レビュー

限定でも万能な“白虎”、qdc驚きの新次元サウンド「WHITE TIGER」を聴く

WHITE TIGER

有線イヤフォンにおいて、最近特に活躍が目覚ましいブランドがqdcだ。個人的に、2017年に登場した「Neptune」が、低価格なのにスゲェ音が良くて驚き「これは要注目のブランドだ」と思っていたのだが、その後もヒットモデルを連発。一気に人気ブランドへと駆け上がり、入門機からハイエンドまで、ラインナップも増加した。

そんなqdcは、2022年の寅年に「TIGER」(269,980円)というハイクラスなイヤフォンを発売した。ガッツリとレビューをしたのだが、広大な音場とパワフルに張り出す音像、そして高精細なサウンドに驚かされた。

TIGER

そんな「TIGER」をベースに、“コンセプトを変えた”という新しいイヤフォンが登場した。その名も「WHITE TIGER」(ホワイトタイガー)。7月14日に発売されたばかりで、日本限定300台のリミテッドモデル。だが、価格はTIGERよりリーズナブルな198,000円だ。

“コンセプトを変えた”とはいったいどういう事なのか? あのTIGERサウンドと、WHITE TIGERは何が違うのか? さっそく聴いてみた。

デザインや素材、ケーブルコネクタに大きな違い

WHITE TIGERのケースは竹製

ではWHITE TIGERを開封しよう。ケースは竹製で、竹の匂いが漂い、高級感がある。ハンドメイド仕上げで、WHITE TIGERオリジナルのロゴマークもマーキングされている。イヤフォンと対面する前に気分を盛り上げてくれる配慮は、高級イヤフォンならではだ。

竹の蓋を開けると、持ち運びに使える布製キャリングケースと、アンバランス接続とバランス接続が切り替えられる3in1マルチプラグのパーツが目に入る。イヤフォンはキャリングケースの中だ。

ケースを開けたところ

WHITE TIGERというモデル名通り、ホワイトタイガー(白虎)の毛並みを連想させる、気品としなやかさを感じるデザイン。シンプルな色使いだが、グラデーションは豊かで奥深い。この色使いであれば、普段着だけでなく、通勤のスーツや学生服にもマッチするだろう。

WHITE TIGER

シェルの素材は樹脂製。TIGERはチタン製で、触ると金属のヒンヤリ感が指に伝わってきたが、WHITE TIGERはなめらかで刺激が少なく、さらに軽量だ。素材変更の目的は、軽量化によって耳への負担を軽くするためだそうで、実際に装着しても、確かにWHITE TIGERの方が軽くて気軽に装着できる印象。耳あたりもソフトなので、“耳穴に異物を入れている感”も少ない。これは良いポイントだ。

ユニバーサルタイプだが、多くの耳型データを保有・研究しているqdcの強みを発揮したシェル形状で、非常に耳への収まりが良い。「ユニバーサルIEMながらもカスタムIEMに匹敵するフィット感を実現した」というqdc側の説明にも頷ける。

フェイスプレートデザインには鉱石のマイカ(雲母)を使っており、唯一無二の模様が所有満足度を高めてくれる。その上に、WHITE TIGERのために新規でデザインされたオリジナルロゴを配している。筐体はホワイトだが、光の加減でキラキラ光るラメっぽい塗装がされており、奥行きも感じられる質感の高い仕上げ。気品を感じさせるイヤフォンだ。

WHITE TIGER

既発売のTIGERは、バランスドアーマチュア(BA)ドライバー×6基、EST×2基の4ウェイ、片側8ドライバー構成だったが、WHITE TIGERの構成も同じだ。ノズル部分はメタル製。ポイントは“コンセプトを変えた”というチューニングの違いにある。

ノズル部分はメタル製

周波数特性は10Hz~70kHz。入力感度は105dB SPL/mW。インピーダンスは15Ω。

カスタムIEM 2pinコネクター(0.78mm)で、ケーブルの着脱が可能。qdcというと、今までは独自のqdc 2pinコネクターだったが、他社のケーブルも使いやすいコネクターになっているのが嬉しい。

独自ではなく、カスタムIEM 2pinコネクター(0.78mm)になった

もっとも、WHITE TIGER付属ケーブルの入力プラグ部分は、アンバランス接続とバランス接続が切り替えられる3in1マルチプラグになっており、3.5mmアンバランス、2.5mmバランス、4.4mmバランスが交換できるので、購入直後からバランス駆動のサウンドも楽しめる。

入力プラグは3.5mmアンバランス、2.5mmバランス、4.4mmバランスに交換できる

ケーブルの導体には純銀と純銅が使われている。シースもWHITE TIGER用の特別なグレーカラーになっており、全体の色味が統一されている。限定モデルならではのスペシャル感だ。

ケーブルの導体には純銀と純銅が使われている
付属品一覧

音を聴いてみる

前述の通り、ユニットの構成はTIGERのBAドライバー×6基、EST×2基と共通。WHITE TIGERの違いはチューニングにある。

TIGERは「圧倒的なサウンドステージの広さ」だったが、WHITE TIGERは「音の強弱と音の定位に焦点を当てたチューニング」になっているそうだ。なんとなくイメージはわかるが、具体的にどう違うのか聴いてみよう。

まずベースとなるTIGERを、Astell&KernのプレーヤーであるA&ultima SP3000とバランス接続。「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を聴いてみる。

TIGER

TIGERのサウンドについて、詳細は以前の記事を参照して欲しいが、かなり特徴のあるサウンドだ。

「圧倒的なサウンドステージの広さ」が特徴として挙げられており、実際に聴いてみると確かに音場は広い。ただ、その広さを感じるよりも先に、ボーカルやピアノ、ベースといった音像の“近さ”が印象に残る。ミュージシャンがかなり前のめりで演奏しているというか、ステージに自分が頭を突っ込んでかぶりつきで鑑賞しているような感覚だ。

そのため、装着して音を出した瞬間は「音場が狭いのでは?」と思ってしまう。ただしばらく聴いているとそれは間違いで、ダイアナ・クラールの声が響いて奥の空間へ消えていく様子や、ベースの低域が広がっていく様子などは、遠くまで描かれているのがわかる。

つまり“広大な音場が出現するが、音像は自分に近い”というのがTIGERだ。

音像が近いため、声の力強さや、ベースの低音の張り出しなどはかなりガツンと飛んできてパワフルで気持ちが良い。ロックや打ち込み系の楽曲にマッチするだろう。総じて言うならば“気持ちの良い音がグイグイ来るイヤフォン”だ。

WHITE TIGER

ではWHITE TIGERはどう違うのか。同じA&ultima SP3000にバランス接続して「月とてもなく」を聴くと、「え、これってユニット構成は同じだよね?」と、思わず公式サイトを確認してしまったほど音が違う。

もっとも違うのは音像と自分との距離。TIGERは“かぶりつき”だったが、WHITE TIGERはミュージシャンと自分との間にしっかりと距離があり、前列からステージの音を聴いているような感覚に近くなる。さらに、ボーカルやピアノ、ベースといった個々の音像と音像との距離もしっかり感じられる。

なんというか、我先にとこちらに詰めかけて来るTIGERに対して、WHITE TIGERは一歩引いて、スッキリと横に並んだ音だ。これにより、音場が広大というイヤフォンの特徴が、WHITE TIGERの方がよりわかりやすくなった。TIGERも音場自体は広いのだが、押し寄せる音の隙間から背後をチラチラ見る感じだった。WHITE TIGERは、音像がこう広がって、その奥の空間に響きは広がっていくなぁという全体像がしっかりと見渡せる。これにより、奥行き方向もだが、横にも広大である事がわかりやすく、より開放的な気分で音楽が楽しめる。

さらに違うのは、高域と低域の出方だ。TIGERはそれらが強めで、メリハリのあるサウンドになっていたが、WHITE TIGERは全体のバランスを重視した印象。声を張り出していない時のボーカル、強く弦をはじいていない時のベースなど、普段は目立たない音、細かなニュアンスが聴き取りやすい。

特にESTの繊細かつ高解像度な描写が、TIGERよりもWHITE TIGERの方がわかりやく感じる。「音の強弱と音の定位に焦点を当てたチューニング」というのは、確かにその通りだ。

WHITE TIGER

ただ、「あらゆる面でWHITE TIGERの方が良いのか?」というと、そうではない。例えば「米津玄師/KICK BACK」のような、楽曲自体が派手で、メリハリの効いた曲の場合、ベースのゴリゴリとした荒々しさ、こちらに襲いかかってくるようなパワフルさ、切り裂くようなボーカルの激しさといった“美味しさ”はTIGERの方が上だ。聴いているとひたすら気持ちよくて、「まいったなぁ」と言いながら顔がニヤニヤしてしまう。

先程までステージに頭を突っ込んで、ミュージシャンと一緒に激しくヘッドバンギングしていたが、WHITE TIGERに切り替えると、そんな激しいステージを一歩後ろの観客席で見渡している感覚になる。かと言って“ノリの悪い音”ではない。あくまで音像との距離感の違いだ。一歩引いて全体を見渡せるWHITE TIGERで聴くと、激しく響く低域のベースラインはこんなにタイトだったんだと気付き、こんなSEが、空間のこんな場所に定位していたんだ……とい新しい発見が次々と訪れる。

「手嶌葵/明日への手紙」のようなシンプルな楽曲では、WHITE TIGERの丁寧かつバランスの良い再生能力の高さにより、声の感情表現や、余韻の美しさといった“派手さはないが、じっくりと味わう旨味”が感じ取りやすい。TIGERとは一味違うが、これもまた美味しいイヤフォンだ。

A&norma SR35で聴いてみる

ここまでは659,980円するA&ultima SP3000で聴いているが、ぶっちゃけ「DAPが凄いのでは?」という可能性もある。そこで、同じAstell&KernのDAPでもスタンダードラインの「A&norma SR35」(直販129,980円)でも聴いてみよう。

A&norma SR35

4.4mmバランス接続で「マイケル・ジャクソン/スリラー」をA&ultima SP3000で聴いたあと、すぐ同じ曲をA&norma SR35で再生。もちろんこちらも4.4mmバランス接続だ。

冒頭に轟くカミナリから、洋館のドアがギギギィーと開いていく。音が無い部分のSNの良さや、ビートの低域の沈み込みの深さ、中低域の張り出しの強さなどは、さすがにA&ultima SP3000が格の違いを見せつける。

ただ、A&norma SR35も非常にクリアな音のDAPなので、音場が広いWHITE TIGERと組み合わせると、カミナリがバシャーン!! と落ちる音の響きが広がる空間の広さ、コツコツという足音の響きが広がる空間のデカさが良くわかる。その広い空間に、ボーカルやギターだけでなく、様々なSEが散りばめられている様子も聴き取りやすい。WHITE TIGERのモニターライクで優等生な表現力の高さが、情報量の多いA&norma SR35の長所をしっかり引き出している印象だ。

“デュアルDAC”と“クアッドDAC”動作を切り替えられる

また、A&norma SR35は、DACの「CS43198」を4基、L/R独立で各2基搭載していて、再生時に“デュアルDAC”と“クアッドDAC”動作を切り替えられる「Dual/Quad DACスイッチングモード」を備えているのだが、このモードを“クアッドDAC”に切り替えると、クリアで優等生的なサウンドに、グッと熱が入り、中低域の押し出しの強さ、パワフルさがアップ。ハイクラスなDAPにも匹敵する、“美味しいサウンド”に進化する。

そうなった場合でも、WHITE TIGERは分厚い低域や、押し出しの強さをしっかり描写してみせる。組み合わせるDAPや、サウンドモードの違いを的確に、しっかりと描き分けられるのは、WHITE TIGERが非常にバランスのとれた、自然なサウンドを再生できるイヤフォンだという証拠でもある。

qdcの魅力が詰め込まれた万能イヤフォン

WHITE TIGER

“チューニング違いの限定モデル”と聴くと、個性的なイヤフォンなのかな? と思いがちだが、通常ラインナップのTIGER(269,980円)の方がやや個性的で、限定のWHITE TIGER(198,000円)の方が優等生の万能イヤフォンという違いは、ちょっとおもしろい。

さらに言えば、限定モデルの方が低価格というのもユニークだろう。そう考えると、TIGERを試聴して「ちょっと手が出ないな」と感じた人も、WHITE TIGERは一度聴いてみるべきだろう。

また、今までqdcのイヤフォンを聴いたことがないという人にも、WHITE TIGERのような万能イヤフォンはオススメしやすい。多くの人が気に入るサウンドであろうサウンドだからだ。

BAだけでなく、ESTも組み合わせて、ここまで自然かつまとまりの良いサウンドに仕上げる、qdcならではの“ユニットの使いこなしのうまさ”や“音作りのセンスの良さ”を体現しているようなモデルだ。

唯一の気になるのは、限定モデルという点。WHITE TIGERもTIGERのように通常モデルとしてラインナップして欲しいところだが、とりあえず気になる人ははやめに試聴して欲しい。

(協力:アユート)

山崎健太郎