大河原克行のデジタル家電 -最前線-

テクニクスは第2フェーズ突入。最高峰ターンテーブルと家電を支える感性

 パナソニックのテクニクス事業が、新たなフェーズに入る。同事業を担当する小川理子執行役員は、「テクニクスにとって、最初の3年間は、当初の計画通りで推移した。これからの3年間は第2フェーズとして、開発した要素技術をどう生かしていくのかを考えたい」とする。

パナソニックの小川理子執行役員(右)とパナソニック アプライアンス社テクニクス CTOの井谷哲也氏(左)

 CES 2018では、リファレンスクラスのターンテーブル「SP-10R」と「SL-1000R」を展示し、評論家などから高い評価を得た。テクニクス事業推進室長であり、アプライアンス社副社長技術担当兼技術本部長も兼務するパナソニックの小川理子執行役員に、CES 2018の会場において、テクニクス事業への取り組みと、アプライアンス社の技術戦略について聞いた。なお、インタビューには、パナソニック アプライアンス社テクニクス CTOの井谷哲也氏も同席した。

CES 2018のテクニクスブースの様子

復活Technicsの第1フェーズを振り返る

――テクニクスにとって、2017年はどんな1年でしたか。

小川:2017年を振り返りますと、春に発表したダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1200GR」は、コストを引き下げ、従来商品の約半分という購入しやすい価格帯で投入することができました。また、重心マウントという新たな技術を採用したスピーカーシステム「SB-G90」では、この価格帯の商品として、音に対する高い評価を得ることができ、グランドクラスにおける品揃えを強化することができました。また、プレミアムクラスでも「OTTAVAフォルテSC-C70」を投入し、それぞれのライフスタイルに合致した、オールインワン型の新たなHi-Fiオーディオの世界を提案することにも力を注ぎました。英国では、歴史を持つ百貨店であるジョン・ルイスや、フランスのフナック/ダーティーで展示販売を開始するなど、これまでとは違った販売ルートでの展開も開始し、2017年12月単月の動きを見ても、計画を上回る実績となっています。

パナソニックの小川理子執行役員

 2014年9月にテクニクスの復活を発表し、2015年からテクニクスブランドの商品を再投入してから、足かけ3年を経過したわけですが、この間に、18機種の商品をラインアップし、24カ国へと展開することができました。テクニクスのブランド戦略としては、当初の計画通りに推移し、まずまずの結果だと自己評価しています。最初は、ハイエンドオーディオのブランドを再構築するために、要素技術の開発から始まり、それを活用したリファレンスクラスを投入し、そこからラインアップを広げたのが、この3年間の活動だといえます。また、販路についても、まったくのゼロからスタートし、Hi-Fiディーラーに対して、1社ずつ、地道にテクニクスの商品を説明し、間口を開拓してきました。そして、OTTAVAシリーズによって、2017年後半から、量販ルートにもいよいよ展開を開始しました。量販ルートへの展開は、3年という歳月をかけて、Hi-Fiディーラーの理解を得て、展開を開始したものです。そうしたところに対しては、焦らずに、じっくりと腰を据えてやってきました。

 こうしたことを振り返りますと、2017年という年は、3年間というファーストステップの総括ができた1年だったといえます。

 経営の観点からは、どこがベストなのか、あるいはその一方で、どんなリスクが発生する可能性を想定するわけですが、想定したベストからすれば、もっともっとやらなくてはならないですし、想定したリスクよりは遥かにいい結果となっています。ベストと最悪のシナリオのちょうどその中間ぐらいのところを行っている感じでしょうか(笑)

――小川執行役員がテクニクスを担当するようになって、CES会場でのインタビューは今回が3回目であり、毎年、そこで自己採点をしてもらっています。2016年は70点、2017年は75点。今回のCES 2018でのインタビューにおいて、2017年を振り返っていただくと何点ですか(笑)

小川:実は、2017年のIFAで発表したリファレンスモデルのダイレクトドライブターンテーブル「SP-10R」と、今回のCES 2018で発表したダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1000R」に対して、私は、いままでで最高点をつけたんですよ(笑)。この2つの製品は、開発当初から、アナログターンテーブルとして世界最高峰を目指した商品であり、1970年に発売したテクニクスのターンテーブル「SP-10」の原理原則に従いながらも、モーターや制御技術において最新のテクノロジーを採用したものです。、私がテクニクスを担当したときに、「3年間でここまでやりたいな」と思った音は、「SP-10R」と「SL-1000R」で実現できました。それができたので、これまでの3年間で最も高い点数になったわけです(笑)。全体で見れば、まだまだやることはたくさんありますが、ここまでの音を3年間で実現できたというのは並大抵ことではないと自負していますし、ブランドの認知も着実に高まっています。トータルすると、やっと80点まで来たかなという感じですね。

世界最高峰のターンテーブルを目指した「SP-10R」、「SL-1000R」

――「SP-10R」と「SL-1000R」には、どんなこだわりがあるのですか。

小川:ターンテーブルでは、最初に、SL-1200GおよびSL-1200GAEを投入し、ここまで行けたという自信ができ、さらに、SL-1200GRによって、コストパフォーマンスを視野に入れた製品もラインアップすることができました。こうした実績の上で、次はどこに行くか。下に行くか、上に行くか。そう考えたときに、テクニクスには、ダイレクトドライブというユニークなお家芸があるわけですから、テクニクスの象徴として、世界最高峰のターンテーブルを作りたいと考えたわけです。技術陣も自信を持ち、それに闘志を燃やして取り組むという雰囲気が出ていましたから、いまこそここに挑戦すべきだと思いました。テクニクスにとっても、挑戦する大きな意義があったわけです。リファレンスクラスは、デジタルアンプ、デジタルプレーヤー、ネットワークプレーヤー、スピーカーは用意しましたが、アナログターンテーブルだけは用意していませんでした。その意味で、最後のピースとして、リファレンスクラスに、アナログターンテーブルを追加したわけです。

井谷:SL-1200Gは、OBの力を借りながら、ダイレクトドライブのターンテーブルに挑んだ結果、技術陣にとっても、大きな自信になったのは確かです。そのときに、評論家の方々から言われたのは、「ベルトドライブが主流のなかで、ダイレクトドライブでないと出ない音があるのは確かだ」ということでした。「SP-10R」と「SL-1000R」では、そうしたダイレクトドライブならではの特徴のある音の再現性を突き詰めていったらどうなるのかということを考えました。そのためには、ひとつひとつのことを、高いレベルで、細かく吟味しなくてはなりません。そこには大きな苦労がありました。すでに、SP-10を40年、50年に渡って利用していただいている方々に対して、次の40年、50年使える商品を作らなくてはいけないという気持ちもありましたし、同時に、ベルトドライブを使っている方々にも興味を持っていただける商品に仕上げたいと思っていました。いま、出来上がってみて、技術面では、ほぼ目的は達成できたといえます。他社の同額以上のベルドライブのターンテーブルと比べても、ほかには出ない音というものが実現できていますし、世界一の音を実現できたと自負しています。

ダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1000R」。この製品はアームをカスタマイズしている

ダイレクトドライブターンテーブル「SP-10R」

 モーターも従来とは違うポリシーで開発していますし、制御する回路もデジタル回路を使用し、電源もまったく新たなものを採用しています。ベルトドライブでは実現できない音はもちろん、過去のダイレクトドライブでも表現できなかった音も出すことができています。もう一度、「ダイレクトドライブとはなんぞや」ということを問える商品であり、新たな時代のアナログの音を実現するアナログターンテーブルだといえます。多くの人に聴いていただきたいですね。

――「これまでのダイレクトドライブでは、出せない音」とは、言葉で表現するとどんな音なのでしょうか?

井谷:回転の正確性からくる、カチっとした感じの音というのがあります。いわば、曖昧さがない音という表現ができると思います。ただ、ここをあまりにも突き詰めていくと、追い求める音とは違うものになってしまいますから、そのバランスが大切です。一方で、SP-10の特徴は、低域のどっしりとした感覚にあります。これを、「SP-10R」および「SL-1000R」でも実現したいと思っていました。実際、その点では負けないものに仕上がったと自負しています。

ダイレクトドライブのモーター部

小川:音を追求していく上で、技術的な観点での数値データをもとに検証し、改良を加えるというのは当然です。しかし、ミュージカリティ(音楽性)の観点からいえば、音の芯がまったくブレないということが、音楽を聴く上で大切な要素となります。演奏家は、楽器を演奏するときに、音の芯をブラさないんです。ブラさずに、音の固まりのまま、エネルギー感を落とさずに、遠くまで飛ばすというのが、演奏家がやっていることなんです。それを再現できているのが、「SP-10R」および「SL-1000R」です。

 それは、「SP-10R」および「SL-1000R」で搭載したモーターの制御技術によるものであるかと、電源回路であるとか、ひとつひとつの部分にブレがないからこそ実現するものなのです。ブレがないから、表現の幅が広がり、音が持つ様々なニュアンスをすべて再現できる。アナログレコードに収められた音のすべてを余すことなく表現できるのが、「SP-10R」および「SL-1000R」の特徴です。オーディオマニアの方だけでなく、演奏家が聴いても、納得がいく仕上がりになっています。目の前にはオーディオ機器しかありませんが、まるでそこで演奏しているぐらいの臨場感を表現できます。

――最も苦労したのはどこですか。

井谷:ここが一番苦労したというのはないですね。すべてが苦労です(笑)。電源をやっている技術者はいかにノイズを下げるかということに対して、苦労していましたし、メカも新たな挑戦ですから、ここにも数多くの苦労が伴いました。

小川:ただ、私が見て感じたのは、みんなが苦労を喜んでいるという点なんですよ(笑)

井谷:エンジニアは、みんな「M」なんですよ(笑)。なにか言われると、「エー!」と返事は嫌そうな素振りなんですが、目がキラキラ輝いている(笑)

小川:確かに、「もっと要望を出してくれ!」という態度がヒシヒシと伝わってきますね。

井谷:やはり、SL-1200Gで手応えを感じ、その経験が自信になっているんでしょうね。テクニクスの商品を最初に開発したときには、自分たちの技術は、どの水準にあるのかということすらも手探り状態で始まったわけですし、その技術や商品に対する反応もなかなか返ってきませんでした。やはり評価してもらうにはそれなりの時間が必要ですからね。しかし、アナログターンテーブルの場合は、テクスニクスの代表的な商品であり、注目度も高い。そのため、お客様や評論家の方々からのフィードバックも速い。その評価の数々で、エンジニアが自信をつけたのは確かです。ただ、アナログでここまでの音を実現したわけですから、実際のところ、デジタルの技術者には、すごいプレッシャーがかかっていますよ(笑)

小川:1年目は、ハイレゾやデジタルで、どこまで音を極めることができるかが課題でした。これをデジタルのリファレンスとしたわけですが、今回のターンテーブルの投入により、アナログのリファレンスを用意することができました。実際、聴き比べてみると、やはりデジタルのリファレンスでは、アナログのリファレンスに勝てないところがあることに気づきがありました。言い換えれば、今後、デジタルのリファレンスをどこまで極めるかという取り組みのなかで、アナログのリファレンスの経験がもとになり、デジタルの進化へとつなげることができます。アナログの成果が、デジタルの進化にもつながるわけで、その点ではお互いのエンジニアにとって、いい刺激と、いいシナジー効果が生まれています。

家電を支える感性

――今回は上方向に行きましたが、下方向への展開はどうなりますか。たとえば、DJ用途であるとか。

小川:ラスベガスを訪れて、いくつかの販売店を回ったのですが、DJの方々でも「ハイエンドDJ」という存在があって(笑)、こうした方々にはすでにテクニクスのターンテーブルをご購入いただいています。もちろん、多くのDJの方々から、いろんな要望をいただいていますので、これからも検討をしていきます。

――テクニクスは、再スタートを切った2014年に、「Rediscover Music」をメッセージに掲げ、音楽を愛する人たちに向けたHi-Fiオーディオの実現を目指してきましたね。それはどの程度、達成されていますか。

小川:その点については、まだまだです。世界に多くの音楽愛好家がいますが、そうした人たちに、もっと音楽を楽しんでもらいたいと思っていますし、テクニクスがそこで貢献できることはまだまだあります。たとえば、10万円を出せば、テクニクスのオーディオによって、こんなにいい音で聴くことができるということをもっと体験してほしいと思っています。OTTAVA フォルテは、そうした音楽愛好家に間口を広げていくことができる商品だといえます。オーディオ愛好家の方々は、能動的にテクニクスに興味を持っていただけますが、音楽愛好家の方々に対しては、タッチポイントを増やすなど、我々の方から働きかけをしていく必要があります。また、テクニクスだけでなく、パナソニックブランドのヘッドフォンについても、中高級機種のラインアップを強化する方向を進めていますが、音楽愛好家の方々に、もっといい音で聴くことができるオーディオ機器の存在を知って欲しい。そのための活動は、これからも積極的に取り組んでいきます。

――パナソニックのテレビでは、ハイエンドモデルで「Tuned by Technics」を展開しています。これは、テクニクスおよびパナソニックの商品にどんな影響を与えていますか。

小川:4K有機テレビなどで、「Tuned by Technics」を展開していますが、薄型化が進み、狭額縁化が進むなかで音をどうするのか、ということは悩ましい問題です。テレビの技術者にとっては、いい映像に、どうやっていい音をつけるのかが悩みの種になっています。そこにテクニクスのエンジニアが入ることで、最高の映像に、最高の音をつけることができるようになります。まだまだやることはありますし、今後もテレビのなかに、「Tuned by Technics」の技術を埋め込み、上位機種において、テレビの音をどうするのかということを一緒に考えていきます。コストや制約条件は厳しいのですが、信号処理やスピーカーユニットを担当するそれぞれのエンジニアが、テクニクスの技術をテレビに最適化するにはどうするかといった観点から開発を続けていきます。

 テクニクスの技術は、テクニクスブランドの商品だけではなく、パナソニック全社の音の価値向上に貢献することを目指しています。これは、テクニクスがスタートしたときからの使命だといえます。

――2018年度のテクニクスはどうなっていくのでしょうか。

小川:今回、商品発表したリファレンスクラスのアナログターンテーブルの出荷が初夏になります。また、プレミアムクラスのラインアップは、ヘッドフォンを含めて強化していきたいですね。2018年度からは、2回目の3カ年が始まり、まさに第2フェーズとなります。この3年間で必要な要素技術をしっかり開発し、必要なカテゴリーの製品をしっかり出すところまできました。それを踏まえて、第2フェーズでは、それぞれの技術をどう活用し、それぞれのカテゴリーをどんなファミリーにしていくかということに取り組みます。技術については、「Tuned by Technics」によるパナソニックブランド商品への横展開も含まれます。ラインアップはむやみやたらには広げませんが、プレミアムクラスのなかで、OTTAVAの次はどう展開していくのかといったことは考えていきたいですね。第2フェーズの3年間の最終年度である2020年には、テクニクスがスタートして55周年を迎えますので、そこに向けて、どんな姿であるべきかを描いて進んでいくことになります。2018年度はその最初の1年になります。

――2020年のテクニクスの事業イメージはどんな形になりますか?

小川:パナソニックは、全社戦略として、住空間や車載ビジネスに取り組んでいますが、そこに向けても、テクニクスがしっかりと貢献できたといえる状況にしたいですね。これが、今後3年間における成功のイメージですね。

――小川執行役員は、2018年1月から、パナソニック アプライアンス社の技術担当副社長および技術本部長も兼務することになりました。アプライアンス社の技術担当として、どんな点に力を注ぎますか。

小川:パナソニックが家電で培ってきた技術は、住空間においても、車載においても重要な技術になります。全体にまたがる技術として、商品にどう生かすか、どんなビジネスモデルのなかで生かすかということが、ますます重要になっていきます。そうしたなかで、事業のビジョンと技術のビジョンの整合性を取ることが、より大切になってきます。いまはすごいスピードで世の中が変わっています。それは家電を取り巻く技術も同じです。技術は先行したとしても、事業化については早すぎても、遅すぎてもダメであり、そのタイミングをいかにうまく取るか、事業部門と技術部門が、うまくたすきをつないでいくが大切になります。技術部門はここまで担当し、ここから先は事業部門というような意識でいると、変化のスピードには対応しきれません。私は、ここを、シームレスに、うまくつなげたいと考えています。そのためには、技術者自らが、デザインやマーケティングにも関心を持つ必要があります。残念ながら、現時点では、優れた技術があっても、これをうまく商品化や事業化につなげることができていないという側面があります。技術部門の人たちが、前線の人たちとどんどんコミュニケーションをして、技術部門からも、事業化や商品化をプッシュしていけるような環境を作りたいと考えています。

 パナソニックでは、企業や組織の枠を越え、新規事業の創出を加速させる「Game Changer Catapult」の取り組みを開始していますが、新たなアイデアをインキュベーションする上でも、技術者がそこにしっかりと入り込み、デザイン、マーケティング、企画部門と一緒になって新たなものに挑戦をしてもらいたい。新たなことをやろうという勇気を持って挑戦できる風土を、技術本部から作っていかなくてはならないと思っています。技術者には、もっと現場に行ってほしいですし、グローバルの取り組みを拡大するなかで、現地を見てもらうことも大切だと思っています。技術者自身がもっともっと意識を変えて、挑戦していくことが必要だと思っています。

――女性役員がアプライアンス社の技術部門のトップに立ったことで、なにが変わりますか。

小川:私がこの立場になったことで、多様性が加わるという点でのプラス効果は、期待されていると感じます。ただ、私自身、あまり男性、女性の区別はしたことがないですし、ストレートにモノを言う方ですから(笑)、その性格を生かして、モノを言い合える、自由な風土にしたいですね。すでに、アプライアンス社のなかには、ビューティー商品に代表されるように、女性が意見を言いやすい環境が整っていますし、それによって組織が活性化している例もあります。いままでとは違う視点で物事が言えたり、女性の意見をもっと吸い上げたりといったところは伸ばしたい、広げたいと思っています。女性目線でのモノづくりをもっとドライブできればいいですね。

井谷:ちなみに、テクニクスの技術者は男性ばかりですが、デザインの視点などでは、小川さんの女性としての視点が生きていますし、それ以上に、自らがジャズピアニストという音楽のプロの視点からの意見が参考になり、それがいい結果につながっています。

小川:音楽の感動というのは、数値に表れないところがあります。技術者としては、音のすべてを数値で示して、評価しなくてはならないのですが、演奏家という点では、それだけでは表現できない部分があることを知っていますし、仮にすべてを数字で表そうとすれば、何100年もかかるだろうというジレンマかあります。むしろ、ここまでは数値だが、ここから先は、数値にとらわれずに、人間がディシジョンすべきである、という部分が存在しますから、感性やアナログという部分をもっと大事にしていきたいんです。デジタルが、アナログターンテーブルに勝てないのと一緒ですよ(笑)。

 そして、これはテクニクスだけに通用する話ではなくて、家電全体にも通用するものだと考えています。おいしいご飯が炊ける炊飯器も、実験結果の数字だけで評価するのではなく、女性や技術者の感性をもっと生かして欲しいと思っています。今後の白物家電のなかには、AIやIoTといった技術が大切になってきます。最終商品そのものへの搭載だけでなく、モノづくりの観点でも、これらの技術が重視されることになるでしょう。ただ、そうなったときに、人間はなにを判断するのか、役割はなにかということを、技術者には考えてほしいと思っています。

 もしかしたら、AIの味覚が発達して、人よりも美味しさを理解できるようになるかもしれません。また、聴覚も発達することになるでしょう。そうしたときに、人間はなにをするのか、技術者はなにをするのか。もしかしたら、いままで以上に感性やアナログがもっと重視されるかもしれません。いまから、そうしたことを考えていく必要があります。

――社内では、今回の人事を聞いて、小川執行役員が「理系女子」だったことに気がつき、驚きの声もあがったとか。

小川:バリバリの理系なのですが、「音楽大学卒業ですか?」と言われることもありますよ(笑)。アプライアンス社という大きな枠で見るのは初めてのことですし、白物家電の領域を担当するのも初めてです。担当領域は、コールドチェーンにまで広がります。知らないことばかりですが、その点では、すごいワクワク感があるんです。そして、技術者が燃えていることも感じます。私からみれば、宝の山のようであり、これから、中に入って、どうやったらこの宝の山を、お客様に価値として届けることができるかを考えていきたいですね。これが、私の役割になります。アプライアンス社の技術担当としては、まだ0点です。来年のインタビューでは、こっちの自己採点もやりましょうか(笑)。いい点数が付けられるように取り組んでいきます。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など