レビュー

音が整う! 新次元の音質改善“オーディオ専用”ルータ、TOP WING「DATA ISO BOX」導入してみた

「DATA ISO BOX」

「ネットワーク分離」や「セグメント分離」というキーワードがネットワークオーディオ界隈で囁かれ始めたのは、去年の春くらいからだろうか。筆者が認識したのはもっと後になってからだったが、画期的な音質向上テクニックであることは伺い知れた。そんなネットワークオーディオにおける「オーディオ専用ルーター」を一気に身近にする注目製品として、5月30日に発売された「DATA ISO BOX」(市場想定価格55,000円前後)と、その相棒「OPT AP」(同33,000円前後)を取り上げたい。

「OPT AP」

“○○を一気に身近に……” デジャヴを覚えた方もいるだろうか。そう、トップウイングが昨年末に発売して大ヒットとなった「OPT ISO BOX」である。かの製品も“自前で揃えたら難解”で、“オーディオグレードは高価”だった光アイソレーションの世界を39,600円という低価格で実現してみせた。DATA ISO BOXとOPT APも同じくトップウイングの新製品だ。

「OPT ISO BOX」

DATA ISO BOXの概要

ネットワークオーディオの音質向上ために、ネットワークを分離する取り組みは、熟練者の間で光アイソレーションと同じく行なわれていた。市販のルーターをもう1台買ってきて、独自に設定を施し、既存のネットワーク環境に加える。追加したルーター配下に、ネットワークスイッチやNAS、ネットワークプレーヤーなどを接続する。

ただ、ルーターの設定には、ある程度専門的な知識が必要で、設定を誤ると機器が使えなかったり、ネットワーク分離が崩壊する(意味をなさない)恐れもある。そこに登場したのがオーディオ専用ルーターだ。ハイエンドクラスの製品が昨年春頃に登場して話題になっていた。

DATA ISO BOXは、ネットワークオーディオに特化した「オーディオ専用ルーター」だ。

家庭内のネットワークに混在するモバイル端末や家電などの通信を遮断し、オーディオ機器のためだけの純粋なネットワーク空間を構築。ネットワーク負荷によってネットワークオーディオ機器が発する電気的ノイズを抑制し、音質の向上と安定した動作を実現するという。外形寸法は128×86×34mm(幅×奥行き×高さ)。重量は243g。

使い方はとても簡単。既存のネットワークにDATA ISO BOXを追加し、配下にNAS(ミュージックサーバー)やネットワークプレーヤー/トランスポートなどのオーディオに関係のある機器を接続する。

ネットワークが分離されるため、スマホなどのアプリからオーディオ機器を操作する時には、別途Wi-Fiアクセスポイントが必要となる。

しかし、これも設定が簡単な専用アクセスポイントOPT APをDATA ISO BOXに接続すれば完了。ネットワークオーディオをする時だけ、既存のWi-Fiから専用アクセスポイントのWi-Fiに手動切替えすればOKだ。

DATA ISO BOXは、オーディオ専用だけあって、音質を高める工夫が随所に見られる。業務用ルーター等にも採用される信頼性の高いCPUをベースに設計を行ない、メモリにはSK hynix製の高品質DRAMを採用。

このCPUは、あえて処理能力がちょうどいい製品をチョイスし、ノイズを最小限にした結果、多少の発熱が発生する。結果、天板のヒートシンク設置に至ったそうだ。写真で見ると、天板の波打ってる2箇所がそれにあたる。

DATA ISO BOXの天板には、2箇所にヒートシンクが配置されている

ハイスペックのCPUであれば処理能力に余裕が生まれることで発熱は抑えられ、ヒートシンクは要らなくなるが、ノイズが増えるとのこと。音質を優先すれば、ヒートシンクを採用するのは自然な流れだ。また、メモリも音質に大きく影響があることから、高品質なパーツをチョイスした。

ソフトウェアはオーディオ専用ルーターとして、徹底的に最適化を図っている。「何も足さない、何も引かない」を目指し、長時間の再生や複数機器の接続でも安定して動作するという。

表側にリセットスイッチ

表側にリセットスイッチを搭載。設定を工場出荷状態にリセットできる。ちなみにDATA ISO BOXは設定画面のアクセス方法は非公開だ。DATA ISO BOXとOPT APを複数台購入するようなケースでは設定変更が必要になるため、トップウイングのサポート経由でアクセス方法を確認することになる。

ダッシュボードの中の「オーディオ」画面
ダッシュボードの「ルーター」画面

設定画面とは別に実用的なダッシュボードを用意。各種ステータスやポートごとの通信状況をチェックできる。何かトラブルがあったときに、どの通信に問題があるのか自分で確認できるのは嬉しい。

「DATA ISO BOX」の背面

裏面を見ると、DCジャックがある。ACアダプターはOPT APと共通で、12V DC/1.5Aが付属。極性を正しく挿し込めるように、ブレードの太さが異なっている。消費電流は、DATA ISO BOXが1Aで、OPT APが1.5Aだ。

付属のACアダプター

LANポートは全部で5つ。1つは、上流のルーターに接続するROUTER。1つは、専用アクセスポイントを接続するAP。残りの3つはオーディオ機器やオーディオ用途のネットワークスイッチ等を接続するAUDIO 1~3。ROUTERポートは、既存のWi-Fiルーターなどを接続する他に、同ルーター配下に接続されたネットワークスイッチに接続してもよい。筆者の環境では、Wi-Fi中継機の配下に接続しても通常動作した。

OPT APの役割は?

「OPT AP」

続いて、DATA ISO BOXとセットで導入したいOPT APを説明しよう。シンプルかつ高品位な無線アクセスポイントということで、余計な機能は搭載せず、安定した動作を売りとする。外形寸法は192×192×38mm(幅×奥行き×高さ)。重量は502g。

搭載するCPUはDATA ISO BOXと同じく、ちょうどいい処理能力のパーツを選定することで、発熱はあるものの、高性能CPUに比べてノイズを減らしたという。

なお、熱は筐体全体からも放熱するが、底板の金属製ヒートシンクから主に放出する。よって、カーペットなどの上に設置することはNGだ。平らな設置面、かつ密閉した空間でなければ、24時間季節を問わず稼働し続けても問題は無いとのこと。

底板には金属製ヒートシンク

OPT APは設定画面にアクセスして、SSIDやパスワード、暗号化方式の変更等も行なえる。安定性向上のため、自動再起動の機能も搭載。再起動周期(日数)の変更が可能だ。

設定に注意が必要なのは、LANポートのIPアドレス。「192.168.104.10」に固定されており、これがDATA ISO BOXとペアで使う上での初期設定となる。基本的に変更しないでOK。変更するとすれば、DATA ISO BOXではなく、既存のWi-Fiルーターに接続して単体で使う場合、かつOPT APの管理画面にアクセスしたいときだ。既存のWi-Fiルーターの無線機能をOPT APに担わせることでも、処理負荷軽減=音質向上が期待できる。

OPT APのLAN設定
OPT APの暗号化設定を変更

なお、DATA ISO BOXやOPT APの単品購入は、環境に応じた適切な提案が必要になる場合があるため、ネットワークオーディオに明るい特約店を利用してほしいそうだ。セット販売は、特約店以外でも購入が可能。特約店は製品ページにリストが掲載されている。

SFPポートは、OPT APとルーター間を光ケーブルで接続することを想定して搭載された。光メディアコンバーターを使うのはもちろん、SFPポートを搭載するネットワークスイッチやルーターなどが接続の対象と想定される。

OPT APはノイズに配慮したオーディオ用だが、それでもWi-Fiの電波を出す以上、ノイズ源であることは変わりない。SFPポートを活用すれば、アクセスポイント起因のノイズがケーブルを経由して直接伝わらないように出来る訳だ。

オーディオ専用のアクセスポイントというのは、おそらく初めての例であろう。オーディオ向けのルーターは存在しているが、アクセスポイントは別途購入、あるいは輸入代理店が設定済みのWi-Fi親機を付属させているのが現状だ。

価格もすごい。このネットワーク分離のためのオーディオ専用ルーターと、コントロール用のモバイル端末などを接続する専用アクセスポイント(専用Wi-Fi親機)。2台セットで、77,000円という価格を実現している。DATA ISO BOXは単品で55,000円、OPT APは単品で33,000円だ。

ルーターとアクセスポイントで8万円弱もするの!?と驚く方もいるかもしれない。しかし、オーディオ専用設計でネットワーク分離を実現する製品は、ハイエンドクラスの製品しか選択肢がなかったのも事実だ。そのお値段、ルーターのみで定価70万円台や160万円台という世界。(ハイエンド製品は、効果のほども大きく、改めて評価される動きも出ている)

それを考えると、「値段の桁が1つ足りないのでは?」と界隈で動揺が広がったのも無理はない。空前絶後の低価格でネットワーク分離を簡単に実現する。それがDATA ISO BOXなのだ。

“ネットワーク分離”によって音質向上を図れる理由

さて、試聴レビューに入る前に、なぜネットワーク分離が音質に関わるのかをちょっとだけ解説しよう。というのも、トップウイング製品ページに分かりやすく丁寧な説明があるので、「詳しくはWEBで」と言いたいくらいだが、ここでは要点をかいつまんで説明したい。

宅内のネットワークにはオーディオに関する通信以外にも、様々な通信が行ななわれている。それぞれがユニキャスト通信、マルチキャスト通信、ブロードキャスト通信だ。

ユニキャスト通信は、1:1の通信で利用され、WEBサイトの閲覧やメールの送信のほか、IoT家電がデータを送受信する定期的なやり取りでも使われる。

マルチキャスト通信は、1:複数の通信で利用され、IoT家電が「近くに対応した機器はあるか?」という呼びかけでも使われる。WEB会議でも使われている通信方式だ。

ブロードキャスト通信は、ネットワーク内の全端末に対してデータを転送する際に用いられ、端末のネットワーク初回認識など(DHCP、ARP)でも使われる。

これらの通信は、同じネットワーク上にあるオーディオ機器にも相互に届き、処理の変動が発生。同一ネットワークをまとめる基幹ルーターに負荷が掛かり、配下のオーディオ機器も影響を受けるという。

オーディオとは関係のない情報のやり取り、それに伴う処理があちこちで発生し、無駄に賑やかなネットワークでオーディオを聴いているのが普段の筆者の環境ということになるようだ。

一般的な構成を図にしたイメージ

DATA ISO BOXは、こうした余計な通信からオーディオ機器を隔離し、“静かなネットワーク”を構築。IoT家電が発する「呼びかけ(マルチキャスト)」が届かず、不要な通知や探索信号もシャットアウトしてくれる。

IoT家電が発するマルチキャストなどが届かないように、オーディオ機器向けの“静かなネットワーク”を新たに作る

だが、オーディオ機器を既存ネットワークから隔離すると、普段選曲や再生操作をしているコントロールアプリが使えなくなる。ネットワークオーディオでは重要な要素である、“同一ネットワーク内”にオーディオ機器とタブレット等のコントロール端末がいないからだ。

そのため、オーディオ機器向けの“静かなネットワーク”の中に、専用のWi-Fi親機(アクセスポイント)が必要になるわけだ。以下の図をご覧頂くとより理解もしやすい。水色のケーブルと水色の電波は、オーディオ機器が使う「同一ネットワーク」だ。赤色で記された家庭用ネットワークからの無駄な通信は、オーディオ専用ネットワークには影響を及ぼさない。

オーディオ機器向けの“静かなネットワーク”の中に、専用のアクセスポイントを設け、そこにスマホなどがアクセスする形になる

ここで、筆者は一抹の不安を覚えた。水色で描かれたネットワークは確かに理想的だが、WAN側からの通信もブロックされたら、ネットワークオーディオ機器はストリーミング再生までできないのではないか?と。

しかし、答えは“可能”だ。オーディオ機器からのインターネット接続は許可されているため、ストリーミングの試聴はもちろん、ファームウェアの更新など、インターネット接続を必要とするケースに支障は生じない。実際にQobuzの再生や、OPT APに接続した端末でインターネットの利用が出来ることを確認した。

関連してRoon ARCも利用が可能だ。Roon Serverの端末と上流のルーターに設定が必要だが、マニュアルに細かい手順が載っている。筆者も動作するかのチェックを行なったので、記事の後半で紹介する。

実際に家の環境に導入してみた

リビングのシステムで実践してみる

それでは実際のネットワーク環境に投入していこう。筆者が普段、音楽を聴くことが多いのは、リビングのAVアンプRX-V6Aを核としたネットワークオーディオだ。ケーブルテレビ会社のモデム兼ルーターはKAON製。そのLANポートからバッファローのWi-Fi親機「WNR-5400XE6」に接続されており、さらに配下のオーディオ用ネットワークスイッチ「N8」へ。N8からはAVアンプとSoundgenic(HDD版)に接続されている。ネットワーク分離したいのは、N8配下のネットワークだ。

ケーブルテレビ会社のモデム兼ルーターと、そのLANポートに接続したバッファローのWi-Fi親機「WNR-5400XE6」

ソニーのBlu-rayレコーダーや有機EL TVはN8ではなく、Wi-Fi親機に有線で接続されている。そのほかWi-Fi親機には、無線でエアコンが2台、iPhoneとiPad Proが1台ずつ、プリンターが1台が接続されている。

一番奥の部屋(防音スタジオ)にあるWi-Fi中継機経由で、PS5 ProやAVアンプ、ネットワークトランスポート、Soundgenic(SSD版)が接続されている。この他に、電源が入ればパソコンやMac、PS VitaなどがWi-Fiで接続される。

ということで、一人暮らしの我が家でもこれだけネットワーク内が騒々しい。最近は洗濯機までWi-Fiに繋がる時代だ。ご家庭によっては、もっとあってもおかしくない。

下準備として、AVアンプとN8の間に使用中のOPT ISO BOXは取り外した。DATA ISO BOXの効果をチェックする上で、いったん待機してもらう。

N8とSoundgenicの間と、N8とAVアンプの間にはLANアイソレーター「RLI-1」を1個ずつ使用してLAN経由のノイズ対策を行なう。その他、Wi-Fi親機、Soundgenic、N8のDC電源のノイズ対策を行なっている。

DATA ISO BOXとOPT APの導入手順は、丁寧な解説がマニュアルに載っている。トレースすれば、問題なく使用を開始出来た。

ポイントは、ネットワーク分離したいオーディオ機器の電源を完全に落とすことだ。AVアンプはネットワークスタンバイがONになっていると、電源オフ状態でネットワーク上に存在しているため、DATA ISO BOX配下に接続してもIPアドレスが変わらない。よって、コンセントからプラグを抜いておく必要がある。Soundgenicも背面の電源ボタンで完全にシャットダウンする。

DATA ISO BOXのROUTERポートからモデム兼ルーターの空いているLANポートに接続。同じくAPポートからOPT APに結線。同じくAUDIO1ポートからN8に結線した。DATA ISO BOXを起動して、LEDが点灯に変わったら、OPT APを起動。数分で緑点灯になって準備完了。

N8にDC電源を供給し、AVアンプをコンセントに挿して、Soundgenicの電源をオンにした。最後は、コントロール端末のiPadからOPT APのネットワーク(2.4GHz/5GHz)へ接続。Wi-Fiのパスワードはラベルに書いてある。

白状すると、電源の入れる順番を間違えて、AVアンプが見つからなかったり、Soundgenicが見つからなかったりした。説明書をよく読んで、電源を完全に落とすことに注意すれば、あとは順番通りにやればすんなり成功する。本当に簡単だ。

あえて言えば、普段のWi-Fiに戻し忘れて、他のIoT家電がアプリから見つからなかったりもした。オーディオと関係ない機器を隔離する代わりに、OPT APに接続したままだと、iPadからその機器の使用が出来なくなってしまうのだ。『OPT APから上流Wi-Fiへの戻し忘れに注意』と、『OPT APのネットワークへは端末側で自動接続をOFF』にしておくとよいだろう。

音はどう変化するのか

音を聴いていく。

あらかじめ何曲か聴いておいて、DATA ISO BOXとOPT APを接続してもう一度同じ楽曲を聴いた。Soundgenicに保存されたハイレゾのダウンロード音源を再生する。

飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラコンサート2022より「ベートーヴェン: 序曲「コリオラン」 ハ短調 Op. 62」。サウンドステージに漂っていた霧が一気に晴れて、演奏とホールの響きだけがそこに現出した。

音像もクリアで、解像感は上がり、複数の楽団がいるのだという実感が高まる。音の前後のリンギングが極めて小さく、ハイレゾらしい空間の広がりや、音像の立体感、緻密なディテールが瑞々しく蘇ってきた。最後の拍手は生の演奏会のそれである。なんだろう。この生音感。これまでの電気的・物理的な対策とはまた違った音の変化の方向性があるよう思う。

続いて、男性ボーカル。フラチナリズムのグレイテストライフから「アカイイト」。ミドルテンポのポップス。左右に定位するアコギは、解像感が上がり、アタックと余韻の描き分けが緻密に。ボーカルの芯はクッキリと、リバーブの響きはクリア。個々の音がキレイに分離し、バスドラとベース、ボーカルと言ったセンターに定位するパートもハッキリと見える。

高域の伸びも若干向上し、ローの密度も上がった。これまでNASやスイッチをオーディオ用の機器に買い換えたり、ノイズ除去や振動対策なども行なってきたが、それらと似ているようでどこか違う。全体的に音が整う! って感じだ。

JABBERLOOPのNOWより「MotherLake -2024 Ver.-」。ベース・ドラム・キーボードにメロディーを奏でるサックスとトランペットが映える穏やかなジャズバラード。

やっぱり、筆者にとっては新次元の音質改善と表現するしかない。いったい自分は何を体験しているのだろう。本当に音楽以外が何もない、演奏以外が何もないのだ。不純物が一掃され、生々しさは際立っている。試聴を忘れて、再生を途中で止められなくなる程だった。

キーボードの音の粒立ちは、実際に楽器を繋いでこの部屋でスピーカーから鳴らしているかのようだ。サックスとトランペットの音像は曇りがなくクッキリ。リバーブの余韻や広がり具合も曖昧さがなく、まだまだ知覚できていなかったミックスの本来の意図を発見出来たように感じる。後半にベースとドラムが入ってきても音場は混濁せず、カタルシスだけが増す。

Chimaのnestより「たより(弾き語りVer.)」。本人がギターを持って弾き語りした一発録りの音源だ。リアルすぎて鳥肌が立った。

アコギは、後付けのリバーブとブースのかすかな部屋鳴りと楽器自体の胴鳴り、それぞれが存在していることがスピーカーでハッキリと分かる。Chimaのボーカルは、滑らかで高純度、しかも温度感まである。

この圧倒的なリアリティは、録音音楽を楽しんでいる感覚を忘れされるほどだ。いやぁ、ネットワークオーディオ最高!

DSD 11.2MHzのSuara「キミガタメ」は、音場に余分なものが一切ないので、音楽に集中出来るし、自然と集中させられる。ボーカルのコンプレッサーは、アタックの程度や圧縮の具合など、コンプの掛かり方を緻密に描写。語尾のあとの一瞬のブレスなど、これまで気付けていなかった弱音にもハッとさせられる。本当に背景が静かだ。

一発録りの空気感をリビングのサブシステムでここまで味わえるとは。YAMAHAのRX-V6Aの本当の実力を自分はまだちゃんと聴いていなかったのだと、若干の悔しさを覚えた。

さらに手を加えていく

抜群の効果を体感して大満足の筆者は、「ありがとうございました!お疲れ様でした!」という気分になってしまったが、これは取材。満ち足りた気持ちを、オーディオ探求モードにシフトして、さらなるノイズ対策をしてみる。

DATA ISO BOXのACアダプターにFX-AUDIO-の「Petit Susie」を挿入し、DC電源ノイズ対策を実施。また、DATA ISO BOXと近接して置いていたOPT APをWi-Fi親機の辺りまで数十センチ離した。これでN8からの距離も大きく離せた。

FX-AUDIO-の「Petit Susie」

Soundgenicの音源を再生する分にはDATA ISO BOXにオーディオデータは通過しない。しかし、少し固かった音が柔らかくなって、アナログ感が増した。適度になめらかな音になって質感もアップ。長時間のリスニングでも聴き疲れが軽減しそうだ。

RX-V6AからQobuzを聴いてみると、やはりオーディオデータが通過するだけあって、効果は大きい。音場に覆っていた曇りがだいぶ晴れる。各トラックの分離も明瞭に。Petit Susieがないと耳障りとまでは言わないが、使うことで音がクリーンになった。

N8までの経路をオーディオグレードのLANケーブルに交換したり、LAN経路のノイズ対策も効果を発揮すると予想される。DATA ISO BOX配下に別途ネットワークスイッチなどを使っていても、本機にオーディオデータが通過するなら、各種ノイズ対策は検討に値する。

リビングでは最後のチェック。DATA ISO BOXとOPT ISO BOXを併用だ。様々な適用箇所があるだろうが、今回はオーディオデータの終着点、N8からAVアンプまでの経路にOPT ISO BOXを使ってみる。あらかじめ、同経路に使っているLANアイソレーターを撤去して、ノイズ対策なしの音を聴いてから、OPT ISO BOXによる音質の改善をチェックした。

