レビュー

ガチで“デスクトップオーディオになるDAP”誕生。FiiO「M15S」を家でも使う

M15Sをデスクトップで使ってみる

今“デスクトップオーディオ”が熱い。魅力的な製品が次々と登場し、それらを使ってみたレビュー記事のアクセス数も好調で、読者の皆さんの関心も高い。では、「デスクトップオーディオを始めよう」と考えた時に、必要なものは何かという話になるが、具体的には「パソコンから高音質でサウンドを出力するための小型USB DAC」や「机の上に置けるサイズのアクティブスピーカー」などが候補に挙がる。

では、お店やネットで買ってきて……となる前に、AV Watch読者ならばふと頭をよぎるかもしれない。「べつに据え置きのUSB DACじゃなくて、DAPでもいいのでは?」。そう、最近のポータブルDAP(デジタルオーディオプレーヤー)は、本体のストレージに大量の音楽ファイルを保存できるだけでなく、音楽配信アプリもインストールでき、膨大なクラウド上の音楽を無尽蔵に再生できる。ついでに、USB DAC機能も搭載していてPCと接続しても使える……。つまり、“DAPデスクトップオーディオの中核”として活用できるわけだ。

これならば、「外ではDAP + イヤフォンで音楽を楽しみ」、「家に帰ったらDAPとアクティブスピーカーを繋いでスピーカーサウンドを楽しむ」という、室内外でDAPをフル活用できる。そんな事を考えていたところ、DAP界の革命児といえるFiiOから「そんな事もあろうかと、こんなDAP作ったよ」と言わんばかりに、凄いDAPが登場した。

M15S

モデル名は「M15S」。最大の特徴は「第二世代DC給電」を搭載し、「デスクトップモード」が使える事だ。これはなんと、DAP内蔵バッテリーを“まったく使わず”、USB端子からの入力電源のみによってDAPを動作させるモードだという。

つまり、家で、コンセントからDAPに給電しながら使うと、内蔵バッテリーが100%まで充電されているのにさらに充電しちゃったりと、内蔵バッテリーを無駄に充放電させ、劣化が早まってしまうのを防ぐためのモードというわけだ。

要するにM15Sは、“デスクトップオーディオの中核としてバリバリ使う事をガチで考えて作られたDAP”というわけだ。実際にどんな使い方になるのか? 音質はどうなのか? さっそく使ってみよう。

2ch DAPなのに8ch分のDAC回路を搭載

音を出す前にM15Sの基本をおさらいしよう。デスクトップ、デスクトップと連呼しているが、基本はDAPだ。FiiOは、スペックと音質から考えると激安な製品が多く、そのコストパフォーマンスを武器に人気ブランドに成長した。

DAPでもそれは同じで、他社の高級DAPは御存知の通り20万、30万円は当たり前、50万を超える製品も存在するが、M15Sはハイエンドながら実売約152,900円に抑えている。とはいえ、気軽に買える値段ではない。ただ、“外で音楽を聴くだけのプレーヤーに15万円”というのと、“外でも家でも一日中使えるオーディオ機器に15万円”だと印象も変わってくる。

左側面に操作ボタン
右側面にボリュームボタンなどを備える

DAPというと、搭載しているDACチップが気になるところだが、M15SはESSのフラッグシップDACチップ「ES9038PRO」を搭載している。このDACは1つのチップに、なんと8ch分のDAC回路を搭載しており、据え置きの高級オーディオ機器で使われているものだ。それを豪快にも、2chの、しかもポータブルDAPに内蔵しているわけだ。

ESSのフラッグシップDACチップ「ES9038PRO」

2chのDAPに、あえて8ch分のDACを使う事で、DAC後段のオーディオ回路に差動信号を出力し、音質を高めている。オーディオ回路には、I/V部、ローパスフィルタ部、ゲイン調整部、ヘッドフォンアンプ部からなる、多段構成の設計を採用。回路上には高精度かつ低雑音のフィルム抵抗を使ったり、ローパスフィルターにはパナソニック製の低損失金属化フィルムコンデンサを使うなど、ハイエンド機らしく高級パーツを投入している。

また、オーディオ機器では何より“電源”が大事だが、クリーンな電源を供給するために、前述したオーディオ回路それぞれに、独立した電源を用意している。こうする事で、各回路が相互干渉してノイズが増える事を防いでいる。高級据え置きオーディオ機器によく使われる手法だが、それを小さなポータブルDAPの中でやってしまっているわけだ。

ノイズ対策は電源だけではない。アナログ段とデジタル段が相互に干渉しないようにするため、アナログオーディオ回路とSoC上に、銅ニッケル合金でシールド。さらに、グラフェンシートや電波吸収シートも使い、電磁干渉を徹底的に抑えている。

アナログオーディオ回路とSoC上に、銅ニッケル合金シールド

他にも、ジッターを抑えるために特注のNDK製フェムト・クロック水晶発振器を2基搭載したり、放熱対策としてバッテリーボックスをステンレス製にするなど、こだわりは多岐に及ぶが長くなるので割愛する。

ヘッドフォン出力は、上部に2.5mmバランス、3.5mmシングルエンド、4.4mmバランスを備える。いずれもライン出力も兼ねているほか、3.5mmシングルエンドは同軸デジタル出力端子も兼ねている。

ヘッドフォン出力は、2.5mmバランス、3.5mmシングルエンド、4.4mmバランスを備える

スマホやPCの急速充電器と接続すると“覚醒”するM15S

底部にはUSB 3.0 Type-C端子を備えているが、ここがM15S最大のポイントと言っていいだろう。

底部のUSB 3.0 Type-C端子

通常のDAPであれば、内蔵バッテリーを充電したり、パソコンとUSB接続して音楽ファイルを転送、またはUSB DACとしてパソコンの音を出力するための端子だが、M15Sではこれらに加え、「第二世代DC給電モード」でUSB-Cを活用できる。

“第二世代”と言っているので当然“第一世代”が存在するのだが、実はFiiOは以前から超高出力ヘッドフォンアンプを内蔵したトランスポータブルDAP「M17」や、そこからDAP機能を省いたようなポータブルヘッドフォンアンプ「Q7」で「DC給電モード」を採用してきた。これが“第一世代DC給電モード”だ。

これは、ポータブル機器として内蔵バッテリーからの給電で動作するのではなく、DC電源に接続することで給電方式を切り替えて、ヘッドフォンアンプの出力を強化したり、音質を高めたりする機能だ。簡単に言えば“給電方式を変える事で、据え置き機のように動作する性能重視の本気モード”に激変するイメージ。実際に、M17とQ7にはこのモードにするための外付けDCアダプターも同梱している。

そのM17やQ7のユーザーからの意見も踏まえ、第2世代に進化したDC給電モードを搭載しているのが、今回のM15Sというわけだ。

何が進化したのかというと、大きな点としては、巨大なDCアダプターを使わなくても“本気モード”に入れるようになった。その代わりとして使うのが、USB PDだ。そう、パソコンやスマホの急速充電などでお馴染み、USBで大きな電力を供給できる、あのUSB PDだ。

具体的には、QC3.0、またはPD2.0規格に対応する充電器と対応USBケーブルでM15Sと接続すれば、“本気モード”が開放される。

実際にやってみよう。普段ノートパソコンの給電に使っているUSB PD対応のAnker「PowerPort III 2-Port 65W」とM15SをUSBで接続すると、第二世代DC給電モードに切り替わり、「ウルトラハイモード」と「デスクトップモード」を有効にするか? というメニューがディスプレイに表示される。

Anker「PowerPort III 2-Port 65W」
「ウルトラハイモード」と「デスクトップモード」を有効にするか? というメニューが表示される

「ウルトラハイモード」を有効にすると、オーディオ回路への電源供給量が26.67%増加。ヘッドフォンアンプ回路の電源電圧も±7.6Vにパワーアップし、チャンネルあたり最大1,200mWまで出力がアップする(バランス出力/32Ω負荷時)。これはもう“ポータブルDAP”の域を越えており、据え置きヘッドフォンアンプのレベルだ。動作としては、ゲイン切り替えが通常Low、Medium、High、Super Highのところ、ウルトラハイモード時はその上に「Ultra High」が出現する。これが最大1,200mW出力になるモードだ。

通常はLow、Medium、High、Super Highだが
一番上にUltra Highが出現!

「デスクトップモード」は前述の通り、DAP内蔵バッテリーは一切使わず、USBからの電源供給で動作するモード。内蔵バッテリーの劣化が抑えられるので、「家でデスクトップオーディオとして毎日使っていて、久しぶりに外に持ち出したらバッテリーがヘタっていて、すぐに再生できなくなった」なんて心配がなくなるわけだ。

デスクトップモードをONにすると、急速充電器を接続しているのに、バッテリーが充電状態にならない

デスクトップモードを試してみる

実際にアクティブスピーカーと組み合わせて使ってみよう。用意したのはクリプトンの人気モデル「KS-11」だ。

クリプトンの「KS-11」

このスピーカーは、内部にUSB DDCを搭載しており、PCと直接USB接続できるのだが、アナログ入力も備えているので、純粋なアクティブスピーカーとしても使える。

M15Sには冷却ファンも備えたスタンドが同梱されているので、そのスタンドにDAPを設置。ステレオミニケーブルをイヤフォン/ライン出力に接続し、反対側をKS-11のアナログ入力に接続した。

冷却ファンも備えたスタンド
スタンドにM15Sを置いたところ
スタンドに乗せた状態でもUSB接続できるよう、スペースが設けられている

接続した状態で眺めてみると、狙ったわけではないのだが、スタンドに置いたM15Sと、KS11の背の高さがそっくり。“コンパクトなオーディオシステム”として見た目も悪くない組み合わせだ。

M15SとKS-11、並べるとなかなかカッコいい」

なお、アクティブスピーカーと接続する時は3.5mmの出力モードを「LO(ラインアウト)」にするのが基本だ。こうすると、出力が最大になり、ボリューム調整が効かなくなる。ボリュームの調整は、接続したスピーカー側で行なうわけだ。

ただ、音楽制作用のスタジオモニタースピーカーの場合は、スピーカー側にボリューム調整が無かったり、あってもスピーカーの背面にあって「調整する時にいちいち背後に手を伸ばさなきゃならなくて面倒」という事もあるだろう。その場合は利便性を優先して、M15S側の出力をPO(ヘッドフォンアウト)にして、可変出力とし、M15Sのボリュームツマミで音量を調整するのもアリだ。

M15Sのボリュームツマミで音量を調整すると便利

今回使ったKS11は、スピーカーの前面からボリューム調整できるので、M15Sはラインアウト設置とした

3.5mmヘッドフォン端子の出力モードも変更できる

M15Sは64GBのストレージメモリと、2TBまで対応するmicroSDカードスロットを備えているので、そこに音楽ファイルを転送すれば、M15S + KS-11だけでコンパクトなオーディオシステムが完成する。非常に省スペースなので、奥行きが短い机やベッドサイドなどでも置きやすいだろう。

さらにM15SはFiiOカスタム仕様のAndroid 10 OSを採用しているので、Google Playから音楽配信アプリもダウンロードでき、例えば「Amazon Music」などを使えば、ネットワーク経由で膨大な音楽を再生できる。スタンドのおかげで、M15Sの5.5型ディスプレイが操作しやすい角度に維持されているので、楽曲検索や選択もしやすい。

非常に便利なのだが、当然ながらこの状態ではM15Sの内蔵バッテリーを使っているので、バッテリー残量が減っていく。そこで、先程のUSB PDアダプターの出番。M15SとUSB接続すると、デスクトップオーディオモードをONにするかと聞かれるのでONにする。

バッテリー残量が82%の状態で、デスクトップオーディオモードONにしてAmazon Musicアプリを使って1時間ほど音楽を再生してみた。テストも兼ねているので、たまに画面を操作してディスプレイをブラックアウトしないようにしながら使っていたのだが、1時間再生し続けた状態でも、バッテリー残量は82%のまま。つまり、内蔵バッテリーが一切使われていなかった。

もし、USB給電をしないで使っていたら、おそらく10%とか20%とかもっと豪快にバッテリーが減っていただろう。逆に、“デスクトップオーディオモード”を使わずにUSB給電をし続けていたら、あっという間にバッテリーは100%まで充電されていたはずだ。これが“充電も給電もしない”デスクトップオーディオモードの効果というわけだ。

M15S + KS-11でわかるデスクトップオーディオの奥深さ

デスクトップオーディオモードは理解できた。では、「実際M15S + KS-11の音はどうなのか?」という話だが、これが「最高にイイ」。

筆者は普段、KS-11をパソコン用スピーカーとして使っており、これでAmazon Musicの音楽を聴きまくっている。つまり「USBスピーカーとしてのKS-11の音」は知り尽くしている。

気になるのは「M15S + KS-11で同じ曲を再生した時と、どっちが音がいいのか?」だ。

実は、実際に音を出す前は「違いがちゃんと出るかな?」と不安だった。というのも、KS-11はDDC(デジタル to デジタルコンバーター)とフルデジタルアンプを内蔵しており、処理した信号をデジタルアンプで増幅し、ユニットの直前までフルデジタルで伝送する事で音の鮮度を維持するという、かなり凝った製品で、ぶっちゃけ「USBスピーカーとしては最上級に音の良い製品」なのだ。M15Sにとっては強敵と言える。

では比較してみよう。「ダイアナ・クラール/月とてもなく」をPC + KS-11でしばらく聴いたあとで、M15S + KS-11に切り替えたのだが、思わず膝を打った。バッチリ違いがわかる。

「月とてもなく」は、アコースティックベースの深さや、ボーカルの生々しさが特徴の楽曲なのだが、M15S + KS-11で聴くと、ベースの低音がさらに一段深く沈み込む。ダイアナ・クラールの声の低い部分にも“凄み”が出て、「こんなにお腹の底から声を出してたんだ」と改めて気付かされる。

1分30秒あたりのボーカルの音像も、M15S + KS-11の方がクリアで生々しい。PC + KS-11では「ああ、空間の中央に口が浮かんでいるな」という印象なのだが、M15S + KS-11で聴くと、口だけでなく喉や顔まで空間に浮かんでいるかのようなリアルさで、「あ、いまちょっとだけ歌いながら上を向いたかな?」と、顔の動きまで見えるかのようだ。

2分20秒あたりからベースとピアノの掛け合いがスタートするのだが、M15S + KS-11の方が明らかにベースのキレが良く、音楽に乗りやすい。ピアノの響きが広がる空間も、横方向だけでなく、奥まで広がるようになる。そのため、M15S + KS-11で聴くと、机の上の空間が広くなったような……奥の壁が無くなったように聴こえる。

「米津玄師/KICK BACK」のようなハードな楽曲でも、M15S + KS-11の組み合わせの方が良い。低域のキレが良いため、ビートの気持ちよさが格段にアップする。音場も奥行きが広く、より立体的な空間に音楽が展開するため、コーラスやSEなど、様々な音が入り乱れても、音像と音像の距離感や、輪郭がしっかり描写されるため、ゴチャゴチャしないのだ。「この曲って、こんな音で構成されていたんだ」と、新鮮な気分で聴ける。

比較試聴に満足して、パソコンの電源を落とし、しばらくM15S + KS-11でデスクトップオーディオを楽しんでいたのだが、そこでも気づいた事がある。パソコンが起動していないので、ファンノイズが消え、部屋がとても静かになる。その静かな空間に、Amazon Musicのハイレゾ楽曲がスッと立ち上がり、音の響きが虚空に消えていく様子がより聴き取れるようになる。

当たり前といえば当たり前なのだが、「音楽を聴く時に、部屋の静かさって大事なんだ」と改めて認識する。また、パソコン画面のように“気が散る”要素が無いので、虚空に出現する音像が奏でる音楽に、より集中できる。これは趣味としてのオーディオにとって重要な事だろう。

普段はPC + KS-11で満足していたのだが、M15S + KS-11を一度体験すると「機材がグレードアップした事による音質の向上」と「静かな部屋で音楽だけを楽しむ魅力」がわかり、「デスクトップオーディオも奥が深いなぁ」と唸ってしまった。

パソコンと接続し、USB DACとしても使ってみる

「パソコンの電源落とすとイイね」とか言った直後でアレだが、M15Sはパソコンと接続すると、USB DACとしても動作する。

ただ、ここで1つ注意が。PC側のUSB端子がUSB PDに対応していない場合、第二世代DC給電モードのデスクトップモードは使えない。欲を言えば、PC接続用USB端子と別に、第二世代DC給電用のUSB-C端子も付けて欲しかったところだ。

とはいえ、PCのUSB端子がPD非対応であっても、バッテリーをむやみに充電する事態は防げる。M15Sの電源メニューに入ると、PCとUSB接続中でも充電を停止する「充電停止」ボタンと、あらかじめ指定した容量に達すると充電を停止する「バッテリー保護」が搭載されている。

「充電停止」をONにすると、PCとUSB接続していても、バッテリーが充電されない
あらかじめ指定した容量に達すると充電を停止する「バッテリー保護」機能も

つまり、デスクトップモードが使えなくても、手動で「充電停止」を選べば、PCの音をM15Sで再生しながら、M15S内蔵バッテリーは充電されない……という動作になる。こうしておけば、PC接続時にバッテリーを100%常に充電し続ける事にはならないので、劣化が防止できる。

デスクトップモードとは違い、USB DACとしての動作に内蔵バッテリーは使っているので、使っているとバッテリーは徐々に減っていく。ただ、M15Sはの内蔵バッテリーは6,200mAhと大容量で10時間以上持つので、“通勤通学で1~2時間使い、帰宅後に8時間くらいパソコンで使い、深夜に充電”みたいな使い方もアリだろう。

実は、このFiiO独自のバッテリーマネージメントシステム、M15Sに初搭載されたわけではなく、今までの「M」シリーズにもファームウェアアップデートの形で順次提供されている。デフォルトでONになっていないので、気がついていないユーザーもいるかもしれない。DAPをUSB DACとして使う時には活用したい機能だ。

話が脱線したが、PCと接続したサウンドも聴いてみよう。

音楽配信を聴くのももちろん最高だが、PCではYouTubeなどの動画も高音質で楽しめる。趣味で旅の動画を良く見るのだが、走行するバイクのエンジン音や、キャンプ場に到着した時の森の音など、見慣れた動画であってもM15Sを通して聴くと「こんな音まで入ってたんだ」と驚く場面が多い。

映画鑑賞にもイイ。Netflixで、ジェイソン・ステイサム主演のクライム・アクション「キャッシュトラック」を観たが、シリアスなBGMがM15S + KS-11ではより深く沈むため、緊張感がハンパなくアップし、鑑賞中の心拍数が上昇する。

ステイサム演じる警備員が、現金を奪おうとする強盗団と戦うシーン。お金が入った袋を放り投げると見せかけて、その下に隠し持っていた拳銃で強盗を撃つのだが、その射撃音がまるで違う。KS-11直接接続では「バキュン!」という感じの音だったのだが、M15S + KS-11で聴くと「バキッン!!」という金属質な硬い音までしっかり描写され、思わず肩がビクッとしてしまう。

デスクトップオーディオではあまり大音量で鳴らせない事が多いと思うが、控えめな音量であってもM15S + KS-11で再生すると、低域がより深く、中高域にもキレが出るため、干渉中の満足度が高まる。

ゲームの「Call of Duty Modern Warfare II」もプレイしたが、これも臨場感がすごい。深夜の森をガサゴソと移動しながら、敵の基地が見えるところまで移動するシーンや、倉庫の中で敵戦う銃撃シーンでは、足元で揺れる草の小さな音まで聴き取れる。装備する銃によって銃撃音が響きが金属質だったり、プラスチックっぽくなるなど、細かな違いまで聞き分けられる。耳から入る情報量が多くなると、ゲームの世界にもより没入できる。

鳴らしにくいヘッドフォンも余裕でドライブ

スピーカー試聴ばかりしてきたが、M15SはDAPなのでイヤフォン/ヘッドフォンでも聴いてみよう。

デスクトップオーディオの再生で、M15Sが高音質なのは体験していたが、イヤフォン/ヘッドフォンで聴くと、その情報量の多さ、色付けの少ないニュートラルなサウンド、そして圧倒的な駆動力の高さがダイレクトに味わえる。

特にヘッドフォンの駆動力は圧巻だ。手持ちのヘッドフォンの中でも鳴らしにくいフォステクスの平面駆動型「RPKIT50」(インピーダンス50Ω)を2.5mmのバランスで接続。ゲインモードLow、Medium、High、Super Highから、試しに一番下の「Low」を選んでも、フルボリューム値120のところ、110くらいで結構パワフルな低音が出て「Lowでもこんなに鳴るの!?」と驚いてしまう。

「High」にするとさらに低域のパワフルさが増し、ボリューム値90あたりで充分な音量が得られる。そこで満足せず、USB PDアダプタを接続して「Ultra High」モードを選択してみると、「おまえ、こんな低音が出せたのか」と呆気にとられるほど量感豊かな低音が出てくる。

「月とてもなく」のベースが重く、深く沈む。「ズンズン」という重低音が、頭蓋骨に杭を打ち込まれたようなパワフルさで押し寄せる。こんなにパワフルなのに低音の輪郭は膨らまず、タイトであり、硬い芯を感じる。

スピーカーでも感じた“音場の広さ”は、イヤフォンでも実感できる。「米津玄師/KICK BACK」は、楽曲の後半で突然オーケストラの演奏で、荘厳な曲調に変化するシーンがあるのだが、“音が詰め込まれた空間から、突然外に解き放たれた開放感”が、イヤフォンでもしっかり体験できる。このあたりは、ハイエンドDAPならではの描写力と言えるだろう。

ガチでデスクトップで使う事を想定したDAP

実際にDAPをデスクトップオーディオとして使ってみると、かなり“アリだ”と感じる。急速充電器とDAPとアクティブスピーカーだけあれば、リッチな音楽再生環境が完成するので、例えば「普段は書斎で使いつつ、料理する時だけキッチンに移動させる」なんてこともしやすい。据え置き型のオーディオシステムでは、この気軽さは真似できない。

キッチンや寝室など、家の中での移動も楽だ

余談だが、FiiOの製品を扱うエミライが、M15Sも含め、この“第二世代DC給電モード”を搭載した製品の内蔵バッテリーの保証期間を6カ月延長し、メーカー保証期間と合わせて合計18カ月間にすると先日発表した。

エミライによれば、FiiOのDAPがUSB DAC機能を搭載した頃から、それにマッチしたバッテリーマネージメントシステムの導入をFiiOのDAP開発責任者にリクエストし続け、その結果、前述のようにMシリーズにファームアップデートのカタチでバッテリーマネージメントシステムが導入され、100%常に充電し続けない設定が可能になった。

そして実際に、M15S登場よりも前、具体的にはM17登場あたりから、DAPをデスクトップDACとして使うユーザーの数も増加。バッテリーの劣化に関する問い合わせも増加したという。

DCモードを初搭載した「M17」

こうした流れにより、M17のような“第一世代DC給電モード”を備えた製品では、ACアダプターを接続した際に、バッテリーを充電させないモードが追加された。M15Sの“第二世代”では、巨大なACアダプターを使わずに気軽にDC給電モードが使えるようになったが、“バッテリーをいたわる”思想は踏襲・進化しており、エミライもそれを踏まえて内蔵バッテリーの保証を18カ月にしたそうだ。

M17と同じ“第一世代DC給電モード”搭載のUSB DAC内蔵ヘッドフォンアンプ「Q7」(写真上)は、USB充電のON/OFF切り替えスイッチを備えている

オーディオメーカーはどちらかというと、自分たちのこだわりを反映させた製品を作り、そこにファンが生まれるというカタチが多いが、FiiOは逆に、自身のこだわりはあえて持たず、とにかく“ユーザーからの要望を素早く製品に反映させる事”を得意とし、それをリーズナブルな価格で提供する事で世界的なブランドに成長してきた。

そのために、ネットでユーザーと直接交流したり、各国の代理店から定期的に市況の聞き取りも実施。中国市場だけでなく、特に日本市場も重視し、エミライとは頻繁にオンラインミーティングを行ない、日本のユーザーからの声や、イベントで発表した新製品の反響なども確認しているそうだ。トレンドになりつつあるデスクトップオーディオ市場に、グッとくる製品を次々と投入できているのは、FiiOが“ユーザーと近い”ブランドだからだ。

M15Sの音を聴き、バッテリーまわりの進化や使い勝手を見ていると、そんなFiiOの強みを改めて実感する。“DAPは外で音楽を楽しむもの”という常識を壊し、“家の中で音楽を楽しむ時にも主役になれるDAP”をガチで開発した。そんな真剣さが伝わる、DAPの転換点となりそうなモデルだ。

(協力:エミライ)

山崎健太郎