レビュー

アンカー、ながら聴きイヤカフ型でも大口径ユニットでHi-Fiサウンド「AeroClip」を聴く

「Soundcore AeroClip」

耳穴を完全に塞がない、いわゆる“ながら聴き”イヤフォン。登場当初は、珍しいイヤフォンとして話題だったが、最近ではすっかりお馴染みのものになり、音質や機能、コスパで各社が切磋琢磨する状況になっている。そんな“ながら聴き”イヤフォンの成熟を感じさせる新モデルが、アンカーから先月発売された「Soundcore AeroClip」(17,990円)だ。

アンカーの“ながら聴き”イヤフォンには大きく分けて、耳掛け型とイヤカフ型の2種類があり、「AeroClip」はイヤカフ型となる。イヤカフ型では既に、「Soundcore C30i」(7,990円)、「Soundcore C40i」(12,990円)の2モデルが展開されており、AeroClipはこれらの上位機種になる。

それぞれの特徴としては、身近なエントリーモデルの「C30i」、パワフルなサウンドでハイレゾ非対応の「C40i」、さらに音質にこだわり、高音質コーデックのLDACにも対応したのが「AeroClip」となる。

さっそくAeroClipを借りたので、気になるその音質を体験してみた。

イヤカフ型に、12mmの大口径ドライバー搭載

前述の通り、形状は耳に挟むイヤカフ型だ。耳掛け型と比べると、メガネやサングラスと干渉しにくい利点がある。

ヘッドフォンを指先サイズにしたような形状で、左右の黒い部分をつまんで少し力を入れると、ブリッジ部分が開くようになっている。これで耳を挟むわけだ。

ブリッジ部分を上から見たところ
このように開いて、耳を挟んで固定する

このブリッジには、0.5mmの形状記憶チタンワイヤーと柔軟なTPU素材を使うことで、固定力を保持しながら、耳への負担を軽減している。実際に装着すると、“耳に何かが挟まっている感”はあるが、挟む力が強すぎて痛い事はなく、イヤフォン自体も約5.9gと軽量なので、不快感は無い。

それよりも、しっかり耳を挟んで固定されているので、首を激しく振ってもまったく外れない安定感がある。カナル型イヤフォンは落下が怖いという人には、この安心感は嬉しいだろう。

なお、イヤーピースは存在しないが、フィット感を調整するための2種類のイヤーカフキャップも同梱している。違和感がある場合は、このキャップを被せてみよう。

2種類のイヤーカフキャップも同梱

イヤフォンで大切なユニットは、イヤカフ型ながら、12mmと大口径のダイナミックドライバーを搭載している。一見すると、どこに入っているかわからないが、ブリッジにぶら下がる2つの黒い玉の、装着した時に耳穴の方に来る玉の中に入っている。

一瞬「穴がないのに、どこから音が出てるんだ!?」と不思議に思ったが、よく見ると、黒い玉の側面にスリット状の穴があり、そこにメッシュのガードが配置され、そこから音が出ている。装着すると、このスリットが耳穴の方向に向くわけだ。音漏れを防ぐため、指向性音響技術も採用しているそうだ。

メッシュの部分から音が出ている
ブリッジの根本にもスリットがある。これもベントだろう

対応コーデックはSBC、AACに加え、LDACにも対応している。また、マルチポイント接続も利用可能だ。4つのマイクとAIノイズ低減機能も搭載し、クリアな通話もできるという。

通常のTWSと同じように、充電ケースが付属しており、音楽再生時間は、イヤフォン単体で約8時間。充電ケース込みで最大32時間とロングバッテリーなのも嬉しい。

充電ケース

音を聴いてみる

「大口径ドライバーを搭載しているけど、イヤカフ型だから、そこまで低音は出ないのでは……」と思いつつ、Pixel 9 Pro XLとLDACで接続。Amazon Musicから「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生。30秒あたりからアコースティックベースが入ってくるが、肉厚で重厚な低音で驚く。

イヤカフ型なので、音楽が広がる空間は圧倒的に広く、閉塞感は一切ない。しかし、それゆえ低音が抜けてしまい、スカスカした音になる……というのが、今までのイヤカフ型の傾向だったが、AeroClipのサウンドはその予想を見事に裏切ってくれる。

開放的な音の広がりと、ベースの「グォン」と量感のある低音が両立できている。さらに、ボーカルの中高域も明瞭。決して低域が派手なだけのサウンドではない。全体でバランスのとれた、Hi-Fiなイヤカフ型になっている。

もちろん、カナル型やヘッドフォンのように、地鳴りのような低音は出ない。しかし、「イヤカフ型=高域寄りの音」という従来のイメージを覆す低音になっており、それによってバランスの良い、しっかりと音楽を楽しめる音質になっている。

「米津玄師/KICK BACK」のベースやドラムも、切り込むような鋭さと迫力があり、音楽の疾走感をしっかり伝えてくれる。

「米津玄師/Plazma」も聴いてみたが、開放的な音場に、冒頭のSEやコーラスが気持ち良く広がっていく。まるで宇宙空間に散らばった星がきらめくようだ。屋外でライブ録音された楽曲なども、AeroClipとマッチしやすいだろう。

音楽だけでなく、映画やアニメなどの鑑賞にもマッチする。

「Plazma」繋がりで、「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」の第1話も鑑賞してみたが、赤いガンダムとのバトルシーンでも、オープン型で開放感があるので、宇宙空間の広さが音で伝わってくる。バトル中の爆発の低音も迫力タップリに聴かせてくれ、ちょっとしたホームシアター感が味わえる。装着している時のストレスも少ないので、長時間の映画鑑賞やゲームプレイ用のイヤフォンとしても良いだろう。

音楽が楽しめるイヤカフ型イヤフォン

「Soundcore AeroClip」

今までのながら聴きイヤフォンは、耳を塞がないので、「家でリモートワーク中に、チャイムに気がつく」とか「外でウォーキング中に、車の接近がわかって安心」など、“生活を便利にするツール”としての側面が注目され、音質についてはある程度の妥協が必要だった。

しかし、AeroClipは本格的な中低域の再生を可能とし、全体的にバランスの良いサウンドを再生できる事から、「普段の音楽鑑賞にも使えるイヤフォン」に仕上がっている。

ながら聴き用途はもちろんだが、それだけでなく、カナル型イヤフォンの閉塞感や、耳にイヤーピースを詰め込む感覚が苦手な人が、音楽を楽しむイヤフォンとして選ぶにもピッタリだろう。

山崎健太郎