藤本健のDigital Audio Laboratory

第845回

48kHz/24bit×8ch伝送「adat」はビットパーフェクト出力できるか? 実験してみた

1本のケーブルで、48kHz/24bit信号を最大8チャンネル伝送できるデジタルオーディオ端子「adat」

マルチポートのオーディオインターフェイスの多くに搭載されているadat端子。これはS/PDIF(光デジタル音声)と同じTOSLINKのオプティカルケーブルを使って接続するデジタルオーディオ端子で、1本のケーブルで最大8チャンネルを伝送できるというもの。実際にこのadatを活用している人はあまり多くないようにも思うが、筆者も普段あまり使うことはないのが実情。でも、デジタル端子なのだからノイズレスで劣化なくデータ伝送できるはず。でも実際本当にビットパーフェクトを実現できるものなのか、ふと気になって試してみた。

デジタルオーディオ伝送規格として広く使われているadatは、1990年代から存在するかなり古い規格。もともとは米Alesisが出したADATというS-VHSのビデオテープに、8chのオーディオをデジタルレコーディングするための機材に搭載された同社考案の伝送システムだ。筆者の手元にも1996年に発売されたADATの改良版、ADAT-XTがあるが、このADAT同士を接続するために生まれたものなのだ。しかしADATなき後も多くのメーカーがこれを利用するようになり、現在も幅広く使われているのが現在のadatである。

筆者所有のadat-XTシステム

S/PDIFオプティカルと同様、一方通行の通信であり、送り手から受け手へ1本のケーブルで8chの信号を送ることができる。この際、44.1kHzまたは48kHzのサンプリングレートでビット解像度は16bitまたは24bitが利用可能。つまり最大で48kHz/24bit×8chを伝送できるわけだ。その後、2ch分の信号を束ねたS/MUXという規格が生まれ、これを使うことで96kHz/24bitを送ることも可能になった。この場合は同時には4chとなり、さらにその4ch分を束ねて192kHz/24bitの伝送も可能になっている。ちなみにTOS LINKは使っているがS/PDIFとは互換性がない。そのため多くの機材ではS/PDIFとadatの排他的切り替えを使って兼用としている。

そのadatの最近の使い方としては、8chのマイクプリアンプとオーディオインターフェイスをadatで接続し、オーディオインターフェイスのマイク入力端子を増やすという使い方や、オーディオインターフェイスを連結させてポートを増やす…といった利用法だ。

今回手元にあった、3台のadatに対応オーディオインターフェイスを使ってちょっとした実験を行なってみた。それは、1本のオプティカルケーブルだけでadatを接続し、本当に8chのデータのやりとりができるのかということ。そして実際に受け取ったデータはオリジナルと比較して完全に同じなのか、というものだ。

機材としてはPreSonusのSTUDIO 1824c、STUDIO1810cとSteinbergのUR816Cの3つ。STUDIO 1824cおよびUR816Cはadatの入出力端子を1つずつ備えているのに対し、STUDIO 1810cはadat入力だけを備えているという機材だ。

検証用機材としてPreSonusのSTUDIO 1824c、STUDIO1810cとSteinbergのUR816Cの3つを使用した
背面のインターフェイス部

1本のオプティカルケーブルで8ch伝送できるかを確かめる

さっそく試してみたのは、UR816Cのadat出力をSTUDIO 1810cのadat入力に接続し、48kHz/24bitのステレオトラックを4つ分、計8chを送るというもの。ここでは2台のPCを用意し、UR816Cを接続したほうではCubase Pro 10.5を起動。もう1つのPCにはSTUDIO 1810cを接続するとともに、Studio One Professional 4.5を起動。ここでCubaseを再生しても、やはりすぐにSTUDIO 1810c側に音を届けることはできない。いくつかの設定が必要になる。

UR816Cのadat出力をSTUDIO 1810cのadat入力に接続

まずはUR816Cでadatが使えるように、Digital ModeをS/PDIFからadatに変更する。続いてUR816CとSTUDIO 1810cのサンプリングレートを適合させる。Cubase側で48kHz/24bitのフォーマットで出しているので、Studio Oneも同じように48kH/24bitに設定するのだ。

Digital ModeをS/PDIFからadatに変更
Cubase側と同じくStudio Oneも48kH/24bitに設定

STUDIO 1810c側のクロックは送り手側に合わせる必要があるので、内蔵からadatに切り替える。基本的にこれで接続されているはずなので、続いてCubaseの各トラックをadatの各チャンネルに出力されるように割り振った。

STUDIO 1810c側のクロックを内蔵からadatに変更
Cubaseの各トラックがadatの各チャンネルから出力されるように割り振る

Studio One側はCubaseからの8chの信号、正確にはステレオ2chx4トラックをそのまま受け取れるように4つのステレオトラックを作成。そして、その入力をSTUDIO 1810cの各adatのチャンネルになるように設定する。これで準備完了で、Cubaseを再生すればStudio Oneに音が届くはずだ。

が実際やってみると、接続ミスや設定漏れなどがあって、音が出てくれない。Cubase側をループ再生しながら1つ1つチェックしていったところ、ようやくSTUDIO 1810cで音が出てくれたのだが、なぜか完全に音割れしているのと同時に、8つのチャンネルすべてに同じ音が出ている。おかしいと思って、UR816Cの出力ルーティングを見たら、adatへの出力が、内部ミキサーを通した音になっていたので、直接信号が届くようにルーティングを変更。これによって、ようやく無事接続された。STUDIO 1810cのミキサー画面を見ても、adatの各チャンネルごとに音が届いているのが分かる。

STUDIO 1810cの入力を各adatのチャンネルになるよう設定
UR816Cの出力を変更
STUDIO 1810cのミキサー画面。音を確認

ちなみに、STUDIO 1810cのクロックはadatにしたが「adat ロックなし」となっているため、adatからの信号のサンプリングレートなどが合致しなくても動いてしまう。またMTCやMMCなどでスタート・ストップの同期はさせていないので、あらかじめStudio One側の録音をスタートさせてから、Cubase側の再生をスタートする。これによって、Cubaseで再生した音が完全な形でStudio Oneに入ってくる。改めて再生してチェックしたところ、ノイズなどもまったくなく、まさにデジタル接続という形でしっかりと伝送されているようだ。

Studio One側の録音をスタートさせてからCubase側の再生をスタート
Cubaseで再生した音がStudio Oneに入力された
デジタル伝送を確認

adatはビットパーフェクト伝送できるかを確かめる

本当にオリジナルと同じであるかを確認するために、録音したトラックを取り出して、ビットbyビットのチェックをしてみることにする。

通常、DAWに記録された各トラックからオーディオを取り出すにはバウンス機能を用いるが、バウンスすると内部のミキサーなどを経由して音が変質してしまう可能性がある。そこで、Studio Oneデータの保存先のフォルダを確認してみたところ、Mediaというフォルダがあり、その中にトラック1.wav、トラック2.wav、トラック3.wav、トラック4.wavと4つのファイルがあった。再生してみると、まさに録音した各トラックの音だったので、これを使って比較してみることにした。

Mediaフォルダ内のwavファイルを使用した

ビットbyビットの比較に用いるのは、いつも活用させていただいているefu氏のWaveCompare。ところが、このStudio Oneで記録されたwavファイルにはプロパティ情報が入っていないようで、WaveCompareにはWAVファイルとして認識されない。

仕方ないので、いったんSound Forgeで読み込んだ上で別ファイル名で保存。その上で比較してみたが、トラック1で比較してもトラック2で比較しても合致しない。試しに、「一致点を探す」というオプションにチェックを入れて比較しても、やはり一致点が存在しない。見た感じ、聴いた感じ完璧にデジタルコピーされたと思ったが、どうも完全にはうまくできていないようなのだ。

なぜか比較しても合致しない

考えられるのは、CubaseとStudio Oneという2つのDAWを介していることで、それぞれのDAWがトラックからadatへ、またadatからトラックへと送る間で何等かの処理をしている可能性だ。設定上は何もしていないはずだが、DAWの内部ミキサーを通すからエフェクトなどは使っていなくても何かが変わってしまっている可能性が高い。

そこで試してみたのは、そうした内部ミキサーを通さずに直接データのやり取りができる波形編集ソフトであり、このDigital Audio Laboratoryでもいつも使っているMAGIXのSound Forgeだ。ここでは、Sound Forge Pro 13を使い、UR816CからSTUDIO 1810cへ送ることにした。

ところが、ここでまったく別の問題が発生。送り手側のSound Forgeの動作が不安定になり、まともに動いてくれないのだ。ここで思い出したのはSound ForgeとSteinbergドライバの相性問題。そういえば、以前にもトラブって、オーディオインターフェイスを違うものに変更したことがあったが、UR816Cもやはりダメだったのだ。

【4月10日追記】3月5日リリースのドライバ「Yamaha Steinberg USB Driver V2.0.3」をインストールすることで相性問題は解決するとのこと。ただし、このドライバはUR22mkII用にのみリリースされているので、これをダウンロードの上、上書きインストールすることで正常動作するようだ。

今回の実験では、送り手側のオーディオインターフェイスをUR816CからSTUDIO 1824cに変更。STUDIO 1810cはadatの入力だけだがSTUDIO 1824cはadatの入出力を備えているので、これの出力側を使ったのだ。手順は少し異なるが、先ほどと同じようにして、STUDIO 1824cからadat 1-2chに信号が送れるようにし、受け手側のSound Forgeも同様にadat 1-2chの信号を録音できるように設定。ちなみに、STUDIO 1824cの内部ミキサーを介さないように、ミキサーをバイパスさせている。

STUDIO 1824cからadat 1-2chに信号が送れるように設定
ミキサーをバイパスさせる

adatなので48kHz/24bitの素材でテストしてみたところ、受け手側のSound Forgeでしっかりと録音することができ、再生しても完全な形のように思える。今度こそはドンピシャにビットパーフェクトが実現できるはず、とWaveCompareで比較してみたのだが、やはりここでもうまくいかなかった。送り手側も受け手側もオーディオインターフェイスの内部ミキサーはオフにしているし、ASIOドライバを使っているので、途中で変質することはないはずなのだが……。

もしかして48kHz/24bitだったからなのではと思い、44.1kHz/16bitの素材を利用し、サンプリングレートの設定なども変更して同じことを繰り返してみたが、結果は同じだった。

48kHz/24bitの素材でテストした
Sound Forge側で録音できていることを確認
しかしここでも合致せず

今回のロスレス伝送実験は一旦持ち越し。デジタル接続の検証価値はありそう

今回はほかの機材がないのでいったんお手上げ。これをもってadatはビットパーフェクトを実現できない規格だというつもりはないし、本来そんなことはないはずだ。ただ、S/PDIFでもときどきビットパーフェクトを実現できない機材はあるので、UR816CかSTUDIO 1810c、STUDIO 1824cのいずれか、もしくはそれぞれが内部でデータを変化させてしまっている可能性がある。ドライバ側の問題かもしれないし、いろいろ試したつもりではあるが、筆者の設定の仕方に何か問題があった可能性も否定できない。

機会があれば、別のハードウェアを用いて改めて実験してみたいとは思っているが、一筋縄ではいかない可能性もありそう。デジタルオーディオ伝送はS/PDIF、adatのほかにも、Ethernetを介すDanteやMADIなどさまざまなものがあるが、しっかりつながってノイズがなく音がよかったとしても、接続や設定などによっては、全てビットパーフェクトが実現できているかまでは断定できない。どのソフト、どのハード、どのような設定をすれば完全なロスレス伝送ができるのか、試しておく価値はあるのかもしれない。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto