レビュー

Bluetoothに代わるWi-Fi接続「XPAN」対応イヤフォン「Xiaomi Buds 5 Pro」使ってみた

Xiaomi 15 UltraとXiaomi Buds 5 Pro Wi-Fi版

スマートフォンとオーディオ機器の融合によって得られる体験は、テクノロジーの進化に伴い、ますます魅力を増している。その実例が、3月に発売されたXiaomiの最新スマホ「Xiaomi 15 Ultra」と、完全ワイヤレスイヤフォン「Xiaomi Buds 5 Pro」を組み合わせた新しいオーディオ体験「XPAN」だ。

2025年4月時点では、この組み合わせでのみワイヤレスイヤフォンの革命とも言えるクアルコムのXPAN技術が使用可能だ。XPANとは従来のワイヤレスイヤフォンの常識だったBluetoothをWi-Fiに置き換え、最大192kHzのロスレス伝送やホームネットワークの使用による通信範囲の拡大を可能とするもの。

ただし、現状では96kHzまでの伝送およびスマホとの直接接続に制限されており、Xiaomiでの発表を見る限り、これらの製品もそれに準じたスペックとなっているようだ。XPAN技術の詳細と現状については、先に解説記事を書いているので参照いただきたい。本記事では、実際の製品を使って体験してみる。

XPAN体験に必要なXiaomi 15 UltraとXiaomi Buds 5 ProWi-Fi版

まずそれぞれの機種について簡単に解説する。

Xiaomi 15 UltraはSnapdragon 8 Eliteを搭載、優れたカメラ性能を持つXiaomiのスマートフォン最新フラッグシップだ。

本体は丸みを帯びたエッジデザインを採用している。手元のiPhone 15 Pro Maxと比べるとやや大きいものの、大きさに比べて軽量で、丸みを帯びたエッジにより持ちやすく操作性も良好だ。

Xiaomi 15 Ultraエッジの丸み

本機の特徴はカメラ性能の高さにあり、標準カメラの1インチセンサーのみでなく、望遠側にも大型センサーを搭載している点がポイントだ。試用機のデザインは銀色と黒のツートンカラーで、これは往年のライカを彷彿とさせる。

Xiaomi 15 Ultraのカメラ部

カメラ業界では銀色を「シロ」と呼ぶので、この配色は「パンダ」と呼ばれる。筆者はフィルム時代にはM6やR6.2を使っていたライカユーザーでもあったので懐かしいカラーリングだ。テストがてら撮影もしてみたが、ライカらしい写りかどうかはさておき、落ち着いた描写で画質もとても良いスマホである。

Xiaomi 15 Ultraのライカオーセンティックモードで撮影した写真
ライカHCモノクロモードで撮影した写真
ビンテージのライカ製フィルムケースと並べて撮影した

Xiaomi Buds 5 Proは最新のANC搭載ワイヤレスイヤフォンだ。特徴としてはXPANを可能とするWi-Fi機能を搭載する他にドライバー構成も凝っている。11mmのデュアルマグネット型ダイナミックドライバー、平面型ドライバー、セラミックツイーターの3種類を搭載、それらをデュアルアンプで駆動している。

Xiaomi Buds 5 Pro Wi-Fi版

製品にはBluetoothのみの通常版(実売約24,980円)と、XPAN機能を使用できるWi-Fi版(実売約27,980円)がある。今回は比較のため両方とも使用した。借りたモデルは通常版がホワイト、Wi-Fi版がブラックである。どちらもデザインは同じだが、Wi-Fiは充電ケースのカバー部分が透明で、中のイヤフォンが外から見える。

Xiaomi Buds 5 Pro、左からBluetooth版、Wi-Fi版
Wi-Fiは充電ケースのカバー部分が透明で、中のイヤフォンが外から見える

Bluetoothイヤフォンとして実力をチェック

続いてXiaomi Buds 5 Proの試聴機を使用したインプレッションを紹介していく。

Xiaomi Buds 5 Pro Wi-Fi版

本体形状はスティック形式で、マルチドライバーの搭載を反映して少し大きめだ。イヤフォンのノズル部分は楕円形で、イヤーチップも楕円形だ。これは人間の耳の外耳道が楕円形であり、この形状が最適であるからだ。本体は少し大きめではあるが装着感は良い。

Xiaomi Buds 5 Pro Wi-Fi版
ノズルもイヤーチップも楕円形

はじめに一般的なBluetooth接続でイヤフォンの音を確かめてみた。試聴のためXiaomi 15 UltraにストリーミングアプリとしてApple Music、高品質再生アプリとしてNeutron Playerをインストールして音楽を再生した。

Apple Music再生画面
Neutron Player再生画面

Xiaomi Buds 5 Proの音質は良好だ。端的に言うと低域が豊かで中高音域がシャープなコンシューマ向けのサウンドだが、全体の音が自然で、うまくチューニングされていると感じた。

ヘルゲリエン・トリオの「take five」ではドラムの打撃感が鋭く、バスドラからハイハットまでクリアでシャープだ。本機はセラミックツィーターを使用しているが、シャープな音質ながらハイハットに硬さが少なく好印象を与える。

低音は深く量感もあるのでメタルでも楽しめるが、一方で低音が多めなのでボーカルは埋もれがちとなっている。そのためボーカル曲でバックバンドが強いと、声が少し埋もれがちになるので多少物足りなさを感じる。

楽器音や声質は自然に感じられるので、ここでもチューニングの巧みさを感じる。ハーマンとの協業が効いているのかもしれない。音場の広さは標準的なレベルだ。

全体に低音が強めで支配的なところはあるが、自然なチューニングで刺激的な音は少なく楽器音のシャープさがよく感じられる点は好印象だ。価格的には十分見合う音質だろう。

また、本機は音質が使用コーデックでかなり変わるので、まずイヤフォン設定画面からコーデックの設定をした方が良い。またそれが分かりやすいほどに音質も優れている。

クラシックBluetooth(LE Audioを使わない場合)の時にはベストな選択は音質を考えるとaptX Adaptiveの96kHzである。これはクラシックでもJ-POPでも同じだ。情報量が豊富に感じられてアコースティック楽器の厚みや豊かさがよく表現でき、歌詞が聴き取りやすくなりファルセットの伸びも気持ちが良い。ただしAACでも悪くはないので電池の持ちを優先したい場合にはAACが良いだろう。

ANCの効きは非常に強力だ。一番強いディープ設定では耳が詰まるほど強力で、電車の騒音を抑える一方で車内アナウンスが聞き取りにくくなる。GoogleのPixel Buds Proにも似ていて、あまり日本の通勤事情は考慮されてないように感じた。外音取り込みは自然だが、設定に関わらず音声の取り込みがやや弱いように感じた。

XPAN機能を試す

次に今回のメインであるXPAN機能(Wi-Fi機能)について確認していく。

まずXPANとは端的に言えばこれまでワイヤレスイヤフォンの主流だったBluetoothをWi-Fiに置き換えたものだ(ただし依然としてBluetoothも併用されていることは後述する)。

ユーザーから見たメリットはまず音質の向上だ。イヤフォンとスマホが直接Wi-Fiで接続されることにより、より多いデータ量の伝送が可能となる。それにより将来的には最大で192kHzのロスレス伝送も可能になる。

またWi-Fiなのでアクセスポイント経由のホームネットワークへの範囲の拡張が可能となる。さらに将来的にはインターネットにイヤフォンが直接接続されることも視野に入れられている。

これまでワイヤレスイヤフォンでWi-Fiが使われてこなかったのは、電力消費が高いという要因があったからだ。しかしクアルコムではそれを低電力Wi-Fiを開発したことにより克服し、XPANが可能となった。クアルコムの独自技術なので当然iPhoneには適用されない。

なお別掲の説明会記事にもあるように、現状では伝送レートは最大96kHzに制限され、まだアクセスポイント経由での接続はできないようだ。Xiaomiの機器ではそれが反映されたスペックとなっているが、今後のファームウエアのアップデートにより進化するかもしれない。

イヤフォン接続時の画面
イヤフォン設定画面、Wi-Fi版
イヤフォン設定画面、Bluetooth版

XPANの設定はBluetooth設定項目で行なう。イヤフォン設定画面の項目に「Wi-Fiモード」があるので、それをオンにするとXPAN機能が起動する。オンにするとWi-Fiモードが「接続済み(LE)」と変化する。ただしWi-FiなのにLEとも併記されるのはいささか不思議だ。

Wi-Fiモードをオンにした後に「接続済み(LE)」と出る

Xiaomiに問い合わせたところ、Wi-Fi での経路はオーディオデータの伝送に使用されるが、イヤフォンとスマートフォン間のプロトコル通信は依然としてBluetooth LEを介して行なわれ、LE Audio接続も同時に確立されるためとの回答だった。

実際に設定を戻って確認すると、はじめにオフにしていたLE Audio機能が自動的にオンとなっている。これがXPANはWi-Fiであるが、依然としてBluetoothも併用されていると言う点だ。このためLE Audio機能をオフにするとXPAN自体が使用できなくなる。試しに、「Wi-Fiモード」をオンにしている状態で、LE Audioをオフにすると「Wi-Fiモード」が解除されてオフになる。

つまりXPANというのはWi-FiではあるがBluetoothも併用されているということだ。これはさきの説明会の解説とも合致する。

Wi-Fiモード設定画面

もう一つの注目点は「Wi-Fiモード」をオンにして接続を確立した後にいったん画面を前に戻ると、接続されているコーデックが「aptX Adaptive R4」と表示されているということだ。

ちなみに(クラシック)BluetoothモードでaptX Adaptiveのコーデックを選択しても単に「aptX Adaptive」と表示されるだけだ。つまりXPANでは「aptX Adaptive R4」という通常のaptX Adaptiveとは異なるコーデックが用いられていることになる。

aptX Adaptive R4の表示
クラシックBluetoothモードでは、aptX Adaptiveだけの表示

XPANでの使用コーデックにaptX Adaptiveが使用されているというのは先の説明会での情報を裏付けるものだが、「R4」というリビジョン(改修)番号が付加されるのは興味深い。aptX Adaptiveのリビジョンについては、これまで96kHz対応のR2.0またはR2.1までは知られているが、R4というリビジョン番号は一般に知られていない。おそらくWi-Fiでデータ伝送するために改修されたaptX Adaptiveコーデックなのだろう。

XPANとBluetooth接続を聴き比べる

次に実際にXiaomi Buds 5 ProのWi-Fi版と通常のBluetooth版を比較しながらXPANを聴き比べてみる。

Wi-Fiモード(XPAN)のWi-Fi版Buds 5 Proと、aptX Adaptiveコーデックに設定した通常版Buds 5 Proを比較すると、Wi-Fi版の方が音が重く豊かで厚みがあるように思える。やはりWi-Fiモードでの方が音質は高いと感じた。

念のためWi-Fiモードをオフにした状態で、Wi-Fi版Buds 5 Proと通常版Buds 5 Proも比較したが、音質はほとんど変わらない。

Wi-Fiモード(XPAN)のWi-Fi版Buds 5 Proと、AACに設定した通常版Buds 5 Proを比較すると、やはりさきほどよりも音質の差はかなり大きくなる。AACに設定した通常版Buds 5 Proの音はかなり薄く軽く感じられてしまう

またWi-Fi版Buds 5 Proで伝送方式による接続性の違いについても試してみた。

スマホを置いたテーブルを離れて10mほど歩き、トイレに入ってドアを閉めるというテストをしてみると、クラシックBluetoothモードでは音が途切れて再生停止した。Wi-Fiモードでは多少ノイズがあるが再生はできた。LE Audioモード(Bluetooth LE)では音がほとんど途切れない。

完璧なテストではないが、さきの説明会の通りの接続安定性の順番になっているのは興味深い。このことがXPANでBluetooth LEを併用する理由の一つであろうと考察できる。

イヤフォンとして高い実力、迷ったらWi-Fi版がオススメ

最後に簡単にまとめるとXiaomi Buds 5 ProはANCが強力であり、音質も価格的に悪くない。音の傾向から見て、アニソンよりもロックやメタルなどのジャンルに向いているイヤフォンと言える。全体的な音質は上質なので、それなりにオーディオにこだわりがあるユーザーでも納得できるだろう。Wi-Fi版か通常版かを迷っている方に対しては、3,000円ほどの価格差なので音質にこだわりがあるのならばWi-Fi版をお勧めする。

Wi-FiとBluetooth LEを巧みに統合したXPANは音質の向上と接続性の拡張を実現し、オーディオにこだわるユーザーにとって魅力的な選択肢と言えるだろう。ただし、現状では伝送レートや接続範囲に制限があるため、そのポテンシャルを活かし切れているわけではない。今後のファームウェアアップデートによる進化にも期待が寄せられる。今後の発展次第ではスマートフォンとオーディオ機器の融合によって得られる体験をさらに魅力的なものにするだろう。

佐々木喜洋

テクニカルライター。オーディオライター。得意ジャンルはポータブルオーディオ、ヘッドフォン、イヤフォン、PCオーディオなど。海外情報や技術的な記事を得意とする。 アメリカ居住経験があり、海外との交流が広い。IT分野ではプログラマでもあり、第一種情報処理技術者の国家資格を有する。 ポータブルオーディオやヘッドフォンオーディオの分野では早くから情報発信をしており、HeadFiのメンバーでもある。個人ブログ「Music To Go」主催。http://vaiopocket.seesaa.net