藤本健のDigital Audio Laboratory
第814回
音を“見る”ソフト「Pure Analyzer System」。音楽リスニングにも使える?
2019年7月1日 11:18
音は本来は耳で聴くものだが、目で見ることで、その状況をハッキリつかめる場合もある。実際このDigital Audio Laboratoryでも、オーディオを波形で表示させたり、周波数解析したグラフで表示させることで見せてきた。その見せ方にピッタリの、まさに“音を見る”ためのツールがある。プロミュージシャン御用達のソフトで「Flux::Pure Analyzer System」というものだ。
先日、知人の音楽プロデューサーがスタジオで使っているのを見かけ、面白そうだったので試してみたところ、オーディオファンにとっても使えそうなソフトだったので紹介しよう。
様々なソフトで作った音を多面的に分析可能
Flux::Pure Analyzer SystemはフランスのFLUX SOFTWARE ENGINEERINGというところが開発したソフトで、国内ではメディアインテグレーションが扱っているWindows/Mac用のソフトウェア。Pure Analyzer Essential(40,000円)という基本ソフトを核に、拡張モジュールとしてインテグレーテッド・ラウドネス値の計測などを行なうPure Analyzer Metering、ライブサウンド/設備のシステム計測に特化した機能を追加するPure Analyzer Live、そしてサラウンド設定に対応する追加モジュールのPure Analyzer Multichannelという3つのオプション(各22,000円)が存在する。ここでは基本ソフトであるPure Analyzer Essential単体を試してみた。
Pure Analyzer Essentialは音をリアルタイム分析して表示させるためのソフトだ。ただ、リアルタイム表示させるということ自体は、何も新しいものではない。ごく一般的なオーディオプレーヤーソフトでもFFT表示するものもあるし、波形表示するものだって、いろいろある。また、一般的なソフトとはいえないかもしれないが、SteinbergのWaveLabなどは波形エディターであり、マスタリングソフトであると同時に、音をさまざまな分析方法でリアルタイム表示してくれる。
このPure Analyzer Essentialは表示だけに特化したスタンドアロンのソフトであり、それ以外の機能を一切持たないというとても割り切った機能のソフト。それだけに、表示の仕方が分かりやすく、また色使いが明瞭で、見やすいのが特徴。
また、全画面表示させることで、PCが完全にPure Analyzer Essential専用マシンになるというのも面白いところ。だからこそ、作曲家が音楽制作するときや、レコーディングエンジニアがミックスを行なうとき、またマスタリングエンジニアがマスタリングする際に、Pure Analyzer Systemを一つの手がかりとして活用しているのだ。
でも表示だけに特化したソフトとは、どういうことなのか? 音の再生機能も持たないで、リアルタイム表示なんてできるのだろうか。そもそも音のチェックをする用途が異なる作曲家、レコーディングエンジニア、マスタリングエンジニアが同じソフトを使うものなのかと疑問にも感じるところだが、これはPure Analyzer Essential独特なユニークなシステム構成があるからこそ実現しているものなのだ。
このPure Analyzer Essentialは有料のソフトなのだが、それとは別にPure Analyzer SampleGrabberという無料のソフトがあり、これを対で使うのだ。このSampleGrabberはVST、AU、AAX(Native/DSP)のそれぞれの環境で動くプラグインソフト。
【訂正】記事初出時「Pure Analyzer Essentialは無料のソフト」としていましたが、正しくは「有料」のため修正しました(7月2日)
DAWや波形編集ソフト、またVSTなどが使えるプレーヤーソフトにインサートで起動することで、Pure Analyzer Essentialへオーディオ信号をルーティングできるようになっている。したがって、DAWのプラグインのような感覚でPure Analyzer Essentialを使うことができるけれど、実際にはスタンドアロンで動作するソフトとなっているのだ。
しかもユニークなことに、このSampleGrabberとPure Analyzer Essentialは、必ずしも同じPCで起動する必要もない。実はネットワーク経由でオーディオ信号を送ることができるため、1台のPCでDAW操作をして最終段にSampleGrabberを入れておき、もう1台のPCでPure Analyzer Essentialを起動し、こちらでオーディオをリアルタイムに分析するといった使い方が可能なのだ。この際、WindowsとMacを混在させることも可能。例えばMac上のDAWでSampleGrabberを挿して動かし、WindowsマシンでPure Analyzer Essentialを立ち上げてもモニタリングするといったことができる。ただしオーディオ信号が送られてきているとはいえ、Pure Analyzer Essential側に再生機能があるわけではないので、音はDAW側で出す必要がある。
試しに同じLANの中で起動したWindows PCと、MacBook Proのそれぞれで別のDAWを起動し、最終段にSampleGrabberを挿してみたところ、Pure Analyzer Essentialはすぐにそれを認識する。そして、画面左上でどれをモニターするかを選択できるようになっている。
この選択肢の中に「Hardware input」というのがあるが、これはオーディオインターフェイスの入力を示す。WindowsであればASIO、MacならCoreAudioドライバーを選択できるようになっており、ここに入ってくる信号をリアルタイム解析することも可能。つまり、アナログのオーディオ信号をここに接続すれば、DAWなどのソフトからでなくても音の解析ができるというわけだ。
音作りだけでなく、リスニングにも使える視覚的な表示
では、実際どんな解析ができるのか、画像だけの動画キャプチャだが、これを見るとだいたいの雰囲気が分かるだろう。
モードによって画面が複数に分割されており、下の6種類がある。それぞれを拡大表示するといったことも可能だ。
簡単に紹介してくと、基本メーターはピークメーターやRMSメーターを表示するもので、プリセットでK-12/VUとかRef -20dBAなどに設定できたり、ウェイティングフィルターの設定をすることもできる。
リアルタイム・スペクトラム・アナライザーはFFT表示するもので、64Kまでのブロックサイズを持つ。分析ウィンドウの表示設定もRectangular、Barlett、Blackman、Hamming、Hannなどから選択できるようになっている。
スペクトログラム・ディスプレイは周波数特性をカラー表示させた上で、時間経過とともにしたから上へと上がっていくユニークなもの。これも設定で、左から右に流して行なったり、周波数帯ごとに色の強さで表すグラフにするなど、さまざまな表示方法が可能になっている。
ベクター・スコープはステレオの状態を可視化するとともに、位相の状況をチェックするためのもの。リサジュー表示をする際などに使うものだが、オシロスコープなどの表示と比較して、色合いや残像などが、独特で気持ちよくみえるのだ。
そして、Pure Analyzer Essentialの一番の醍醐味ともいえるのがネプラ・ステレオ。これは見るとだいたいわかると思うが、縦軸が周波数、横軸が左右を表しており、明るさが音量の強さを表している。画面下のほうの黄色から赤が低音を示しているわけだが、これが左右に入れていると落ち着かない感じがするが、低音がセンターにどしっと来ると安定感のあるサウンドに感じられるといった具合。クリエイターのとっては、これだけのために導入しても損はないというものだ。
オシロスコープは音の波形をリアルタイムに表示するものだ。
このようにPure Analyzer Essentialは本当に音を視覚的に見るための道具なわけで、音を作る多くの人たちにとって有用なツールだ。ただ、クリエイターだけでなくても、オーディオリスナーにとっても面白く使えるツールといえるのではないだろうか?
普段、FFTアナライザーを見ながら音楽を聴いている人も少なくないと思うが、これだけさまざまなグラフを見ながら聴くと新しい発見もありそうだ。プラグイン経由でないと分析できないのが難点ではあるが、オーディオインターフェイスを介せばCDプレーヤーでも接続できてしまうので、利用の仕方はいろいろと考えられる。ネットワーク経由で別のPCに表示できるというのも便利なので、興味のある方は試してみてはいかがだろうか?