レビュー

カッコ良くて高音質、おまけにマニアック? OPPOのポタアン&平面駆動ヘッドフォンを聴く

 登場した当時は「わざわざアンプを持ち歩くなんて」という、“キワモノ”的な目で見られたポータブルヘッドフォンアンプ。しかし、屋外で少しでも良い音を楽しみたいというイヤフォン/ヘッドフォン市場の盛り上がりに伴い、ポータブルアンプも安いものなら数千円、上は10万円以上まで、バリエーションも多彩に。オーディオファンにとってはすっかりお馴染みの製品になりつつある。

 ……なりつつはあるが、まだ、誰しもがスマートフォンやポータブルオーディオプレーヤーにポータブルアンプを接続して持ち歩いているわけではない。存在を知ってはいるし、興味はあっても、「あんなに大きな黒い箱を持ち歩くのは面倒そうだ。スマートじゃない」と食指が動かない人も多いだろう。

USB DAC内蔵ポータブルヘッドフォンアンプ「HA-2」、ポータブルヘッドフォン「PM-3」

 そんな中、一見するとポータブルアンプに見えないほどカッコイイ製品が登場した。OPPOから3月に発売された「HA-2」だ。特徴は一目瞭然、“薄い”事。金属筐体にはブックカバーのような革のパーツも取り付けられており、知らない人が見たらアンプだとわからないだろう。ジャケットの内ポケットから取り出し、喫茶店のテーブルのノートPCと共に置いたりなんかしたら、“絵になる”アンプだ。

実際に喫茶店で使ってみたところ

 このアンプと共に、シンプルでシックなデザインのポータブルヘッドフォン「PM-3」も登場した。価格はどちらもオープンプライスで、店頭予想価格はHA-2が39,000円前後、PM-3が55,000円前後。PM-3はブラックとホワイトのカラーバリエーションを用意している。

 外観や薄さの話だけでは、アンプもヘッドフォンも“デザイン重視”で“音や機能は二の次なのでは?”と思われるかもしれない。しかしこの2機種がユニークなのは、カッコイイのに“やたらとマニアック”な点だ。

 なお、2004年に設立されたOPPOは、米カリフォルニア州のマウンテンビュー(シリコンバレー)を本拠地としているメーカー。もともと、他社へのBDプレーヤーやBD再生メカのOEM供給などを行なっており、そこで技術力を高め、低価格ながらクオリティの高いBDプレーヤーを自社ブランドで発売。ESSのDACを搭載し、アシンクロナス伝送に対応したUSB DACも搭載した「BDP-105」などで、人気ブランドの仲間入りを果たしたのはAVファンにはお馴染みだろう。2014年にはUSB DAC付きヘッドフォンアンプ「HA-1」とヘッドフォン「PM-1」でヘッドフォン市場にも参入。今回のHA-2とPM-3でポータブルにも展開するという流れだ。

アンプに見えないアンプ「HA-2」

 まずはポータブルアンプ「HA-2」から見ていこう。特筆すべきは12mmという薄さ。外形寸法は157×68×12mm(縦×横×厚さ)、重量は175gで、イメージとしては5インチディスプレイのスマートフォンを一回り小さくした感じだ。

ポータブルアンプ「HA-2」
薄さ12mm
スマートフォンのXperia Z1(右)と並べたところ

 筐体はアルミ製で、触るとひんやりと冷たくて高級感がある。だが、大部分が本革製のカバーで覆われているので、手に持った時に“冷たい”とは感じない。革が柔らかくてしっくりと馴染み、薄さも相まって非常に持ちやすい。重ねたプレーヤーやスマホを傷つけない役割もある。通常の箱型ポータブルアンプの場合は、「掴む」とか「持つ」という感じだが、HA-2の場合は薄いので「つまむ」感覚だ。

