レビュー
モジュールが分離!? 有線化もできる完全ワイヤレスAcoustune「HSX1001 JIN-迅-」が面白い
2025年3月27日 08:00
Acoustuneから登場した完全ワイヤレスイヤフォン「HSX1001 JIN-迅-」。その特徴はなんと言っても、Bluetoothを受信するワイヤレスモジュールと、音を発する音響チャンバーが分離してカスタマイズできること。
HSX1001はワイヤレスモジュール「M:01」と音響チャンバー「C:01」を組み合わせた製品となっており、今後バリエーションが増えていけば、様々な組み合わせで使えるようになっていくという挑戦的な製品。
とくにバッテリーが搭載されているのがワイヤレスモジュール側なので、バッテリーが劣化してきたらこちらだけ替えてしまえば好みの音が聴き続けられるという、ワイヤレスの欠点の解決も目指しているような設計。ただし直販価格は80,964円と、こちらも挑戦的な価格になっている。
そんな、“ガジェット”ととしての興味も惹かれるHSX1001 JIN-迅-だが、Acoustuneブランドから展開されているということは、音質面も相応に仕上がっているのだろう。今回はHSX1001 JIN-迅-に加えて、今後発売が予定されている有線化モジュール「M:02」と、真鍮ボディの音響チャンバー「C:02」の試作品も合わせてお借りし、その実力を体感。感想を先に述べてしまうと、デザインも音も非常に高いクオリティに仕上がっており、いずれ手にしたいと思わせる魅力を持った製品だ。
有線モデルでもモジュール交換式を展開するAcoustune
AV Watch読者にはご存知の人も多いと思うが、Acoustuneは有線イヤフォンでも、音に関わる音響チャンバー部分を取り替えることができる「SHO-笙-」シリーズを展開している。無印/MKII/MKIIIと3種類展開されており、それぞれ本体のカラーと付属の音響チャンバーが異なっているほか、肝となる音響チャンバーも8種類(一部限定モデルや付属のみのモデルもある)展開している。
SHOシリーズの方では、共通して10mm径ドライバーを採用しているのだが、日本製ベリリウム薄膜加工ドーム採用のミリンクスコンポジットドライバー、ミリンクスWSドライバー、ミリンクスSSドライバーの3種類の違いだけでなく、ボディの素材違いでそれぞれのチャンバーの個性が出ており、実際に音を聴いてみると、どれを手に取るか非常に悩ましいけれども確実な違いを感じられる。ちなみに各チャンバーは9万円強から、高いものでは27万円強だ。
そんな経緯もあって、HSX1001 JIN-迅-のニュースが出た際に、このSHOシリーズの音響チャンバーが使えるのか!? と思ったのだが、そういうわけではなく、全く新しい規格となっている。
ANIMA共同開発で高音質完全ワイヤレスの土台も完備
HSX1001 JIN-迅-はAcoustuneブランドとしては初となる完全ワイヤレスイヤフォン。いくら有線イヤフォンを手がけてきているとはいえ、いきなり完全ワイヤレスイヤフォンは大丈夫か? と思うかもしれないが、そこはちゃんと実績のあるANIMAブランドとの共同開発している。
しっかりLDACやaptX Adaptiveなどの高音質コーデックにも対応しているし、ANIMAのアプリ「ANIMA Studio」も使えて、完全ワイヤレスイヤフォンとしての基本性能もしっかりと押さえている。ちなみにANIMAの音声着せ替え機能「Advent Voice」にも対応しているので、好きな操作音を購入などして変更できる。
音響チャンバー側のハウジングはCNC切削加工のアルミ二ウム。イヤフォン片側約9.5gで、ワイヤレスモジュールのメカメカしい見た目も相まって重厚感がある。着脱式という要素にとどまらず、ガジェット的な格好良さを追求していそうな感じだ。ケースも長方形の箱っぽくてゴツく、SF作品に出てきそうな雰囲気を纏っている。
細部までキレッキレのC:01と響きが心地良いC:02
では気になる音を聴いてみる。いろいろなチャンバーの情報を先に挙げてしまったが、まずはHSX1001 JIN-迅-の基本となるワイヤレスモジュールM:01と、10mm径ダイナミックドライバーの“改良型第3世代ミリンクスドライバー”を搭載した、アルミニウムボディのC:01の組み合わせから。
再生してまず感じたことを一言にまとめると、解像感の高い鮮明な音。スッキリとしていて見通しが良く、アコースティック系の曲でも目が覚めるような感覚になる。完全ワイヤレスイヤフォンながら、音場も広く、頭の中だけではなく、全身が音に包み込まれているような感覚が得られる。
特に高域のキレの良さが特徴的で、女性ボーカルのロングトーンや、バイオリンの音が広がって消えていく様子がクッキリ鮮明に聴こえる。低域は量感は控えめながら、アタックと低域の“圧”がしっかり感じられるので、Jポップ系やロック系、EDM系も満足度が高い。
チャンバーを交換できるという特徴を持ちながら、音作りも妥協していないところに、SHOシリーズを展開しているAcoustuneのこだわりを感じる。価格面で見ても、一番安いモデルで20万円クラス、チャンバーのみでも約10万円からのSHOシリーズに対して、HSX1001 JIN-迅-は80,000円強という価格でこれを実現している。単体で見ると決して安い金額ではないけども。
完全ワイヤレスイヤフォンの弱点である、バッテリーの寿命も交換できてしまうという点や、仮にBluetoothのバージョンが上がっても、ワイヤレスモジュール部分の新製品が登場すれば同じ音を楽しめるとなると、この価格帯でもアリなのではと思い始めてしまう。
1点気になる部分があるとすれば、無音時のホワイトノイズ。だが、音が鳴り出せば問題ないし、静かな楽曲を聴いているときも、ふとしたタイミングで背景に少しノイズが乗っていることが気になる程度だ。
次に音響チャンバーを真鍮ボディのC:02に変更。組み替え方は簡単で、3つのネジを外して、チャンバー部分を付け替えて、再度ネジを締めるだけ。
ワイヤレスモジュール側とチャンバー側の両方にR/L表記があるため、それをチェックするか、合っていなければ噛み合わないので、噛み合う方をはめればOK。
ネジが小さいので、ふとした拍子に落としてなくしそうなところは少し怖いが、道端でモジュールが外れて落ちてしまうのも怖いので、しっかり3点で止まってくれた方が安心だ。
音を再生してみると、解像感の高く、細かい音まで聞こえる見通しの良さは変わらないのだが、こちらは音の余韻が交わって響くので、音の端までキレッキレで目が覚めるような印象があったC:01に対して、C:02は鋭かった部分が程よく削られて、柔らかい余韻に包まれてリラックスして聴ける感覚。
ウォームな感じになり過ぎているわけではなく、キレのあるクリアな傾向は変わっておらず、定位感もビシッと定まっているので、ライブ音源を再生してみるとボーカルの立ち位置が鮮明に見える。
もう少しモジュールの交換がスムーズにできるのであれば、朝出かけるときにC:01で気分をシャッキリと、帰りはC:02の少し落ち着いた音を聴きながら帰りたい。
有線モジュールM:02に切替。ケーブル&アンプによっては別物に
次にモジュールを有線化できるM:02を使ってみる。こちらも3点をネジ止めするだけなので交換方法は同じ。アンテナやバッテリーがない分、筐体側は大分スッキリする。
ケーブルは付属されていたUSB-C接続のDAC内蔵ケーブルを使用。有線にすると音がさらに明瞭になるのかなと予想しつつ音を再生してみると、なんとM:01使用時とほぼ変わらない。モジュールの交換に少し時間がかかってしまう関係で、普段のような比較はできないものの、ホワイトノイズの部分まで見事に同じ音の印象だった。
なお、貸出当時はUSB-Cケーブルが付属する予定だったが、製品発売時の付属ケーブルは3.5mmステレオミニプラグになるとのことだ。
音響チャンバーをC:02に交換しても、無線のときのC:02と同じ印象になる。これは、有線化する必要性があるのか? と一瞬考えたのだが、せっかく有線なのだからケーブルを変更しようと思い立った。
M:02のイヤフォン側端子は、「SHO-笙-」シリーズと同じPentaconn Ear。なので、一緒に借りていたケーブル「ARX500」に変更し、4.4mmバランスプラグを使って、手持ちのヘッドフォンアンプFIIO「Q7」に接続。
これで再生すると、バランス接続にしたこともあってか、開放型ヘッドフォン顔負けの音場の広さに。SNが良くなり、再生時に無音からスッと立ち上がる。音像もクッキリでボーカル曲を聴くと目の前で歌っている感じがより一層強くなる。全く別物のイヤフォンになってしまった。
少し気になっていたホワイトノイズもなくなったため、おそらくアンプ起因の現象だったのだろう。今後のワイヤレスモジュールに搭載されるアンプによって色々と変わってきそうだ。
様々なメーカーから発売されているケーブル交換できる有線イヤフォンを無線化するモジュールの場合、バッテリーやアンテナの入ったやや大きな機器を耳にかけるような形になる。
完全ワイヤレスイヤフォンにケーブルを繋げると有線化できるというものもあるが、そちらはアンテナやバッテリーが入った状態でさらにケーブルを繫ぐというものになっているが、HSX1001 JIN-迅-の場合は筐体の部分を分離しちゃえ、という構造なので、無線時も有線時も常に一番コンパクトな状態で使える。
一方で、ネジを外して分解する必要があるので、切替の手軽さの点は欲を言えばドライバー無しで交換できるようになってほしいと感じるところはある。やはり実際に使ってみると、やっぱり理想は、出かけるときはワイヤレス、家では有線をスムーズに切り替えられることだと思えてくる。筆者はけっこう堕落なので、普通に気に入ったC:02を有線モジュールのM:02で聴き続けてしまい、肝心なHSX1001 JIN-迅-の組み合わせが置いてけぼりになりかけた。
現状販売されているのはHSX1001 JIN-迅-のみ、今後の発売が決まっているのも真鍮ボディのC:02と有線モジュールのM:02と、まだまだ組み替えて楽しめる要素は少ないのだが、音響チャンバーが8種類展開されているSHOシリーズの前例があるので、今後の展開は期待できそう。
バッテリーが2、3年くらいしかもたない完全ワイヤレスイヤフォンに8万円強出すのは筆者も抵抗があるが、ひとまずHSX1001 JIN-迅-であれば有線モジュールを購入すれば使い続けられるという安心感があるので、十分アリなのではと思っている自分がいる……。今後の展開にも注目していきたい。