西川善司の大画面☆マニア
第221回 プロジェクタも4K HDR時代。30万円台で4K対応のエプソン「EH-TW8300W」
プロジェクタも4K HDR時代。30万円台で4K対応のエプソン「EH-TW8300W」
2016年9月1日 08:30
テレビ製品は「4K×HDR」ブームを迎えているが、その流れがついにプロジェクタにまで波及しようとしている。ただ、4Kプロジェクタは、4Kテレビほど低価格化が進んでおらず、普及期にはまだ到達していない。そこで注目されるのが、疑似4Kプロジェクタ的なソリューションである。映像パネルはフルHD解像度だが、特殊機構を介して疑似的に4K解像度化するという仕組みで、JVCのDLA-Xシリーズとエプソンの「EH-LS10000」が採用。両社共に、フルHD映像パネルを半画素サイズ分、斜めに時分割で反復シフトさせることで4K相当の表示を行なう仕組みを採用している。ただし、これまでの製品は高価なことが難点であった。
しかし2016年、エプソンから思い切った価格設定の新製品「EH-TW8300W」が発表された。価格は約40万円。フルHDプロジェクタの上級機と大差のない価格で、4K相当のプロジェクタが手に入るようになったのだ。
前述のように、エプソンはレーザー光源の4K対応プロジェクタとして2015年に「EH-LS10000」を発表したが、価格が約80万円だった。映像パネル種別や光源方式こそ違うが、「EH-TW8300W」は半額で登場してきたということだ。
今回の大画面☆マニアでは、この「EH-TW8300W」を取り上げる。なお、EH-TW8300シリーズには、WirelessHDトランスミッターを省いて約2万円安価な「EH-TW8300」もラインナップされている。
設置性チェック~ついに電動レンズ搭載。レンズメモリー機能も!
EH-TW8300Wは、これまでのEH-TW8000シリーズからデザインを改めて、大型化している。EH-TW8000~8200までの筐体は、466×395×140mm(幅×奥行き×高さ)だったが、EH-TW8300Wは、520×450×170mm(同)となり、体積比で約1.54倍となった。従来の8000型番のイメージを持っていた筆者は、その大柄なボディに「こんなにでかかったっけ」と思ってしまったほど。
脚部は底面前部左右にネジ式の高さ調整式のものが1つずつ、底面後部には固定式のゴム足が実装されている。左右脚部の距離は434mm、後部ゴム足から左右脚部を結ぶ直交線の距離は約26cm。
底面には天吊り金具の取り付け穴があいている。天吊り金具は、2005年からラインナップされている「ELPMB20」(47,250円)も流用できるが、延長ポールの取付に対応した「ELPMB22」(52,500円)や、薄型の「ELPMB30」(47,250円)が純正オプションとして設定されている。「気が利いている」と思ったのは、本来、取付金具は四つのネジ穴で固定できるのに8箇所もネジ穴が切ってある点。これは、天吊り金具の位置をユーザーが選択できると言うことだ。例えば、旧型モデルの設置の際に天吊り金具を部屋の最後部に括り付けた場合、大型化したEH-TW8300Wでは、部屋の後ろ壁に干渉してしまう可能性がある。そうした場合は、後ろ側のネジ穴を利用して、後ろ壁までのクリアランスを稼ぐことができる。ネジ穴が多いということは、サードパーティの汎用天吊り金具にも適合しやすいということでもある。
吸排気のエアーフローは、正面向かって右側のダクトから給気して、左側のダクトから排気するデザインになっている。両側面、および背面にダクトはなし。側面/背面にものがあっても動作に影響がないため、設置の自由度は高そうだ。エプソンも、Webサイトで、前方以外を完全に囲い込んだ本棚に設置している事例をアピールしているくらいなので、側面左右に壁があっても運用に問題なしのようだ。
投射レンズは2.1倍電動ズームフォーカスレンズ(F:2.0-3.0 f:22.5-46.7mm)を採用する。しかも電源オフ時には投射レンズを防護する電動シャッタードア付きだ。
EH-TW8200以前の投射レンズとは異なるものだが、光学的な仕様は近いので、以前のモデルを使っていたユーザーは、置き換えやすいはずだ。実際、100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.0m、最長投射距離は約6.3mとEH-TW8200以前とほぼ同等の投射スペックになっている。
嬉しいのは、従来モデルでは手動調整式レンズだったのが、EH-TW8300Wからは電動リモコン式になったこと。プロジェクタ本体に張り付いてダイヤルを回して調整する必要がなくなり、画面に近づいてフォーカス合わせができるのはありがたい。
また、最近の流行に則り、投射レンズの「フォーカス」「ズーム」「シフト」のコンフィギュレーションをユーザーメモリーに登録できるレンズメモリー機能も搭載されている。登録メモリー数は10個と多い。アスペクト比2.35:1のシネマスコープの映画コンテンツや、アスペクト比16:9の普通のワイドコンテンツを、手持ちのスクリーンに合わせて最大サイズで投射する場合などに、この機能は非常に便利なはずだ。
レンズシフトの範囲は、上下方向に±96%、左右に約47%と、EH-TW8200以前と同スペック。このシフト範囲はいまでもトップクラスで、この設置性の高さでエプソンのプロジェクタを選択するユーザーも少なくないと聞く。今後ともこの性能は維持してほしいものだ。
さて、今回の筆者宅での設置ケースは、投射距離、約3.0m程度で、スクリーンの中央付近に相対する位置から投射した。フォーカス、シフト、ズームも電動リモコン式になったことで、比較的短時間で設置が行なえた。台形補正は画質劣化を避けるためにも活用していない。
騒音レベルは最小20dBと公称されている。この値は明るさモード(ランプ輝度)が「低」設定の時の値で、この時は本当に静かである。恐らく部屋の中のエアコン(筆者宅のは12畳用)の方が騒音レベルが大きいはずだ。「中」では、若干騒音レベルが上がるがエアコンほどではない。距離1mに置いてある場合は、耳を澄ませば聞こえる程度。「高」になるとかなり大きくなり、エアコンの騒音にかなり近いレベルの大きさになる。まぁ、それでも、映画コンテンツを音ありで見ている時に気になるほどではない。
光源ランプは250Wの超高圧水銀ランプ(250W UHEランプ)を採用する。これはEH-TW8200以前の230W型と比較すると、若干高出力化されている。交換ランプは専用の「ELPLP89」(31,500円)で、価格的には以前のものと変わらず、競合同クラス製品のものと同等レベルだ。定格消費電力は373W。従来機から20W近く高くなっている。
接続性チェック~WirelessHDで無線接続
接続端子パネルは本体背面側にある。接続端子パネルはカバーを被せることが出来るようになっているが、これは運搬時のカバーである。一通り接続したあとは、ここに防塵目的でカバーを掛けるには、別売りのケーブル逃がし口(穴)のあいた「ELPCC05W」(5,000円)を購入する必要がある。これは標準付属でよかったのではないかという気がする(笑)。
HDMI入力は2系統装備。4K/60Hz入力、CEC、3D、DeepColor対応となっている。注意したいのはHDCP 2.2対応はHDMI1のみという点だ。「4Kコンテンツの再生に用いるのはHDMI1入力」ということを覚えておきたい。なお、HDMI1の近くにあるUSBのような端子は、光HDMIケーブルの給電用のもの。
HDMI階調レベルは、「映像」-「アドバンスト」メニューの「HDMIビデオレベル」にて「オート」、「通常」(16-235)、「拡張」(0-255)の設定が可能。オーバースキャンのキャンセルは「映像」メニューの「オーバースキャン」にてオン・オフが設置できる。このあたりの基本設定項目に穴はない。
続いて、EH-TW8300Wの4K映像対応度を試験した。GPUは、NVIDIA「GeForce GTX 1080」だ。
まず、解像度としては4,096×2,160ピクセルと3,840×2,160ピクセルの両方に対応していることを確認してみた。結論から述べると、リフレッシュレート(≒フレームレート)ごとに設定できる色解像度に制限が出てくるようだ。
リフレッシュレートを60Hzに設定した場合、「8bitのYUV=4:2:0」まで。50Hz、59Hzも同様だ。一方、リフレッシュレートを30Hzに設定すると、「12bitのYUV=4:2:2」「8bitのYUV=4:4:4」「8bitのRGB=8:8:8」の設定で4K映像を映すことができた。24Hzでも同様だ。
リフレッシュレート60Hz時の「8bitのYUV=4:2:0」は事実上、輝度情報だけが4Kで、色解像度はフルHD相当になってしまうのでPC画面を映す場合はリフレッシュレートは30Hzが良さそうだ。
なお、HDMIケーブルは、EH-TW8300W付属品やUltra HD Blu-rayプレーヤー「DMP-UB900」に付属するケーブルの双方を使用したが、実験結果は変わらず。なお、フルHD(1,920×1,080ピクセル)解像度での接続性については特に制約点はない。
アナログ系はPC接続用のアナログRGB接続端子(D-Sub15ピン端子)が1系統のみ。コンポジットやコンポーネントビデオ入力はない。デバイス接続用のUSB端子もあるが、これは専用無線LANユニット「ELPAP10」(10,000円)を接続するためのもの。ELPAP10は、専用ソフト「EasyMP Multi PC Projection」を使い、最大50台のPCから任意の4台のPC画面を投射するために活用する業務用途の製品だ。100BASE-TX対応のLAN(RJ45端子)があり、「EasyMP Multi PC Projection」から利用できる。
スクリーンやカーテンの開閉などの外部機器と本体の起動などを連動させるTrigger Out端子(ミニジャック)も装備。この端子からDC12Vが出力され続ける仕様となる。この他、メンテナンス用のサービス端子、リモートコントロール用のRS232C端子なども備えている。
EH-TW8000シリーズの「W」型番といえば、初代のEH-TW8000Wから、無線でのHDMI伝送を実現する「WirelessHDトランスミッター」が付属してきたが、今回のEH-TW8300Wにおいても同様だ。EH-TW8300Wが、4K入力に対応したことで、このWirelessHDトランスミッターもスペックアップし、4K/60Hzに対応した。
Wireless HDトランスミッターの入力端子は、HDMIのみ。HDMI入力端子数は4基で、うち一基(HDMI4)はスマホ給電機能も可能なMHLに対応している。接続テストをした限りでは、WirelessHDトランスミッターのHDMI1~4は、全てにおいてUltra HD Blu-ray再生できたので、HDCP2.2対応のようだ。対応解像度と対応リフレッシュレート、対応ピクセルフォーマットは本体側のHDMI1入力と同等のようだが、MHL対応のHDMI4だけは、ピクセルフォーマットによらず4Kは30Hzまでしか入力できなかった。
HDMI出力端子も備えており、HDMIの入力信号をそのままアンプなどにスルー出力できる点も特徴。加えて、光デジタル音声出力も備えている。USB端子は、3Dメガネの充電用で、USBメモリなどの接続には対応していない。
WirelessHDトランスミッターは、60GHz帯のミリ波電波を使用した非圧縮無劣化方式を採用。3D立体視映像を含めた最大4,096×2,160ピクセルの映像の伝送にまで対応しているのは凄い。ちなみに、ミリ波電波は、光に近い特性を持ち比較的指向性が強く、2.4GHz帯や5GHz帯とバンドが違うため干渉も起きにくいという利点を持つ。弱点としては指向性が強く、なおかつ酸素分子に吸収されやすい特性があるため、トランスミッターとレシーバーの間に遮蔽物が無く、相対しているような位置関係で設置する必要がある。
操作性チェック~液晶アライメントが進化。ユニフォミティー機能も新搭載
筐体デザインを刷新したEH-TW8300Wだが、リモコンは、EH-TW6000系の時から採用されたデザインのものから大きな変更はない。ボタン数が多く無骨なデザインだが、使いにくいところはない。強いて不満を挙げるとすれば、プリセット画調モード(Color Mode)の切り替えが順送りなのがまどろっこしいくらい。
全ボタンはライトアップボタンを押すことで自照式に橙色に発光する。HDMI CEC系の操作ボタンは白黒反転されていて、ライトアップされた時にも分かりやすくなっている。
投射レンズのフォーカス、ズーム、シフト状態を記録できる「レンズメモリー」機能は10メモリー用意されているが、メモリー1とメモリー2についてはリモコン上の[Lens1][Lens2]を押すことでメニューを開かず直接呼び出せる。これは便利だ。
[User]ボタンも便利。これは、ユーザー好みに応じて「きれい/速い」「3D表示」「2D-3D変換」「明るさ切換」「情報」「QRコード表示」のいずれかの機能に割り当てられるカスタム・ショートカット・ボタンに相当する。筆者は、特定画調モードで見ていたときに暗いと感じたときに、瞬間的にランプ輝度が変えられる「明るさ切換」に割当てて活用した。
リモコンで電源オンにして、EPSONロゴが表示されるまでが約12.0秒。その後、HDMI入力映像が画面に表示されるまでの所要時間は約22秒。早くはないが標準的といった感じだ。EPSONロゴの表示は「スタートアップスクリーン」設定を「オフ」して消せるが、起動時間に変化はなかった。
本体側の入力切換はリモコンの専用ボタンからダイレクトに切り換えられるようになっているが、WirelessHDトランスミッター側のHDMI1~HDMI4入力は[WirelessHD]ボタンを押して順送り式に切り替わる。リモコン最下段にはWirelessHDトランスミッター操作用のボタンもあしらわれており、ここの[Input]ボタンを押すことでもWirelessHDトランスミッターの入力切換が行なえる。WirelessHDトランスミッターにテレビなどを接続してある場合、ここにある[Output]ボタンを押すことでEH-TW8300Wの投射をキャンセルしてテレビ側に映像を出せる。
HDMI入力の切り替え時間は約2.5秒と標準的。WirelessHDトランスミッター側のHDMI入力所要時間は約15秒。こちらはだいぶ待たされる印象だ。切り換え頻度の高い入力系統は本体側のHDMIに接続した方が無難だ。
アスペクト比切換はリモコン上の[Aspect]ボタンを押すことで開くアスペクトメニューから切り換える方式。アナモフィックレンズに対応したアスペクトモードは無い。アスペクトモードは以下のものが用意されるが、アスペクト切換が効くのは基本的にはSD映像(480p、480i)のみ。他の解像度では、基本、アスペクト比は自動設定となる。切り換え所要時間はゼロ秒。
- ノーマル:アスペクト比4:3を維持して表示
- フル:パネル全域に表示。アスペクト比16:9を維持して表示
- ズーム:4:3映像に16:9をはめ込んだレターボックス映像を切り出してパネル全域に16:9映像として表示
プリセット画調モード(カラーモード)は[Color Mode]ボタンで呼び出される「カラーモードメニュー」から選択する方式。切り換え所要時間は、切り換え元と切り換え先の組み合わせで若干揺らぎがあり、実測で約1.0~2.0秒程度。
EH-TW8100から搭載されている2画面機能は、EH-TW8300Wにも搭載される。EH-TW8200以前の2画面機能はサイドバイサイド表示だったが、EH-TW8300Wでは、これがピクチャー・イン・ピクチャー…いわゆる親子画面表示状態となる。
EH-TW8200以前ではHDMI入力同士の2画面表示はNGだったが、EH-TE8300Wでは、ついにHDMI 2系統の2画面表示が可能になった。さらに、WirelessHDトランスミッター側から出力される映像と本体側のHDMI1、HDMI2のどちらかと組み合わせることも可能だ。なお、HDMIと、アナログRGB入力やLAN入力との組み合わせは不可。
組み合わせる映像に4Kがあると、色がおかしくなったり、2画面機能が利用できないこともあったので、この機能を使う際は二つともフルHD映像にした方が良さそうだ。
子画面のサイズは「大」サイズでも親画面の縦横5分の1程度で小さい。「小」サイズ設定とすると親画面の縦横10分の1程度になってしまう。まぁ、2つの画面を見るというよりは子画面は「概要をチェックする」程度の用途に割り切った方が良さそうだ。
3板式プロジェクタ特有のRGB(赤緑青)の各原色液晶パネルの合成像のズレを調整する「液晶アライメント」機能も搭載。
メーカー説明では「0.125画素サイズスケールで画素ズレを調整できる」とあるが、機械的にズレを調整するのではなく、画像処理的に調整する点には留意したい。調整を行なうと、最大で調整対象画素を含む2×2に色情報が拡散するので色ズレは低減されてもボケ味はやや強まる。フォーカス合わせを行なった後、どうしても気になるポイントを調整するような使い方に留めたい。
EH-TW8300Wの液晶アライメント機能は、調整の仕方を階層化する実装に変え、より高度なものに進化している。まず、第一段階としてパネル全体をシフトする調整を実践させ、第二段階として画面四隅のシフト調整へと移る。もちろん第一段階の調整で終了することもOK。この二段構えの調整でまだ満足できなければ画面内を交差する縦7本、横5本の線分の各交叉点で調整を行なう第3段階へと移行する。
そして、EH-TW8300Wには、新機能として輝度ムラを調整する「ユニフォミティー」調整機能が搭載された。
プロジェクタは画面中央が明るくなりがちで相対的には画面外周が暗い傾向がある。また、経年によって画面内外に関わらず明暗のムラが出ることもある。これを調整できるのがこのユニフォミティー機能というわけである。
調整のしかたはとてもユニークで、これも液晶アライメント機能と同様に階層式の調整方式を採用している。画面の上下左右と四隅の合計8方向から明から暗への輝度グラデーションを被せていくような方法で行われる。例えば、画面上方が暗いと思えば上から下に向かって「明→暗」という明暗グラデーションパターンで調整することになるわけだ。この明暗グラデーションの調整バイアスはRGBの3原色個別に行える。
液晶アライメント機能、ユニフォミティー機能、この二段構えの高度な調整機能は上位クラス機にもないほど、マニアックである。
恒例の表示遅延の計測も行なった。今回も公称遅延値約3ms、60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」との比較計測である。
EH-TW8300Wでは「映像処理」設定を「速い」とすることで、実質的に低遅延なゲームモードに切り替わる。
結果は「映像モード=速い」設定で約16ms(60fps時、約1.0フレーム相当)となった。プロジェクタ製品としてはかなり低遅延な製品な部類になる。
Wirelessトランスミッター経由での入力でも計測してみたが、「映像モード=速い」設定で約17ms(60fps時、約1.0フレーム相当)となった。有線接続時とほとんど変わらないというのは凄い。
画質チェック~疑似4K表示能力の品質やいかに。HDR対応度はいかほど?
EH-TW8300Wは、透過型液晶パネルを採用。パネルサイズは0.74型で、パネル世代としては「D9」の「480Hz駆動対応タイプ」と説明されており、この液晶パネルを3枚使用した3板式(3LCD方式)のアーキテクチャを採用する。筐体が大型化し、HDR対応も謳われていたので、EL-LS10000で採用した反射型液晶パネルを採用したかと思いきや、違っていた。
画素形状は、エプソンの透過型液晶パネル特有の将棋の駒のような形で、反射型液晶パネルの完全正方形とは異なる。また、格子筋もそれなりに目立ち、単色で塗りつぶされた領域からはやや粒状感を感じる。ここは透過型液晶パネルの宿命なので仕方がない。
フォーカス特性は良好だ。画面中央で合わせれば、およそ画面全体でちゃんと合ってくれる。色収差はなくはないが、あっても最低限だ。
ユニフォミティも優秀。画面外周と中央とで輝度差はほとんど感じられない。
公称輝度は2,500ルーメンで、従来機に対し、100ルーメンだけ高輝度な値となっている。実際、明るさは相当なもので、蛍光灯照明下の室内でも映像はかなりよく見える。ホームユースでは十分過ぎるほどの輝度性能だと思う。
さて、EH-TW8300Wで最も気になるポイントは、「4Kエンハンスメント」(ピクセルシフトによる4K疑似表示)機構の効果ではないだろうか。
ピクセルシフト機構は、フルHD解像度の映像パネルの画素をそのまま投射したサブフィールドと、光学的に半ピクセルサイズ分斜めにずらして投射したサブフィールドを合成する事で疑似4K表示を行なうものだ。この光学操作には、おそらくSLM(Spatial Light Modulator)デバイスを用いているものと推察される。
具体的な処理系としては、表示したい4Kピクセルを2枚のフルHD解像度のサブフィールドに分解して表示することになる。原理上、仮想的な4K画素は二枚のフルHD解像度のサブフィールドにて最大公約数的に表現されることになるので、その表示内容に、ある一定量の誤差は免れない。ワーストケースを想定すれば、計算上はフルHD解像度の縦横の解像度を√2倍した2,715×1,527ピクセル程度の解像度になるはずだ。
ということで、この疑似4Kの表示品質のインプレッションから述べていくことにしよう。
まずは、フルHD映像をアップスケールして疑似4K表示させたケースから。
フルHD映像入力時には「画質」-「イメージ強調」メニューの「4Kエンハンスメント」をオン設定にすることで、4Kアップスケール表示となる。
結論から言うと、フルHD映像の4Kアップスケール表示時の解像感の増強感はそれなりだ。しかし、効果の大きいポイントは2つある。
1つは「ジャギーが低減されること」だ。フルHD解像度リアル表示では階段状に見える斜めの線分表現や輪郭表現が、非常に滑らかに描かれるようになって美しく見えるのだ。
二つ目は「単色領域の粒状感が低減されること」だ。これはフルHDリアル表示状態では格子筋となって黒く描かれる部分にも、ピクセルシフトによって画素表示されるため、結果的に格子筋が減退するためだ。
この二つの効果の組み合わせによって、暗色の色ディテール表現が見やすくなることにも気がついた。フルHDリアル表示状態では、暗色主体の色ディテール表現は、太めの格子筋によって不連続感が伴って、テクスチャ表現が見にくかったり、伝わりにくかったりするケースがあるが、4Kアップスケール表示時には画素の格子筋が減退することと、斜め画素表現がなめらかに繋がることで、自然に見えるのだ。
ただ、4Kアップスケール表示は全体的にしっとりとした画質・見映えになる特性がある。アニメや映画などの映像コンテンツはそれでもいいが、PC画面などのようなグラフィックコンテンツは場合によってはフルHDリアル表示の方がメリハリが効いて見やすいときもありそうだ。
では、リアル4Kコンテンツはどうか。4K撮影/制作タイトルのUltra HD Blu-rayをパナソニック「DMP-UB900」から再生し、フルHD映像を4Kアップスケールと、リアル4K映像をそのまま表示させた場合とで解像感の比較を行なった。
傾向としては細かい陰影表現、模様のようなテクスチャ表現は、EH-TW8300Wの疑似4K表示はリアル4K表示と比べればぼんやりした描画にはなってはいるが、少なくともフルHD解像度よりは高い解像感が得られている。特に、色味の違いで陰影や模様を描いている表現は、かなりリアル4Kに近い解像感を出せていると思う。
これは、前述した疑似4Kアルゴリズムの特性とも符合する結果で、以前この連載で評価した、ほぼ同方式の「EH-LS10000」と同じ画質特性である。
PC画面を4Kで表示してみたところ、文字の可読性はまあまあ。ただ、画数の多い漢字は潰れ気味であり、いわゆる圧縮表示よりはマシだが、リアル解像度表示には及ばない…といった感じ。「接続性」のところでも述べたように、4K/60Hzでは、YUV=4:2:0になってしまうため、この時のPC画面の可読性は一気に悪くなる。PCで4K表示を行なうのであれば4K/30Hzを選択すべきだ。
ところで、映像パネルの時分割制御で擬似4K化が行なわれるため、DLPプロジェクタのような色割れ(カラーブレーキング)現象のような視覚エラーを気にする人もいそうだが、今回の評価の範囲では色割れは視覚されず。原理的にも各色合成は光学的に同一時間軸で合成されているので起こりようないが……。しかし、原理からすれば、色割れは起きていなくても、移動体を目で追った場合は、解像度ブレが起きている可能性は否定できない。ただ、これは視覚上は液晶のホールドボケに近い印象で視覚されていて分かりにくいかも知れない。
発色はどうか。エプソンシネマフィルタが適用されるプリセット画調モード(カラーモード)の「シネマ」「デジタルシネマ」を選択したときは、「これが超高圧水銀ランプの色か」と言いたくなるほどよい。EH-TW8300Wは、sRGBはもちろん、DCI色域もカバー率100%を謳っており、見た限り、たしかに説得力はある。
赤はとても鮮烈だし、緑は黄色に振れずに色深度が相当に深い。青も純度が高い。純色のグラデーションを表示してみると、赤緑青の全てにおいてかなり暗い階調においてもちゃんと色味が残っている。
肌色もへんなクセもなく実に自然だ。ランプ輝度モード(明るさ切換)の設定を低・中・高で切り換えると若干、発色の傾向は変わるが、違和感はあまりない。
公称コントラストは100万:1。もちろん動的絞り機構と組み合わせてのスペックになる。
エプソンの動的絞り機構「オートアイリス」は、フレーム単位の平均輝度情報から、光源ランプの輝度の上げ下げ制御し、コントラストの最適化を行なうものだ。おもに視覚上、黒浮きが目立たないような制御が実行される。
透過型液晶機なので、黒の絶対的な締まり感は、反射型液晶機には及ばない。やはり間接照明主体の屋内シーンでは、黒浮きは若干気になるし、暗いシーンでは黒浮き低減のために輝度が絞られてコントラスト感はやや低下する。
UHD BDの「エクソダス」で、暗い奴隷集会所でモーゼの出生が明かされるとても暗いシーンは、プリセット画調モードの「シネマ」「デジタルシネマ」ではオートアイリスが黒浮き低減に気を配りすぎて輝度を落としすぎるためかなり真っ暗になってしまい、正直見づらいほど。こうした状態になったときはランプ輝度モードを上げるか「ブライトシネマ」や「ナチュラル」などの高輝度画調モードを選択した方がいいかもしれない。
階調表現能力に関しては文句なし。プリセット画調モード、ランプ輝度モードによらず破綻せず、なだらかな明暗グレーディングが実現できていた。
EH-TW8300Wは、ハイダイナミックレンジ(HDR)にも対応しているので、HDR対応のUHD BDの「エクソダス」や「バットマンvsスーパーマン」などを視聴して評価してみた。
前出の「エクソダス」の「モーゼの出生の秘密」シーンは、前述したように輝度が絞られてしまっているせいでHDR感は乏しい。本連載では、直近で、直視型テレビの東芝REGZA「58Z20X」、パナソニックVIERA「TH-58DX950」、LG「55E6P」にてHDR映像の視聴評価として同一シーン見ているが、暗いシーンにおけるEH-TW8300WのHDR表現は、これらに及ばないという印象を持つ。
プロジェクタの場合、光源を映像パネルに対して均一に面照射している事を考えると、局所的に突出した明暗表現が行なえないのは仕方のないことだ。
「HITMAN」では、エージェント47の暗めの取り調べ室での尋問シーンで、肌のハイライトの伸びや、黒いスーツのシワの陰影の立体感が乏しい。むしろ通常ブルーレイ(2K BD)版の方が、SDR(スタンダードダイナミックレンジ)向けに階調グレーディングが施されている分、本機で見やすいくらいだ。
ただ、まったくHDR表現が本機でうまくいっていないかというとそんなことはなく、「バットマンvsスーパーマン」のチャプター11での対決シーンでの爆炎表現などは、2K BDよりも高輝度に燃え上がっており、炎にリアリティがある。
また、逆光シーンや屋外の照り返し表現などの明るいシーンは、本機でも、2,500ルーメンの高輝度パワーを活かして、見栄えのよいHDR表現を行なえているケースもあった。ただし、直視型テレビほどのHDR感はない。
EH-TW8300WのHDR対応に関しては、1つ、残念なことも。4K/60pのHDRには対応していないのだ。UHD BDの「宮古島」は、4K/HDRに加え、60fps(60Hz)映像なのだが、これをEH-TW8300Wで表示すると、HDR出力がキャンセルされ、SDR表示となってしまう。EH-TW8300Wは、4K/60Hz映像ではYUV=4:2:0の8bit入力までの対応となり、HDR(10bit)に対応できないようだ。これは少々意外であった。
本機の液晶パネルは超高速な480Hz駆動。算術合成した補間フレームを実体フレームと実体フレームの狭間に挿入表示することで残像を低減する「補間フレーム倍速駆動」に対応している。
この機能の評価は例によって2K BD「ダークナイト」の冒頭のビル群飛行シーンでチェックしたが、盛大にビクセル振動が出ていた。「フレーム補間」設定で「オフ・弱・標準・強」設定ができるが、「弱」設定でも振動は収まらず。別のシーンでもけっこう起きていたので、補間フレームの品質・精度はあまり高くない。
なお、補間フレーム生成機能は4K映像入力時は無効化されてしまう。また、フルHD映像入力時であっても、疑似4K表示(4Kエンハンスメント)を使用した場合は、24Hz(24fps)映像に対してのみ、補間フレーム生成の適用が行なえる。前述のように、補間フレームの品質・精度が今ひとつなので、「フレーム補間」は「オフ」設定で常用すれば、大した問題にはならないだろう。
3D立体視にも対応しているため、3D映像についても評価した。本連載では定番の「怪盗グルーの月泥棒」のジェットコースターシーンを見たが、コースターのコース上のトンネル天井内壁に並ぶ電球照明は、クロストーク(二重像)現象が出やすい場面なのだが、皆無ではないものの最低限に抑えられていた。映像を見ていて不快になる事はないはずだ。
やはり、2,500ルーメンもあると、3D映像も明るくて美しく楽しめる。3Dメガネによって黒浮きはフィルタリングされて気にならなくなるため、コントラスト感も十分。高輝度の伸びが3D映像に効果的に効いているようで、本機の3D映像品質は非常に高い。惜しむらくは、3D映像表示時は、疑似4K表示が無効化されてしまうところ。残念である。
さて、EH-W8300Wには、3Dメガネ「ELPGS03」が1つ付属する。この3Dメガネは、共通規格「フルHDグラス・イニシアチブ」のRF方式(Bluetooth接続)に対応している。この規格のものであれば、他社製のものもEH-TW8300Wで使える。
実際、パナソニックの3Dメガネ「TY-ER3D5MA」も普通に使え、EH-TW8300W付属の3Dメガネ(ELPGS03)と画質的にも変わらなかった。
ユニークな「4K相当」の価値。価格と画質のバランスに注目
「4K×HDR」ブームに対する、エプソン・プロジェクタからの1つの「答え」として、EH-TW8300Wは面白い製品だ。
なにしろ、「4K×HDR」対応のプロジェクタとしては破格に安価である。
ただ、「4K」は疑似4K表示であり、「HDR」も60pのソフトでは対応していないなど制限も踏まえておきたい。基本的には、本機はフルHDプロジェクタの高機能版で、リアル4Kプロジェクタを置き換えるものではないからだ。
逆に、フルHDプロジェクタとして考えてみても、EH-TW8000シリーズの最上級の画質であることは間違いなく、より極まった高輝度性能、待望の電動レンズ搭載など、時代が求めるスペックを備えており、死角は無い。そこに4K×HDRを楽しめる機能まで備わっているのだ。
「初期のフルHDプロジェクタのオーナーで、そろそろ買い換えを検討しているが、まだ4Kプロジェクタは高価で」……そんな人に、EH-TW8300Wはぴったりハマりそうだ。
EH-TW8300W |
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