レビュー

躍進の黒船スピーカー「パラダイム」。旗艦ペルソナで極上サウンドを味わう

Persona 7F

パラダイム(Paradigm)のスピーカーは2019年春に日本に導入された。まだ2年半しか経っていない。しかも、それまで国内ではほぼ無名の存在だ。著名ブランドを好む日本のオーディオファンの間に浸透するには時間がかかるだろう。当初、筆者はそう予想していた。

だが、実際には短い間にペルソナ(Persona)、プレミア(Premier)、ファウンダー(Founder)と3つのシリーズを相次いで投入した効果もあるのか、早くもそれぞれの価格帯で一目置かれる存在になっている。短期間でなぜそこまでの存在感を発揮できたのか。ラインナップの頂点に位置する「Persona 7F」(528万円・ペア)に注目し、その躍進の理由を自分の耳で確かめることが今回のテーマだ。

Persona 7F(仕上げはアリアブルー・メタリック)

Persona 7Fの音はすでに輸入代理店の試聴スペースなどで何度か聴いているのだが、今回は筆者のリスニングルームに持ち込んでの試聴がかなった。しかもほぼ一週間(正味6日間)と試聴時間もたっぷりある。いつもの環境で聴くことで初めて気付くことがありそうだし、手持ちのスピーカーと聴き比べる楽しみもある。

ちなみに筆者の試聴室のメインスピーカーはウィルソンオーディオの「Sophia 3」で、すでに10年以上使い続けている。精度の高い空間再現力や低重心の安定したバランスなどが筆者の好みに合っているのだ。

高い技術力を備えるスピーカー専業メーカー。ベリリウム振動板が特徴

まずはブランドの概要をおさらいしておこう。

パラダイムは1982年に創業したカナダのメーカーで、トロント近郊に本拠を置く。設計から製造まで一貫して手がける世界でも数少ないスピーカー専業メーカーの一つで、自他ともに認める技術力は本物だ。振動板の素材や磁気回路の構造など、音を左右する基幹技術をカナダの国立研究機関の協力を得てじっくり追い込み、それらの独自技術を幅広い製品群に導入している。

パラダイムの代表的な技術を網羅しているのがフラッグシップのペルソナシリーズだ。

ペルソナシリーズ

注目に値するのは、振動板素材にベリリウムを用いていること。

3ウェイバスレフ型のPersona 7Fは、25mm口径のツイーターと178mm口径のミッドレンジにTruextent Pure Beryliumと呼ばれる純度99.9%のベリリウム振動板を採用。特にミッドレンジドライバーはベリリウムコーンとしては異例の大口径で、加工技術の水準の高さがうかがえる。

日本のオーディオファンはヤマハやTADの成功例を通じて振動板素材としてのベリリウムの優位性をよく理解している。

軽量で内部損失が大きく、音の伝播速度も桁違いに速い。ところが、素材としての長所が多い半面、加工の難しさは半端ではない。スピーカーユニットに採用するためには強度や安全性も含めて克服すべき点が多かったのだ。

ヤマハやTADのベリリウム振動板は真空蒸着の手法でそれらの課題をクリアしたが、パラダイムのベリリウム振動板は独自の伸延製法を用いて製造しているという。既存のベリリウム振動板に比べて均質性が高いことが特徴とされる。均質性の高い構造を実現しているのであれば、硬度や音速が向上し、音質改善につながることが容易に想像できる。

ペルソナシリーズの注目技術はたくさんあるが、まずはこの高純度ベリリウム振動板に注目し、実際の音にどう活かされているのか、確認してみよう。

写真左から、バンタブラック・グロス、ソニックシルバー・メタリック、ハーモニーホワイト・グロス。他にもカーボンブラック・グロスや、受注生産のカスタムが選択可能

ベリリウム振動板による、自然で正確な音色再現

音速が速く、固有の共振が少ない振動板を採用したスピーカーには共通の長所がある。

具体的には、色付けが少ないニュートラルな音色、余分な輪郭強調のないなめらかな質感などが思い浮かぶ。ベリリウムの板材を叩くとすぐにわかるのだが、素材固有の音が他の金属に比べて圧倒的に少なく、しかも減衰が早い。Persona 7Fを最初に聴いたとき、ニュートラルで正確な音色再現に強い印象を受けたのは、そうしたベリリウムの特長が音に現れていたからなのだ。

筆者のリスニングルームでもその印象は変わらなかった。ピアノ、ギター、ドラムなど、どの楽器も発音はクリアだが誇張はなく、アタックは素直で硬さがない。楽器の音色は発音の瞬間の振幅や倍音の組み合わせで大半が決まるので、立ち上がりの波形を忠実に再現するスピーカーで聴くと楽器ごとの音色の違いがとてもよくわかる。

声も同じように歌手それぞれの個性を正確に描き分ける。Persona 7Fのウーファーとミッドレンジのクロスオーバー周波数は450Hzなので、この2つのユニットが主に声の音域をカバーするわけだが、主にウーファーの帯域と重なる男声の場合も音色を決める倍音がミッドレンジの帯域に分布しているため、低音だけでなく中高域を正確に再現することで本来の音色を表現できるのだ。

写真中央がベリリウム振動板

ノラ・ジョーンズのハスキーでウォームな声、サヴィーヌ・ドゥヴィエルの澄んだ軽やかなソプラノ、マイケル・ブーブレの甘く伸びやかな美声といった具合にCD、ストリーミング、ハイレゾ音源とメディアを横断しながら声に特長のある音源を集中的に聴き、素直な発音と音色の豊かさに魅了されながら一日目の試聴を終えた。

スケールの大きさは別物。見通しの良い空間を軽々動くような透明感

二日目は、大型のフロアスアンディングスピーカーならではのスケール感に注目して試聴を進めた。

Persona 7Fは高さが1.3mを超え、重さも65kgと重量級。全体のサイズ感はSophia 3とほぼ同じなのだが、横幅がスリムで背が高く、同じ位置にセッティングしたときの印象は対照的だ。重厚なSophia 3に対して、ブルーメタリック仕上げのPersona 7Fは風通しの良い清涼な雰囲気がある。

床からトゥイーターまでは120cm弱で、普段使っている椅子だと耳の位置よりも20cmほど高くなる。上から音が降り注ぐというほどではないが、試聴位置を50cmほど遠ざけて聴くとちょうどいい具合になった。それだけ離れても音の浸透力が弱まる気配をまったく感じさせないのはこれまで気付かなかった長所の一つだ。

それどころか部屋の反対側まで下がって約7mの位置から聴いても音圧感は変化なし。ハイエンドスピーカーなので当然とはいえ、広いリスニングルームの持ち主にもお薦めできる。

再生音にもどこか外観と共通する志向が感じられるのが興味深い。ステージいっぱいにオーケストラが広がり、原寸大に近いグランドピアノの楽器イメージが目の前に展開するなど、スケールの大きさは同じフロア型でもトールボーイ型とは別物だ。その一方で、音の重心が極端に沈むのではなく、見通しの良い空間のなかを空気が軽々と動いていくような透明感があり、反応の良い低音が旋律にかぶらないのが心地良い。

Persona 7Fの脚部
背面のスピーカーターミナル

ラトル指揮ベルリンフィルのシベリウス(LP)や、エラス・カサド指揮パリ管の「春の祭典」(CD)など、透明度の高さを意識した演奏をPersona 7Fで聴くと、見通しの良い音場のなか、各楽器群の動きが混濁せずにクリアに浮かび上がる。

最高潮に達したときのオーケストラのマッシブな量感は圧倒的だが、音が飽和しないで細部の集合体として強力なエネルギーを放つことが重要だ。クレッシェンドの到達点でも飽和しないことが、スケール感を引き出す重要な条件なのだが、それを満たすスピーカーはとても少ないのが現実。Persona 7Fも含め、ハイエンド級スピーカーの存在意義の一つがそこにある。

楽器が増えても飽和しないセパレーションの高さは、ドナルド・フェイゲンの名盤「ナイトフライ」(SACD)でも実感することができた。

なかでも「I.G.Y.」は聴こえてくる楽器の数が増えるほど凝りに凝った音作りの面白さが際立つ。しかし、複雑に重ねられた楽器がヴォーカルやコーラスをマスクしてしまったらその面白さは半減してしまう。一音一音を克明に鳴らし分ける解像度の高さとヴォーカルの存在感を両立させることが肝心なのだが、このスピーカーはそのバランスが絶妙だ。それは、ベースやシンセサイザーの低音が一音たりとも間延びせず、切れの良いリズムを刻んでいることと無関係ではなさそうだ。

超低音も高精度に再現。アタックの速さと瞬発力の強さが白眉

次は低音に焦点を合わせてPersona 7Fの検証を進めていこう。

Persona 7Fは215mm口径のウーファーを2つ積んでいるが、いずれも磁気回路にディファレンシャルドライブと呼ばれる方式を採用していることが特徴。背中合わせに2つのボイスコイルを配置することで出力を向上させたうえで、大音圧でも歪みが発生しにくいメリットもあるという。

さらに立体的な構造を持つ独自形状のARTエッジ(ART:Active Ridge Technology)を組み合せることで、ストローク(振動範囲)を拡大する工夫を凝らすなど、大振幅時も含めた低音の質感改善にかなり力を入れている。ベリリウムの資質を生かして色付けを最小限に抑えた中高域に見合う低音を得るためには、不要な共振や歪を排除した反応の良い低音を目指すことが欠かせない。ディファレンシャルドライブやARTはそれを実現するために開発されたキーテクノロジーなのだ。

215mm口径のウーファーを2基搭載する

低音の再現性は、2日かけてじっくり確認した。

最初に結論を紹介しておくと、Persona 7Fは量感やエネルギー感を強く印象付けるような低音はあえて出さない。独自の駆動方式がもたらす長所に加えて、バスレフ型キャビネットは共振対策と定在波対策が入念で剛性が高く、最低音域からクロスオーバー周波数近辺まで、特定の音域の強調は確認できない。ニュートラルな音調という表現は、ベリリウム振動板が受け持つ中高域だけでなく、低音についてもそのまま成立するといっていい。

スケール感の再現性を紹介するなかでオーケストラのマッシブな量感について触れたように、Persona 7Fの低音がバランス的に足りないということはまったくない。広い音域にわたって必要十分な音圧を確保しているが、過剰にはならないということだ。

ストゥールゴールズ指揮BBCフィルが演奏したショスタコーヴィチの交響曲第11番(第4楽章、SACD)を聴くと、弦楽器群のなかでチェロとコントラバスが一番目立つほど実在感のある低音を引き出し、オーケストラ全体をドライブする原動力としての役割を果たしていることがわかる。緩みや膨らみがないので低音が鋭く刻むリズムが鮮明に浮かび上がるのは前述の「春の祭典」も同じだが、こちらは連打するティンパニや大太鼓の一撃がもたらす空気のゆらぎに文字通り衝撃を受けた。

オーディオシステムで聴くコントラバスやピアノの低音が力強く感じる要因の半分は倍音に由来するものだが、実はそれよりも基音の音域の振動が確実かつ正確に伝わることの方がもっと重要だ。数十ヘルツという音域では音というより風のような感触に近く、訓練した耳でなければ音程も把握しにくいかもしれない。

だが、そんな低周波の振動を正確に再現するスピーカーは和音の響きが安定し、高い音域の音色を正確に再現する能力も高くなる。良質なサブウーファーでも難しいような超低音を正確に再現することは最近のハイエンドスピーカーでは必須条件になりつつあり、各社が性能改善にしのぎを削っている。パラダイムもその一角を担う存在で、低音の質感へのこだわりは半端ではない。

Persona 7Fの低音では、アタックの速さと瞬発力の強さにも感心させられた。

女性ヴォーカルとベースのデュオ「ムジカ・ヌーダ」のCDを聴くと、ベースのピチカートににじみやふくらみがない。一音一音のテンションの高さは文字通り弦の張力の強さをありのままに再現しないと伝わらないのだが、このスピーカーはその要点を確実に押さえている。付点のリズムや休符の緊張感にも緩みがないので、畳み掛けるような早口のヴォーカルともしっかり噛み合って爽快だ。

このドライブ感のあるベースの魅力を引き出すためには、基音と倍音の発音タイミングを揃えたり、信号波形通りに減衰させるなど、複数の条件をクリアすることが不可欠だ。Persona 7Fの低音からは、静的な特性だけでなく、音楽信号で低音の動的な振る舞いを追い込んでいることがうかがえる。

今回Persona 7Fで聴いた多くの音源のなかで、低音の微妙な音色の描き分けを聴き取ることができた例を2点ほど紹介しておこう。

1つめは村治佳織が映画音楽に取り組んだ「シネマ」(LPレコード、CD)。4本のギターを曲によって弾き分けているので、まずはその音色の違いを味わう楽しみがあるし、同じ曲のなかでも奏法や強弱の変化による音色のバリエーションを聴き分けられる。また、同じナイロン弦でも低音側の3本の弦は巻線構造なので音に張りがある。「ワイルド・テーマ」や「第三の男」のリズムを際立たせる効果はそれを活かしたもので、張りのある低音弦と柔らかい高音弦の響きの違いがとてもよくわかる。

もう1つはフランク・ペーター・ツィンマーマンとマルティン・ヘルムヒェンによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ集(SACD)。ツィンマーマンは「レディ・インチクイン」と呼ばれるストラディバリウスの銘器を弾き、ヘルムヒェンはクリス・マーネ作の平行弦ピアノで演奏している。

マーネのピアノは低音部まで弦を交差させずに純度の高い響きを実現していることが特長で、ヴァイオリンの音と自然に溶け合うだけでなく、ソロで弾いているフレーズでの澄んだハーモニーも注目に値する。Persona 7Fは既存のピアノとの違いを鮮やかに描き分け、この録音の聴きどころをじっくり楽しむことができた。

位相ずれも抑制するPPA。情報を忠実に再現し立体的なステージを生み出す

現代のスピーカーに求められる重要な資質の1つが、立体的な空間再現だ。ステージ上の楽器の関係を立体的に再現し、余韻の広がりや深みのある遠近感を引き出すことで臨場感が高まり、同じ空間を共有する感覚が生まれる。

大型スピーカーよりもコンパクトでユニット構成がシンプルなブックシェルフ型の方が自然な空間描写が得意とされているが、3ウェイ4スピーカーのPersona 7Fはどうだろうか。

ペルソナシリーズのキャビネットは側面から後方に向けて断面が楕円形状になっている。内部の定在波の発生を抑えることが主な目的だが、回折を抑える効果も期待できる。

さらに、ミッドレンジとツイーターの前面に取り付けられた独自設計の音響レンズ「PPA:Perforated Phase Aligning」が空間再現性の改善に寄与しているという。位相の僅かなずれで生じる干渉や歪を抑え、均一に拡散させる効果を狙ったもので、既存のフェイズプラグと目的は共通だが、その精度に大きな違いがある。

側面から後方に向かって楕円形状になっているキャビネット

サイズや形状の異なる開口部の配置はコンピュターによるシミュレーションと聴感による調整によって追い込んだもので、特定の周波数をフィルタリングすることによって、振動板上の異なる位置で発生した音波同士の位相差を打ち消し、干渉を抑えることを狙っている。

独自のパターンを描くPPAはデザイン面で視覚的な効果を生むと同時に振動板を保護する役割も担っているが、最大の目的は中高域の音質改善にあるのだ。音響レンズ自体は新しい技術ではなく、各社が設計に工夫を凝らしているが、パラダイムのPPAは広い周波数範囲で効果を追求するなど高精度に形状を追い込んでおり、独自性が高い。

ツイーターとミッドレンジ前面にある独自の音響レンズ「PPA」

PPAは明瞭度や透明感を引き出す効果が大きいとされ、Persona 7Fのニュートラルな音色に貢献していることは間違いないだろう。さらにもう一つ、位相のずれを抑えることが空間情報の正確な再現につながることにも注目しておきたい。中高域に含まれる空間情報を忠実に再現することで、立体感豊かなステージが浮かび上がるのだ。

Persona 7Fは空間再現でも余分な強調のない自然な遠近感を引き出すスピーカーである。

あえて輪郭を立ててヴォーカルを他の楽器よりも手前に引っ張り出すような表現とは一線を画していて、録音に含まれる空間情報を脚色なくそのまま再現することで本来の立体感を引き出すスタンスをくずさない。余韻などの空間情報を豊富に含む音源では、どちらかというと手前よりもスピーカー後方への広がりや距離感でパースペクティブを表現するのが得意とみた。

その代表的な例が、クライバーとシュターツカペレ・ドレスデンの「魔弾の射手」(SACD)である。合唱だけでなく独唱もオーケストラとほぼ等距離に並んで両者が自然に溶け合うのだが、この作品でひときわ重要な役割を演じるホルンだけは十分な距離をとって豊かな残響とともに後方に広がり、空間の大きさを聴き手に強く印象付ける。

声楽や弦楽器と大半の管楽器はクリアな音で動きを際立たせつつ、ホルンパートなど一部の楽器はルカ教会の余韻を活かして自然な距離感を描写。ステレオの枠組みのなかで最大限の広がりを作り出そうとした録音手法の成果が鮮やかに浮かび上がってくる。

ヴォーカルなどの旋律をあえて手前に引っ張り出さないと書いたが、ヴァイオリンなど例外もいくつかある。ハイメ・ラレード「ヴィルトゥオーゾ!」(SACD)のヴァイオリンとピアノの関係がその好例で、独奏ヴァイオリンのクリアな3次元イメージと柔らかい音調のピアノが前後に展開し、ヴァイオリンの音像はスピーカーの前に一歩踏み出している。これはヴァイオリンを強調しているのではなく、独奏に焦点を合わせつつ、2つの楽器の関係を立体的に描き出すことを狙った録音の意図をそのまま再現した例ととらえるべきだろう。

ヴォーカルに焦点を合わせた録音はジャズやポピュラーでは無数に存在する。今回はLPでリッキー・リー・ジョーンズやリンダ・ロンシュタットを聴き、ファイル音源でノラ・ジョーンズやジェーン・モンハイトを再生したが、どれもヴォーカルの音像はサイズと位置に誇張がなく、ピアノやリズム楽器も特定のパートが不自然に飛び出さずに見通しの良いステージが展開した。空間的にも時間的にも混濁が非常に少ないので、あえてヴォーカルを強調しなくても表情がストレートに伝わるのだ。

演奏と録音の特徴を細部まで誇張なく再現するスピーカー

Persona 7Fを毎日聴き続けて6日目を迎えた。特定の製品をここまでじっくり試聴できる機会は滅多になく、貴重な体験となった。いつもの試聴レポートとは少しスタイルを変えてテーマ別に特長を紹介したが、それによって短時間の試聴では気付きにくいスピーカーの個性に耳を傾けることができたように思う。

最近は海外製品を中心に価格の二極分化が進み、フラッグシップ機の多くはおいそれと手が出せる価格ではなくなってしまった。Persona 7Fも税込みで500万円を超えるハイエンドスピーカーである。

同シリーズには低音再生用にアンプを内蔵したハイブリッド型「Persona 9H」が上位に存在し、独自の音場補正など優れた技術は注目に値するのだが、価格は700万円を超え、入手できる人は限られてしまう。Persona 7Fはパッシブ型のスピーカーでは最上位モデルだが、ラインナップには100万円台のブックシェルフ型やスリムなフロア型もあり、それならなんとか手が届くという人もいるだろう。

6日間にわたって聴いたPersona 7Fの印象を簡潔にまとめると、演奏と録音の特徴を細部まで誇張なく再現することに尽きる。

その純度の高さを実現するキーテクノロジーはベリリウム振動板にあるとこれまでは判断していたのだが、今回の試聴を通じてそれ以外の技術やノウハウも重要な役割を演じていることにあらためて気付かされた。

ウーファーユニットの周辺技術や中高域の音響レンズ、さらにキャビネットの構造やネットワーク回路の設計まで、すべてが共通の思想で統一されているからこそ、音源の情報をすべて引き出しながら余分なものを付け加えないという境地に到達することができたのだ。

強烈な個性とは一線を画すPersona 7Fの音は、数時間ずつ毎日聴いてもストレスがたまらず、極上の解放感に浸ることができた。それはシリーズの他の製品にも共通する美点なので、参考にしていただきたい。

(協力:PDN)

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。