藤本健のDigital Audio Laboratory

第682回 USB 3.0/Thunderbolt採用「Fireface UFX+」など、RME新USBオーディオの進化点

USB 3.0/Thunderbolt採用「Fireface UFX+」など、RME新USBオーディオの進化点

 RMEからMADIを搭載した新しいオーディオインターフェイスが2製品登場する。見た目が既存のBabyface Proとそっくりな「MADIfce Pro」、Fireface UFXとそっくりな「Fireface UFX+」だ。フラッグシップ機のFireface UFX+は、USB 3.0に加えて、RME初のThunderboltにも対応したオーディオインターフェイスとなっている。これらがどんな製品なのか、またMADI対応がどんな意味を持つものなのか、紹介したい。

写真右側にあるのが「MADIfce Pro」、左奥の下段が「Fireface UFX+」
Fireface UFX+
MADIfce Pro

MADI採用のメリットとは

 MADIface ProおよびFireface UFX+はともに、4月のmusikmesseで発表された製品が国内発表された形で、正確な発売日や価格も決まっていない段階。国内代理店となるシンタックスジャパンによると8月~9月ごろに出る見込みで、いずれもオープン価格となるが、MADIface Proは15万円程度、Fireface UFX+は35万円程度になりそうだという。

 この2機種に共通するのは「MADI」の入出力端子を装備しているという点。MADIとはMultichannel Audio Digital Interfaceの略で、AMS/Neve、SSL、ソニー、三菱とAES(Audio Engineering Society)によって1991年に規格化されたデジタルオーディオの伝送システム。業務用デジタルオーディオ機器で使われるAES/EBU信号に相当するものを、1本のケーブルで56ch分伝送できるものとして誕生し、2001年に登場したMADI-X(MADI-Extended)という拡張規格では、48kHzで64ch分伝送可能となっており、現在はこれが使われていて、RMEのMADIface ProやFireface UFX+でも同様。

MADIの概要

 その伝送にはAES/EBUと同じ75Ωのコアキシャルケーブル(標準のBNC)、またはオプティカルケーブルを用いる。比較的近いコンセプトの規格としては、DanteやAVB、SoundGridといったものがあるが、オプティカルのケーブルが利用できるという点がステージやホールといったところで評価されているようだ。というのもグラスファイバーを使ったオプティカルケーブルの場合、減衰が少ないこともあり、1本で最大2,000mもの伝送ができるからだ。また、扱いがアナログケーブルと似ているのも現場に好まれる大きな理由になっているという。

端子の種類と伝送距離

 一般にデジタルケーブルの場合、一度リンクが外れると、設定が変わってしまいやすく、再接続した場合、改めて設定しなおす必要がケースが多い。それに対し、MADIではケーブルを外せば音が切れ、再接続すれば、すぐに元通りに音が出る仕掛けになっている。もちろん、64ch分が一気に復帰する。オプティカルケーブルなら電磁波の影響などによるハムノイズの混入といった心配もなく、配線も扱いやすいというメリットもあるし、特に長いケーブルで比較した際、銅線のケーブルと比較して圧倒的に軽いというのも重要な特徴。64ch分のアナログケーブルの重量とは比較にならないのはすぐに想像できるだろう。

光ケーブルを使うと、ケーブルが長くなっても軽量といったメリットがある

 ただしMADIで64chの伝送ができるのは44.1kHzか48kHzの動作時だ。96kHzや192kHzも扱えるが、サンプリングレートが上がれば当然伝送容量も増えるので、チャンネル数はそれに応じて減っていく。具体的には88.2kHz/96kHzの場合は32ch、176kHz/192kHzなら16chとなる。これは同じオプティカルケーブルを利用するADATとも考え方は同じ。ただしADATの場合、44.1kHzまたは48kHzで8chで、96kHzなら4ch、192kHzなら2chとなっているから、MADIはADATの8倍の伝送速度を持っているという計算になるわけだ。

チャンネル数が増えたMADIface Pro。アナログ系はBabyface Proを継承

 MADIを搭載したMADIface Pro、Fireface UFX+について、もう少し具体的に見ていこう。

 MADIface ProはBabyface Proとそっくりな見た目であり、端子の形状もまったく同じ。ただし、Babyface ProではADAT用の入出力となっていたオプティカル端子が、MADI用に変わっている。これによってチャンネル数が大きく変わっているのだ。

MADIface Proの入出力端子
ヘッドフォン出力は2系統
XLRバランス入出力
従来はADAT用だった端子がMADI用になった

 下の表からも分かる通り、アナログの4ch入力/4ch出力にMADIを足すので、44.1kHz/48kHzなら68ch入力/68ch出力となる。こんなコンパクトなサイズで68chも同時に入出力できるオーディオインターフェイスというのはすごいが、一般ユーザーにとって意味があるかというと、それは過剰スペックのように思う。そもそもBabyface Proでもデジタルとして用意されている8ch分のADATも使う人は少ないだろうから、そこがMADIになったところで、一般ユーザーのほとんどの人にとっては関係ないかもしれない。

サンプリングレート別のチャンネル数

 アナログ回路周りにおいてはBabyface ProもMADIface Proも同じで、入出力もアナログ・マイク/ラインXLR入力、2系統のライン/楽器用のユニバーサルTS入力を備える。ヘッドフォン出力は、低インピーダンス用(ステレオミニ)/高インピーダンス用(TRS)の2系統となっている。

 現在のところ、まだMADIに対応した機材が少なく、RMEでも対応製品はあるものの、一般ユーザー向けとして利用できる価格帯のものがほとんどないのが実情。そのため、せっかくMADI端子が搭載されたMADIface Proだが、多くのユーザーの場合、Babyface Proを使うのとまったく変わらない使い方になってしまいそうだ。

 ただ、もう少し手ごろな価格で利用可能なMADI対応のA/DやD/Aが出てきてくれると、DTM関連でも大きな変化が出てくるだろう。最近、DTMでも192kHz/24bitでのレコーディングが結構見られるようになってきたが、従来のオーディオインターフェイスを192kHzで動作すると、どうしてもチャンネル数が減ってしまう状況だった。MADIであれば、192kHzでも16ch使えるし、配線などの扱いが簡単であるというのも大きなメリット。こうしたことが可能なMADI周辺機器が安く出てくれることを期待したいところだ。

Fireface UFX+のThunderbolt/USB 3.0採用は「遅延ではなくチャンネル数」

 次にFireface UFX+のほうも見てみよう。従来機種であるFireface UFXの関係は、Babyface ProとMADIface Proの関係ほど単純ではなく、仕様もいろいろ違うので、両製品は今後も併売されるそうだ。

Fireface UFX+

 まず入出力から見ていくと、フロントに4つのマイク入力と2つのヘッドフォン出力が、リアの右側には8つのバランス・ライン入力と、2つのXLR出力、6つのバランス・ライン出力があり、ここまでがアナログ。さらにリアの左側にはAES/EBUの入出力とADATの入出力が2系統あり、さらにMADIの入出力が用意されている。これによって、アナログ・デジタルすべて足した全チャンネル数を見ると、44.1kHz/48kHzの場合、94ch入力/94ch出力と、膨大なものになる。

Fireface UFX+の入出力端子
サンプリングレート別のチャンネル数

 ここで、やはり気になるのはFireface UFXがUSB 2.0での接続だったのに対し、Fireface UFX+はUSB 3.0およびThunderboltでの接続になっているという点。以前からRMEはThunderboltに否定的だったのに、なぜこれを採用したのかが気になるところ。

 この点についてRMEの共同創始者で、製品開発のトップであるマティアス・カーステンズ氏は次のように語る。「Fireface UFX+でUSB 3.0やThunderboltを採用したのはMADIでチャンネル数が増えたたため、USB 2.0の伝送速度では追いつかないからです。ユーザーの利便性を考えてUSB 3.0でもThunderboltでも利用できるようにしましたが、この2つの間での性能に違いはありません」。

USB 3.0やThunderboltを採用
RME共同創始者で、製品開発トップのマティアス・カーステンズ氏

 また、「多くの人が、USB 3.0やThunderboltを採用したことに注目しますが、転送速度以外にUSB 2.0と比較したメリットはありません。我々としてもレイテンシー値を下げるために採用したのではないし、USB 2.0で十分な低レイテンシーを実現するノウハウを持っていますから」と強調する。

 ちなみに、MADIface ProはUSB 2.0接続なわけだが、カーステンズ氏によれば、USB 2.0で伝送できるチャンネル数の上限は44.1kHz/48kHzで70chの入出力程度だという。だから、MADIface ProではUSB 2.0を使っており、それを超えるFireface UFX+はUSB 3.0とThunderboltだ、というハッキリした理由があるから、このことへの過剰な期待は禁物だ、というのだ。

 では、それ以外はFireface UFXと同じなのかというと、実はかなり違っているという。まず、見た目にも分かりやすい大きな違いが、オプションのリモートコントローラ。従来リモートコントローラは通常版と多機能版の2種類があったが、いずれも5mのケーブルが生えた機材であったため、やや扱いにくいものとなっていた。それに対し、今度の新しいリモートコントローラ「ARC USB」はUSBケーブルで接続するタイプになっている。そのため、利用シーンに合わせて好きな長さのUSBケーブルが利用できるほか、アサイナブルボタンが12個も用意されているので、断然使いやすくなっているのだ。ただし、このARC USBを従来のFireface UFXで使用することはできない。ちなみに、このARC USBもオプション扱いだが、価格は決まっておらず、シンタックスジャパンによれば、2万円程度になるのではないか、とのことだった。

新リモートコントローラ「ARC USB」は、名前の通りUSBで接続

USBダイレクト録音のDURecも機能進化

 2つ目の違いはDURecだ。DURecとはFireface UFXにも存在していたユニークな機能で、フロントのUSB端子にUSBメモリーを刺しておくと、PCへのレコーディングとは全く別に、ここに各チャンネルをレコーディングできるという機能。PCが接続されていない状態でも使えるし、PCと接続されている場合はバックアップレコーディングが可能というわけだ。

DURec機能にも引き続き対応

 このDURec、従来のFireface UFXでは60chの同時レコーディングが可能だったが、Fireface UFX+では最大76chのレコーディングが可能。これだけのチャンネル数を同時にレコーディングできるのは、各チャンネルごとに別のWAVファイルで録音するのではなく、1つのファイルとして全チャンネル記録するからだ。また新しいDURecではタイムスタンプの記録が可能になっているほか、Fireface UFX+には約1秒分をバッファできるメモリを搭載したことにより、書き込み速度がやや遅いUSBメモリーでも問題なく扱えるようになった、という。

DURecで最大76ch録音対応

 そして、もう一つの大きな違いがA/DやD/A、アナログ回路などを大きく見直したという点だ。まずA/DのチップはBabyface ProやMADIface Proと同じAK5388を採用し、D/AのほうはAK4414を採用している。またコンデンサなど、ディスクリート部品もいろいろと変えた結果、よりローをしっかり出せるようになったほか、S/Nも大きく向上したとのこと。たとえば入力のS/Nは110dBから113dBへ向上したり、従来44.1kHzなら15Hzが限界だった入力が5Hzまで対応するようになっている。またD/AにおいてもTHDが-104dBから-110dBになるなど、大きな差が出ているのだ。

UFXとUFX+の音質面のスペック比較

 価格的には10万以上の差がつきそうなので、なかなか手を出すのは難しいが、単にチャンネル数が増えただけでなく、音質的にも意味がありそうだ。

 以上、RMEのMADIに対応した新しいオーディオインターフェイス2機種を見てきたが、いかがだっただろうか?発売までまだ3カ月程度ありそうなので、細かい部分で変わることもありそうだが、RMEのフラッグシップ機として、これから注目を集めていくだろう。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto