レビュー

約2万円のサウンドバーでここまで楽しめる、Polk Audio REACTの衝撃

Polk Audio REACT

Polk Audioってどういう音?

近頃、「Polk Audioってどういう音ですか?」と訊かれることが増えた。最近、Polk製品のレビュー記事を何本か書いたからだろう。だけど、コレ。個人的にはかなり評論家泣かせの質問だと思っている。コスパ抜群なのは言うまでもないとして、Polkサウンドを、いわゆるオーディオ用語で説明するのはすごく難しいのだ。

例えば、拙稿も含めて巷には多くのレビューが出ているが、そこに必ず出てくるのが「豊かな低音」という言葉。だけど、そんなスピーカーは他にもあるっちゃある。続いて多いのは「ナチュラル」。自分に至っては某所で「ハートフル」とまで書いている。ちなみに、メーカー自身は「エフォートレス・サウンド」を謳っているそうで、エフォートレスは直訳すると「努力(effort)を要しない」。つまりは「肩の力を抜いた気楽な音」ということになる。

う~ん、我々もPolkサウンドに最も相応しい表現は何かと一生懸命考えて書いているのだが、たしかに読者にしてみれば「自然で心温まる気楽な音」と言われても「???」状態なのかもしれない。

そこで今回は、自責の念も込めて、同社で最もお手軽な製品といえるサウンドバー「REACT」を使い、改めてPolkサウンドの魅力を解説したいと思う。

Polk Audio REACT

非凡オブ・ザ・イヤー

REACTは実売2万円台前半の製品だ。Dolby Atmosにも非対応で、入出力もARCと光デジタルのみ。スペックだけを見たら、じつに平凡なサウンドバー入門機である。しかも、あと5千円ほど足せば、Atmos対応で、通常のHDMI入力も備えたデノンの「DHT-S217」が手に入ってしまう。そちらを買った方がシアワセになれるのではないか? そう考えてしまうのも無理はない。実際、DHT-S217はニトリもビックリな、お値段以上の“高音質”サウンドバーだ。それに較べるとREACTの存在はぶっちゃけ地味である。

デノンの「DHT-S217」

正直、私も今回の取材が無ければ、一生REACTを聴かずに終わっていたかもしれない。しかし、3週間に渡り自宅でREACTを試用してみて、このサウンドバーが平凡どころか、「非凡オブ・ザ・イヤー」をあげたくなるほどの逸品であることがわかった。

リビングの有機ELテレビ「レグザ55X8400」と組み合わせてみた

まずは、リビングの有機ELテレビ「レグザ55X8400」と組み合わせてみる。テレビ側がeARC非対応(ARCのみ)だが、REACTはAtmos非対応なので問題はない。本体サイズは横幅が864mmなので、55X8400の両脚の間にスッポリと収まった。加えて高さも57mmで画面の下端にピッタリ合う。まるで純正品のような佇まいの良さだ。個人的にはこれだけで物欲フラグが立ってしまったが、肝心の音質もテレビ内蔵スピーカーの痩せたサウンドとは大違いで、出演者の声にしっかりとした厚みが加わり、のっけから好印象だ。

55X8400の両脚の間にスッポリと収まった
高さもバッチリ

もちろん、全ての安価なサウンドバーがREACTと同じレベルの音質を持っているわけでないが、たった2万円台の製品でも55X8400クラスのテレビ内蔵スピーカーに完勝してしまうという真実を、特にAVファン以外の皆様にはもっと知ってほしい。これが10万円以下の格安テレビをお使いならばなおさらだ。

また、広めのデスクトップ環境をお持ちの方ならば、PCモニターの下にREACTを置くというスタイルもイイだろう。PCモニターにはARCは無いことがほとんどなので、PC本体との光デジタル接続が基本になるが、この音でゲームやYouTubeを愉しめるのだとしたら、下手なPC用スピーカーを使うよりも遥かに満足度は高いだろう。

筆者自身はゲームをやらないし、デスクトップも極狭なので、上記の使い方は試せなかったが、その代わりに55X8400で自分の出演しているYouTubeを再生してみた。

AV Watchでもお馴染みの評論家の山本浩司さんとの対談なのだが、このリビングで収録したこともあり、合わせ鏡のような妙な感覚である。しかしREACTから聞こえてくる山本さんの声はホンモノだ。私が保証しよう。以前、上位機種の「Signa S4」というサウンドバーをこの場所でテストした時にも思ったのだが、声のナチュラルさはPolk製品に共通している魅力だと思う。

しまった、また「ナチュラル」と書いてしまった。もう少し具体的にREACTの音を解説しよう。

上位機種の「Signa S4」

小難しいことに耳が奪われない

外付けサブウーファーの無いREACTでは、当然Signa S4のような重低音は出ないし、高域も特別伸びているわけではないが、両エンドがロールオフされた、カマボコ型のナローレンジな音ではない。中域もカンカンした甲高い音色ではなく、耳障りな音が出ないよう丹念にチューニングされている。そこにPolk Audioのお家芸であるパッシブラジエーターによる厚みのある低域が加わることで、声に絶妙なボディ感が生まれるのだ。

次に、大本命の映画サラウンドをチェックしてみよう。REACTのユニット構成はツィーター、ウーファー、パッシブラジエーター共にそれぞれ2発ずつで、実質的には一体型のステレオスピーカーだ。つまりサラウンド再生はバーチャル対応ということになる。

内蔵ユニットの配置

最初にAtmosマニア御用達のUHD BD「トップガン マーヴェリック」を再生してみたが、Atmos→5.1ch→バーチャル処理という変換が入ってはいるものの、55型のテレビに見劣り(聞き劣り)しない確かな包囲感が得られた。もちろんリビング全体をグルグル飛び回るような大迫力の空中戦は期待できないが、一方で小音量時にも音痩せせず、台詞の明瞭さを保ち続けてくれるところに、REACTならではの強みを感じる。

これはPolk Audioが、その昔、コンサートやライブ会場で使うPA用のスピーカーを生産していたことも多分に影響していると思う。おそらくこの時期に、歌や演奏、台詞をリスナーに確実に届けるためのノウハウを蓄積したのだろう。そのDNAはPolkサウンドの美徳として現行モデルにもしっかり受け継がれていて、それはREACTのようなエントリー機も例外ではない。

おかげでこの3週間、家族が寝静まった後のリビングで、アニメ鑑賞にどハマリしてしまった。アマプラで今まで観ていなかった深夜アニメを片っ端からイッキ見しているのである。なかでもREACTの魅力が最大限に発揮されたのが今話題の「ぼっち・ざ・ろっく!」だ。

【LIVE映像】結束バンド「あのバンド」LIVE at STARRY / 「ぼっち・ざ・ろっく!」劇中曲

「結束バンド(分からない人はググって!)」の演奏シーンでは、小音量とは思えない迫真のライブパフォーマンスに不覚にもウルッと来てしまうほど。加えて、主人公「ぼっちちゃん」の声の存在感が、彼女の魅力を倍増させるものだから、どんどんストーリーにのめり込んでしまい、気づいたら朝になっていた。自宅取材でこんなにも「やめられない、とまらない」状態になったのは初めての経験だ。おかげで、原稿の執筆は遅れに遅れてしまったが、これもREACTの非凡さがよくわかるエピソード「其の一」だと思う。

ダイニングのサイドボード。ステレオペアで置いたAmazon Echo Studioの間に、REACTを設置

さらに、その原稿執筆中にもREACTの非凡さ「其の二」を発見してしまった。前述した自室の机は、極狭なだけでなく真横にはベッドがあるため、意志の弱い私は眠気に襲われた時にその誘惑に抗うことができない。そんな時はダイニングのテーブルに移動して、サイドボードにステレオペアで置かれたAmazonのEcho Studioで眠気覚ましに何曲か聴いてから仕事を再開するのがお決まりのパターンだ。

ただし、執筆中は再生を止めてしまう。じつは私、昔からBGMを流しながら仕事ができない人間なのだ。音が鳴っていると作業に集中できないのである。ところが、試しにAlexa対応のREACTをEcho Studioの代わりに使ってみたところ、あら不思議。音楽を聴きながら原稿が書けてしまうではないですか。

書ける……、音楽を聴きながら原稿が書けるぞ!!

Echo Studioもコスパは異次元だ。私はセール期間中に2本同時購入したが、ポイントも合わせると実質25,000円だった。これをスピーカースタンドに乗せ、左右の壁から離してセッティングすると、10万円のスピーカーも真っ青な音が出てしまうのだから、オーディオ業界の脅威である。ただし、サイドボードのような場所に設置すると低域が過多になり、中域も凹むきらいがあるのが惜しい。先日のファームウェア・アップデートではその点にもメスが入ったようだが、拙宅の個体はアップデートができないエラーに見舞われて、まだ確認ができていない。

一方のREACTは、Echo Studioのような重低音は出ない代わりに、中域の表現力ではライバルたちを圧倒する。どうやら、私が「ながら聴き」ができるか否かは、“ファンダメンタルな帯域に凹凸が無いこと”が絶対条件のようだ。それに加えて、“オーディオライクな音質ではないこと”。つまり解像感やレンジ感といった小難しいことに耳が奪われない音だ。

だって普段、自然界の音を聞いていて、解像度が高いな~とか、ワイドレンジだな~とは思わないではないか。なるほど、自分がPolkサウンドをオーディオ用語で説明できないのはこれが理由だったのか。そして、Polk Audioが標榜する「エフォートレス・サウンド」とはこういう音だったのかと、深く納得させられた次第だ。彼らはオーディオ専業メーカーとして、日頃から北米市場でAmazonやAppleと戦っているわけで、やはりその実力は伊達ではない。

というわけで、この使い方がすっかり気に入ってしまった私は、本稿を書いている間にいろいろな曲を聴いた。いま聴いているのは、先日リリースされた桑田佳祐のベストアルバム『いつも何処かで』だ。

じつは、このアルバムのリマスタリングを担当したTEMAS(テイチク・マスタリング)の吉良武男とは旧知の仲である。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの若手のホープだが、彼にとって今回のアルバムは1つの到達点とも言えるものだ。桑田佳祐のアルバムで、ビクタースタジオ以外のマスタリングエンジニアが抜擢されることが、どれだけ凄いことか、業界関係者ならすぐにわかるだろう。

35曲中29曲が吉良氏によってリマスタリングされている

事前に自室のガチなオーディオシステムで再生したところ、国内スタジオの音とは思えない立体的でクリアネスなサウンドステージと、波形には現れない聴感上のダイナミックレンジの広さに耳を奪われた。彼の手によって珠玉の名曲たちに新しい息吹が吹き込まれたのだ。

でも、今ここでREACTが奏でている音からは、そうした音質的なことよりも、彼が旧態然とした業界に風穴を開けようと必死に戦っていた姿や、何度も手伝ったルームチューニングの思い出などが次々とプレイバックされて、そこに桑田さんの歌声が重なるものだから、またしても目頭が熱くなってしまうのだった。

やはり自分にとってPolk Audioは「ハートフル・サウンド」なんだな。ブラックフライデーでポイントも溜まったので、脱稿と同時にREACTをポチろうと思っている。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

秋山真

20世紀最後の年にCDマスタリングのエンジニアとしてキャリアをスタートしたはずが、21世紀最初の年にはDVDエンコードのエンジニアになっていた、運命の荒波に揉まれ続ける画質と音質の求道者。2007年、世界一のBDを作りたいと渡米し、パナソニックハリウッド研究所に在籍。ハリウッド大作からジブリ作品に至るまで、名だたるハイクオリティ盤を数多く手がけた。帰国後はオーディオビジュアルに関する豊富な知識と経験を生かし、評論活動も展開中。今夏、庭に棲み着いた仔猫をお迎えし、育児と仕事に追われる日々。