藤本健のDigital Audio Laboratory

第815回

アンプ自作で、オーディオインターフェイスからアナログシンセを鳴らせるか実験

先日紹介した、Native Instrumentsのオーディオインターフェイス「KOMPLETE AUDIO 6 MK2」。実売価格25,800円前後と手ごろながら6IN/6OUTを装備し、USBバスパワーで動作するのが特徴だが、その記事では詳しく触れなかったもう一つのユニークな機能が「DCカップリング」というもの。これを使うと、アナログシンセサイザのコントロールが可能になるという機能だ。

「KOMPLETE AUDIO 6 MK2」でDCカップリングを試した

最近、このDCカップリングに対応したオーディオインターフェイスが複数メーカーから出てきているが、その具体的な使い方などはネットを調べてみても、ほとんど情報がないのが実情。測定や実験を重ねていくと、どんどん深みにハマっていく感じであったが、ある程度のことが分かってきたので、実際どのように活用できるかについて紹介しよう。

KOMPLETE AUDIO 6 MK2でアナログシンセをコントロールする方法とは

「オーディオインターフェイスでアナログシンセをコントロールするってどういうこと? 」と不思議に思う方も多いだろう。これはMIDIを使うのではなく、オーディオ出力端子からCV/GATE信号というものを出力し、これをアナログシンセに接続して利用するという考え方だ。CV/GATEの詳細は割愛するが、もっとも簡単な使い方はCV(Control Voltage)信号でPitch(音程)をコントロールし、GATE信号でキーのオン/オフをコントロールすることで、自動演奏するというもの。

ただ、そのCV/GATEの規格が統一されておらず、いろいろな仕様が混在しているのはややこしいところ。とはいえ基本となる考え方は、CV信号では0~5Vの電圧で制御し、1V上がるごとに1オクターブ上がる(一般にOct/Vと呼んでいる)形になっている。またGATE信号のほうは0Vでオフ、5Vでオンを表すスイッチとなっている。

今回のテーマであるDCカップリングとは、本来は電気回路の世界の用語であり、ACカップリングと対になるもの。オシロスコープの設定などでよく見かける言葉で、簡単に言うとAC(交流)とDC(直流)の両方を通すことを指す。オーディオインターフェイスがDCカップリングに対応しているということは、交流である普通のオーディオ信号だけでなく、直流信号を扱えることを意味する。

一般的なオーディオインターフェイスで直流を出力しようとしても、カットされて出すことができないが、DCカップリングに対応したオーディオインターフェイスであれば、これが可能になるのだ。オーディオインターフェイスによっては出力だけでなく、入力もDCカップリングに対応したものもあるようだが、今回はKOMPLETE AUDIO 6 MK2が対応している出力部にのみフォーカスを当てて見ていく。

KOMPLETE AUDIO 6 MK2

オーディオインターフェイスからCV/GATE信号を出力するためにはソフトウェアが必要。古くからMOTUのVoltaというソフトがあるほか、直近だとAbletonがCV Toolsというソフトをまもなくリリースすることをアナウンスしている。一方で、Native Instrumentsの開発ツールであるReaktorでも、CV/GATEを扱うことが可能となっているので、モジュールを組み合わせる形で、CV/GATEを出力できる8ステップの簡易シーケンサを構成してみた。

CV/GATEを出力できる8ステップの簡易シーケンサを構成

使ったのはReaktorのユーザーライブラリにあるBento Boxというシーケンサだが、これはC-2からC8まで10オクターブ分扱える仕様。オーディオインターフェイスのDCカップリングでの出力が0~10Vに対応しているのなら、これでうまく行けそうだが、実際どうなるのだろうか。KOMPLETE AUDIO 6 MK2のOUTPUT 1~4のすべてがDCカップリング対応となっているので、ここではPitchをOUTPUT 1に、GATEをOUTPUT 2に割り当てた上でこのシーケンサを動かしてみた。

もちろん、このOUTPUT端子をアナログシンセに接続しないことには、どうにもしようがない。普通にスピーカーをつないでいても簡単に壊れることはないと思うが、出力電圧が切り替わるたびに、バチッ、バチッとノイズが発生するので、やはりいいものではない。DCカップリング出力する前に、スピーカーにつながっていないことを確認しておくのがいいだろう。

今回は、つい先日購入したBehringerのNEUTRONというアナログシンセサイザにつないでみた。つまり、OUTPUT 1をNEUTRONのオシレーターのPitch入力へ、OUTPUT 2をNEUTRONのエンベロープ1のGATE入力へと接続した。

BehringerのNEUTRONに接続

実は、最初にどうすればいいだろうかと思っていたのが、接続に使うケーブルと配線方法。シンセサイザ側のパッチングには2芯のモノラルミニを使うのだが、KOMPLETE AUDIO 6 MK2の出力はTRSフォンのバランスになっている。今回はステレオ標準端子をステレオミニに変換するアダプタを介して、パッチング用のモノケーブルに接続。それをNEUTRONへと接続した。

標準端子とステレオミニ端子の変換するアダプタを介して接続

デフォルトで設定されていたシーケンスパターンは「G#1、A3、A1、C#7、F2、F3、G#2、D3」という構成。4番目のC#7だけはGATEがオフになっているので鳴らないはずだが、どうなるのだろうか。試してみると、シーケンサのスタートボタンを押しても、まったく反応しない。

シーケンスパターンは、G#1、A3、A1、C#7、F2、F3、G#2、D3

OUTPUTのレベルメーターを見ると、ちゃんと赤いランプがついているので、信号は出ているはずと思って、ボリュームノブを最大に回してみたら鳴り出した。これは、出力ボリュームの設定によって出力電圧が変化するようだ。その結果をビデオで撮影した。

ボリュームノブを最大に回すと鳴った
KOMPLETE AUDIO 6 MK2とBehringerのNEUTRONの接続デモ

確かに演奏はされているし、GATE信号は正しく動いているっぽいが、どう考えても音階がおかしい。ボリュームノブ左に回してを出力レベルを下げると、さらに音程の幅が狭まると同時に低くなり、ある程度までいくと、GATE信号も出なくなって演奏が止まってしまう。おそらくオーディオインターフェイスから出力される電圧が低く、ソフトウェア側が想定した電圧が出ていないので、こうなっているのだろう。試しにテスターでGATEがONのときの電圧を計ってみると約2V。これがKOMPLETE AUDIO 6 MK2から出せる直流電圧の最大値ということ。これではしっかりした音程で演奏されるはずがない。ただし、NEUTRONのGATEは2Vでも電圧がくれば開くようだし、実際のしきい値は1V程度のようだった。

GATEがONのときの電圧は約2Vだった

さらにディープな実験にチャレンジ

ここで実験を終了してもよかったのだが、ついいろいろと探求心が出てきて深みにはまっていった。まず、試してみたのがパッチングケーブル。TRSのバランスをTSに変換していたので、グランドを使わずに、位相が逆のHot端子とRing端子で信号をとれば、電圧が倍になるのではないか、と。そんなケーブルはないので、秋葉原で端子やケーブルを買い、はんだ付けして特製ケーブルを自作した。

秋葉原で買ったパーツでケーブルを自作

グランドを取らないのは、不安定になって危険かなとは思いつつも、試してみると、確かに音程は上がったし、ピッチレンジも広がった。しかし、やはりグランドを浮かしてしまっているのは大きな問題だった。オーディオケーブルの接続などをすると、突然音程が下がってしまうなど、おかしな現象が起きてしまった。やはり、この接続はやめたほうがよさそうだ。

ここでケーブルは元に戻したうえで、試しにオシロスコープを使ってGATE信号を見てみると、OFFの電圧が0.04V、ONが2.16Vと、テスターで測ったのとほぼ同様の結果が確認できる。

元のケーブルに戻して、オシロスコープを使ってGATE信号を測定

さらにシーケンスパターンを最低音のC-2から最高音のC8まで変化させるものにした上で測定してみた。やはりソフト的には0~10Vの変化を想定しつつも、0~2Vまでしか出せないようになっている。これは何としてもReaktorのシーケンサ側で0~2Vが出力される形で組めばうまくいのではないかと思うが、勉強不足でそのプログラムがすぐに組めない。