ゼノブレイド2のサウンドトラックよりED主題歌「One Last You」。有機的な質感が付与され、デジタル録音らしさが緩和された。

ストリングスは優しい音色だし、ボーカルは滑らかで、息遣いまでリアルに感じられる。高域のピリつきはわずかに残っていたのが消滅している点も嬉しい。DATA ISO BOXによるソフトウェア的な対策でアナログ的な質感も付与。温度感が宿る。

OPT ISO BOXによる電気的な対策で、より純度が高まり、アナログ的な質感も付与される。これは合わせて使っていただきたい。全部揃えても12万円弱だ。もはや革命的な価格と言っていい。買って手順通り繋いで電源を入れれば、すぐ使える。必要なものは、追加のLANケーブル数本だけだ。

Roon ARCも設定してみた

Roon ARCも動作確認のみだが、設定をやってみた。同機能は、ルーターの設定が必要となるため、使っている方はある程度ネットワークの知識を持っている方が多いかと思う。筆者は、これを機会にと初めて使ってみた。

まずDATA ISO BOXがない状態で、MacにインストールしたRoon ServerからARCのテストアクセスを実施したところ、ルーターの設定をしていないのに準備完了となった。スマホのアプリからも自宅のライブラリが参照出来る。このとき、スマホのWi-Fiはオフ(モバイルデータ通信)でチェックした。

ARCのテストアクセスを実施したところ、ルーターの設定をしていないのに準備完了に

たぶん珍しい事例だろう。KAONのモデム兼ルーターの設定を見たら、ルーターのポート転送設定に「RoonMobile_broker」が自動で追加されていた。しかし、DATA ISO BOXが加わると、全部自動でという訳にはいかない。Roon Server(Mac)まではルーターが二重に存在するためだ。

話を戻してこの「RoonMobile_broker」は、ちょっとやっかいだった。DATA ISO BOXを加えて正しく説明書通りに設定しても、Roon ARCのテストアクセスが失敗してしまった。同じポート番号の転送設定が複数あるのがダメな模様だ。自動で作成された「RoonMobile_broker」の設定を削除すれば問題なく運用出来た。

ARCテストがエラーになるので、DATA ISO BOX未使用のARC用転送設定を削除したら上手くいった

筆者のような具体的なトラブルはレアとして、説明書に載っている代表的なメーカーのルーターでなくても、よく読めば設定すべき項目は分かると思う。筆者もネットワーク設定にそこまで詳しいわけではないが、説明書が懇切丁寧だったので、戸惑いながらも設定を完了できた。

自分のネットワークオーディオシステムは、まだまだ実力を発揮し切れていなかった

防音スタジオでも絶大な効果を体験

防音スタジオでは、DATA ISO BOXとOPT APのみ試したところ、やはり絶大な効果が体感出来た。とにかくモヤが晴れる、曇りが取れる。音楽だけが整った状態で目の前に現れる。ゴミゴミ感がまったくない。無駄な情報が洗いざらい消え、音楽だけに集中出来る。

とてつもなく音が変わるため、DACやネットワークプレーヤーを買い換えたような感覚に襲われた。

しかも、副作用がない。自分のネットワークオーディオシステムは、まだまだ実力を発揮し切れていなかったのだと愕然とする一方で、とても幸せな気持ちになった。やっぱりハイレゾはいい。音楽っていい。

オーディオグレードのネットワーク分離を、わずか77,000円で実現するDATA ISO BOX+OPT AP。入門機と侮れないほど確かな音質向上がある。トップウイング公式サイトでは、セット貸し出しのサービスも受付中だ。貴方の自慢のシステム。もう一段、クオリティアップしてみてはいかがだろう。

橋爪 徹

オーディオライター。音響エンジニア。2014年頃から雑誌やWEBで執筆活動を開始。実際の使用シーンをイメージできる臨場感のある記事を得意とする。エンジニアとしては、WEBラジオやネットテレビのほか、公開録音、ボイスサンプル制作なども担当。音楽制作ユニットBeagle Kickでは、総合Pとしてユニークで珍しいハイレゾ音源を発表してきた。 自宅に6.1.2chの防音シアター兼音声録音スタジオ「Studio 0.x」を構え、聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。ホームスタジオStudio 0.x WEB Site