 これだけ薄いと、スマートフォンやウォークマンと重ねてもまったく持ち歩きが苦にならない。ジャケットの胸ポケットに、2つの機器が楽に入り、外から見てもポケットが出っ張らない。ポータブルアンプ利用者には、プレーヤーとポタアンを一緒に収納でき、腰などにぶら下げるポーチを使う人が多いが、HA-2の場合はあまり深く考えず、上着のポケットに突っ込めるのが何よりの強みだ。

iPhone 6と重ねたところ
革製のパーツで保護しているので、重ねた機器を傷つけない

 デザイン的には、上部にボリュームつまみを備えているのも特徴。回すと電源がONになり、そのまま回していく事でボリュームがアップする。金属製のつまみはひんやりと冷たく、電源がONになった時の「カチッ」という音や、つまみの回転の滑らかさは高精度で気持ちが良い。時計の竜頭を回しているような気分だ。

上部にボリュームつまみを装備

 なお、音量コントロールはDACチップ内蔵の32bitデジタルボリュームと、ボリュームノブによる精密アナログポテンショメーターの組合せで制御しているそうだ。

 上部にはステレオミニのヘッドフォン出力、アナログ入力が各1系統。底部にはデジタル入力として、USB A、マイクロUSB Bが各1系統あり、上部のアナログ入力も含め、入力系統を選択するスライドスイッチも備えている。

上部にはステレオミニのヘッドフォン出力とアナログ入力
底部にはデジタル入力として、USB A、マイクロUSB Bを各1系統備えている

 デジタル接続可能な機器はiPhoneなどのiOS機器、Android、PCだ。注目すべきはiOS機器、AppleのMFi認証を取得しており、カメラコネクションキットを使わず、付属のLightningケーブルを使ってダイレクトに接続できる。もちろん、「HF Player」などのアプリを使えば、ハイレゾ楽曲の伝送・再生も可能だ。追加の変換ケーブルが不要で、薄型デザインや可搬性の良さというHA-2の利点を損ねていないのは嬉しい。

製品付属のケーブル
アンプ付属のLightningケーブルだけで接続可能
「HF Player」を使い、DSDファイルを再生しているところ

 Android端末の場合は、USB OTG(USB On-The-Go)機能、USB Audio Class 2.0をサポートするAndroidデバイスと接続できる。こちらもハイレゾ再生対応アプリと連携できる。また、Android端末で本体のみでデジタル出力が可能な機器は、Android 5.0採用端末、ソニーのXperia Z3/Z3C SO-01G/02Gなど、サムスンのGalaxy Note Edge SC-01Gなど、富士通のArrows NX F-02Gなどだ。

 ウォークマンのWM-ZX/F880/A10シリーズでは、別売のソニー製専用ケーブル「WMC-NWH10」を介する事でデジタル接続が可能になる。

Androidスマートフォン(Xperia)とも接続。「USB Audio Player PRO」でハイレゾデータの再生も確認
ウォークマンと接続する際は、別売のソニー製専用ケーブル「WMC-NWH10」を使うとハイレゾデータの転送が可能

 据置型BDプレーヤーの印象で「OPPOと言えばESSのDAC」というイメージがあるが、HA-2でもやはりESSのDACを搭載している。型番は「ES9018K2M」だ。据置型のDAC/ヘッドフォンアンプ「HA-1」にも搭載されている「ES9018S」をモバイル用にチューンしたバージョン。「HA-1」のポータブル版として「HA-2」が開発された事を伺わせる。

 DSDは11.2MHz、PCMは384kHz/32bitまでのデータに対応。DACの機能面で不足を感じるところはほぼ無いだろう。

 ヘッドフォンアンプ部には、ICとディスクリート部品のトランジスタで構成されたAB級アンプを採用。出力段もディスクリート構成で、マッチドペアの選別品を使用するなど、マニアックな構成だ。最大出力は300mW(16Ω)、220mW(32Ω)、30mW(300Ω)。推奨ヘッドフォンインピーダンスは16~300Ωと、薄型だから非力という事は無い。

側面にゲイン切り替えやバスブースト機能のスイッチがある

 バスブースト機能も備えているが、これをディスクリート構成の完全アナログ回路で処理している。これにより、バスブースト利用時も高い音質を実現しているとのこと。ゲインもハイ/ローの2つから選択でき、ハイモードでは16Ω負荷で最大300mWを供給できる。また、ローゲインモードでは高感度なイヤホン、カスタムイヤモニターなどを想定してチューニングしたとのことだ。

 バッテリは3,000mAhのリチウムポリマーバッテリを搭載。USBデジタル入力では約7時間、アナログ入力では約13時間の利用が可能。充電所要時間は約1時間半だ。また、ユニークな機能として30分で70%までの充電ができる「ラピッド・チャージ」を搭載。「朝の通勤通学時に使おうと思っていたのにバッテリが無い!」という時でも、朝ごはんを食べながら充電すれば十分使えるだろう。

 さらに、HA-2のバッテリから、スマートフォンなどを“おすそわけ充電”も可能だ。薄い製品なので、ぶっちゃけヘッドフォンを使わない日でも、モバイルバッテリとしてポケットやカバンに常備していても邪魔にはならないだろう。

バッテリ残量を緑のLEDでお知らせしてくれる。その下のボタンは“おすそわけ充電”用だ

一見シンプルだが、中はマニアックなヘッドフォン「PM-3」

 見た目のインパクトで「HA-2」が目立つのだが、個人的には「PM-3」も「おおっ!」と身を乗り出すタイプの注目ヘッドフォンだ。

OPPO初のポータブルヘッドフォン「PM-3」

 ポイントは、内部のユニットが平面磁界駆動方式である事。一般的なダイナミック型ユニットは、お椀のような形の振動板が、前後に動いて音を出すが、平面磁界駆動方式では平らな振動板になる。

 PM-3の振動板は、7層ポリマー構造。この振動板の両面に、渦巻き模様のようにアルミ導体がエッチングされており、それを磁気回路でサンドイッチして駆動する……という仕組みだ。普通のユニットでは、振動板の全体が均一に動かず、分割振動して周波数特性が悪化するが、平面磁界駆動方式では振動板全体で均質な振動ができるため、低音から高音までフラットな周波数特性が実現できるとされている。また、両面に駆動コイルを搭載することで、強力な駆動力と応答性を実現している。

左が一般的なユニット、右が平面型ユニット
平面磁界駆動方式のユニットには、渦巻き模様のようにアルミ導体がエッチングされている

 OPPOはこれまでも、PM-1、PM-2として平面振動板ヘッドフォンを発売しているが、いずれも開放型だった。PM-3は密閉型となり、なおかつ小型化。外でも使えるポータブルヘッドフォンになったのが特徴だ。ユニットの口径もPM-1とPM-2は85×69mmの楕円形だったが、PM-3では真円の55mm径になっている。

 なお、平面振動板ヘッドフォンには昔から能率が低いという弱点があるのだが、OPPOの製品は他社と比べて高能率であるのが特徴。磁気回路にネオジウムを使っているほか、FEM(有限要素法)解析により、形状や配置を最適化する事で、出力音圧レベルを高めているそうだ。

 ポータブル用途となると、室内向けと比べ、非力なアンプでドライブする場面が増加するが、PM-3では感度102dB/1mW、インピーダンスは26Ωとなり、普通のプレーヤーやスマートフォンとも組み合せやすくなっている。再生周波数帯域は10Hz~50kHzとワイドレンジだ。

他社も含め、平面磁界駆動型ヘッドフォンとの能率比較表

 イヤーパッドは音響特性と肌触りを両立したというものを採用。装着してみると、側圧は強めで、ガッシリとホールドされる。しかし、パッドが分厚くて柔らかいため、耳の周囲にかかる圧力はソフトだ。1時間ほどつけっぱなしにしていたが、特にどこかが痛くなるという事はない。キッチリ耳の周囲にイヤーパッドを押し当ててくれるので、耳の下側に隙間ができるような事もなく、遮音性は良好。ケーブルを含まない重量は320gだ。

側圧は強め。シッカリとホールドしてくれ、耳の下側にも隙間ができない
イヤーパッドは肉厚だ
ハウジングは平らにする事もできる

 ケーブルは片出しで着脱も可能。ヘッドフォン側の端子はステレオミニ。3mと1.2mのケーブルを同梱する。なお、このケーブル関連については1つ見逃せないポイントがあるので後述しよう。

付属のヘッドフォンケーブルはステレオミニの3極タイプ。片出しだが、ケーブルの着脱も可能だ

純正組み合わせで

 まずはHA-2 + PM-3の純正組み合わせを試聴。Windows 7のPCとUSB接続し、foobar2000を使い「藤田恵美/Best of My Love」(96kHz/24bit/WAV)を再生する。

まずはHA-2 + PM-3の組み合わせをテスト

 音が出た瞬間にわかるのは、PM-3の分解能の高さだ。PM-1を以前レビューした時にも感じた事だが、平面振動板ヘッドフォン特有の繊細なサウンドは、普通のダイナミック型ヘッドフォンとは一味違う。

 中低域には量感がありながら、高分解能でピアノの左手など、低音の中の動きが良く見える。中高域の抜けも良好で、付帯音はまったく感じられない。全体域に渡って見通しが良く、ヴォーカルの口の開閉、パーカッションのエッジ、ギターの弦の動きなど、本当に細かな音が意識を集中しなくても聴き取れる。

 オーディオに詳しい人は、エレクトロスタティック型のスピーカーや、スタックスが手掛けているコンデンサ型ヘッドフォンを想像すると、あの音に近い。音の1つ1つが細かく、女性ヴォーカル+ピアノのようなシンプルなアコースティックの楽曲では、ゾクゾクするような生々しさがある。ハウジングは密閉型なのだが、抜けの良さも相まって、よく出来たオープンエア型ヘッドフォンを聴いているような開放感がある。

 面白いのは、かといって「線が細くて弱々しい音」ではない事。低域には音圧がしっかりとあり、アコースティックベースの張り出しが「グォーン」と頭蓋骨を揺するような迫力で迫ってくる。これはPM-3の再生能力が高いのと同時に、ドライブしているHA-2の特徴でもあるだろう。

 先程、HA-2は“据え置き型ヘッドフォンアンプ・HA-1のポータブル版”がコンセプトと書いたが、音もまさにその通りで、HA-1と似ている。繊細で分解能が高い一方で、中低域は肉厚でパワフル、情熱的な描写もこなしてみせる。DSD楽曲を再生すると、DSD特有の滑らかな“アナログっぽい”音の表情がキチンと伝わってくる。

 外見がソリッドなので、てっきりシャープで冷たい音がするのかと想像していたが、良い意味でそれを裏切ってくれる。やはりこのくらい中低域をシッカリ出してくれると、“ポータブルアンプを追加した醍醐味”が味わえるというものだ。

 ちなみに、ゲインを「ハイ」に設定し、ボリューム値「2」にしただけでPM-3から十分な音量が出る。「3」まで回すと、大きくなり過ぎだ。最大ボリュームの「5」まで使う事はないだろう。HA-2のドライブ力の高さと、PM-3が平面磁石振動板にしては高能率な事が良く分かる組み合わせだ。

他社製品とも接続

 他社のヘッドフォン/イヤフォンもドライブしてみよう。HA-2にソニーの「MDR-1A」を接続する。「茅原実里/NEO FANTASIA」から「この世界は 僕らを待っていた」(翠星のガルガンティアOP/96kHz/24bit)を再生すると、PM-3よりもコントラストが強くなり、音がダイナミックになる。

HA-2にソニーの「MDR-1A」を接続

 特に違うのが中低域。ベースラインをゴリゴリと力強く描写しており、狭いライブハウスで聴いているような、音が押し寄せてくる迫力がある。疾走感のあるリズムの楽曲なので、この低域のパワフルさは心地良い。HA-2の肉厚な中低域の魅力が良く感じられる。

 しばらく楽しく聴いていたが、PM-3に戻すと驚く。音の広がりがまったく違うのだ。先程まで左右にせり出してきていたライブハウスの壁がバタンと倒れ、屋外に出たように、音がどこまでも広がっていく。開放的なので、まるで深呼吸したような気分だ。

 地面をうねるように這っていた進んでいた低音は、パワフルさが減退するが、ベースのうねりの中にある音の変化が明瞭に聴き取れるようになる。勢いとコントラストの強さで誤魔化されていた部分が、PM-3では細かく掘り起こされたような気分だ。

 この違いを体験してしまうと、急にMDR-1Aの音が不明瞭に聴こえてしまう。音と音がくっつき気味で分解能が低く、イヤフォンで例えると、バランスド・アーマチュア(BA)イヤフォンを長時間聴いた後で、ダイナミック型イヤフォンに付け替えたようなイメージだ。

 次に、HA-2とダイナミック型のイヤフォンとしてShureの「SE215」、BAイヤフォンの「SE535」、4ウェイ6ドライバのカスタムイヤフォンUltimate Ears「UE18Pro」などをHA-2に接続してみる。

カスタムイヤフォンUltimate Ears「UE18Pro」と組み合わせたところ

 いずれのイヤフォンも、スマートフォンやポータブルプレーヤーと直接接続した時よりも強力にユニットを駆動でき、個々の音がクリアに、力強く再生され、全体のレンジも広くなる。ユニットの種類別で聴き比べると、SE535やUE18ProのようなBAイヤフォンと組み合わせたほうが、個人的にはHA-2とマッチすると感じる。

 そもそも、ドライブ力の高いポータブルアンプとマルチウェイBAイヤフォンの相性は良いものだ。HA-2のように分解能が高く、中低域もパワフルなアンプと、肉厚な低音を出すのがどちらかというと苦手で高域寄りなBAイヤフォンを組み合わせると、イヤフォン側の弱点を、アンプが上手くカバーしてくれるようだ。苦手を補った結果、バランスの良いサウンドとして楽しめる。

ダイナミック型のShure「SE215」

 ダイナミック型のSE215と組み合わせても、もちろん良い音は出ているが、もともと低域が豊富なダイナミック型イヤフォンを、さらにパワフルにドライブすると、ちょっと低域が過多かなと感じる場面がある。このあたりを念頭に、組み合わせるイヤフォン/ヘッドフォンを選ぶと良いだろう。

 ヘッドフォンをPM-3に戻す。HA-2の接続先を、PCから「ウォークマンAシリーズ」、「iPhone 6 & HF Player」、「Xperia Z1 & USB Audio Prayer PRO」といった機器に変更してみた。当然ながら、いずれも問題なく音が出る。

iPhone 6 & HF Playerと接続したところ

 スマートフォンにPM-3を直接接続した音と、スマートフォン + HA-2 + PM-3のサウンドを比較すると、アンプとしての駆動力に大きな差があり、完全に別次元のサウンドになる。低域の再現性や音圧だけでなく、そもそも音楽が展開する音場スケール、レンジもまるで違って勝負にならない。

 一方で、驚くべきはXperia Z1と直接接続した場合、ボリューム値を85%程度まで上げればPM-3から十分な音量が得られる事。「スマホでドライブできる平面振動板ヘッドフォン」というだけで凄い。しかし、音質面ではやはりHA-2などのポータブルアンプと組み合わせるか、駆動力のあるポータブルプレーヤーとの接続しないと勿体無い。スマホのアンプでは、PM-3の実力を引き出すのは難しいだろう。

 ウォークマンAシリーズや、iriver Astell&KernのAK100といった低価格なハイレゾプレーヤーとHA-2を接続し、AK120IIやAK240といった高級ハイレゾプレーヤーと対決するのも面白い。ウォークマンA + HA-2を聴くと、音のスケールや低域のドライブ能力などの面で、AK120やAK120IIクラスのサウンドと十分戦えるクオリティだと感じる。

 HA-2はアナログ入力も備えているので、アンプのドライブ能力が高くない初代AK100のようなプレーヤーとも連携できる。ステレオミニケーブルでHA-2と接続すると、AK100がまさに生まれ変わる。AK100自体、サッパリとしたサウンドだが素性は悪くないので、高分解能だが旨味も多いHA-2と組み合わせると、弱点を補い、ワイドレンジで低域もパワフルな理想的なサウンドになる。「AK100 + HA-2」のセットと同じような価格になる「AK100II」と聴き比べてみたが、鮮度は若干落ちるものの、スケールの広さ、低域の再現性の面ではAK100IIを上回っていると感じた。

 なお、AK240のようなプレーヤー単体でドライブ力のある製品とPM-3をダイレクトで接続すると、ボリューム値60程度で十分なサウンドが得られた。

AK100と接続したところ
AK100IIと接続
AJ240と直接接続

グランド分離でさらにマニアックに

 ここまでを簡単にまとめると、“カッコイイだけじゃなくて音も良いね”という話になるが、その反面、“マニアックさに欠ける”と感じる人もいるだろう。大きな点は、最近話題の“バランス駆動”に対応していない点だ。HA-2を見ても、出力はステレオミニのアンバランス×1系統、およびステレオミニのラインアウト×1系統のみだ。

 しかし、HA-2/PM-3にはこうした不満を補う、マニアックな機能がある。それが“グラウンド分離接続”だ。グラウンド分離出力とは、その名の通り、左右チャンネルのグラウンドを分離した接続の事。HA-2とPM-3はどちらもこれに対応している。

一般的なヘッドフォン出力

 上の図が、3極のケーブルで接続する、一般的なイヤフォン/ヘッドフォンだ。中央のグラウンド「GND」という線に注目すると、右チャンネルと左チャンネルのグラウンドが1本にまとめられ、入力端子まで戻っているのがわかる。

HA-2が対応しているグラウンド分離接続

 グラウンドを1本にまとめず、左右で分離したまま入力端子まで戻すのがグラウンド分離だ。これを実現するために、通常のイヤフォンは入力端子が3極(黒い絶縁リングが2本入った端子)だが、グラウンド分離接続用ケーブルの端子は4極(絶縁リングが3本)になる。

 イマイチよくわからないという人は、普通の据え置き型アンプとスピーカーの接続を思い出して欲しい。アンプの裏のスピーカーターミナルは、左右のチャンネルそれぞれに赤黒(プラス/マイナス)の端子があり、それを左右スピーカーに赤黒端子にそれぞれ接続している。その際の片方がグラウンドであり、スピーカーでは“グラウンド分離接続”をしているわけだ。

 ヘッドフォン/イヤフォンは、スピーカーを小さくして頭に装着したようなモノだから、本来であれば“グラウンド分離”である方が自然だとも言える。しかし、普通のイヤフォン/ヘッドフォンでは、それができていなかった……というわけだ。

バランス出力

 ちなみに“バランス駆動”というのは、スピーカーユニットの片側にアンプ(正相)を接続し、もう片方にグラウンドを接続するところを、グラウンド側にもアンプ(逆相)を接続し、“1つのユニットを2つのアンプでドライブする”という方式だ。BTL接続とか、ブリッジ接続と呼ぶ場合もある。

 PM-3は4極ケーブルでの駆動ができるため、グラウンド分離接続も、バランス駆動にも対応している。HA-2は4つのアンプは搭載していないので、グラウンド分離接続のみのサポートとなっている。

グラウンド分離とバランス出力の違い

 OPPOではグラウンド分離とバランス出力の違いについて、「2倍のゲインで駆動すれば、ヘッドフォンの出力はバランス出力と同じになる。ヘッドフォンは電源が不要なので、グラウンドには余分な電流は流れない。両者は回路テクニックが異なるだけで、絶対的な優劣が存在するものではない」と説明。その上でHA-2では、「限られたスペースで最高の音質を目指すために、グラウンド分離設計を採用した」という。

 具体的に、HA-2とPM-3でグラウンド分離出力をするためには、両端が4極のステレオミニケーブルが必要となる。OPPOでは現在4極ケーブルの市場への供給方法を検討しているとのことだ。今回、特別に試作のケーブルを借りる事ができたので、付属の3極ステレオミニケーブルと聴き比べてみた。

試作の4極ステレオミニケーブル

 「茅原実里/この世界は 僕らを待っていた」を再生、3極ケーブルから、4極のグラウンド分離接続に変えると、十分広いと感じていた音場の奥行きが、さらに一段奥へと広がる。音像の分離も良くなり、音像の輪郭や、音像と音像の距離感も明確になる。48秒あたりにパーカッションが左右に飛び交う瞬間があるが、その位置がグラウンド分離接続ではクッキリと見える。しばらくグラウンド分離を聴いた後、3極ケーブルに戻ると、音場が圧縮され、全体的にゴチャっとした音に聴こえてしまう。

 試作ケーブルには4極ステレオミニだけでなく、プレーヤー・アンプ接続側が、2.5mmの4極になったタイプもある。つまり、AK100II/120II/240など、2.5mm 4極バランス出力に対応したプレーヤーと、PM-3をこのケーブルで接続すると、シンプルにバランス駆動ができるわけだ。

試作ケーブルのもう1本、アンプ接続側が2.5mm 4極になっている
AK240とバランス接続したところ
2本の試作ケーブル

 実際にAK240と接続してみると、3極ステレオミニで接続した場合と比べ、レンジが拡大。低域の躍動感が高まり、PM-3の上品なサウンドにパワフルさが加わり、「こんな音も出せたのか」と驚く。メリハリが出るので、ロックやポップスなど、激しい楽曲をノリ良く楽しみたいという時はバランス接続の方が向いているかもしれない。

ラトックのポータブルアンプ「REX-KEB03」ともバランス接続

 同じく、2.5mm 4極のバランス出力に対応した、ラトックのポータブルアンプ「REX-KEB03」(4月下旬発売/実売41,481円前後)とも接続してみたが、こちらでもしっかりとバランス駆動ができた。バランス駆動は特に低域の描写に注目していると、ドライブするアンプに応じてPM-3の音が大胆に変化していくのがわかる。かなりポテンシャルの高いヘッドフォンだ。

 ちなみに2本の試作ケーブルは、まだ最終のものではないので外観や音の傾向は製品版とは異なる可能性がある。発売日や価格なども未定だ。とはいえ、グラウンド分離やバランス接続が音質のグレードアップに有効という点は変わらないだろう。

使いやすさと音質のバランス

 一見ポータブルアンプに見えないデザイン性と、薄型ボディで可搬性・収納性に優れたHA-2。機能面で不満はほとんど無く、音も良く、ドライブ力も優秀。おすそわけ充電でアンプとして使わない時にも頼りになり、グラウンド分離出力でマニアックに音質のアップグレードも楽しめる……と、隙が無い、極めて完成度の高い製品に仕上がっている。

 ポータブルアンプを使ってみたかったけれど、大きくて重いモノを持ち歩くのはちょっと……という人にオススメ。既に箱型のポタアンを使っているという人にも、この薄さと機能のウェルバランスは魅力的だろう。

 個人的にはPM-3の音が好みだ。屋外で使える密閉型のポータブルヘッドフォンは、低域が強めで、どちらかというと大味な製品が多い。PM-3は、そうした“よくある密閉型ポータブルヘッドフォン”とは真逆のサウンドなのが痛快だ。

 仕事帰り、人通りの少ない夜の街を歩きながらこのヘッドフォンを聴いていると、開放型と錯覚するほどの繊細でシャープな音が、夜の空間にスーッと広がって溶けていくように感じ、とにかく気持ちが良い。この上質さはまさにピュアオーディオのサウンドであり、「外でこんなに繊細な音が楽しめるとは」の一言に尽きる。

 欲を言えば、ポータブルとしてもう少しハウジングやヘッドバンドをコンパクトにして欲しかった。以前、OPPO Digital本社のプロダクトマネジャーにインタビューした際、とにかくユーザーからの声を再重視して製品開発をしているので、要望はどんどん出して欲しいと語っていたので、「もっと小さいモデルも!」とお願いしていれば、いつかは作ってくれるかもしれない。

 いずれにせよ、初のポタアン&密閉型ポータブルヘッドフォンとは思えない完成度であり、同社の技術力の高さを改めて感じた。

 製品数が増え、成熟期を迎えつつあるポータブルアンプ/ヘッドフォン市場。“音が良ければデザインやサイズは二の次”な時代から、“どっちも良くなくては”という時代に入っていくのかもしれない。

(協力:OPPO Digital Japan)

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