レビュー

4万円台でAtmos天井反射、“学生でも買える”ガチなサウンドバーPolk Audio「Signa S4」

Signa S4

映像配信の普及や、おうち時間の充実などのキッカケとして、盛り上がり続けているのがサウンドバー市場だ。10万円を超えるハイエンドモデルも多数登場する一方で、価格を抑えたレンジでも、Dolby Atmos対応の高機能なモデルが増加。「Atmos対応のサウンドバーでコスパの良いモデルが欲しいけど、どれがいいかな?」と悩んでいる読者も多いだろう。

そこで注目なのだが、ピュアオーディオ用スピーカーで“コスパの良さ”が注目を集めているPolk Audioだ。実はPolk Audioはサウンドバーも手掛けており、こちらもコスパが鬼のように良い。

例えば、実売4万円台の「Signa S4」は、この価格ながらDolby Atmos対応の3.1.2ch構成で、サウンドバーにイネーブルドスピーカーも内蔵。バーチャルではなく、音を実際に天井に向けて放出し、反射させる事で、上から降り注ぐサウンドを再現している。

さらに、別体のワイヤレスサブウーファーがセットになっているほか、Bluetooth受信機能も備え、スマホなどから音楽を再生する事もできる。

実売4万円台でどれくらいの満足度が得られるのか? 実際に聴いてみよう。

そもそもPolk Audioって?

ピュアオーディオのスピーカーに詳しい人には説明不要かもしれないが、Polk Audioは“最近登場した低価格なスピーカーメーカー”ではない。50年以上の歴史を持つ老舗オーディオメーカーで、米国でトップシェアを記録するなど、世界的なスピーカーブランドと言って良い。

1971年、お金は無いが、情熱はあったジョージ・クロップファーとマット・ポークという2人の青年が、“学生の自分たちでも買える良いスピーカーを作ろう”と家のガレージでスピーカーを作り始めたのが原点。

1975年にモニター7(正式名称はMODEL 7)と呼ばれる製品を完成させ、大ヒット。その後も人気モデルを世に送り出し、人気オーディオメーカーとして躍進。過去に何度か日本市場にも入ってきた事はあるが、2017年に、デノンやマランツブランドでお馴染みのディーアンドエムホールディングスと統合した事もあり、2020年に日本市場へ本格的に再参入した。

老舗ブランドにもかかわらず、日本で知名度が今ひとつだったのはこういった経緯だが、最近ではブックシェルフスピーカーやフロア型スピーカーのコスパの高さで注目を集めており、日本でも人気ブランドに成長しつつある。

本格的なフロア型でも、1台63,800円の「ES55」

“高音質なスピーカー”としてサウンドバーを作るこだわり

サウンドバーは、一見すると“黒くて長い棒”なのでどの機種も似たように見えてしまうが、中身を見てみると、かなり“凝った”製品であることがわかる。

Signa S4

Signa S4の内部写真を見るとわかるように、筐体の中央に1基、フルレンジのユニットを搭載している。サイズは1インチと小さいが、実はコイツがただものではない。アルミの軽量な振動板を搭載した、非常に能率の高いユニットで、これ1つで400Hz~20kHzという広い帯域とフラットな特性を備える。

Signa S4の内部
中央に1基搭載しているのが、新開発の1インチフルレンジ

ポイントは、この400Hz~20kHzという帯域が、人の声の帯域をカバーしている事だ。映画ではセリフが大事となるが、そのセリフの帯域を、このフルレンジユニット1つでカバーできる。

例えばフルレンジではなく、ツイーターとウーファーの2ウェイであった場合、人の声の高い方がツイーターに、低い方がウーファーへと分担が変わるため、それによって音が出てくる場所が変わるという不自然さが出てしまう。つまり“人の声の自然さ”にこだわった結果のフルレンジユニット×1基というわけだ。

両端にはミッドレンジ×2基、ツイーター×2基を備えている

両端にはミッドレンジ×2基、ツイーター×2基を備えている。注目は、それらの内側にある、イネーブルドスピーカー。前述のように、Atmosの“天井からの音”を再現するためのユニットだ。天井に反射させるため、イネーブルドスピーカーは斜め上に向けて取り付けられている。

斜め上を向いているのがイネーブルドスピーカーだ

イネーブルドスピーカーの役目は結構大変だ。他のユニットは前面、つまりリスナーに向けて直接音を放出できるのでロスが少ないが、イネーブルドスピーカーは天井に反射させるので、単純に音が伝搬する距離が長い。それゆえ、イネーブルドスピーカーは音量・音圧を、他のユニットよりパワフルに出力する必要がある。

一般的には、イネーブルドスピーカーを駆動するアンプの出力を3dBほどアップさせて対処するそうだが、Signa S4は一味違う。イネーブルドスピーカーのエッジを、より振動板が動きやすいウレタン素材に変更、さらに、より強力に振動板を駆動するために磁気回路も強化。アンプの出力を上げずに、ユニットの能率をアップさせる事で、天井反射の長い経路でもリスナーに音が届くようにしている。

駆動系を進化させ、磁気回路も強化したイネーブルドスピーカー

アンプの出力UPでも解決はできるが、音質面では間違いなくユニットの能率アップの方が音が良い。まずスピーカーとして、アコースティックな部分でやれる事をやって、キチンと良い音のスピーカーを作り、それでも解決できないところだけアンプやDSPに頼る……という、ピュアオーディオのスピーカメーカーらしい考え方で作られている、と言えるだろう。

内蔵アンプはディーアンドエムが協力

これらのユニットを駆動するアンプにも、Polk Audioらしさが感じられる。デノンやマランツでお馴染み、長年アンプを開発しているグループ企業のディーアンドエムホールディングスのエンジニアに協力を要請。彼らが、Signa S4に搭載するアンプを開発している。

オーディオメーカーというと、「自分達の技術で全部作る」事にこだわり、結果として製品が高価になるパターンもあるが、Polk Audioの場合は、判断が合理的だ。アンプが得意なメーカーがあるなら、そこに任せたほうが最終的に良い音のサウンドバーが作れるだろう……と判断したわけだ。

そして、ディーアンドエムの技術者達が作り上げたのが、サウンドバーとサブウーファー合計で150Wの出力を持つ強力なアンプ部分。ピュアオーディオのノウハウを活かし、入力から出力まで最短経路を追求しているほか、アンプデバイスの発熱を冷やすためのヒートシンクも装備。振動によって“鳴き”が発生しないように、独特のデザインを採用しているのもポイントだ。

Signa S4に搭載しているアンプ基板
ヒートシンクが“鳴かない”よう、独特のデザインを施した

便利な機能として「Voice Adjust」も備えている。夜間に映画を観る時などに、小音量でもセリフなど、声を聞き取りやすくする機能だ。

こう聞くと、「声の帯域をイコライザーでいじっているんでしょ?」と思いがちだが、違う。DSPを用いて、音声入力を随時チェックしており、人間の声が入ってきた時だけ、聞こえやすく補正する。つまり、Voice AdjustをONにしていても、人の話し声ではないと判断されたシーンでは、補正をかけないため、背景の音やBGMなどに不自然さは出ないという。これだと、Voice Adjustを頻繁に使うキッカケにもなりそうだ。

音を聴いてみる

では音を聴いてみよう。

Fire TV Cube(第3世代)をHDMI接続し、Atmosの音楽を聴いてみる

映画の前にDolby Atmos形式の音楽から。Signa S4に、Fire TV Cube(第3世代)をHDMI接続。Amazon Musicから、「ダイアー・ストレイツ/哀しみのダイアリー」や「R.E.M./Drive」を聴いてみる。

哀しみのダイアリーは、響きが豊かなピアノからスタートし、そこにギターが絡み合うように進行していく。驚くべきは空間の広さで、“テレビ画面から音がはみ出る”どころではなく、部屋の左右いっぱいに音場が展開。そこからピアノの響きが、ブワッとこちらに広がってきて、自分の真横、そして後方へと音の響きに包まれる。

さらに凄いのはギターの響きで、これは上下方向に広がり、響きが上から降り注ぐ。バーチャルサラウンド系の「なんとなく上から聴こえる」という音ではなく、ハッキリと天井からギターの響きが降ってくるのがわかる。これぞイネーブルドスピーカーの効果だ。

左右の広がりだけでなく、上下からも音がやってくるので、巨大な音の空間に体をすっぽり包み込まれたような感覚だ。サウンドバー1本と、ワイヤレスサブウーファーだけで、この豊かなサラウンド空間を生み出すのは見事だ。

音場だけでなく、低域から高域までのレンジもしっかり広く、ベースが深く沈み、肉厚に迫ってくる様子や、天井に抜けていくようなピアノの高音などもしっかり表現される。音の繋がりの良さも優秀で、特定の帯域が過度に膨らんだり、キツく目立つような事もない。

ボーカルに注目すると、声の音も自然だ。サブウーファーに引っ張られて、音像が肥大化するような事もなく、画面の中央にピシッとボーカルの口が定位する。聞く機会が多い人間の声は、不自然な音だと目立ちやすいものだが、Signa S4の歌声は非常にナチュラル。音をいじって無理に出している感じはまったくなく、聴いていてホッとする心地よさがある。人の声の帯域を、1インチのフルレンジユニットでまかなう利点が実感できる。

ではソースが2chステレオの動画ではどうなるだろうか?

「ビリー・アイリッシュ/everything i wanted」の2chミュージックビデオを、Signa S4のアップミックス機能で、仮想のDolby Atmosに変換して聴いてみる。

Atmosサラウンドで作られたソースよりも“包まれ感”は少し弱くなるが、ビリー・アイリッシュの深い響きを伴った歌声が上から降り注ぎ、広大で心地良い音に身を預けるような感覚で聴くことができる。

特筆すべきは、アップミックス再生でも、音の1つ1つの描写がボワッとせず、ビリー・アイリッシュの吐息も繊細に、ダイレクト感を伴って聴こえる事だ。これはおそらく、アップミックスの性能が高いだけでなく、Signa S4が“素のスピーカー”として、高い再生能力を備えている証拠だろう。

ビリー・アイリッシュのライブ映像(2ch)もアップミックス再生してみたが、音が壁に反射せずにずっと広がっていく“広がり方”で、ライブ会場が野外である事がしっかり伝わってくる。その広大な空間に音楽が流れていくが、そのうねりの中でも、観客の歓声が鋭く微細に聴き取れた。

ではいよいよ、映画のAtmosサラウンドを体験する。「アンブロークン」から、ホームシアターのデモでよく使われる、冒頭の空爆シーン。

爆撃機の機内は「ガァアアアー!!!」というプロペラ回転音、エンジン音、機体が風を切る音がミックスされた騒音に満ちている。Signa S4はサウンドバー + サブウーファーでそれを再現するのだが、音圧豊かな中低域がパワフルに張り出し、騒音の荒々しさがリアルに描写され、本当に自分も機内にいるような気分になる。

次の瞬間、パイロットが隣の兵士の服を叩いて合図を送るのだが、こんな凄まじい騒音の中でも、「トストス」というような、服を手で軽く叩くかすかな音が、ハッキリと聴き取れる。その後も、緊張したパイロットの吐息や、爆弾を投下する照準器を操作する時の「キリキリキリ」という細かな音まで描写される。パワフルな中低域が張り出す中でも、中高域はマスキングされず、しっかりと情報量を維持している。

サウンドバーというと、DSPで音を沢山いじって“広がり感”を出すスピーカー……というイメージを持っている人もいるだろう。しかし、そのようなサウンドバーでは、こんな音は出せない。

DSPがどうこう以前に、スピーカーとしてキッチリ音の良いものを作ったあとで、“最後の仕上げ”としてDSPを使ったような、Signa S4はそんな音のサウンドバーだ。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」から、森林のシーンや、美しい海に飛び込むシーンも鑑賞したが、こちらも圧巻。鳥の声や、木の葉がこすれる細かな音、吹き抜ける風の音などで、森が広大なだけでなく、とんでもない高さを持っている事が、サウンドで表現されている。

海の中のシーンは、自由に泳ぐナヴィ達の動きが、音像の移動で表現される。面白いのは、目の前をナヴィが横切る時の「グポポ」というような水音の近さを聴きながら、同時に、その背後に限りなく広がる海の広さと、そこに満ちている海水の膨大な体積が「グォン……グォン……」という重い波の音として広がっているのが聞き分けられる事。

実際に海に潜ると、楽しいと同時に、あまりにも圧倒的に大きい水の世界に恐怖を感じるものだが、あの感覚が、映画を鑑賞しているだけで蘇ってくる。

低価格でも“真面目な音作り”が伝わるサウンドバー

Polk Audioのピュアオーディオ用スピーカーを試聴していると、偉そうな言い方だが“真面目に作っている”というのが伝わってくる。音の広がりや、解像度の高さなど、スピーカーとして基本的な性能をしっかりと追求している。

それでいて、聴いているとどこかホッとする自然さや、満足度の高い中低域のパワフルさを兼ね備えているため、多くの人が聴いて好ましいと感じる音に仕上がっている。単に“安いだけ”のスピーカーでは、人気ブランドにはなれない。

今回Signa S4をじっくり聴いて感じるのは、そうしたスピーカーの作り方が、サウンドバーにも変わらず貫かれている事だ。ピュアオーディオであれば、アンプやプレーヤーを用意しなければならないが、Signa S4であれば、テレビとHDMI接続すればすぐに使えるし、Bluetooth受信も可能なので、スマホから手軽に音楽を流す事もできる。Polk Audioのサウンドが気軽に楽しめる最初の1台としても、アリだろう。

他社のサウンドバーと比較しても、Dolby Atmosをリアルなサウンドで楽しませてくれる実力の高さは、間違いなく強力だ。それでいて、4万円台で買えるコストパフォーマンス。Polk Audioの強みを最大限に発揮しているのがSigna S4と言えるだろう。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

山崎健太郎