藤本健のDigital Audio Laboratory

第833回

TASCAM新USBオーディオ「SERIES」の進化点とは? 音質測定結果も良好

今年7月にティアックのTASCAMブランド製品として発売されたUSBオーディオインターフェイス「SERIES 208i」と「SERIES 102i」。見た目のデザインは従来モデルのUS-2x2やUS-4x4とソックリだが、中身はまったくの別モノで、USシリーズの上位モデルに位置づけられるとのこと。オーディオ性能やレイテンシーなどをチェックしたので紹介しよう。

SERIES 208i(左)、SERIES 102i(右)

サイズは従来機と同等、マイクプリアンプ20/10ch入力対応に進化

TASCAMのSERIES 208iとSERIES 102iはTASCAMのオーディオインターフェイスとしてハイグレードに位置付けられる製品だ。実売価格も20in/8outの208iが44,800円前後、10in/2outの102iが34,800円前後。102iと見た目がソックリなUS-2x2が10,000円程度なのに比べると、だいぶ高めの価格設定になっている。

SERIES 102iとSERIES 208iのサイズ比較
従来機US-2x2(左)と、新しいSERIES 102i(右)

ティアックによると、SERIES 208iおよび102iでは高品位なUltra-HDDAマイクプリアンプを内蔵するとともに、回路全体も新たに設計し、US-2x2やUS-4x4と比較して低ノイズなものになっているとのこと。また、デジタル回路も新しくなり、US-2x2やUS-4x4では96kHzまでだったものが192kHzにまで対応。そしてDSPも搭載したことで、入力チャンネルごとにEQ、コンプを設定できるほか、リバーブも搭載し、高性能化を図っているという。

また、大きさや見た目がソックリなのにUS-2x2が2in/2outであるのに対し、SERIES 102iが10in/2outになっているのを不思議に感じる人も少なくないと思うが、SERIES 102iのフロントはUS-2x2と大きく変えずに、リアパネルにUS-2x2にはないオプティカル入力があるのがポイント。これはS/PDIFではなく、ADATの拡張版であるS/MUXに対応したものであり、これを通じて8chの入力ができるため、アナログ2in/2outとの合計で10in/2outとなっているわけだ。

SERIES 102iの前面
SERIES 102iの背面

一方のSERIES 208iにはフロントに4つのコンボジャック入力があるほか、リアにオプティカル入力が2つあり、8x2=16を加えて20in。出力はすべてアナログラインアウトが8つ並んでおり、トータル20in/8outという仕様になっているのだ。また102i、208iともにMIDIの入出力が搭載されているほか、208iのほうにはワードクロックの入出力も搭載。これを使って外部のデジタル機器と同期可能になっている。

SERIES 208iの前面
SERIES 208iの背面

なお、前述のS/MUXを活用するためには、それに対応した機材が必要になる。TASCAMではSERIES 8p Dynaという8chのコンプレッサ搭載のマイクプリアンプを製品化しており、これと連携可能になっている。ティアックによれば同じ「SERIES」製品だが、搭載マイクプリアンプの性能は208i、102iのものより優れているとのことだ。

SERIES 8p Dyna

なお、US-2x2の場合、USBバスパワーで駆動したが、SERIES 102iはオプティカル入力があり、DSPも搭載しているためか、バスパワーだけでは動作せず、付属のACアダプタで電源供給する必要がある。

最大20in/10outで、複雑な設定も可能に

SERIES 208iと102iは、ともにUSBクラスコンプライアントなデバイスであるため、Windows 10でもMacでもドライバ不要で使えるようにはなっているほか、iPhone/iPadでもLightning-USBカメラアダプタがあれば利用することが可能だ。

ただし、WindowsでASIOドライバを利用するためにはTASCAMサイトから「Setting Panel for Windows(ドライバを含む)」というものをダウンロードしてインストール必要がある。もっともMac用にも「Setting Panel for macOS」というものがあり、ここにはドライバは入っていないものの、SERIES 208iおよび102iを使う上ではほぼ必須となっている。

では、WindowsにSetting Panelをインストールした状態で、USB接続し、電源を入れるとどうなるか、主にSERIES 208iを例に見ていこう。

SERIES 208iも102iも、SteinbergのDAWであるCubase LEが付属しているが、そのCubaseからは、20in/10outのオーディオインターフェイスとして見える。208iというくらいだし、スペックにも20in/8outと書いてあるのになぜ? と思ったが、実はこれがDAW側から見た仮想的な入出力ポートとなっており、かなり複雑なことができるようになっている。それをコントロールするのが先ほどインストールしたSetting Panelで、ROUTINGというタブを見ると、そのルーティング状況が確認できるとともに、ある程度ルーティングの変更も可能になっている。

Cubase LEから見たSERIES 208i
ルーティングの画面

画面の右側に並ぶLINE OUT 1~8が実際のアナログ出力なのだが、そこに何を割り当てるかを自由に設定できる。先ほどのCubaseで見えたら10の出力ポートは、画面右上のComputer BUSに相当しており、ここにもあるとおり1~10のポートがあるわけだが、それをどう出力するかは設定によって変わってくる。ちなみにMonitor Selectという設定を利用することで、モニター出力される信号のバランス調整もできるようになっている。

LINE OUT 1~8への割り当てを設定可能
モニター出力の調整も

さらにMIXERタブを開くと、ズラリと20chのミキサー画面が出てくる。これはS/MUXを含めた全20inが見えており、その調整ができるようになっているのだ。見てみると分かる通り、チャンネルごとに独立してEQおよびコンプレッサが用意されているが、これらを設定すると、それがかかった状態でPC側に入力される、いわゆる掛け録り状態となる。

MIXERタブ

では、ここに並んでいるフェーダーやPANなどは何をするためのものなのかというと、ミックスコンソールとなっており、ミックスした結果が、MASTERとしてまとめられる。そして、先ほどのルーティング設定の画面でMASTERと設定したところから出力できる。

この際、AUX1としてリバーブも利用できるようになっており、これもDSPで動作するためPCのCPUパワーを消費することなく、モニターバックにリバーブを活用できるのだ。ただし、これはMASTERへ出力するためであって、EQやコンプレッサのように掛け録りに使うものではない。

なお、SERIES 102iでも同じようにROUTING、MIXERタブが存在しているが、見ると分かる通り、基本的に同機能ではあるがチャンネル数が少ない分、少しシンプルになっている。

SERIES 102iでの設定画面

機能だけでなく音質も好成績

SERIES 208iを、いつものようにRMAA Proを使ってオーディオ性能のテストを行なった。44.1kHz~192kHzの各サンプリングレートで試した結果が以下のものである。これを見ても分かる通り、SNがよく、周波数帯域も広く、ダイナミックレンジも大きく、非常に高性能という結果が出た。以前チェックしたUS-2x2のものとはかなり違うものとなっているのが分かる。

44.1kHz
48kHz
96kHz
192kHz

では、レイテンシーのほうはどうだろうか? 実は、これもUS-2x2などと違うというか、他社のオーディオインターフェイスと比較してもユニークな点がある。それは、バッファサイズを4 Samplesまで縮めることができるのだ。このバッファサイズは先ほどのSettings PanelのINFORMATIONのところで設定するが、ここまで小さくなるものは、他で見たことがない。もちろん、4 Samplesまでにすれば、その分CPUパワーを使うことにはなるが、最近のCPUであれば、これでもほぼ問題なく動作するようだ。

設定のINFORMATION表示

というわけで44.1kHz~192kHzの各サンプリングレートで4 Samplesにしてレイテンシーを計測するとともに、他との比較のため44.1kHzにおいては128 Samplesでもチェックしてみた結果が以下の通りだ。

128 Samples、44.1kHz
4 Samples、44.1kHz
4 Samples、48kHz
4 Samples、96kHz
4 Samples、192kHz

これを見た限り、4 Samplesだからといって、他を圧倒するほどの低レイテンシーとまではいかなかったが、それでも192kHzで4.81msecはとてもいい値ではある。実際どのくらいに設定するかは、どんなCPUを持ったPCで利用し、どれだけの負荷をかけるかにもよると思うが、このTASCAMのSERIES製品は、この価格帯のモデルとしてはかなり高機能、高性能なオーディオインターフェイスといえそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto