藤本健のDigital Audio Laboratory

第888回

約5,000円から買えるUSBオーディオ「M-Track Solo/Duo」は入門機にピッタリ!

M-Audio「M-Track Duo」(写真手前)と、「M-Track Solo」(奥)

2020年はコロナ禍の影響で国内外問わずオーディオインターフェイス需要が急増し、どの製品も品不足に陥った。モノによっては中古品がオークションなどで新品より高い値段で売買されるなど、かなり混乱もあったが、2021年に入ってからは落ち着きを取り戻し、普通に入手できるようになってきた。

このようなタイミングで発売された新しいオーディオインターフェイスの中で、ちょっと注目を集めたのがM-Audio「M-Track Solo」と「M-Track Duo」だ。

機能的には至って普通のオーディオインターフェイスなのだが、税抜きの実売がSoloで5,000円、Duoで6,000円とズバ抜けて安いのだ。まさにエントリー用としてピッタリというものなのだが、果たしてこの値段で本当にマトモに使える製品なのだろうか? オーディオ性能やレイテンシーなどをチェックしてみた。

コンパクトで軽量なボディ。対応レートは最大48kHzまで

1998年に設立されたM-Audioは、オーディオインターフェイスのメーカーとしては、老舗中の老舗。Digital Audio Laboratoryでも何度も取り上げてきたメーカーでもあり、古くは「FireWire 410」や「Audiophile 2496」など、大ヒットした製品も数多い。

ただ、会社や資本という面でみると、M-Audioはこれまで大きな変遷があり、現在の状況は3番目の形態に当たる。

設立当初はMidimanというMIDIインターフェイスのメーカーだった。そのMidimanが出したオーディオインターフェイスブランドが“M-Audio”であり、その後M-Audioへ社名を変更した。Firefire 410やAudiophone 2496などはこの時代の製品だ。

しかしM-Audioは2005年にAvid Technologyに買収され、Avidのブランドとなった。Pro Toolsを開発・販売するDigidesignが先にAvidに買収されていたが、M-AudioはそのPro Toolsを利用するための安価なオーディオインターフェイスとして展開されたため、M-Audioのオーディオインターフェイスを購入すると、Pro Tools M-Poweredというのがバンドルされた。

2012年、AvidはM-AudioをinMusic Brandsに売却。これによりM-AudioはAvidからinMusicのブランドになった。現在inMusicは、AKAI Professional、ALESIS、DENON Professional、marantz Professional、Numarkなど、数多くのブランドを持っているが、M-Audioはその一つ。つまり会社としてはあくまでもinMusic Brandsというわけだ。

M-Audioのほか、AKAI Pro、ALESIS、DENON Pro、marantz Proなど、さまざまなブランドを抱えている

今回取り上げる「M-Track Solo」「M-Track Duo」は、今年2月に発売されたばかりの新製品だ。先日もM-Audio「AIR 192」というオーディオインターフェイスを取り上げていたが、今回の製品はそのAIR 192の下位シリーズに位置づけられている。

M-Track Solo
M-Track Duo

AIR 192|6と並べてみると、雰囲気の違いを感じていただけるだろうか? 大きさ的にはそれほど違わないのだが、AIR 192|6はメタリックボディであるのに対し、Solo、およびDuoは樹脂製ボディで圧倒的に軽量なのだ。

またUSB Type-C接続でUSB 2.0規格のAIR 192|6に対し、M-Track SoloおよびDuoはいずれもUSB Type-B接続でUSB 1.1規格となっている。そのため、サンプリングレートはAIR 192|6が192kHzまで対応するのに対し、Solo/Duoの2機種は44.1kHz、もしくは48kHzに限定されるなど、ロースペックとなっている。

では、SoloとDuoの違いはどこにあるのか。見比べてみると非常に似たデザインではあるが、大きさも少し異なり、入出力にも違いがある。

フロントパネルを見ると、Soloは左にコンボジャック入力があり、XLR入力ならマイク、フォン入力ならライン入力となっていて、ラインはTRSのバランス入力に対応する。TRSの隣にはフォン入力があるが、スイッチでライン入力とギター入力が切り替えられるようになっている。また右側にはミニジャックでのヘッドフォン出力を備える。

Soloの前面

対するDUOの入力は、左右ともにコンボジャックなのだがSOLOのものとは異なり、フォン入力の場合はラインとギターの切り替えが可能で、オールマイティな入力となっている。また右側のヘッドフォン出力は標準ジャックだ。

Duoの前面
Solo(写真上)とDuo(下)の前面比較

リアを見てみると、SoloもDuoもUSB端子とメイン出力だが、SoloはRCAピンジャックであるのに対し、Duoはフォンジャックになっていた。スペック表を確認してみたところ、このフォンジャック出力はTRSのバランス出力となっていたので、Duoのほうが音質に配慮した設計になっているようだ。

Soloの背面
Duoの背面
Solo(写真上)とDuo(下)の背面比較

トップパネルを比較すると、Soloには3つのノブがあるのに対し、Duoは4つある。左側2つは共に入力のゲイン調整だが、Soloの右側ノブは「OUTPUT」でメイン出力、ヘッドフォン出力共通のレベル調整になっている。対するDUOは、ヘッドフォン専用の出力レベル調整と、メイン出力用のレベル調整が独立して搭載されている。

またDUOの出力は、USBからの信号を出力するか、コンボジャックからの入力信号をそのまま出力するダイレクトモニタリングを選ぶか、を切り替えるスイッチがあり、これをモノラルにするかステレオにするかの設定も可能だ。たとえば1chにマイクを接続してボーカルを入れた場合、モノラル設定になっていれば、ボーカルがセンターに定位するのに対し、ステレオにすると左チャンネルからのみ音が聴こえる、という形になるわけだ。

Solo(写真手前)とDuo(奥)のトップパネル比較

あまり大きな特徴のあるオーディオインターフェイスではないけれど、一つユニークに感じたのはSoloの入力。

Soloのようにマイク入力が1つのみというオーディオインターフェイスは少なくないが、多くの機材はステレオのライン入力に非対応となっている。しかし、Soloはフォンで入力すればステレオに対応しているのが特徴。これを活用すれば、大きく利用範囲が広がりそうだ。

ところで、SoloとDuoは共にUSBクラスコンプライアントなデバイスであるから、USBバスパワーで動作し、MacでもWindowsでも接続すればすぐに使うことができる。ASIOで利用したい場合は、M-AudioのサイトからWindows用ドライバをダウンロードしてインストールする必要がある。

ドライバをダウンロードすれば、ASIOで利用できる

同価格帯のオーディオインターフェイスとしては、Behringerの「UM2」、「UMC22」などがあるが、これらはドライバがないため、ASO4ALLなどを使用しなくてはならないのだが、M-Audioがドライバを用意しているという点では大きなアドバンテージといえる。ただ、対応しているサンプリングレートはBehringerのUM2、UMC22と同様に44.1/48kHzまで。ビット分解能については仕様書などに記載が見られなかったが、恐らくは16bitと思われる。

この点、他社の1万円台で購入できるような192kHz/24bit対応USBオーディオとは明らかにレベル差があるわけだが、ハイレゾはオーバースペック、そこそこいい音で入出力できれば十分というユーザーも少なくないだろうから、安くて使いやすいのは大きな強みと言えそうだ。

この価格で必要十分なオーディオ性能とレイテンシ。入門に好適

さて、問題はSoloとDuoの音質がどうなのか、という点だ。ちょっと聴いた感じではそこそこいい音で聴こえたが、いつものようにRMAA PROを使って音質チェックを行なってみた。

M-Track Solo
44.1kHzの場合
48kHzの場合
M-Track Duo
44.1kHzの場合
48kHzの場合

SoloはRCA出力でアンバランスなのに対し、DuoはTRS出力でバランスなので、圧倒的にDuoがいいはず……と思ってテストしてみたら、どちらもほとんど変わらず。しかもよく見てみると、Soloのほうが高得点だったのは驚きだった。この点から考えれば、両機はあくまでも入出力端子として何が必要であるかで選ぶものであって、音質は変わらないということのようだ。

ではレイテンシーはどうだろう。Windows環境でCEntranceのASIO Latency Testで測定してみた結果が以下のものだ。

M-Track Solo
128 samples/44.1kHzの結果
16 samples/44.1kHzの結果
16 samples/48kHzの結果
M-Track Duo
128 samples/44.1kHzの結果
16 samples/44.1kHzの結果
16 samples/48kHzの結果

上記の結果を見ると、特別高速なわけではないが、DTM用途に使える数値であり、しかも約5,000~6,000円で買えるのであれば、十分すぎる性能といえる。

ハイレゾなどの高音質を求めるユーザーには用途を満たさないが、ノイズもなく快適な音で聴こえればいいという方には必要十分な性能であることが分かった。しかもこの低価格なのだから、入門機として定番となる可能性もあるだろう。非常に軽く、USBバスパワーで動くので、持ち歩き用のオーディオインターフェイスとしても重宝しそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto