レビュー

2万円台から始めるTVサウンド超強化、デノン「DHT-S217/S517」で実践

ワンバータイプの「DHT-S217」

薄型テレビが日本で普及してから何年が経っただろう。映像は高精細な4Kがほぼ標準になっているが、「音があまりよくない」「台詞が聞こえない」といった声は、小型~中型テレビユーザーを中心にまだ多く聞かれる。迫力や没入感といった部分で、どことなく不満を感じている方もいるのではないだろうか。

テレビの音を良くする、最も手軽で省スペースな手段は“サウンドバー”だ。テレビラックの上に直接置いて、電源ケーブルとHDMIケーブルを繋ぐだけで完了。とてもシンプルで導入へのハードルも低い。

一方で、どうせ買うならオーディオとしても良い音のモノが欲しいと考える読者も多いだろう。そこで、今回は、リーズナブルな価格ながら、本格的なサウンドを実現したデノンのサウンドバー2機種を使ってみる。機能をできるだけシンプルにして価格を抑えているので、ホームシアター初挑戦の人でも導入しやすいのが魅力だ。

今年の5月に発売された「DHT-S217」は、前モデルの「DHT-S216」では非対応だったDolby Atmosに対応したワンバータイプ。価格はオープンプライスで、実売は27,000円前後。

同じく今年1月に発売された「DHT-S517」は、ワイヤレスサブウーファーがセットになっており、Dolby Atmosイネーブルドスピーカーとセンタースピーカーも内蔵した3.1.2ch対応モデルだ。

「.2」というのは、トップスピーカーかイネーブルドスピーカーのチャンネルを指す。本機は、天井に反射させることで上方からの音を再現するイネーブルドスピーカーが備わっている。価格はオープンプライスで、実売は54,000円前後。

ワイヤレスサブウーファーがセットになった「DHT-S517」

デノンというと老舗のオーディオブランドだから、サウンドバーも渋いデザインを想像されるかもしれないが、割とスッキリした今風のデザインに仕上がっている。最近のお洒落なテレビ台座の前に置いても雰囲気を壊さないだろう。

どちらも「Pure」モード搭載。イネーブルドスピーカーの有無が大きな違い

まずは、両モデルに共通するスペックを紹介しよう。HDMI入出力は、共に1系統ずつ。TVへの出力は、ARC/eARC対応だ。対応音声フォーマットは、Dolby Atmos、Dolby TrueHD、Dolby Digital Plus、Dolby Digital、MPEG-2 AAC、MPEG-4 AAC、リニアPCM(最大7.1ch)の7種類。

ザックリ言うと、Dolby TrueHDはBlu-rayソフト、Dolby Digital PlusはAmazon PrimeやNetflixなどの配信、Dolby DigitalはDVD、MPEG-2 AACは地上デジタルなどのテレビ放送、MPEG-4 AACは新4K/8K衛星放送、リニアPCM(最大7.1ch)はPS4/PS5などのゲーム機や一部のBlu-rayソフトで使われることが多い。Dolby Atmosは、Blu-rayソフトやNetflixなど一部の配信サービスで採用されている。つまり、昨今利用される機器やサービスをほぼ網羅しているわけだ。なお、DTS系のフォーマットには非対応だが、ソース機器側でPCM変換すれば音は出る。

「DHT-S217」の入力端子部
「DHT-S517」の入力端子部

映像面は、4K/60Hzおよび、各種のHDR信号のパススルーに対応。HDR10、Dolby Vision、HLG(Hybrid Log-gamma)に加えて、HDR10+およびDynamic HDRに対応している。パッケージメディアから、配信、放送までソースを問わない安心感がある。

HDMI以外の入力端子は、光デジタル、アナログAUX(3.5mm ステレオミニジャック)の2つ。光デジタルは、ARC/eARC非対応のテレビと接続する際に利用する。

Bluetoothにも対応しているから、スマートフォンなどと繋げて音楽も楽しめる。コーデックはSBC。DLNA/OpenHomeといったネットワークオーディオには対応しない。

コンテンツに応じて選べるサウンドモードは、Pureモード、Movieモード、Musicモード、Nightモードの4種類。MovieとMusicはその名の通りだが、Nightは夜間に音量を抑えても小さい音(映画の台詞など)が聴き取りやすくなる機能だ。

Pureはサウンドモードやバーチャルサラウンド処理を全てバイパスし、直接デコードした音声信号をデジタルアンプに入力するモードとなる。デノンのサウンドマスター・山内慎一氏が40回以上の音質検討を繰り返して「ViVid & Spacious」なサウンドを実現するモードとして用意したという。

デノンのサウンドマスター・山内慎一氏
サウンドモードやバーチャルサラウンド処理をバイパスし、増幅回路に入力することで、音の純度が最も高くなる「Pure」モードも搭載

映画の台詞やバラエティのナレーション、ニュース読みなどを聞きやすくするダイアログエンハンサーも搭載している(3段階で切り替え可能)。

以上が共通の仕様だ。下位モデルのS217でも、おいしい機能が漏れなく搭載されているのは魅力的だ。

S217は、890×120×67mm(幅×奥行き×高さ)の本体寸法で、重量は3.6kgと軽量。搭載されるスピーカーユニットは、前面の左右端に25mm径のツイーター、45×90mmの楕円形ミッドレンジを各2基、中央付近に下向きに75mm径のサブウーファーを2基の合計3ウェイ6スピーカーシステムとなる。バスレスポートは、左右両端に備えており、筐体内の空気の流れが内部回路の冷却も兼ねているという。

「DHT-S217」の内部ユニット
中央付近に下向きに75mm径のサブウーファーを2基搭載する
本体左右にバスレフポート

Dolby Atmosの3Dオーディオ信号のデコードや、バーチャルサラウンド信号処理のために、ハイエンドAVアンプにも採用しているグレードの高いSoCを搭載。このSoCは、上位モデルのS517に搭載しているのと同じものだ。

高い演算能力により、余裕を持った信号処理が可能となり、高音質化に寄与しているという。Dolby Atmosイネーブルドスピーカーは非搭載だが、Atmosの天井からの音声をデジタル信号処理によって再現している。これがいわゆるDolby Atmos Height Virtualizerだ。

ステレオや5.1ch、7.1chの音源を再生する場合も、立体的な3Dサウンドにアップミックスして再生できる。ただし、Pureモードはアップミックス処理を行なわない。

従来よりも20%、約1mm脚部を高くしたことで、低域の抜けを改善したり、S517と同等の強力な電源部を搭載するなど、細部へのこだわりも低価格帯に妥協しないデノンの意気込みを感じる。

付属品は、リモコンと電源ケーブル、HDMIケーブル、光デジタルケーブルなどだ。これなら、買って箱から出してすぐ使える。

S217付属のリモコン
「DHT-S517」

S517は、本体寸法が1,050×95×60mm(幅×奥行き×高さ)、重量は2.5kgとS217よりも軽量だ。これは低域をサブウーファーに任せていることも大きいだろう。サブウーファーは、172×290×370mm(同)で、重量4.3kg。サブウーファーも存外軽量で驚いた。お米1袋分よりも軽いから楽々と設置できる。

「DHT-S517」のサブウーファー

スピーカーユニットは、前面に25mm径のツイーターと、120×40mmの楕円形ミッドレンジを各2基搭載。さらに、センタースピーカーとして、25mm径のフルレンジスピーカーも中央に1基搭載している。センタースピーカーは台詞を主に再生するスピーカーだ。映画館で人物の声がスクリーン中央から聞こえるのを体感したことがあるだろう。アレがご家庭で再現できる。

「DHT-S517」のスケルトンモデル。見えているのはミッドレンジとツイーターだ
25mm径のフルレンジスピーカーをセンタースピーカーとして搭載

これらに加えて、天面の左右に66mm径のDolby Atmosイネーブルドスピーカーを備えている。角度を付けることで部屋の天井に向けて音を放出し、反射によって上方からの音を再現しているのだ。DSP処理のみのバーチャル再生よりもリアルな3Dサウンドが再現できるという。

ちなみに、Dolby Atmosイネーブルドスピーカーは、Dolby社での各種テストをクリアして認証を得ているから、機能やクオリティも正規のものだ。というか、認証を受けていないとDolby Atmosイネーブルドスピーカーを名乗ることは出来ない。

斜め上に向けて取り付けられているのがDolby Atmosイネーブルドスピーカー
スケルトンではない通常モデルで、Dolby Atmosイネーブルドスピーカー部分を見たところ

入力端子からスピーカーユニットまで、信号の経路ができるだけストレートかつ最短経路をとなるようレイアウトを徹底。放熱板の下にパワーアンプを配置するなど、Hi-Fi機器で使われる手法をサウンドバーでも用いているこだわりぶりだ。

付属のワイヤレスサブウーファーは、150mmのユニットを1基搭載したリアバスレフ型。大型フレアと、つなぎ目をなくしたポートにより、エアフローノイズを大幅に軽減している。脚部(フット)は、底面のみ設置の縦置き専用だ。メーカー想定外であるが、横置きでも使える。可能であれば、サウンドバーの直下にインシュレーターなどを敷いての横置きもアリだ。理由は後ほど解説する。

サブウーファーはリアバスレフ
ワイヤレスなので入力端子などは無い
S517付属のリモコン

S217を聴く。価格を考えると信じられないパフォーマンス

DHT-S217

では、実際にS217から試聴してみよう。

筆者は、リビングに2009年製の42インチプラズマテレビを設置している。メタルラックにそのままテレビスタンドを置くという、どこにでもありそうな設置スタイルだ。S271は、底部にウーファーユニットがあるため、本来の設置想定としては外れているだろう。音が空間にそのまま放出されるのではなく、木製のテレビ台などに下向きに放射され広がっていく想定と思われるからだ。ただ、実際リビングで聞く限りは、違和感はあまり無かった。

テレビスタンドとサウンドバーの間には、AETの「VFE-4005U」を3枚敷いている

テレビ台にサウンドバーを設置するとき、本体背面のスペースには注意を払った方がいいだろう。筆者のテレビ台は、サウンドバーを設置した際、背面のスペースが狭く塞がっているため、ケーブルの敷設が困難だった。HDMIケーブルによっては、ヒネるように曲げて設置することになるので断線の心配もある。S217とS517でケーブルの敷設場所や向きが変わる。S517は電源とHDMI類は別の場所で方向も外側に斜めになっているので、接続はやりやすかった。サウンドバー背面のスペースや真後ろに貫通できるかなど、設置環境は事前にチェックしておくと良いだろう。またテレビ側のリモコン受光部をサウンドバーが塞がないかも要確認だ。

筆者は、リアルタイムでテレビを見るという習慣がほぼないので、いつもBlu-rayレコーダーを立ち上げて、AVアンプを介して録画番組を試聴している。そうすると、テレビからの音声信号の戻りを必要としないため、ARC非対応の古いテレビでも困ってはいなかった。光デジタルケーブルもテレビからAVアンプには接続していない。

その癖で、S217やS517でも光デジタルケーブルを接続しなかったら、電源を入れる順番によって、音あるいは映像が出なかったりした。古いテレビを使用している人は、必ず光デジタルケーブルも接続しよう。光デジタルケーブル経由でテレビの音を聞くときは、入力切り替えを「OPT」に設定する。

筆者のように、ゲーム機やBlu-rayレコーダーなどを使っている人は、S217のHDMI INにソース機器を接続し、TV接続用のHDMI端子とテレビを接続すればいい。サブスクリプションの映像配信を利用している場合は、テレビからのARC/eARCで音声を送ると、HDMI一本で接続が終わるからシンプルだ。

Dolby Atmosなどのサラウンドフォーマットを正しく視聴するために、配信サービス側の設定を整えよう。サウンドバー自体の入力切り替えは、TVからの音声を聞きたいときはTV、ゲーム機やBlu-rayレコーダーからの音声を聞きたいときはHDMIに設定する。

まずは、地上デジタル放送の深夜アニメの視聴から。「ぼっち・ざ・ろっく!」のライブオーディションが感動的な5話を再生……したのだが、不定期にブツブツ音が混じる。調べてみると、サウンドバー側が48kHzまでの対応だったのに、ソニーのBlu-rayレコーダー側で「DSEE HX」という96kHzにアップスケーリングする技術をONにしていた。OFFにすると、フロントのLEDもPCMの白色からAACのオレンジになって、支障なく再生できた。

稀に96kHzの音声トラックが収録された映画ソフトやライブのBlu-rayもあるから、合わせて留意しておきたい。ちなみに一般的なBlu-rayソフトはほぼ確実に48kHzなので心配は要らない。放送や配信も然りだ。

付属のリモコンで本体リセット以外のすべての操作ができる。サウンドモードや音量を調整しても、テレビ画面には何も表示されない。全て本体フロント側にあるLEDの点滅や色で表示される。例外として、テレビ側で音量を変更すると、追従してサウンドバーの音量が変わる時には表示が出る。AVアンプに慣れている筆者は最初戸惑ったが、S217もS517も機能がシンプルなので、ホームシアター入門機として特段の支障は無いと思う。

DHT-S217

Pureモードから聞く。非常に素直でストレートな出音だ。テレビのスピーカーは下方向に付いていることもあり、籠もったような音になりがちだが、S217の音は耳にすっと入ってくる。

中低域は、メタルラックに設置しているため、やや物足りなさを感じたが、リモコンでBASSを上げてやると適当なバランスの量感が得られた。デノンらしい温かみのあるサウンドだが、全体的に自然なバランス。中音域が盛りすぎなこともなく、数kHz以上の高域は滑らかで耳障りなピークもない。

2万円台でありながら“無理に頑張ってない感じ”がとても好印象だ。実直に音を作り込んだことが伺える。

Movieモードに切替えると、一気に音場の広がりが増し、分離感も優れたサウンドが得られた。結束バンドの真剣な演奏、ぼっちのモノローグ、手に汗握る熱く燃える展開をAACの圧縮音声ながら、高い前のめり感のまま楽しませてくれた。ダイアログエンハンサーは、LOWで視聴しているが、特に問題は感じない。おそらく、ハリウッド映画などの台詞が聞きづらいコンテンツを想定しているのだろう。日本人俳優の台詞が聴き取りづらくて困るBlu-ray「ミッドウェイ」では、音量をあまり上げなくても、ちゃんと台詞が耳に入ってくる実用性の高さを示してくれた。

Blu-rayソフトを視聴

続いて、PS5を繋げてBlu-rayソフトを視聴してみる。手持ちの映画Blu-rayはアニメを中心に洋画・邦画といろいろだが、圧倒的にDTS-HD Master Audioが主流だ。リニアPCMやDolby Digital True HDのソフトを観てみる前に、DTS-HD Master Audioで収録されたタイトルを視聴してみた。PS5側でリニアPCMに変換されて出力される模様で、特に設定要らずで視聴出来た。2chのダウンミックスなのか、マルチチャンネルなのか、PS5側の仕様を確認できなかったが、Movieモードで視聴したときの迫力は必要十分だった。

Dolby Atmosのデモディスク2015年版をチェック。いつもテストで視聴する「Leaf」。リスナーの周りを上方含め落ち葉がぐるぐる回る印象的なCG動画のデモだ。

筆者は防音スタジオの中で、天井のスピーカーも含めリアルで6.1.2ch環境を構築しているが、ガチなホームシアターで感じられるサラウンド感と、サウンドバー1本のS217によるサラウンド感は、どう違うだろうか。

デモを再生すると、Dolby Atmosをデコードする水色のLEDが点灯した。イネーブルドスピーカーがないS217は、真上の定位感はほぼ感じられない。しかし、頭上をぐるっと一周する落ち葉は、なんと真横くらいまで音の移動を感じられるではないか。

サウンドバーから離れすぎると包囲感が中途半端になる。具体的には真横の定位も危うくなるので、前方以外の音場感が足りない時はテレビに近づいてみるといいだろう。

Dolby Atmosをデコードしている事を示す水色のLED

これは!と気を良くした筆者は、音楽系のDolby Atmosソフトも取り出した。AURO-3Dが実に素晴らしいボブ・ジェームスのUltra HD Blu-ray「Feel Like Making Live!」だ。こちらのディスクにはDolby Atmos版の音声も収録されている。

音楽系のDolby Atmosは、やはりMusicモードの方がベストなのだろうか。比較してみたが、Dolby Atmosの収録のソースならMusicよりもMovieの方が音の広がりや分離がよくて聴きやすい印象だ。ピアノ・アコースティックベース・ドラムの3人の配置が現場の位置取りとシンクロして、離れている感覚が味わえる。Musicモードになると、音がまとまって左右の音場がせまく感じられた。どちらかというと、2chのソースに適していそうだ。

Movieモードは、真後ろからの音は感じられないものの、半円球の中に入っている感覚がある。サウンドバー1本でここまでやれるとは、価格を考えると信じられないパフォーマンスだ。

オーディオ機器としての“地力の凄さ”と、各サウンドモードの実用性の高さを味わったので、さらに実力を発揮させたくなり、防音スタジオへと場所を変えた。

普段ブックシェルフスピーカーを乗せているスタンドにS217を置いてみる。この時、下方に備わったウーファーユニットがスタンドの上に来るようにセッティングした。筆者の防音スタジオは、中低音の吸音特性が一般的な日本家屋よりも少なめになっている。本来スピーカーから出ている音をそのままチェックするのに適しているわけだ。

ソース機器は、普段使用しているリファレンスのシステムから、RCA→3.5mm変換の特注ケーブルを使ってAUX端子に接続した。ハイレゾのライブ音源や、筆者の音楽ユニットであるBeagle Kickのフュージョンなどを試聴。

まずPureモードで聴く。リビングでは、スッキリとした印象だった中低域が、ここでは量感を一気に増し、特にボーカルやサックスなどの中音パートはふくよかに聴かせる。一方で、楽器音同士の混雑感とキレの緩さが気になる。音像がスピーカー近辺に固まっており、開放感はいまひとつだ。

Musicモードに変更すると、リズムパートのキレは改善し、分離もよく音場に広がりがあって楽しく聴ける。演算処理能力の高いSoCによって、音の変質を最小限に抑えて、効果的な処理を実現しているのだろう。

BluetoothはSBCということもあり、さすがにAUX入力と比べるのは酷だ。奥行き感はなくなり、解像度もドット潰れのように悪くなる。PureからMusicモードにすると、補完処理などはしてないと思われるのだが、音の艶や高域のブライトさが正しい方向で復元された感じがして、これは使わない手はないと思った。普段、映像を見ていないときに、ながら聴きのBGMとしてスマートフォンから再生するといった用途なら、悪くない音質だろう。

iPad Airから、Bluetoothでラジオニュースも聞いてみた。厚みのあるスタジオライクなアナウンサーの声は、なんだか艶っぽくてドキッとする。部屋全体を音で満たすには、モバイル機器で音量をガンガンに上げるよりも、サウンドバーの余裕のあるアンプで鳴らしてあげた方が聴き疲れもしなさそう。ラジオのリスニングには積極的に使いたい。

S517。ピュアオーディオのシステムとして十分にいい!

DHT-S517

S517をリビングで試そう。サブウーファーは、Wi-Fiの2.4GHzで接続されているので、おそらく48kHz/24bitなどのロスレスで送信されていると思われる。あらかじめペアリングが済んでいるので、サウンドバーの電源を入れれば、すぐに使える状態だ。メタルラックの左隣、なるべくサウンドバーに近い場所に配置した。フローリングとの間には、AETのVFE-4010Uを4つ敷いて振動対策を施した。

最初に録画した深夜アニメを視聴する。サブウーファーとサウンドバーの間のクロスオーバー周波数は公開されていないが、思ったより上の周波数で設定されているのではと感じた。

というのも、テレビ放送などの2ch音声を視聴すると、サウンドバー側が低域のみをサブウーファーに送って鳴らしてくれるのだが、リモコンでBASSを少し上げると、音の出ている場所が分かってしまう。筆者のリビングでは、LEDの2個目が薄く点灯するくらいまで上げるとサブウーファーからの出音が目立ち始めた。組み合わせるのがサウンドバーということもあり、重低音のみならず中低域も含めて鳴らしていると思われる。

低周波は指向性が弱いため、前方であればあまり設置場所を問わないが、周波数帯が上がるほど指向性が強くなり、音の出所(場所)が知覚できる。後述する0.1chのLFEチャンネルが存在する映画コンテンツなどは違和感がない一方、2chのソースにおいてはBASSの上げすぎは控えたい。逆に下げすぎると、中抜けのようなバランスになってしまうので、設置環境によって最適なBASSのボリュームを微調整するといいだろう。根本的な対策として、サウンドバーの真下に置けるなら、ラックの空きスペースに横向きでもいいから設置をお勧めしたい(前後が開放型のラックに限る)。

テレビ放送は、Movieモードにすると、センタースピーカーから台詞が再生される。Pureでは左右のスピーカーから台詞が出力されるので音像は広がるものの、エネルギーが増したように感じた。

サブウーファーが追加されたことで、中高域の開放感が劇的に向上。S217より、音像のクリアネスが上がり、人の声のディテールもクッキリと聴き取れる。音色の傾向は、S217と非常に似通っていてデノンテイストは揺るがない。サブウーファーに低域を任せることで、劇伴の楽器音に説得力が増した。

「ぼっち・ざ・ろっく!」の第5話ライブシーン。ぼっちのモノローグに思わず手に汗握るほど胸が熱くなり、ダイナミックな演奏シーンには自然と身体も揺れていた。S217は「テレビのスピーカーよりかなり良い」って感じだったのが、S517になると「物語のシーンに没入し、試聴チェックを忘れて見入ってしまう」くらいにサウンドがリッチになっているのだ。

PS5でゲームも試してみた。2ch音声で制作された「黎の軌跡II - CRIMSON SiN-」をプレイ。第3章のカーレースのシーンを見てみると、とどろくエンジン音がリスニングポイントの上方まで広がり、レース場の空気感を思わせる。Movieモードは、適切にSEなどを立体的に配置してくれているのが分かる。2chソースからアップミックスしても、“演算処理で無駄に散っているだけの音“がほとんど感じられないのは素晴らしい。

また、バトルシーンで派手な効果音やボイスがいくつも鳴っているときも、Movieモードなら分離がよく、音の立ち上がりもスピード感があって、音場が飽和しないのもゲーム向きだと感じた。

BASSのレベルについては、テレビ放送よりも控えめにしないと、サブウーファーがどこに置いてあるか知覚できてしまうので、筆者の環境では最小に絞っておいた。これで男性ボイスの野太さも回避できるから、ちょうどいい塩梅だ。欲を言えば、クロスオーバー周波数を可変できるとよかった。

今度は、マルチチャンネル音声で制作された「JUDGE EYES:死神の遺言 Remastered」PS5版をプレイ。PS5本体の設定は、「サウンドバー」、ゲーム内のサウンド設定は「サラウンド」に設定する。

まず、サブウーファーの位置がわかる違和感はまったくない。“.1ch”としてLEF信号が個別に存在する場合は、BASS音量を上げて存分に楽しもう。とはいえ、サブウーファーはさりげないくらいの音量で鳴らすのが鉄則なので、筆者はLEDが2個明るく点灯するくらいで留めておいた。

同タイトルは、舞台となる歓楽街「神室町」をあちこち散策するだけでも楽しいゲームだ。さすがに真後ろから音が聞こえるとまではいかないものの、イネーブルドスピーカーがあるお陰で、半円球状のサラウンド空間がより隙間なく形成されている感覚がある。リラックスして街中の喧騒に浸れる気分だ。

特にすごいと思ったのは、下水道の中。なにかと世話になる街の闇医者が居を構える下水道は、汚水の流れる轟音が絶えず響き渡る。狭い空間に反響している音が上方からも自然に降り注ぎ、空間表現が真に迫っている。

それにしても、繊細な音を聴かせてくれるサウンドバーだ。バトルシーンのSEにしても、路上の人々のボイスにしても、細かな音を優しい音色で、スッと正確に差し出すエレガントな風合いが耳に優しく心地よい。普及価格帯でも決して妥協しない、老舗オーディオメーカーの矜持を感じる。

Dolby Atmosのテストディスクで「Leaf」を再生。ラストで落ち葉が水面に着水する直前、後ろ斜め右横から、手前に移動してくる感覚が確かに感じられる! イネーブルドスピーカーが加わることで、真横からさらに後ろ側、上方も含め3D音場が拡大していることが分かる。BGMは、サブウーファーが加わったことで音の厚みやエネルギー感も向上。一気にピュアオーディオらしくなった。

ボブ・ジェームスの「Feel Like Making Live!」は、適度な音の広がり感がベストマッチなMusicモードで視聴。「TOP SIDE」は、打ち込みの音も生演奏と一緒にミックスされているのだが、そのシンセのサウンドが身体の周囲に定位する感覚も味わえた。広いスタジオの天井に響く音、特にドラムの残響が格段にリアルになっている。デノンらしい中域の温かみと質感が魅力で、聴き疲れのない優しい音。かといって、リズムパートのキレが悪くなることもなく、絶妙なバランスだと感動した。

防音スタジオに持っていってスタンドの上でも聞いてみた。写真のようにサブウーファーを真下に設置したところ、AUXから入力した2chソースを聴いてもほとんど違和感はなかった。

楽曲にもよるが、BASS音量がLED 2つ点灯するくらいまでなら自然なバランスで聴ける。一般家庭の居室であれば、もっと上げてもいいだろう。

それにしても、ピュアオーディオのシステムとして十分にいい! 低域をサブウーファーに任せることで、楽器の音がゴチャッと固まらず、高い解像感のまま描かれている。全体的に余裕が生まれた様子だ。

音の広がりや分離もいいので、Pureモードのままで聴いていられる点も素晴らしい。AUX入力とBluetooth入力での音の差も、同じCD音源を聞いて見たところ、S217より顕著に感じられた。DAPなどをAUXの3.5mmケーブルで繋いで楽しむのもお勧めしたいところだ。

S217/S517、どんな人にオススメ?

予算や設置スペースを抑えつつ、映画やゲームなどを、まずはテレビ内蔵スピーカーよりも、迫力のある、クリアな音で楽しみたい方にはDHT-S217が良い。

サブウーファーの置き場所を作ることが出来る方には、少し予算を上乗せしてでもDHT-S517を強く推薦したい。音楽も含め、音の説得力が格段にアップする。

どちらのモデルも、デノンのオーディオスピリッツを確かに感じさせる、実力派のホームシアター入門機であることが実感できた。ホームシアターのはじめの一歩、デノンのサウンドバーで始めてみるのはどうだろう。

(協力:デノン)

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト