藤本健のDigital Audio Laboratory

第813回

ACアダプタ不要で6入出力、USBオーディオ「KOMPLETE AUDIO 6 MK2」の実力

ドイツ・ベルリンのメーカー、Native Instrumentsから6IN/6OUTで最高192kHz/24bitまで扱えるオーディオインターフェイス「KOMPLETE AUDIO 6 MK2」が発売された。アナログ4IN/4OUT、デジタル2IN/2OUTという仕様の、USBバスパワーで動作するブラックボディのスタイリッシュなオーディオインターフェイスだ。

KOMPLETE AUDIO 6 MK2

「DCカップリング対応」により、オーディオ出力端子から直流電圧を出力が可能というのもユニークな点で、この直流の信号を利用することで、アナログシンセサイザもコントロールできる、としている。価格はオープンプライスで、実売価格は25,800円前後。このKOMPLETE AUDIO 6 MK2のオーディオ性能テストも行なったので、どんな機材なのか紹介しよう。

USBバスパワーで6入出力。デジタル接続も

DTMをしている方であれば、誰でもよく知っているソフトウェアメーカーであるNative Instruments。1996年創業の同社は、ソフトウェア音源メーカーとして成長してきて、膨大なソフトウェア音源をセットにしたKOMPLETEは、業界標準のツールといっても過言ではない。一方で、TRAKTORはPCDJという世界を切り開き発展してきたソフトウェアだし、MASCHINEはサンプラー・ドラムマシンの進化系ともいえるシステムであり、この音楽ソフトウェアの分野において大きな影響をもたらしてきたメーカーだ。

そのNative InstrumentsはTRAKTORのコントローラーやMASCHINEのコントローラーとして専用ハードウェアを出してきたが、2011年に初のオーディオインターフェイスとなるKOMPLETE AUDIO 6をリリース。先日発売されたのは、その後継製品で、型番自体はKOMPLETE AUDIO 6と変わらないが、機能もデザインも大きく変化し、新たにリリースされたのだ。

KOMPLETE AUDIO 6の機能とデザインを一新

個人的に「これはいい」と思った最初のポイントは、6IN/6OUTあるのにUSBバスパワーで動作するという点。数多くのメーカーが出している2IN/2OUTのオーディオインターフェイスなら、どれもがUSBバスパワーで動作するが、4IN/4OUTを超えると、ほとんどがACアダプタを必要とする。たとえばSteinbergのUR44、RolandのRubix44、TASCAMのUS-4x4、FocusriteのScarlett 6i6 G2、PreSonusのStudio 68c……そのどれもがACアダプタを必要としている。これは好みの問題ではあると思うが、やはりACアダプタが必要ないほうが、取り回しは楽で、個人的には好き。もちろん、マイクプリアンプを4つ以上搭載し、コンデンサマイク用のファンタム電源を4つ用意するとなると、USBからの電力供給だけでは追い付かず、ACアダプタが必要になるのは仕方ないところ。しかし、このKOMPLETE AUDIO 6 MK2はマイク入力を2つに絞ることで、USBバスパワーでの動作を実現させていたのだ。

もう一つ気に入ったのはKOMPLETE AUDIO 6 MK2がS/PDIFのデジタル音声入出力を備えているという点。最近、S/PDIF搭載の機材が減ったような気はしているが、それでもデジタルオーディオの基本的入出力であり、この連載の実験などでもS/PDIFを使うケースは多い。しかし、上記の4IN/4OUT程度の手ごろなオーディオインターフェイスでS/PDIF対応のものがほとんどなくなっているのだ。そのため、先日のBluetoothの実験においてもわざわざ、現行機種ではない古い製品であるRolandのUA-101というものを引っ張り出してきて使ったというのが実情。

ハイエンド機になるとS/PDIFは健在ではあるものの、音質劣化させずに外部とのやりとりができるという点で、ローエンド機にこそ取り入れてほしいというのが筆者の思い。KOMPLETE AUDIO 6 MK2は、それに応えてくれるオーディオインターフェイスだ。ちなみに、ここに搭載されているS/PDIFはコアキシャル(同軸)であり、オプティカル(光)には非対応。またコアキシャルであるため、最高で192kHzのサンプリングレートでの入出力も可能になっているのだ。

では、実際にその入出力端子を見ていこう。まずフロントの左にある2つがマイクプリアンプ内蔵で、マイク接続も可能なアナログ入力。それぞれ右上にLINE/INSTの切り替えスイッチが用意されており、これでライン入力か、ギターなどのハイインピーダンス機材の接続かを切り替えるようになっている。またコンデンサマイクを接続してファンタム電源を必要とする場合は、フロントパネル中央下にある48Vと書かれたボタンを押す。

前面の入出力端子

一方、右側にはヘッドフォン出力が2つ用意されている。これは、どちらも同じソースが出力されるのだが、音量に関しては上のノブを使って独立してコントロールすることができる。このヘッドフォンに出力されるのはPCからの出力のうち1/2ch。またアナログ入力の1/2chまたは3/4chをダイレクトモニタリングすることも可能で、どちらを出力するかは左上の1-2/3-4のスイッチで切り替える。またPCからの出力とダイレクトモニタリングのバランスは左のINPUT/HOSTのノブで調整する形だ。なお、前モデルのKOMPLETE AUDIO 6ではスイッチによってPCの1/2chを出力するか3/4chを出力するかを切り替えることができたので、ここは大きな仕様変更といえる。

続いてリアを見てみると、一番右にあるのがアナログ入力の3/4chでTRSのライン入力となっている。その左に4つあるのがアナログ出力の1~4chで、いずれもTRSのライン出力。この中の1/2chがメイン出力となっており、そのレベルはトップパネルにある大きなボリュームノブでコントロールできるようになっている。

背面
TRSのライン入力など

ちなみにトップパネルの左側にはLEDによるレベルメーターが用意されているのも、KOMPLETE AUDIO 6 MK2の特徴の一つ。これはアナログ入力の1~4chおよび、アナログ出力の1/2chが表示されるようになっており、いずれも5段階表示。信号が来ているか、レベルオーバーしていないかなどのチェックができるというのは、やはり大きい。

LEDレベルメーターを装備

その左にあるのがS/PDIFコアキシャル(同軸デジタル)の入出力で、これらが5/6chに当たる。これを使うことで、各種デジタル機器と音質劣化のないやりとりが可能になるわけだ。PC側からは1~6chの入出力とも同等にやりとりできるようになっている。さらに、その左にあるのがMIDIの入出力であり、DTM系においては、この機材ひとつでほぼオールマイティーに使うことができるわけだ。

同軸デジタル入出力が5/6ch
PC接続時の入出力

レイテンシーの測定結果も優秀

実際の音質はどうなのか。いつものように、各サンプリングレートにおける状況をRMAA Proを用いてテストしてみた。

44kHz/24bit
48kHz/24bit
96kHz/24bit
192kHz/24bit

44.1kHz~192kHz、どのサンプリングレートにおいても、傾向はほぼ同じ。SNや周波数特性は非常にいいが、THD=全高調波歪のみが普通という具合。波形を見てみるとTHD + Noise(高調波歪み+ノイズ)において、2倍音、3倍音、4倍音、と高調波が出ているのが気になるところだが、音をモニタリングする限りは非常にクリアなサウンドが出ているので、扱いやすそうだ。

では、レイテンシーはどうだろうか? これもいつものようにASIO Latency Test Utilityを用いて測定してみた。方法としては基本すべてバッファサイズを最小にして、入出力をループさせた状態で遅延時間を測るというもの。44.1kHzのサンプリングレートの場合のみ、バッファサイズ最小と、128 Samplesとの両方を測定している。

測定結果を見てみると、この価格レンジのオーディオインターフェイスとしては非常に優秀。というのもバッファサイズを最小で8 Samples(44.1kHzおよび48kHzのサンプリングレートの場合)にまで小さくできることが、この数字の背景にある。

128 Samples/44.1kHz
8 Samples/44.1kHz
8 Samples/48kHz
16 Samples/96kHz
32 Samples/192kHz

でも、本当に8Sampleでまともに動くのだろうかと思う人もいるかもしれない。筆者が持っている、第8世代のIntel Core i7 8700Kを搭載したWindows 10 PCで各種DAWを動かしたところ、まったく問題なく使えた。もちろん、数多くあるオーディオインターフェイスの中でトップクラスとまではいかないものの、4msec程度のレイテンシーであれば、かなり高性能であると言っていいだろう。

ところで、このKOMPLETE AUDIO 6 MK2はWindowsの場合、ドライバが必要だが、Macであればドライバをインストールする必要もなく、そのまま接続すればすぐにCore Audioドライバ対応のオーディオインターフェイスとして使うことができる。つまりUSBクラスコンプライアント対応の機材なわけだ。それならば、iOSでも使えるのではないかと、iPhone XSを接続して試してみた。

ただ、iPhoneと接続するならLightning-USBカメラアダプタが必須となるし、KOMPLETE AUDIO 6 MK2はUSBバスパワー動作させる機材なので、iPhoneからの電力供給だけで動作させるのは厳しいところ。そこで、ACアダプタからの電源供給を可能にするLightning-USB3カメラアダプタを使って接続してみた。その結果、何ら問題なく、あっさりと認識。iOS側のDAWから見て6IN/6OUTのオーディオインターフェイスとして使うことができた。

Lightning-USB3カメラアダプタ経由でiPhoneと接続
iPhone側でKOMPLETE AUDIO 6 MK2を認識した
iOSのDAWアプリなどでオーディオインターフェイスとして使えた

もう一つ実験中なのが、KOMPLETE AUDIO 6 MK2のDCカップリング機能を用いて、CV/GATE出力をして、外部のアナログシンセサイザなどをコントロールするという手法。実際試してみたところ、確かに動作することまでは確認できたのだが、いろいろ疑問に思うこともいっぱい。まあ、これはこのKOMPLETE AUDIO 6 MK2に限ったことではなく、オーディオインターフェイスでCV/GATE出力する場合に共通のことのようにも思うが、また改めてその検証結果をレポートする予定だ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto