レビュー

手頃なのに高音質。ペア11万円からの注目機、パラダイム「PREMIER」

PREMIERシリーズのブックシェルフ型モデル

パラダイム(Paradigm)のブランド名がオーディオファンの間にじわじわと浸透しつつある。カナダのスピーカー専業メーカーとして40年近い歴史がある同社だが、日本市場に導入されたのは最近のことで、知名度は高くない。だが、最初に入ってきた「PERSONA」(ペルソナ)シリーズの高評価が呼び水となって注目が高まり、着実に支持が広がっているようだ。

そのような中、タイミング良く「PREMIER」(プレミア)シリーズが登場した。

PERSONAは、ベリリウム振動板をはじめとする同社の核心技術を満載したフラッグシップだけに、かなりの高価格だが、PREMIERは性能と価格のバランスを重視したエントリーグレードで、価格帯もペアで11万円(100B)から32万円(800F)と、一気に現実味を帯びる。


    「PREMIER」シリーズ
  • ブックシェルフ「100B」 2ウェイ2スピーカー・バスレフ 11万円(ペア)
  • ブックシェルフ「200B」 2ウェイ2スピーカー・バスレフ 15万円(ペア)
  • センター「500C」 3ウェイ4スピーカー・密閉 12.5万円(1本)
  • センター「600C」 3ウェイ6スピーカー・密閉 16万円(1本)
  • フロアスタンド「700F」 3ウェイ4スピーカー・バスレフ 25万円(ペア)
  • フロアスタンド「800F」 3ウェイ4スピーカー・バスレフ 32万円(ペア)
PREMIERシリーズ

PERSONA、そしてPREMIERという2つのグレードが登場したことで、パラダイムのスピーカー群への関心がさらに高まるのではないか。筆者が特に注目しているのは、価格差を越えて、一貫した設計思想や音の方向性が浮かび上がってくるかどうか、という点だ。今回の主役はあくまでPREMIERシリーズだが、上位PERSONAシリーズの存在も意識しながら、自身のリスニングルームで聴いてみることにした。

ARTエッジやPPA音響レンズなど、上位PERSONAの設計思想を受け継ぐ

PREMIERシリーズには、フロア型で3ウェイ4スピーカー構成の「800F」「700F」、センター用で3ウェイ6スピーカー「600C」、3ウェイ4スピーカー「500C」、そしてブックシェルフ型で2ウェイ2スピーカー「200B」「100B」の全6タイプがある。

実際に聴いたのは、フロア型の800Fとブックシェルフ型の200B。価格は800Fがペア32万円、200Bがペア15万円だ。シリーズの内容的にはマルチチャンネルシステムも組めるのだが、今回はHi-Fi性能を見極めるべく、2チャンネルで試聴している。なお、200Bは別売の専用スタンドと組み合わせている。

フロア型モデル「800F」
写真左からグロス・ブラック、グロス・ホワイト、エスプレッソ・グレイン
試聴にはエスプレッソ・グレインを使用
スピーカーターミナル

コンパクトな200Bはもちろんだが、フロア型の800Fもなんとか一人でセッティングできるサイズと重さで、扱いやすい。ちなみに外形寸法/重量は、200Bが19.8×32.1×33.5cm(幅×奥行き×高さ)/8.17kg。800Fが23×35×105.3cm(同)/24.2kg。

意外だったのは200Bの専用スタンドの背が高いことと、その割に軽量ということだろうか。制振効果は確保できているようで、支柱部分も含めて共振はよく抑えられている。

ブックシェルフ型モデル「200B」
写真左からグロス・ブラック、グロス・ホワイト、エスプレッソ・グレイン
試聴にはグロス・ブラックを使用。別売の専用スタンド(ペア4万円)も組み合わせた
スピーカーターミナル

また、支柱背面にベース部まで貫通した配線スペースが設けられており、スピーカーケーブルが見えないようにつなぐことができる。リビングルームなどで配線を隠したいとき、役に立ちそうだ。

スタンドの支柱背面には、配線スペースが用意されている。やや太めのスピーカーケーブルでも通すことが可能。細いケーブルを使えば、ケーブルはほぼ見えなくなる
スタンド脚部

キャビネットはこの価格帯のスピーカーとしては細部の作り込みがていねい。特に側板の角度を変えて後方に向けて僅かに絞り込むなど、音質への配慮もみられる。今回聴いたのは、グロス・ブラックとエスプレッソ・グレインで、上位PERSONAのような高級感こそないが、シンプルで飽きのこないデザインは好印象と感じた。

800F、200Bともに、後方が絞り込まれたキャビネットを採用

ウーファーユニットは、どちらの機種も165mm口径のポリプロピレン振動板を採用する。射出成形したエラストマーのエッジをコーンに固定するART(Active Ridge Technology)製法はPERSONAシリーズから受け継いだ技術で、出力の3dBアップと歪を50%低減しロングストロークを実現する。

さらに目を引くのが、ツイーターとミッドレンジ/ウーファーの前面に配置した特殊な構造の音響レンズ。PPA(Perforated Phase-Aligning)と呼ばれるこの技術も、PERSONA譲りのもの。

ウーファーユニットは、165mm口径のポリプロピレン振動板を採用。凹凸模様のエッジは特許技術で、歪を抑え、出力をアップする効果があるという
ツイーターとミッドレンジの前面に使われている音響レンズ「PPA」

パラダイムスピーカーの外見に明確な個性を与えるだけでなく、指向性や位相を整える効果がある。ツイーターやミッドレンジにベリリウムを使うのはさすがにコスト面で難しく、PREMIERではツイーターにアルミ振動板(X-PAL)を用いているが、音に磨きをかけるための重要なノウハウを上位機種から受け継いでいることは注目しておきたい。

スピーカーは本社を構えるカナダで、デザイン、設計、製造されている
Paradigm Premier Series

中低域が柔らかく高域は瑞々しいタッチだが、そのさじ加減は絶妙

800Fはシリーズ最上位のフロア型モデルで、165mm口径のウーファーを2つ積む3ウェイ4スピーカー構成だ。どんな音源を聴いても響きの重心が低く、低音の充実した周波数バランスは安定志向。ただし、中高域に瑞々しい感触と絶妙な明るさもあり、沈んだ調子にならない良さがある。

PERSONAシリーズのニュートラルな音調に比べると、中低域の柔らかさや高域の瑞々しいタッチなど、少しだけ響きを彩る傾向があるとはいえ、そのさじ加減は絶妙で、けっして味付けの濃いスピーカーではない。しかも、くせはなくても単調な音にならないのが興味深い。

ハイメ・ラレードのアンコール集は、独奏ヴァイオリンの瑞々しい音色と、それを包み込むピアノの柔らかい響きの対比が鮮やかで、2つの楽器の関係を立体的に描き出す。具体的には、ヴァイオリンが一歩前に出て瑞々しい音を奏で、その少し後方にピアノ伴奏が展開するという位置関係で、ピアノの低音はフロア型ならではの余裕が伝わってきた。この演奏、録音の良い部分を素直に引き出すと同時に、フォルテでも不自然な強調がなく、神経質な音を出さない良さがある。

ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲も独奏ヴァイオリンとオーケストラの響きが混濁せず、独奏、内声、通奏低音の三者をバランス良く鳴らし分けている。

この曲で一番感心したのは、オルガンを含む通奏低音の動きが俊敏で、厚みと躍動感が両立していることだ。独奏ヴァイオリンの動きを支える低音がもたつくと演奏の一体感が失われてしまう心配があるが、800Fの低音はツインウーファーのフロア型スピーカーとは思えないほど反応がよく、制動も効いている。

ムジカ・ヌーダのCDを聴くと、ベースの動きの速さがよくわかる。ピチカートのアタックが緩まず、一音一音が力強く飛び出してくるので、テンポのドライブ感が半端ではない。その力強いリズムに乗ってヴォーカルが自由自在に動き回り、音楽がどんどん前に動いていく。その活発さはジャズやポップスの音源でプラスにはたらく要素なので、注目しておきたい。

ビッグバンドのサポートで歌うジェーン・モンハイトのヴォーカルは、声のイメージが少し太めになるが、発音がクリアなので表情にくもりはない。ベースとホーン楽器のアタックがよく揃っているため、マッシブに音を押し出す力にも不足はないが、そこが過剰に重くなることはなく、あくまで軽快な動きでヴォーカルを支える。

トランペットの高音は硬さやきつさがなく、大きめのボリュームで聴いても突き刺さるような刺激はない。アルミ振動板のツイーターは素材の固有音や歪が少なく、基本性能をじっくり追い込んでいることがわかる。ドライバーユニットを自社で開発、生産するメーカーならではの強みといえるだろう。

素材の特徴をありのままに再現。余分な響きを残さずクリアなサウンド

専用スタンドに載せた200Bの再生音は、付帯音が少なく余分な響きを残さないクリアなサウンドというのが第一印象だ。

上位のPERSONAシリーズもそうだが、パラダイムの製品はスピーカー自体の存在を強く主張する代わりに、演奏と録音の特徴をそのまま素直に再現することに特徴がある。そのため、第一印象は地味なのだが、聴き込んでいくうちに演奏に強く引き込まれていることに気付く。

たとえばジェーン・モンハイトのヴォーカルは発音がクリアですっきりしているが、それはベースが声にかぶらず、ホーン楽器が切れの良いリズムを刻むことに理由がある。小型スピーカーはサイズの制約をカバーするために低音の量感を演出することがあるが、200Bはそうした強調とは対極の素直な低音が持ち味だ。

強調や誇張と縁がないのは高域も同じで、バルトリが歌うヴィヴァルティのアリアは最高音まで声に硬さがなく、ヴァイオリンやトランペットはむしろ柔らかさに強い印象を受けるほどだ。極端に音量を上げなければ、強弱の変化や音色の違いを素直に聴き取ることができるだろう。

オーケストラはモーツァルトやハイドンなど、比較的小編成の曲は予想通り相性が良く、澄んだ響きのなか、細かい音符が軽快に動き回る。大編成のオーケストラからスケール感を引き出すのはもちろん限界があるが、ショスタコーヴィチの交響曲第11番(ストゥールゴールズ指揮BBCフィル)という大曲を聴いてもフォルテが飽和せず、やや意外な印象。低音楽器が刻むリズムが若干軽めなこともあり、動きがもたつかず、この作品の活発な運動性が伝わってきた。

CDやSACD音源、ハイレゾ音源を試聴ソースに用いた

ライブや映画の再生にも好適。厚みのあるサウンドが楽しめる

PREMIERシリーズは、BDやストリーミングなど映像コンテンツの再生システムにも導入しやすいスピーカーと思う。

特にブックシェルフ型の200Bや、100Bのサイズは薄型テレビと組み合わせやすい。筆者の試聴室はメインスピーカーと対抗する位置に55型の4K有機ELテレビ(SONY KJ-55A9F)を置いているので、200Bを左右に設置し、実際にBDを再生してみることにした。

しかし、ここでちょっとした問題が発生。A9Fのスラントしたデザインを活かすため、完全な床置きではないものの、ほぼそれに近い低いポジションにセッティングしているのだが、その状態で専用スタンドに載せた200Bを脇に置くと、明らかにスピーカーの位置が高すぎるのだ。音の重心が画面の中心よりも高くなってしまい、一体感を引き出しにくい。
一計を案じて手持ちのタオック製スタンドに替えてみると、見た目にも良い位置関係になり、また実際に音を出しても音像の位置に違和感がない。スピーカーケーブルを隠す仕掛けが使えないのは残念だが、肝心な音のバランスは明らかにこちらの方が良い。幅広のローボードなら、テレビの横にそのまま置くのもいいだろう。

スタンドを変更し、テレビと組み合わせた

ジョン・ウィリアムズ指揮ウィーンフィルの映像ライヴを200Bで再生すると、ステージが左右に大きく広がり、伸びやかな余韻がムジークフェラインの大ホールを満たす。

ムターが弾く独奏ヴァイオリンはステレオ音場の中央に鮮明な音像が浮かび、オーケストラとの関係を立体的に描き出した。テレビ内蔵スピーカーが2次元とすると、200Bで鳴らすサウンドは3次元の広がりと奥行きがあり、ライヴの臨場感もリアルに伝わる。

UHD BDで見た映画は、200Bの安定したバランスがプラスにはたらき、サイズの制約を感じさせない。

「アリー/スター誕生」はライヴのシーンでも低音が薄くならず、ヴォーカルや台詞が神経質に尖らない。「フォードvsフェラーリ」のレースシーンは高回転のエンジンが快音を鳴らし、レースカーの動きが左右スピーカーの外側まで自然に広がった。また「宇宙戦争」においては、マシーンが轟かせる超低音はさすがに大迫力とまではいかないが、誇張がないので音量を大きめにしてもバランスがくずれない良さがある。

いずれ同シリーズのフロア型スピーカーとセンタースピーカーを導入し、200Bをリアに活用してサラウンド再生に拡張することも視野に入るが、ステレオ再生のままでも映画らしい厚みのあるサウンドを楽しめるので、しばらくはその必要を感じないかもしれない。

試聴した映像ソフト

上位モデルと一貫した思想を持つPREMIER。忠実さと基本性能の高さが魅力

演奏の聴きどころを積極的に引き出すことが、PREMIERシリーズの2機種に共通する長所であろう。音色と響きのチューニングでそれを実現しているわけだが、そのアプローチに上位のPERSONAシリーズで得たノウハウが活きているという印象を受ける。

フラッグシップの製品群とはドライバーユニットの振動板素材やキャビネットの構造が異なるとはいえ、最終的に音を追い込む過程でのノウハウと方向性には一貫したものがあり、専業メーカーならではのこだわりもうかがうことができた。

基本性能とブランドの価値をどちらも重視する日本のオーディオファンに浸透し始めたことには、それなりの理由があるのだ。

(協力:PDN)

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。