シーケンスパターンを最低音のC-2から最高音のC8まで変化させるようにして測定

一方で、それができたにせよ、0~2Vというのでは2オクターブしか表現することができず、レンジが狭い。なんとかもう少しレンジを広げたく、できれば0~5V程度にはしたいところ。そんな方法はないものだろうか。ネットで検索してもまったく見つけられなかったので、アナログシンセサイザに詳しい知人何人かに当たってみたが、明確な回答を得られなかった。

こうなったら、電圧変換コンバータを自分で作るしかないだろうと決心。オペアンプを使えばできそうだが、それこそ直流を突っ込んで、直流を出す回路って、どうすればいいのか、どんなオペアンプを使えばいいのか、さっぱりわからない。そこで、頼みの綱として当たってみたのがbeatnic.jpの代表、武田元彦氏。beatnic.jpはCV/GATE-MIDIコンバータや各種シンセサイザを改造するキットなどオリジナル製品を開発し、国内外に販売しているメーカーだ。

beatnic.jpの武田元彦氏に相談した

連絡した翌日には、そのための回路図を作成し、簡単な使い方などとともにFacebookメッセージで送ってくれた。見たところ、オペアンプを使ったシンプルな増幅回路のようなので、万能基板を使って組み立てれば、できそうな気がする。武田氏に確認したところ、自分で作った回路だから著作権的にも問題はないし、教科書通りの回路だから、公開しても問題ないと言っていただけた。その回路図を掲載する。

武田元彦氏に作成していただいた回路図

この回路図を元に部品表を作って、秋葉原に行き、一通りの材料を買いそろえてきた。オペアンプ自体は1個100円もしないのだが、基板上にミニジャックを実装したかったので、そのための部材が思いのほか高かったこと、抵抗を1本単位で買うのが面倒で100本単位で買ったことなどから、トータル2,000円以上もかかってしまった。

秋葉原で一通りの材料を買いそろえた

アンプ自作で演奏に成功!

部材は買ってきたものの、なかなか取り掛かる時間と心の余裕がなく、数週間経ってしまったが、思い切って組み立てを開始した。

組み立てを開始

Input 1~Output 1、Input 2~Output 2という2系統があるが、CV信号さえ変換できればいいので、とりあえず1系統だけを配線してみたのだ。ただ、学生時代と違って老眼の目に細かなはんだ付けはなかなか難しく、一発で動いてくれない。テスターで信号を追いながら、ミスを見つけつつ、半日がかりで完成した。

テスターで信号をチェックしながら、半日かけて完成

試しにこのInput 1にKOMPLETE AUDIO 6 MK2からのGATE信号を入れてみると、電圧が大きく上がった。このアンプのボリュームノブを動かすと増幅率が変わるのだが、テスターで見ると、最低で約4V、最高で8Vとなっている。

テスターで見ると、最低で約4V、最高で8Vとなっていた

オシロスコープで、GATE信号およびCV信号をこのアンプ回路にかけてみると、ちゃんと増幅できていることが確認できる。このボリューム調整で最大を5Vにするとともに、Reaktor側も5オクターブの設定に変更できれば、なんとか演奏ができそうだ。

GATE信号
CV信号
増幅されていることを確認

もちろん、正確なピッチにするには微妙な調整が必要だし、キチンと安定させられるかどうかは疑問の残るところだが、これでなんとかオーディオインターフェイスを使ったアナログシンセのコントロールが可能になりそうだ。

ソフトウェア側の調整はしていないが、冒頭で行なったKOMPLETE AUDIO 6 MK2とNEUTRONの接続の間に、この作ったアンプを接続して、演奏させてビデオで撮影した。ボリュームを調整するとピッチが大きく変わっていくことも分かるだろう。

KOMPLETE AUDIO 6 MK2と自作アンプの演奏デモ

だいぶ苦労はあったが、これだけ実験してみるとだいぶ分かってきた気がする。プログラムや電子工作なども伴うので、面倒ではあるが、興味があれば、MIDIを使わないコンピュータとアナログシンセの競演を試してみてはいかがだろうか?

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto