送料込みで5,000円(もちろんペア)ポッキリと格安だった。
メンテの部材と道具。エッジはAmazonやヤフオク! でゲット
メンテの部材としては、まず新品の“エッジ”が必要だ。最近はスピーカーのメンテを自分でやる方が増えているようで、比較的簡単に手に入るようになった。
Amazonやヤフオク! で「D-202A」「エッジ」をキーワードに検索すると、色々出てくる。素材の種類は“ラバー”と“ウレタン”がある。ラバーは文字通りゴム、あるいはエラストマー(柔らかい合成樹脂の総称)で、ウレタンはスポンジ状の発泡エラストマーだ。柔軟性や気密性など、特性に違いがあり、厳密には音質も違う。僕は両方とも試したことがあるのだがウレタンのほうが好みだ。今回はヤフオク! で2枚1,500円で購入したものを使った。
エッジを貼りつける“ノリ”も実は重要だ。「エチレン酢酸ビニル樹脂系水性接着剤」というものが使いやすく、これは壁紙、壁クロス用として一般に売られている。
接着力はあまり強くないが、水溶性なので手や道具に付いても水で洗えば落ちるので始末がいい。硬化したあとは半透明になり、柔軟性がある点もエッジの接着には向いている。
お薦めはコニシの「ボンド 壁クロス用」というやつで、僕はダイソーで買った20ml入りのチューブを使っている。ホームセンターなどでは60ml入りボトルが300円くらいで売っている。なお、接着力が強力な溶剤系やシリコン系の接着剤も使えるが、一度貼りつけると修正が効かないし、後始末もちょっとやっかいである。
道具はドライバーセット、六角レンチセット、カッターナイフが最低限必要だ。カッターナイフはごく普通のもので十分。あと、ノリを塗る平筆(ひらふで)とシリンジ(注射器)も使った。これらは無くても作業可能なのだが、エッジをきちんと接着し、また見た目をきれいに仕上げるためにはマストだ。
平筆は幅が5~8mmくらいのものが使いやすい。シリンジは化粧水などの入れ替え用が“100均”の化粧品コーナーで売っている。さらに、ラジオペンチやピンセットもあると便利だろう。
いざメンテ! ウーファーを取り外す
まずは、六角レンチを使ってウーファーのねじを外す。このウーファーは裏に鉛のスタビライザーをしょっていて見た目以上に重い。キャビネットをそっと傾けるとウーファーが自重で外れてくる。
接続コードはファストン端子になっているので、少しこじるようにして抜く。なお、作業中にツイーターのドームをつぶさないように注意しよう。
ウーファーが外れたら、ついでにキャビネットの中を覗いてみる。
キャビネットの形式はバスレフだが、ダクトの奥行が極端に浅い。内部には補強が縦横に走り、吸音材が三次元的に貼り巡らされている。ネットワークとコードは、ブチルゴムで丁寧にダンプ(防振)してあって、なんとも手の込んだ作り。工業製品というよりも自作スピーカーに近い印象を受ける。
古いエッジを除去する
ウーファーを取り外したら、作業の邪魔にならないよう磁気回路の裏のボルトを外す。鉛のスタビライザーは接着されているので、ボルトを外しても落ちない。そのあとは、プラスチックのフランジ(飾り枠)を取り外す。接着剤で貼りついているが、ごく薄いので手で持ち上げただけで外れた。
続いて、劣化したエッジの除去に取り掛かる。
始めにフレーム側に貼りついている部分を、マイナスドライバーを使ってこそぎ落とすように除去していく。エッジの下にはガスケットという厚紙が貼りつけてあるが、これをはがさないように注意する。劣化したエッジがボロボロと落ちるので新聞紙を敷いて作業した。
その次に、コーン紙に残ったエッジを除去する。このコーンは意外としなやかで柔らかいので、痛めないように注意しながら指であらかたエッジを除去する。
次にコーンの縁に残った部分をカッターナイフで切り取っていく。コーンの縁にゴム系のノリが厚めに塗ってあるので、コーンとエッジの境界線がわかりづらいが、コーンを切らないように慎重に作業する。
劣化したエッジはまだコーンの裏側に残っている。
ここはユニットを伏せて(磁気回路を上にして)、フレームの裏側から細めのマイナスドライバーを使って、こそぐようにして除去していくといい。力を入れるとコーンが痛むので、一気にやらずに、優しく何度もこするようにして落としていった。指で触ったときコーンの地肌が感じられるくらい取れたらOK。これでようやくエッジの除去が完了した。
新しいエッジを取り付ける
新しいエッジをノリで貼り付けていく。事前にノリをつけずに新しいエッジをコーンにはめてフィット具合をみる。ぴったりと隙間なくはまるか、あるいは隙間があるか、同心円状にセンターが合う位置を探りながら目視で確認する。
ノリは適当な平皿に絞り出して、平筆を使ってコーンとエッジの両面に塗る。まず始めにコーンの裏のノリシロ部分に薄く塗っていく。見えないところなので広めに、しかしあまり厚くならないように塗る。多少の塗りムラは気にしない。
次にエッジ内縁のミミに同じようにノリを塗る。ノリを塗り終わったらエッジをコーンにそっとはめて、所定の位置に合わせたら指の腹を使ってノリシロ部分をギュッと圧着する。指圧の如く、優しく、しかし大胆に握りつぶすように圧着するのがコツだ。このとき位置がずれないように注意する。
コーンとエッジが貼りついたら、こんどはフレームにエッジを貼りつける。
同じように平筆を使って、エッジ外縁のミミの裏側とフレームのガスケットの部分にノリを塗り、位置を確認しながら指で軽く圧着する。そして、コーンを軽く押してみて、コーンがスムーズに動くことと、ガサゴソと引っかかるような感触がないことを確認する。
なお、一連の作業は手早くやる必要があるが、10分程度ならある程度修正が可能だ。最も重要なのは、コーンが傾いたり、センターがずれたりしないようにすることだ。
以上の作業でエッジの貼りつけは完了だが、最後の仕上げにシリンジの登場である。
コーンとエッジの境界線にノリを盛り付けるように塗っていく。これはコーンの振動によるエッジの剥がれを防ぐのが主な目的だが、同時に見た目がきれいになる効果もある。
組み立て、そして完成!
エッジ交換が完了したら、あとは元通り組み上げる。まず、ウーファーの裏のボルトを取り付ける。次にコードを接続してからキャビネットにはめる。
しかしまあ、この鉛付きのウーファーはなんとも重い。足の上に落としたら大ケガしそうだ。裏のボルトはキャビネットの補強桟の穴に差し込むのだが、穴の径が大きいのでボルトと補強桟は非接触になっている。ちょっと気になるが、これはこういう設計なのだ。あと、ウーファーの端子が横向きなのもちょっと不思議だ。
最後にフランジをはめて六角ねじを締める。4本のねじはいきなり締め付けるのではなく、対角線の順番に少しずつ締めていく。いきなり締めるとフレームがゆがむことがあるからだ。フランジはもともとは接着してあったのだが、フレームと共締めになっているので今回は接着しなかった。
以上で作業は完了である。早速試聴! といいたいところだがここはグッと我慢。ノリが完全に乾くまで、24時間ほど養生する。
いざ、音出し~ゴミ同然だったジャンクが見事に復活!!
ノリが十分に乾いたら音を出しだ。低音が強めの曲を再生して、異音が出ないことと、またボーカルやピアノに歪みがないかなど、まずは作業ミスがないことを確認した。
音質はどうだろうか。一聴してパワフルでダイナミックである。メンテしたとはいえ、ゴミ同然のジャンクスピーカーから、こんなに力感みなぎる音が出るとは予想外だ。
僕の好きな「松原みき」の「真夜中のドア」を聞いてみたところ、彼女独特のハスキーでありながら力強いボーカルがグンと張り出してきて、あたかも眼前で歌っているように感じられる。伴奏も力強く、ベースやバスドラは弾力があってバランスボールがポンポンと跳ねるようだ。低域のレンジは16cmの限界はさすがに超えられないが、ポップスを快活に鳴らすには不足はない。
一方、クラシックはどうだろうか。バイオリンやチェンバロのソロとか、室内楽などの小編成を鳴らすと、しっとりと優しい肌触りの雰囲気がなんともよく、耳障りな音が一切しない。オーケストラは厚みや量感はいまひとつだが、高弦のたゆたうような肌触りがなんとも美しい。ただし、金管や打楽器の透明感、鮮鋭感はもうひとつ。さすがに20年以上経っているのだから致し方ないところだろう。
しかし、1時間くらい鳴らしていたら、少しずつ切れがよくなってきた。20年以上眠っていたのだから、目覚めるのにも時間がかかるのかもしれない。こんな古びたスピーカーでも、鳴らし込んだらもっと良くなると期待させてくれるのはすごい。
とにもかくにも、ペア5,000円のジャンクスピーカーを1枚750円(計1,500円)のエッジで直したとは到底思えないサウンドだ。うん、実にいい。ジャンク好きのオジサンはひとりで達成感に浸るのであった。
禁断の魔改造へ……トイレットペーパーの芯で作ったダクトを追加
フツーならこれで終わりなのだが、変態オーディオマニアはこれだけでは飽き足らない。ここからは禁断のスペシャルチューニングである。
いじりたいところは2つある。ひとつはバスレフのダクトの延長と、ネットワークの変更だ。
D-202Aは極端に短いダクトを採用している。これには非力なアンプでも低音のパワー感を得ようという狙いがある。このダクトに同じ径のパイプを継ぎ足すと低音のレンジがグンと伸びる。本格的なアンプでオーケストラやジャズを鳴らすと、聴感でも明らかに違いがわかる。部屋やセッティングにもよるが、電源が強力なアンプで鳴らすなら、ダクトの改造は極めて有効だ。
延長用のパイプはトイレットペーパーの芯で作った。トイレットペーパーの芯は1枚だと弱いので、切り開いて3枚重ねにして木工用ボンドで固めたものを使った。あと、パイプの内側をポスターカラーで黒く塗って外から見ても目立たないようにした。
もうひとつはまだやっていないが、ネットワークを改造したいのである。
D-202Aはウーファーをコイルなしのスルーで使っていて、これがボーカルの張り出しの要因のひとつとなっている。ウーファーをコイルでハイカットして、オーソドックスなネットワークに改造すれば、よりフラットで透明感のあるオールマイティーな音に変身するはずだ。
ただ、ネットワークの改造はカットアンドトライで定数(コイルやコンデンサーの数値)を探る必要があり、非常に時間がかかるため、今回はいったん見送り。いずれ時間があるときにじっくりとやろうと思う。
というわけで今回はここまで。いやあ、オンキヨーのスピーカーはすばらしい! そしてジャンクオーディオってやっぱ楽しいですわ。
分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。この記事を読んで行なった行為(分解など)によって、生じた損害はAV Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません。AV Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。